サイキックフォースSS  
〜唇〜  
 
 
 
「君は・・・・・・誰?」  
月明かりというものは、有性たる存在を、その行いを、幻想的に映す。  
痛々しく髪から吊るし上げられた少女。衣服は煤け、口角から血が滲み、覗ける肌には傷が走っていても。  
その姿ですら、神秘的な行為を彩り、神如き裁きの贄へと昇華される様。  
少年は、神の使いの如く、月光の下、麗容たる面持ちを崩さずに少女の頬を撫でた。  
少女は、はっきりとした目の色で、反証も卑弱も示さず、少年の瞳を見据え続ける。  
少年はそっと、  
 
――少女と唇を重ね合わせた。  
 
擦れ違っただけのように口を離し、そのままに顎を舌で嘗め回す扇情的な行い。  
未だ、編み込まれた髪から引き上げられている少女は、抵抗することもなく少年にまかせていた。  
「君は僕を知っているの?」  
少女の頭を抱え込むと頬を擦り合わせ、目線を交わす。  
 
未だ動かない瞳。  
 
口内の唾液を舌に絡ませる、線を引くように少女の頬から口元まで這わせた。  
たどり着いた少女の下唇を自分の唇で挟み込み、転がすように咥え込み、舌でなぞる。  
舌で突付き、柔らかな流れに沿って滑り込ませ、根元を舐めまわす。  
 
抱えた少女は流されるままに唇を犯されている。  
 
その様でも情欲をそそられたのか、止まらないのか。  
唇を押し付け、舌で口内を犯し続ける。  
それでも舌をからませはしなかった。  
少女に反抗の意思があれば、噛み付かれるかもしれない。  
隙間なく押し付けられた口唇。舌が絶え間なく口内をねめ続ける。  
 
時折、蠢く唇の歪みから行き場を失くした呼気が漏れる。  
潰れない程に、それでいて離れずに押し合う唇。  
湿り気と粘つきが音を立てて擦れ合う。  
その中で歯茎を舌が突付いていく。歯を舌端が滑り、上唇を舐める。  
少女の甘味に刺激され、喉に溢れ出てくる液。  
少年の愛染とも思える行為に淫志を刺激されたのか、少女の口からも液が溢れる。  
唇が絶え間なく形を変える中、少女の口内へと注ぎ込み、舌先でねめまわすようにして少女の口内を染めていく。  
少女の頭を引き寄せ、彼女の中の液を舌先で絡め取り、口内で弄ぶ。  
それでも少女への欲心が、彼女との行為を止めさせることを許さず、息つく間ももたずにまた舌を責め入れる。  
 
くぐもった呻きだけがこぼれる。  
 
もはや液と口が入り混じっているのではないかと錯覚するほどに続いていた粘液溢れる愛撫。  
何度も、桜色の気色の変化を楽しむように瞳を交わしながら舌を交わす。  
むせるような甘い香りに視線が泳ぐが、昇るような心地に、瞳を逸らしてはいられないふたり。  
やがて、歯の隙間から少女の舌を感じ取ると、自分の唇で包み込み、舌をからませるように引き寄せた。  
互いの口内で入り混じった唾液が絡みつく中、絡ませあう。  
先端の出会いを慈しみ、押し上げて舐め上げ、  
歯先で優しく挟み込み、舌はもどかしく擦れ合い、  
ときに激しく、ときに慎ましやかに行われるキスと呼ぶには過ぎた行為。  
 
 
ふっと少女が顔を背けた。  
唇から引かれた糸は、やがて力なく垂れ堕ちる。  
少女は先ほどの行為で艶を煽られたのか、上気した顔気色で少年を見上げた。  
指を銜え込むと、液が伝う。それで少年の唇をゆっくりと撫ぜた。  
「随分・・・積極的になったわね」  
「やっぱり君は僕を知っているんだね」  
力なく座り込んだ少女と目線を合わせるため、少年は膝を曲げた。  
「忘れたの、エミリオ?」  
「・・・・・・君は・・・・・・君は?」  
 
 
 
「ウェンディーよ」  
 
 
 
 
「・・・・・ウェンディ?―――ウェンディ―――」  
 
 
優位を得ていた少年の瞳が生気を失っていき、やがて色が完全にすぼんでしまう。  
 
少年が後ろに跳ねた。  
「ウェンディー・・・」  
不用意にこめられた力が声を上ずらせる。  
恐れが体を留めようとするのに、反目する本能が四肢の先から力を奪い、指先が、腕が、脚が震える。  
「あああああああぁぁぁ・・・・」  
少年は、首をもたげ、頭を抱え、  
膝から崩れ落ちる。  
そして――――  
 
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい(※飽きるまで延々リピートしてください)」  
 
額を地に擦り付けて謝るエミリオ。  
 
「情熱的な再会だったわねー」  
その言葉に感情はなかった。  
それだけに、余計に鬼気を際立たせる。  
笑みを浮かべているのに。  
目は優しく細められているのに。  
顔の造形は完全に慈愛のものだというのに。  
顔の造作に反して、温かみは一切まったく少しも欠片も粉微塵程にも感じられない。  
何かが、陰となった彼女の背中から流れ出る何かが、ひたすら怖ろしかった。  
心の臓を突き通されたような心苦しさ。  
上げることのできない頭に纏わりつき、今にも魂を引きずり出しそうな生暖かさ。  
異界の瘴気と化した空気が、肌を凍らせ、唇から生気を吸い尽くす。  
 
まさに恐惶の権化。  
 
ウェンディーからすれば嫌味をひとつとばしただけかもしれないが、今のエミリオにすれば、  
信じていなかった神主が現れ、その相手に恐れおののきひれ伏した上から怒りの言葉をかけられるに等しく怖ろしい。  
 
彼にできるのは、ただひたすら慈悲を乞うことだけだった。  
 
「ほんっとーーーにっ、すみません」  
「もうしません」  
「僕が悪かったです」  
「命だけはとらないで」  
「どうかお許しを」  
「犬になりますから」  
「何でもします」  
「お願いします」  
 
だのと口がまわらなくなるまで謝り続けた。  
 
 
 
息が尽き、語彙が尽き、気力が尽き。  
荒い息を吐いているエミリオの肩を、ウェンディーの腕が優しく抱いた。  
 
「お帰り、エミリオ」  
 
「ウェンディー・・・」  
 
涙を滲ませながら顔を上げると、先ほどまでの殺気は何処へやら、  
聖母のような微笑を浮かべたウェンディがいた。  
 
「ごめん、ホントごめん!」  
 
抱きつくエミリオの背中に腕がまわされる。  
 
「ふふ」  
 
力強い抱擁。  
 
・・  
 
・・・  
 
・・・・・・  
 
それは本当に力強かった。  
 
 
「●△■*@!?」  
(※訳:ウェンディー!?)  
 
 
「さんざん遠慮のない攻撃かましてくれた挙句、」  
 
 
背中が、脇が痛い。息ができない。  
 
 
「麗しの乙女に何さらしてくれてんのよ〜〜〜〜〜!!」  
 
 
もはや呻きも漏れない。  
 
 
強烈無比なベアバッグである。  
 
 
ときに乙女は信じられない力を発揮する。  
特にこの少女は見かけによらない。  
薄れ行く意識の中でエミリオはそれを思い出していた。  
 
 
これがふたりの再会であり、エミリオはノア壊滅以後も彼女の下僕として扱われるのであった。  
 
 
サイキックフォースSS  
〜唇〜  
END  
 

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