あの、「黄金の夜明け」から数カ月。  
私は、週末は必ず、魔法使い通りにある先生のラボで過ごすのが恒例となっている。  
アカデミー内では教師と生徒の立場を崩せないけど、敷地外では恋人同士であることが許されるから。  
最初は麓の町に降りるたび、玉麗やシャルロッテに冷やかされて恥ずかしかったけど、そういうことも今では慣れた。  
今日も先生のラボで、食事を作りながら先生の帰りを待っている。  
料理の腕は、本当は先生の方がプロ級で、女としての自信を打ち砕かれるぐらい上手なんだけど、それでも、私が出したものを微笑みながら「上手いよ」と言ってくれるのは嬉しい。  
ちょっとだけ、先生の奥さんになったみたいな気分を味わえるし。  
そんなことを考えていると、先生が帰ってきた。  
二人での食事を済ませた、その後。  
 
「来なさい。」  
寝室でベッドに腰掛けた先生から低い声で誘われると、私には抗えない。元より、抗うつもりもないけど。  
先生はまだ眼鏡をかけたまま。つまり、見つめた相手を自在に操る、イービルアイの特殊能力は使っていない。  
さびついたブリキのおもちゃのような、ぎこちない動きで私は先生に歩み寄る。  
力強い二本の腕に捕まえられ、服ごしに先生の熱い体温を感じ取る。  
先生は私をベッドに横たえ、なんなく衣服をはぎ取った。  
こうして、生まれたままの姿にされるのは、今でもかなり恥ずかしい。  
必死にシーツで体を隠そうとするけど、先生はそれを許さない。  
「ダメだ。そのままおとなしくしていろ。」  
裸の私と、きっちり服を着込んだままの先生。  
なんだか、猛烈に先生がズルい、と思う気持ちが湧いてきた私は、先生のネクタイを手にかける。  
以前はこれの解き方もよくわからなかったけど、今となってはお手の物。  
そうしてジャケット、シャツ、ズボンを脱がせ、脱がされたお返しをしていく。  
観念したのか、先生はアンダーシャツとトランクスは自分で脱いだ。  
これで、素肌と素肌の接触を妨げるものは何もなくなった。  
 
もう一度、ベッドで上になった先生は、下になった私を抱きしめる。  
先生の腕の中は、まるでアマツの海のようだ。  
何物にも動じず、深く、時には凪のように穏やかで、時には逆巻く嵐のように激しい。  
この穏やかさをもう少し楽しんでいたかったけど、それを打ち切る合図であるかのように、先生が私に口づける。  
私たちの関係は、体のつながりが先行して、キスは最後の最後だった。  
その失われた時間を少しでも取り戻そうとするかにように、先生はキスにかなりの時間を割く。  
先生の分厚い舌が侵入し、まるで何かの生き物であるかのように、私の口腔内を蹂躙する。  
「ん…、…っ、は、ぁ…」  
「…っ、ふ…、ちゅ、…っ」  
私も先生の口に舌を差し入れ、対抗してみるけどあえなくねじ伏せられる。  
「私に勝とうとするなど、百年早い。」  
唇を解放した先生が、私の耳元でそう囁く。  
一回りは年上の先生は経験もあるし、私より上手で当たり前、なんだけど。  
 
先生の、大きくて温かい手が私の胸をまさぐる。  
初めて抱かれた時はまだ小さい胸だったけど、こうやって体を重ねるうちに今はそれなりのボリュームになってきた。  
嬉しい反面、最近、制服の胸回りがきつい。  
そんな私の気持ちなどどこ吹く風で、先生は私の胸を揉みしだく。  
「大きくなったな、胸。」  
薄い微笑みを浮かべ、先生が左手で乳首を刺激する。  
「やっ、あん…、そこ、ダメ…」  
「口では嫌がっても、体は嫌がっていないようだが。」  
右手はいつのまにか私の中心は差し入れられ、人差し指でそのぬかるんだ感触を味わっている。  
「ダメったらダメ…。私、おかしくなっちゃう…!」  
「おかしくなればいい。私は、君にそれを望んでいる。」  
人差し指はわたしの花芽を簡単に探り当て、たゆまず動いて、私を追い詰める。  
「気持ち、いいんだろう?」  
「はい…、いい、です…。すごく…!」  
快感の前には恥じらいも何もあったものではない。素直にそう答えてしまう。  
「ならば、イけ…!」  
「ああっ、もう…、ああぁぁぁっ!」  
白い光が脳内に氾濫したかと思うと、私は先生の体を力の限りに抱きしめて、体を弓なりに反らせた。  
 
乱れた息を整えている私を、先生は満足したように見つめている。  
先生は、その、杖を口で御奉仕するのが大好きだ。  
だからこの流れなら、そうなるのかなと思ったけど、そうではなくて。  
「ユメ、いいか?」  
先生が、私の足を開きながらそう尋ねた。無論、私にも否やはなくて。  
「きて、ください…。」  
「ああ。」  
「…っ、せんせ、…。」  
先生の杖が、私の体を割り開く。太くて熱い杖は、私の体内で傍若無人に振舞う。  
それに痛みが伴っていたこともあったけど、痛みが消えた今それによってもたらされる底知れない愉悦を知ってしまった。  
粘膜と粘膜の摩擦によって生み出される、この魔力に似た感覚。  
先生が官能を生み出す怒涛の律動を繰り返す。私は、嵐に遭遇した小舟のようにベッドでたゆたう。  
でも、ただ揺さぶられるだけじゃなく、未熟ながらも腰をもじつかせて迎え撃つ。  
「いい…、すご、い、気持ち、いい…!」  
「私も、だ…。っ…!」  
先生はその端正な顔の眉根を寄せながら、ひたすらに私を突きあげる。先生だから、もっとして欲しい。もっともっと。  
「ゲルハルト、せんせ、い、愛してる…!」  
「私もだ、愛してる…、ユメ!」  
お互い愛の言葉を口にしながら、快感の終焉にたどり着く。私は意図せず、先生の吐精を促そうとして締め付ける。そして、先生は目をきつく閉じて、私の中に欲望を放った。  
その時、一瞬だけ黄金龍を見たような気がしたけど、あっという間に私の意識は闇に包まれて、何もわからなくなった。  
 
気がついたとき、私は先生の腕の中だった。嵐が去った後は、いつも穏やかで優しい。  
私の体を気遣うように、そっと背中を撫でてくれる。  
「ユメ。君は、アカデミーに来て、たくさんの物を手に入れたな。」  
「そうですね。家族、友人、魔法。そして、『黄金の夜明け』まで。」  
「…そして、未来の夫もだ。」  
「え…?」  
ゲルハルト先生を見上げると、私を抱きしめたまま真っ赤になっている。先生は大人だけど、こういうところはきっと少年のころから変わってないんだろうな、と思う。  
そう、私のお母さん、マーガレットを愛したころから。  
恋はまだ二度目の、不器用な人だから。  
「先生、それって、プロポーズですか?」  
「い、いちいち聞かなくてもいい!」  
照れ隠しなのか、先生は何度か咳払いする。  
「そうか、じゃあ、先生はわたしのお母さんに、『お嬢さんをください』って申し込むんですよね?」  
「あの、ハナコにか…。」  
先生とお母さんはアカデミーの同級生だったそうだけど、あまり相性はよくなかったらしい。こめかみに手を当て、深くため息をついた。  
と思ったのもつかの間、先生は意地悪そうな笑みを浮かべる。  
「ハナコが私の義理の母となるなら、ベリンダ先生は君の姑と言うことになる。血はつながっていないが、私は彼女の息子だからな。」  
「うっ、それって…。」  
緋色の魔女と謳われる、あの何でもお見通しのベリンダ先生が、私のお姑さん?  
それって、とってもヤバいと思うんですけど。  
でも、逃げられるはずもなく。  
「先生、プロポーズならきちんとしてほしかったです…。」  
「まだ早い。君はまだ学生だろう、学生の本分は勉強だ。たとえ『黄金の夜明け』を成功させたとしても、世界はまだまだ謎に満ちている。学びすぎる、ということはない。」  
すげなくあしらわれてしょげた私をあわれに思ったのか、先生が再び咳払いする。  
「そ、その、正式なプロポーズは君がアカデミーを卒業してからにしようと思っていたんだ。だから、話の続きは卒業後だ。」  
「きっとですよ、先生?」  
「ああ、約束する。」  
「良かった。それじゃ、おやすみなさい。」  
安心した私は、眠りに意識を任せていった。  
黄金龍の半身である私が見る、この世界の幸せな夢。  
それはきっと、永遠に続いていくものなのだから。  
 
 

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