さっきから頭の中で声がする。
男?…―いや違う、この声は女だ。
雨宮?…―でも無い、この声はもっと幼い。
フレデリカ?…―やっぱり違う、あいつはこんなに素直じゃない。
" …―す・き・で・す―… "
頭の中で繰り返される、「丁寧なテレキネシス」。
そんなに繰り返さなくたって初めから聴こえてるのに、そばかすの浮いた頬を紅潮させ少女は俯いたまま俺の隣に佇む。
「…アゲハさん…」
「何だ、マリー?」
何だもクソも無い。判ってるんだ俺は。
マリーが何を聴きたいのか、何を恐れているのかも全て。
「アゲハさんって…トランス苦手だったりします?」
苦手かどうかは試した経験が無いから判らない。
ただテレパシーを受ける事に関しては、今も昔も可能なようだった。
「…あのさ、」
気恥ずかしくなって無意味に頭を掻いてみたりわざとらしく視線を逸らすと、マリーは不安そうな表情をした。
本当は安心させたいのに、羞恥心がそれを邪魔してくる。
「実は最初から…聴こえてんだよね、全部」
「えっ!?…ぁ、その」
マリーは予想外と言わんばかりの驚きっぷりを見せた。
元々聞いてもらうつもりのテレキネシスだったのに、失敗かと思ったのに実は全部聴かれてましたなんて、そりゃ心の準備出来ないよなとか他人事みたいな余裕を浮かべる俺は狡い奴だと思う。
小さな掌で精一杯そばかす混じりの赤い顔を隠そうとする姿は見ていて飽きなかった。
「 マリー 」
「ぁ、はぃ!」
名前を呼んでみる。するとマリーは弾けるように顔をあげた。
どうやらそれは彼女の意思ではなく反射的な物だったみたいだが、関係無い、チャンスとばかりに俺は熱る頬に手を伸ばした。
やっぱりこういう事初めてだったりするんだろうか。ぼんやりした頭で俺は硬直したままの彼女の柔らかな唇にキスをした。
「…んっ―ぁ、ぅ…」
驚きながらも甘い微かな声が聴こえた。
初な反応が凄く可愛い。
重心をかけると小さな身体はいとも簡単に壁際へと陥落した。
―可愛い。
ただそれだけで、幸せな気分になれる。
「…俺も、好き」
真っ赤な顔を覗き込み笑顔でそう言うと、マリーはもっと真っ赤になった。
俺は逸らしがちな困った視線を捕まえて、一つだけお願いする。
まあいきなり初めてキスされたら動揺するのが普通だけど。
「マリー、笑って?」
するとマリーはぎこちなく微笑んだ。
素直な所がまた可愛い。
俺はこの笑顔が大好きで愛しくてたまらなくて、短い間でもけして忘れないと心に誓った。