「…ー何故こうなった?」  
飛龍は何度も理由を模索するが、答えは一向に見つからない。  
ほのかに香るシャンプーの香りも、触れ合う素肌に感じる熱も鼓動も、全てが溶け合い思考を妨げる。  
確か自分は、辰央の事で相談にのってもらう為に彼女の家を訪れたはずだった。  
片手に差し入れの彼女の大好きな赤い果実を引っ提げてチャイムを鳴らした時、やましい気持ちなどほとんど無かったはずである。  
それなのにどうして、こんな事になってしまったんだろうか。  
天気は晴れ、梅雨なのにいい天気。ところが辰央の事を話していると、次第に彼女の表情は曇りだした。  
「…ねぇ朝河くん、私の事はどう思ってる?」  
…そうだ、思い出した。  
全てはあの一言が始まりだった。  
*  
並んでソファーに腰掛け嬉しそうに苺を食べる雨宮を、飛龍は横目で眺めつつ辰央の事を相談していた。  
しかし途中で雨宮は苺を口に運ぶのを止め、静かに呟いた。  
「…ねぇ朝河くん、私の事はどう思ってる?」  
唐突な質問に飛龍は黙り込む。  
正確に言うなら、返答出来なかった。  
「…辰央くんの事、大切…なんでしょ?じゃあ私は…私の事はどう思ってるの?」  
ソファーの上で雨宮は飛龍に向き直る。  
その真っ直ぐな、それでいて切なげな視線が痛くて飛龍は目をそらした。  
するとその時、刹那肩に小さな掌の温もりと微かな重みを感じた。  
バランスを保てずソファーに横になるように倒れ込むと、すぐにその温もりは身体全体に拡がった。  
「…雨…宮?」  
自分の上に倒れ込むように寄りかかる桜子に、飛龍は一瞬怯んだ。  
呼び掛けるが当たり前のように桜子の反応は無い。  
頬を擽る色素の薄い髪から漂うシャンプーの香り。  
いつも見下ろすように見つめていた綺麗な表情が、すぐ目前にある。「どうし……っん…!?」  
問い掛けは途中で中断された。  
口内に空気を震わす事無く残った言葉が、赤い果実の甘酸っぱさと共に溶け込み消えていく。  
薄い布を隔て触れ合う身体。  
伝わる温もりと鼓動。  
飛龍の頬に添えられた、震える小さな掌。  
そしてぎこちなく交わされた口付け。  
おずおずと居場所を探るような舌と、柔らかな唇。  
何も、どうすればいいのかわからない。  
まとわりつく甘い舌が銀色の糸を引きながら名残惜しそうに離れた時、もはや思考は停止寸前にまで追いやられていた。  
 
「…ねえ、教えて…?」  
そう訊ねる桜子の指先は、飛龍のシャツのボタンを順番に外していく。  
1つ、2つ、3つ…。  
そして一番下まで行き着くと、露になった厚い胸元に額を預けた。  
「…お節介とか?」  
何が彼女をこうさせたのかはわからない。  
胸元に直に湿った熱い吐息を感じ、飛龍はようやく我に返った。  
「…そ、そんなんじゃ…!」  
慌てて起き上がり、雨宮の小さな肩を掴んで引き剥がす。  
お節介だなんて思った事は無いし、むしろ気遣いが嬉しい。  
初めて笑顔を見たあの日から、飛龍は雨宮の事が現在進行形で好きだった。  
「それなら…」  
雨宮の両手は飛龍の手を掴み、そのまま柔らかな胸に押しあてた。  
初めて触れる柔らかさに、飛龍の全神経は掌に集中する。  
「…ー行動で…示して?」  
頬を赤らめ見上げる雨宮は、それだけ言うとようやく微笑んだ。  
激しい動揺は最早自分では止められない。  
飛龍の頭の中で、何かが音も無く静かに崩れた。  
*  
先程と逆に飛龍が上で雨宮が下になり、2人は移動した寝室のベッドに横になる。  
そっと眼鏡を外してみると、覗く表情はまだ幼い。  
あれだけ大きく出た癖に、いざとなると雨宮は黙り込んでしまった。  
「…ホントに…いいんだな?」  
「…ーうん…好きに、して…?」  
雨宮はそう呟き、小さく頷く以外何もしなかった。  
頬を微かに染め、恥ずかしそうに視線を逸らすのが可愛らしい。  
名の通り桜色の柔らかな唇に自身の唇を重ね、隙間から舌を滑り込ませた。  
逃げる舌に絡み付き、熱い吐息を孕む口内を侵食する。  
先程まで食べていた苺の甘みが媚薬のように粘膜に溶けていく。  
時折肩を掴む小さな手に力がこもったが、飛龍はその手を引き剥がすと指を絡め床に押し付けた。  
 
離さない、逃がさない。  
言われた通り、好きにさせてもらう。  
愛しくて、ずっと手に入れたいと願ってきた。  
そんな意識の中、貪るように長い 口付けを止め唇を離すと、雨宮は大きく酸素を吸い込んだ。  
「…んっ、はぁっー…!…はぁ、はッー…」  
苦しそうなの吐息さえ魅力的で官能的に感じるのは、甘い媚薬に脳がもう麻痺したからだろうか。  
淫らに自分が濡らした唇から視線をゆっくりと下降させていく。  
服がめくれて露になった胸元も、乱れたスカートから覗く白い太股も、何もかもが淫らな魅惑に充ちていた。  
眺めているだけで、身体が奥底から熱くなる。  
「…はッ…ーぁ、朝河くん…?」  
急に起き上がり、羽織っていただけのシャツを脱ぎ捨てる飛龍に、雨宮は潤んだ瞳を向けた。  
無条件に向けられる信頼と、これから起こる事への恐怖が入り交じる表情は、飛龍の感情を高みへと追い詰める。  
「…好きに…するからな」  
それだけ呟いて、約5年かけて作り上げた逞しい身体で細い身体を抱きしめる。  
自分が変わったように、雨宮の身体も5年ですっかり少女から女性に変わっていた。  
「あっ!んッ…や…」  
先程服の上から触れた胸に今度は直に、自発的に触れてみる。  
しっとりした白い肌は指馴染みがよく、やはり柔らかい。  
身体をびくびく震わせながら腕の中で喘ぐ雨宮は、どうも嗜虐心を煽ってくる。  
「ー!?だ、駄目…朝河く…んぁ…!」  
固くなった先端を舌で舐めとると潤んだ瞳はきつく結ばれ、可愛い哀願が漏れ聞こえた。  
今雨宮は、俺の事だけを考えてくれている。  
そんな想いが飛龍の中に渦巻く。  
この身体に触れているのも、好きにしていいのも自分だけというこの状況を、何度密かに望んできたかは自分でもわからなかった。  
もう一度唇を重ねる。  
甘い舌は今度は逃げなかった。  
掌は胸から綺麗な曲線を描く腹をなぞり、ゆっくり下腹部へと到達する。  
魅惑的な太股の先にある白の少しレースのついた布切れが、無防備に捲れたスカートから露になっていた。  
指でそっと、その中心辺りを撫でる様に刺激する。  
「…ぁ…ぅ!」  
(「……感じてるのか?」)  
「…やっ、ぁん…ぁ……」  
下着は濡れて染みができていた。 指先に、布越しに感じる秘所から滲み出る愛液は熱く、返答がなくともわかりやすく雨宮の状態を伝えている。  
飛龍は吐息を荒げる身体を隠す白布の隙間に、するりと指を忍び込ませた。  
 
「んあぁっ!?ひぁ…朝、河く…!」  
雨宮は腰を逃げるように捩る。  
しかし潤みきったそこに、指は淫らな水音をたてつつ何の苦も無く滑り込んだ。  
「あぁっ、駄目ぇ!やぁ…あぁん!」  
離した雨宮の両腕が、助けを求めるように飛龍の背中に回される。  
差し入れた指を抜き、再び埋める動作を次第に指を増やしながら繰り返すと、雨宮の口と身体は相反する反応を示した。  
「あぅ、あぁんっ!ひぁ…!ゃだぁっ…!」  
「…嫌ならやめるけど…嫌か?」  
「…ぃ…っ、意地、悪っ…ぁん、やめないでっ…!」  
善人を演じる外見と裏腹に、飛龍の口からは雨宮が困ると判っている言葉ばかりが零れ落ちた。  
「じゃあ何で嫌とか言うんだ?」  
「っあぅ、そんなに強く…ひあっ!」  
雨宮が困った顔を見せる度、決定的に素直な言葉を聞く事ができる。  
快感に悶える身体から発せられる水音に、掻き消されそうな小さな呟き。  
『…んっ、はぁ…―指じゃ…ぁ、指じゃ嫌…っ…』  
汗と涙、快感と羞恥心でぐちゃぐちゃになった顔がたまらなく愛しい。  
まるで別人みたいな表情も反応も知っているのは自分だけだという優越が心を支配していた。  
「…そうか」  
指を引き抜くと、飛龍は早速準備に取り掛かった。  
無抵抗な雨宮の身体に引っ掛かった布切れを全て捲り取る。  
自分も下半身に残った着衣を脱ぎ捨て、生まれたままの姿でもう一度雨宮に向き直る。  
こうして障害は何一つ無くなった。  
*  
「…ーいいか、いくぞ…?」  
飛龍は雨宮の膝の裏側に手を添えそっと押し広げる。  
「…力、抜けよ…!」  
そそり立つ肉塊の先端が、濡れた蜜壺に埋められた。  
狭いながらも先程指で濡れただけあって、意外と滑らかに進んでいく。  
「あぁう…!ぁ…」  
互いの呼吸が荒くなる。  
ゆっくり、ゆっくり飛龍は雨宮の様子を窺いながら自身を埋めていく。  
「…ー!ぃた…ぃ…っ…!」  
途中、雨宮が声を押し殺し途切れ途切れに呟いた。  
乱れたシーツをぎゅっと掴む小さな手、赤い頬を伝う一雫、強く結ばれた口元。  
「…雨宮、一つ聞いていいか?」  
飛龍はすぐその異変に気付いた。  
「あっ、…な…なに…?」  
「…もしかしてその、ほら、こういうの"初めて"…だったりするのか?」  
している事の方が何倍も恥ずかしいのに、言葉に出すのが恥ずかしい。  
真っ赤な顔の雨宮は、視線をそらす事無く頷いた。  
 
「……そうか…」  
言葉が出てこない。  
謝ればいいのか、質問の答えを貰ったのに何をすればいいのかわからない。  
とりあえず中途半端だった腰を再びゆっくりと押し進める。  
すると小さな身体が弓なりにしなった。  
「…ぃ……!あ、っう…朝河、くん…ぁ…奥まで…来てる…っ…!」  
「雨宮…!」  
苦痛を声にならぬ声で訴える口を口で塞ぐ。  
最奥まで侵入した身体を締め付ける膣が蠢き、達してしまいそうになる。  
一方雨宮は雨宮で、繋がった身体の奥底の熱い痛みに必死で耐えていた。  
「…これ以上無理そうか?」  
荒く深い吐息を落とす小さな身体を見下ろしながら問い掛ける。  
初めて男という物を受け入れた負担は、男である自分にはわからない。  
ただそれが全く楽でない事だけは、そんな雨宮と繋がったままの飛龍にもひしひしと伝わった。  
「痛い…よな?」  
雨宮はそう尋ねられると、飛龍に優しくしがみつく。  
その手は爪を立てないよう、傷付けないように痛みに耐えて震えていた。  
そして近くなった耳元で、そっと囁く。  
『 …ー嬉しい 』  
熱い吐息が耳をかすめて融けて消えていった。  
唇は微かに動き、苦痛よりも繋がり1つになれた事への喜びを語った。  
本心か、強がりかはわからない。  
しかし飛龍はその意外な言葉が雨宮の本心であると、自分でも不思議だったが何故か確信を持っていた。  
*  
そのまましばらくそうしていると、雨宮の腕が不意にするりと離れた。  
「…もう…大丈夫みたい……だから…」  
憂いを秘めた何とも言いがたく、例えがたい愛しい表情で雨宮は飛龍を見つめる。  
そして恥ずかしそうにOKが出された。  
「じゃあ…動くぞ…?痛かったら言えよ(…止められねぇかもしんないけど)」  
飛龍はこっそり言葉の後半をのみ込んだ。  
 
ゆっくり引き抜いて、狭い膣を押し広げながら埋める動作を、雨宮に気を配りつつ繰り返す。  
白い額に浮いた真珠のような汗が、美しく見える。  
初めのうちは深かった雨宮の眉間による皺も段々浅くなっていき、きつく結ばれていた口からはいつの間にか荒い呼吸が洩れていた。  
苦しそうだった喘ぎにも、次第に他の色が滲み始める。  
締め付けてくる内側と押し入る外側が擦れる度熱が生まれ、融けて愛液となって流れていく。  
「…あっぁ、や…!何か…変だよ…ぅ…!」  
「…はぁっ、はぁ…何、がだ…?」  
いつしか気を配る事を忘れていた飛龍はゆっくり視線を雨宮に戻す。  
「ぁ、ふぁ、駄目なの…!おかしく…なっちゃう…よ!」  
握り返す事もしない拘束されたままの両手。  
突き上げる度揺れる綺麗な形の双丘。  
自分だけに晒された、白い上気した肉体。  
汗で涙でへばり付いた長い髪を退かして、何度も矯正を上げる唇を、口内を舌でまさぐる。  
見た事の無い雨宮の乱れた痴態を前にして、飛龍は寒気に似た快感を覚えた。  
素直に芽生えた感覚に身を任せず、恥ずかしさに耐える小さないとおしい身体。  
そんな身体に、ふと淫らな興味がわく。  
もっと限界まで突き上げたら…そうしたら雨宮は、どうなってしまうのだろうか?  
脳裏から気遣いという単語を忘れて自己中心的になってきた腰使いは、速さと大胆さを増して雨宮の奥深くへ何度も行き来する。  
「はぁ、朝河、くんの…っ!はっ、ぁ…凄いよ…ぅ…!」  
恍惚の色の滲む瞳が飛龍を捉える。  
無色透明のそれは空気を介し、飛龍にも伝わった。  
締め付けられる度襲い来る快感を、まだだと脳内で制して行為に没頭する。  
「はぁ…雨宮っ…ちょっと、いいか…?」  
「…な、なに?…っひゃぁ!?」  
声をかけるだけかけて、了解を得る前に細い身体をうつ伏せにひっくり返す。  
四つん這いにさせた腰を持ち上げて、さらに奥まで赴くまま突き上げる。  
「…やっ、ぁあん!駄目だよぉ!?んっ…私壊れちゃうぅっ…!」  
くぐもった吐息はシーツの海に消えていき、ぬちゃぬちゃと、濡れた深みからはいやらしい水音が響く。  
飛龍は揺れる胸を鷲掴み、後ろから覆い被さるように攻める。  
もう欲望に歯止めはかけられなかった。  
このまま淫楽に酔って、何も考えられないくらい融けて1つになりたい。  
身体と身体で、全てを知り尽くしたい。  
そんな想いを糧に、欲望はとどまる所を知らなかった。  
 
飛龍の物の先が最奥の子宮口まで達する度に、雨宮の背筋を、身体を甘い電流のような快感が走り抜ける。  
「やだよぉ…!ぁあん!ぁさが、くんっ…!へんに、なっちゃう…んぁっ…!」  
絶え間無く喘ぎ、身悶えていた雨宮の呂律が回らなくなってきた。  
普段の冷静さなど何処にもない。  
ただ唇を重ね胸を弄られ、そして初めて男を受け入れた蜜壺を自分が望んだとはいえ、労る事無く屹立した欲望に繰り返し突かれているのである。  
大人に憧れて背伸びする子供、例えるなら今の雨宮はそんな感じだった。  
「はぁっ、あんっ!私、どう…なっちゃ…の…?ねぇ…ぁ、あさ…く…こ…怖いよぉ…!」  
途切れ途切れに、素直に雨宮はそう言った。  
自分がそうしたのに、雨宮が自分を頼ってくれた事が飛龍の複雑な心境を刺激する。  
周期的に波打つように収縮する膣は、耐えてはいても限界が近いようである。  
それに飛龍自信も、愛しい身体を赴くまま最奥まで突き続けた事によりかなり疲弊していた。  
「はっ、はぁ…雨宮…怖がらなくて、いいんだ…」  
手を離した瞬間崩れ落ちた身体を抱き締める。  
飛龍は雨宮を仰向けにして、涙と汗を拭って優しくキスをした。  
そして再び濡れて妖しく光る赤黒い肉棒を、ゆっくり潤んだ身体に収めていく。  
「…あつ…ぃよ…!朝河くんー…!!」  
今までで一番強く、飛龍の背に細い両腕が回された。  
耳元に直に感じる声が、吐息が感情を昂らせる。  
「もう少し…だから…っ、あと少し…!」  
勢い良く腰を動かした。  
声にならない想いが触れ合う中から伝染する。  
溢れ滴る愛液で濡れて染みの出来たシーツが、ぐしゃぐしゃに乱れて酷い有り様になっていたが最早何も気にならない。  
2人を繋ぐ身体、心。  
それがお互い以外に興味を持たせない。  
「ぁぁああっ!やぁんっ…!も、もう…だめぇ…ーっ!」  
絞り出すような叫びが飛龍の耳に届いた。  
 
強くこわばる身体は弧を描き、足の指先は開ききって震えている。  
するとその瞬間未だかつて無い程雨宮の膣が収縮し、何度も侵入していた飛龍の身体をきつく締め上げた。  
「…マズい…っ!雨宮、腕離せ…っ!!」  
襲い来る射精感ももう耐えられる限度をとうに越えている。  
そこに来た、終わりの瞬間。  
もう我慢できない事を悟った飛龍は避妊も何もしていない事を思い出し、慌てて強張る身体にそう諭した。  
しかし、雨宮は飛龍に強くしがみつき離れようとしない。  
それどころか背に回された腕は苦しくなるぐらい力が込められ、肌と肌が限界まで密着する。  
「…ーぁ、く…!ぅ…だ、駄目だ…!出る…っ!!」  
互いの汗が、吐息が、熱が混じり合う。  
駄目だと思っても最早それを止める術は何処にもなかった。  
雨宮の身体の一番深い場所で、飛龍の本能は限界まで膨らみ勢い良く弾けた。  
頭の中に溜まった快感が、吐き出されては雨宮の胎内に還元されていく。  
「あぁんっ!?熱いのが…あっ、たくさん出てる…っ!と、とけちゃうよぉ…!」  
注ぎ込まれる多量の精を奥底に感じ、雨宮は身体を震わせた。  
背筋を瞬時に嘗めるように這いつくばる感覚が脳を揺さぶる。  
呼吸困難に陥ったかのように上手くいかない呼吸が何とも艶かしい。  
時間をかけて全てを吐き出した飛龍が力無く崩れると、雨宮はようやく腕を離した。  
「…ーあ、雨宮…」  
乱れた息のまま達した膣から同じく達した身体が引き抜かれると、どろりと白濁した物が蜜壺から溢れ出した。  
 
飛龍はまた慌てて、それを傍の机上からひったくったティッシュで綺麗に拭いとる。  
そして少し初夜の鮮血の混じった丸めたティッシュを見て、虚ろな瞳の雨宮に飛龍は問い掛ける。  
「…何で…何で離さなかったんだ…?こんな…中で出したら…!」  
「…いいの、朝河くんだから…」  
頭の中では激しい後悔が自分を責め苛んではいたが、まだ余力の残る身体が恨めしい。  
考えてから行動しなかったからこうなったのだと、自業自得の念が心を締め上げた。  
涙や色々な感情で滲んだ瞳に飛龍がうつりこむ。  
雨宮はゆっくり眼を閉じて、頬を伝う涙をぐいと拭った。  
「……ー好きだったの…」  
耳にそう空気の震えが伝わった時、飛龍には意味がわからなかった。  
雨宮は、今何と言ったのか。  
聞き取れたのに、意味がわからない。  
「好きって…何が…?」  
「何がって、朝河くんに決まってるでしょ!」  
急に怒る顔も何故か可愛くて仕方無い。  
自分で言った癖に恥ずかしくて泣き出したりする所が大袈裟だけど、全てが彼女だから許せてしまう。  
「俺は…てっきり夜科の事が好きなのかと…」  
「…それはそう振る舞ったら朝河くんが焦って声かけてくれるかなって思ったの」  
意気地のない飛龍は結果的には自分から言い出せなかったが、うまい事その挑発に乗せられていた。  
いつも静かに笑顔の裏で、焦りと嫉妬を燃やしていたのである。  
「ねぇ…朝河くん…」  
飛龍の下で横たわる雨宮が不安そうに名を呼ぶ。  
「やっぱり私の事…ーどう思ってるか言葉でも教えて?」  
「…どうしてもか?」  
「うん…朝河くんの口から、朝河くんの声で聴きたいの」  
言ってやりたいのは山々だが、恥ずかしさが先行する。  
それに何だか照れくさい。  
急かさない雨宮に、逆に急かして欲しいと願うくらい部屋は静寂に包まれていた。  
「俺は…いや、俺も雨宮の事が…」  
声を大にして叫びたかった。  
大好きだ、愛してる、誰よりも大切な存在なんだ。  
しかし実際は思った通りいかない物である。  
(「…好きだ」)  
顔が見えないように抱きしめて、耳元でそっと囁いた。  
言葉にできなかった分は全て、触れ合う肌から、熱から融けて伝わればいい。  
飛龍は熱る身体を抱きしめたまま瞳を閉じた。  
 
どれくらい経ったのか、二人が気付くとカーテンの向こう側はすっかり明るくなっていた。  
飛龍の腕を枕がわりにして寝ていた雨宮は、朝に弱いらしくぼんやりしている。  
するとその時、雨宮の携帯が鳴り響いた。  
流石に驚き目が覚めた雨宮は、携帯を手に取りメールを確認した。  
「…誰からだ?」  
「夜科からよ…"今日なんで学校来てないんだ?"だって」  
「夜科…」  
夜科の事は誤解だったとわかっているのに、飛龍は心中穏やかではなかった。  
そんな状況を知ってか知らずか、雨宮はメールを打っている。  
気になって仕方ない飛龍は、悪いと思いつつこっそり画面を覗いてみた。  
『教えてあーげないっ♪』  
送信されたその一文の意味に夜科が気付くのは、かなり先かおそらく無いだろう。  
閉じた携帯を放り出した雨宮は嬉しそうに飛龍に抱きついた。  
「今日学校、サボっちゃったね」  
「別に…俺はいつもの事だからな」  
「…する事無いし…また、やる?」  
「な!?何言って…」  
「…嫌?」  
そう言われて嫌と言えない事を雨宮が知っているかもわからない。  
ただ心の奥底は渇望を恐れ、この上ない事だと喜びの声をあげていた。  
「…どうなっても知らねーぞ…!」  
飛龍はそのまま雨宮を押し倒した  
 

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