『今週末特訓ないから、暇じゃない?二人で映画行かない??』  
雨宮桜子からのメールに夜科アゲハは喜びきれずにいた。  
この前同じようなメールの誘いでは、同じくサイレンドリフターの朝河飛龍にも  
誘いが回っていた。結局疲れ果てた休日を過ごした思い出がある。  
『イイよ(^-^ゞ』  
何を言おうにも、最後は乗ってしまう自分。五分ほどで雨宮からの返事。  
『じゃあ時間調べたら連絡するね(^^)』  
アゲハは自分のベットでのたうちまわる。姉の怒声も聞こえず、喜びに奇声を挙  
げた。  
夜科アゲハ、十六歳。正直浮かれきっていた。  
 
「やっほ。待たせちゃった?」  
土曜日。白瀧高校の最寄り駅のホーム。  
考えてみたら、アゲハは異性と二人きり、要はデートなど生まれて初めてだった。  
ガキの頃からひねくれていて、姉とも行ったことがない。最近は趣味も駆け離れ  
ていて、特撮の吸血鬼警事(ヴァンパイアデカ)などは興味が無かった。  
「いや〜全然」  
二人とも制服の誰から見ても、どこにいてもおかしくない高校生カップル。  
「ヒリューは居ないんだよな…?」  
「この前はマツリ先生に頼まれて、日常でPSIが使えるか見てたの。今日は…」  
「今日は?」  
「おやすみ貰ったから、完全にプライベートなデートなのです♪」  
普段見せる事の少ない笑顔で前売り券を二枚、バックから取り出す。  
「あ…あとさ…手とかさ、つながない?」  
雨宮が震えながらさしのべた手に、アゲハはゆっくりと指を絡めた。  
(悪いヒリュー。俺…幸せだ!!)  
 
電車内から映画館まで、互いに明後日の方向を向いて歩く。  
ただでさえ、雨宮と映画を見ることで緊張しているのに、繋いだ手を見たら、恥  
ずかしさで、その場から走り去ってしまいそうだった。  
「!…やっぱり放して」  
「いっ!?それは、俺が…?」  
「いいから早く!」  
雨宮が血相を変えてふりほどく。アゲハはその真意が分からず困惑したまま、放  
れた手が宙ぶらりんになっている。ただ、彼女の行動の意味はすぐに分かった。  
「…でもさ〜最近夜科くんって変じゃない?」  
「まあ落ち着きがないのは昔からだけどな。小学生の時は一日の八割廊下と校庭  
いたからな」  
(サカにヒロとまどかちゃん!?)  
館内の通路の向こう側から見慣れた顔が六つ前後。白瀧高校の同級生だ。  
その中の一人、倉木まどかに雨宮は少し脅えていた。  
まどかが雨宮の事を理解しないこと。それを理由にグループでいじめていること。  
雨宮がそれすら誰にも話せないでいること。アゲハは知っていた。  
そんな雨宮の心を知る由もなく、まどかはキャッキャッと近付く。  
「…だから今頃、そいつ引き込もっ点じゃない?ヒリョーっだっけな?って!ア  
ゲハ!?」  
「お〜う、奇遇だな」  
「雨宮さんも一緒なの…デート?」  
抜け目ないヒロはすぐに雨宮を見つけた。ヒロの言葉に女子達は、何か汚い物で  
も見るかのように笑った気がした。  
アゲハはこうした陰気な事が大嫌いだった。気に食わないなら、正面から言えば  
良いと思う人間。  
「あぁ。ちょっと前からだけど付き合ってるからな」  
わざと雨宮の手を引いてみせた。当の雨宮は呆然と事の成り行きを見ている。  
「なッ…!アゲハお前抜け駆けか!?アレか?なんかもう、イチャイチャしてん  
のか!?」  
「へへ〜モテる男は違うんだよ!じゃな、行こうぜ」  
 
「私といるのバレたら、貴方も頭がおかしいと思われるわ…」  
雨宮は眼鏡の奥で今にも泣き出しそうだった。  
「イイんじゃん?」  
「貴方は知らないのよ…アイツらがどんな手で人を攻めるのか」  
「大丈夫だよ。喧嘩じゃ敗けねぇし、付き合ってるのは本当だろ?」  
雨宮が足を停める。手を繋いでいるから、自然とアゲハも立ち止まることになる。  
「いいの!?付き合ってるって言っても本当にいいの?」  
「当たり前だろ。俺は雨宮の事を一度も頭おかしい女だって考えたこともないぜ。  
もっと信じろよ」  
(せっかくアゲハと見に来た映画なのに、しっかり見られる自信なくなっちゃっ  
たじゃない)  
「な、泣くなよ!ほ、ほら、行こうぜ!もうすぐ始まっちまうだろ」  
「うん…」  
恋愛は人を変えるんだ。雨宮は握った手にちょっとだけ力を加えて放れないよう  
にした。  
 
難解な作品だった。  
ジャーナリズムの矛盾とか言う中での恋愛らしいのだが、今までアクションもの  
しか見たことのないアゲハにとってはある意味不条理ギャグ作品のスターニャー  
ズより難解な一本だった。更に雨宮と繋ぎっぱなしの手に意識を持っていかれ、  
上映後は頭がショートしそうでいた。  
「ち、ちょっと固すぎたね?あっそうだ。夕飯どうするの?」  
「姉貴には食ってくるとは言ってあるから平気だぜ…」  
「そう…」  
「あぁ…」  
「………家、来ない?」  
この言葉を待っていた。照れながら目配せをして二人して頷く。  
姉貴に、今日は帰らないとメールを入れようかと思ったが、早計過ぎると踏んで  
止めた。とにかく今日は幸せだとアゲハは確信した。  
 
 
雨宮の部屋はいつも生活感がない。  
根が几帳面な主の性格が反映しているのか、自分の部屋に対して複雑な感情から  
馴染めずにいるのか。推測の域は出ないが、前者であって欲しいとアゲハは願っ  
た。  
「麻婆豆腐好きだったよね?出来るまでちょっと待っててね」  
「おう」  
とは言っても、アゲハと雨宮の趣味は駆け離れ過ぎていてタイトルから『異邦人』  
と『変身』と言った本を読んでみたが、どちらも三ページ以内で妥協した。  
「もっと軽いノリのは無いのか…?」  
現国の授業もろくな態度で臨んだことが無かったために全てが異様に難しい。  
一応『軽いノリ』のものではスターニャーズがエピソードTからWまでDVDで完備  
されていた。やはり趣味が違うのだと悟る。  
仕方が無いので料理が出来るまでおとなしく待つ事にした。五分で飽きた。  
「!そーいや、なんで雨宮俺が麻婆豆腐好きって知ってんだ?」  
麻婆豆腐と雨宮桜子と夜科アゲハ。  
三つの接点を探しに記憶を辿ると、給食の時間に麻婆豆腐を鍋ごと奪い取った時  
の事を思い出した。半分くらいは『辛くて食べられない』と言っていた飛龍に食  
べさせたが。背後に気配。  
「お待たせ。お代わりあるからね」  
PM7:14―気が付けば雨宮の部屋に来て三十分以上経っていた。  
「じゃ、いただきます」  
「いただきますっ!…あり、食わないのか?」  
「先に食べて感想聞かせて」  
 
なかなかどうして。やはり一人暮らしがそうさせたのか、料理の腕は立派なもの  
だった。  
「うん、普通に美味い!!いやなんかボギャブラリー少ないけど、とにかく美味  
いぜ!」  
雨宮はうつむいて小さく頭を振る。  
「いっ!?ほら…ホントだぜ!ただ俺頭良くねぇから…」  
「違うよ。嬉しいの。さっ私も食べよ!」  
無邪気な瞳でレンゲを取る姿を見て、アゲハは半分親心のようなものを抱いて雨  
宮を見つめた。やはり彼女にはあの殺伐とした世界で刃を振るうより、こうした  
ひだまりのような笑顔であってほしかった。  
 
「ご馳走さま!」  
「お粗末様。洗ってきちゃうから、くつろいでてね」  
アゲハの脳裏に下らない発想。雨宮のエプロン姿。  
「いや、手伝うよ」  
「え〜いいって、ホントに」  
「いや、良いんだよ!ほら早く」  
半ば強引に雨宮を説得させて、キッチンに向かう。  
念願のエプロン姿を眺めていると、雨宮はようやくアゲハの意図が読めた。  
「まったく、やらしいんだから。…ねぇ、私はイイよ。今日…」  
背中にアゲハの視線を感じながら、雨宮はぎこちなく言葉をつむいだ。  
 
「男の人ってあれ?……やっぱり…そういう本に乗ってるみたいなやつ好きなの?」  
異性の前で制服のボタンを外しながら言う『本』など、指すものは一つだ。アゲ  
ハも察せないほど愚かではない。  
「ん…まぁ人によりけりだろうけど…」  
「アゲハは?」  
「ん〜…まぁ〜嫌いじゃあないけど、いや、うん」  
「そう…なんだ………してあげよっか…?」  
アゲハはシャツを投げようとしていたポーズのまま完全停止。  
「やっぱりやだった!?ゴメン!そんなつもりじゃなくて…」  
「いや、俺は…してくれるのは嬉しいけど」  
二人とも日本語でないようなぎこちなさと小声で、止まったまま会話する。  
 
「メガネ、しっぱなしの方が好みかな…」  
「え〜?変なの…て言うか、やらしい?まあ、この際何だって良いけど」  
ベットに腰かけるアゲハがよそよそしいのは、目の前に雨宮が跪くように正座し  
ているからだ。アゲハのリクエストに応えて、制服を着直してメガネをかけてい  
る。  
「じゃ、じゃあさするよ…?」  
「お願いします…」  
雨宮は小さく口を開けて、アゲハのモノに舌を伸ばす。  
触れた瞬間、雨宮は反射的に舌を戻すが、もう一度今度は確かに舌が触れた。  
「…ぅん。…っぷ」  
先端を飲み込むと、上下に頭を動かしながら徐々に範囲を奥まで伸ばしてゆく。  
「あ、雨宮…いや桜子…。こっち、見ながらできる?…っ」  
小さくうなずいたようにも思えた。事実、雨宮は濡れた瞳でアゲハを見つめる。  
「ヤバいって…これ。うっ!めっちゃエロい…!」  
 
自分のフェラチオで、アゲハが感じているのが素直に嬉しかった。  
悶えるアゲハの顔は少しかわいい。  
「桜…子…多分もう出る!!」  
良いよ、私の口の中にで。言いたかったけど、生憎口は塞がってしまっている。  
PSIを使うのもどこか無粋な気がする。  
よって雨宮はわざと動きを激しくした。  
「馬ッ…!…っあ」  
渓流のような勢いの精が口に吐き出される。  
(すっごい苦い…けど、なんだろ?ゾクゾクしてる?私?)  
「っぷぁ。フェラしちゃった…アゲハの」  
「……あ、ありがとうございます!」  
「ふふふ、なにそれ〜?やらしいお店みたいじゃない…恋人なんだから」  
改めて口にするとどこかこそばゆい。アゲハも同じだと嬉しいと思う。  
「ちょっと、水飲んでくるね?あっ違うよ!口ゆすがないと、キスできないじゃ  
ない…」  
 
「じゃあ今度は私のお願いの番ね!ん〜やっぱり、キスして?」  
ベットに倒れ込み、誘うようにボタンをはずしてアゲハに手を伸ばす。  
「キスしたら、もう我慢できねぇからな」  
さっき水を飲んだばかりの雨宮の口はちょっとだけ、ひんやりして気持いい。  
「ア…ん、ん」  
ベットが乾いた音を立てて揺れる。さながら獣のように雨宮の口を犯した。下半  
身が、もううずいている。  
「ん…!?…アゲハぁ早い……あん!」  
自然、スカート越しの女性器に腰を打ち付けてしまう。  
「もう…へ、変なとこ触って、んん!」  
手は隙間に差し込み尻に伸び、その柔らかな肉の形を変えた。  
 
大好きな相手と体を重ねる。思春期の二人にとって、それはある種至上の悦びで  
あり、唯一互いが完全に理解し合える時でもあった。  
「桜子…」  
「い…良いよ、もっと動いて…っ」  
アゲハは後ろから雨宮の腰を掴み、雨宮は猫のようなしなやかな体を反らし、四  
ん這いで時折切なそうな声を漏らした。生々しい水と肌がぶつかり合うの音。雨  
宮の部屋全体が卑猥な空気に染まる。  
「…あっ!あっ!…当たってるよ。こんなとこに…あぁ…うふっ!」  
「これ、すげぇっ、桜子…めっちゃ可愛い」  
雨宮の背に汗が滲み、肌がほんのりと紅くなる。アゲハには現実離れした美しい  
ものに見えた。  
「桜子っ!」  
覆い被さって、胸を鷲掴みにする。少しでも多く雨宮と接していたかった。  
「アゲッ、ハぁ…!!」  
首を捻り、唇をつきだしてキスをおねだりする。こころゆくまで唇を味わって、  
飽きるまで舌を絡ませ続けた。  
「…っく!!!」  
「!!…んむぅぁぁあ!」  
全身の快感に耐えきれなくなり、アゲハは雨宮の中で果てきった。  
 
「…これで三回…やる気あるのか貴様は!!」  
日曜日、アゲハに八雲祭の激が飛ぶ。まだ暴王の月は制御できていない。  
「…押っ忍……」  
「…このまま続けても脳が潰れるだけだ……桜子、休みを入れる。一時間寝かせ  
ておけ」  
「はい、先生」  
雨宮は祭に小さく敬礼。空気を読んで祭は姿を消した。  
「…俺さ、絶対に次あっち行くまでに習得すっから。天才アゲハ様的に敗けてら  
んねぇし、桜…雨宮に無理させねぇから」  
「ふふ、膝枕までしてわざわざ変える必要ないでしょ?けど、よろしく♪」  
雨宮はアゲハの額にそっとキスを落とした。その少し遠くで。  
「盗み見?朝河君」  
「望月…」  
「妬いちゃう?彼に」  
「…まぁ、な」  
「僕も妬いちゃうな、まったく」  
「どっちに!?」  
 

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