携帯電話の呼び出し音が部屋に響く、雨宮桜子こと桜子が  
寝ぼけ眼のままその携帯電話に手を伸ばし耳にあてる。  
「ふぇ、なぁあに?」  
完全に寝ぼけている桜子は、携帯の呼び出し主を誰かも確認せず電話にでる。  
もちろんそんな状態で電話に出られれば、呼び出し主は当然に激昂する。  
「ふぇ? じゃねぇよ! 俺のとの待ち合わせの時間だぞ」  
呼び出し主の主張はもっともだろう。  
だが、桜子は寝ぼけているのだ。  
「ほに? 待ち合わせ……あい、あい」  
声の主の発言をオウム返しで呟く桜子、駄目である。  
火に油を注ぐ返答にますます、呼び出し主は怒りのボルテージを上げる。  
「あい、あい、じゃねぇって! 俺、一時間は待ってんだぞ」  
すでに相当お怒りの様子の声の主、桜子もようやくその主を誰か理解した  
「夜科なのぉ? やくそくぅ?」  
そう電話の向こう声の主は夜科アゲハ、桜子とは同じ学校に通うクラスメイトだ。  
「そうだよ、約束。お前がこの間メールで暇か聞いてきて映画行くって決めただろ」  
夜科は呆れた様子でことの次第を説明する。  
つまりは桜子と夜科は今日、映画の待ち合わせをしていた。  
だが、待ち合わせの時間から一時間たっても桜子は現れなかった。  
だから待ちきれずに夜科は桜子に電話を掛けた  
っと言うわけだろう。  
「ほい、そうだったねぇ……」  
夜科を一時間待たせておいて気の無い返事  
はぁ、と夜科のため息が桜子の耳に届いたが、あえて無視を決め込む。  
「待っててぇ……行くから」  
「ちょっ待っ……」  
プツン、ツー  
それだけ言ってさっさと通話を切る桜子  
 
携帯電話を折りたたみ夜科との通話を切り、眠たい瞼を擦る。  
瞼を擦ることによって桜子の脳に刺激が伝わり眠りからの覚醒へと導く。  
「そういえば夜科とそんな約束してたっけ……」  
そう考えた瞬間、桜子の胸が高鳴るのが分った。  
桜子の脳裏では夜科が屈託の無い純粋な笑みを浮かべている。  
「やだ私、夜科のこと考えてドキドキしてる」  
桜子は夜科と初めてPSYRENの世界で出会った時のことを思い出す。  
召集を受けて体を震わせていた桜子、そのときについ呟いてしまった弱気な言葉  
助けての一言  
「夜科は私の助けてに答えてくれたんだよね」  
折りたたんだ携帯電話を握り締め通話の切れた夜科のことを思う。  
彼はどんな気持ちでPSYRENの世界に手を伸ばしたのだろう?  
とんでもないものに夜科を巻き込んでしまったそんな罪悪感と  
夜科という存在そのものという安心感  
「うん、私が勇気出さないと……夜科、鈍感だし」  
桜子は何かを決心して折りたたんだ携帯を再び開いた。  
彼を目の前にしたときの安心感は本物だ。  
彼がいなとまた不安定な自分に戻ってしまう。  
不安を押し殺す弱い桜子じゃなくなる時間、そんなつかの間の時間を得られるスペース  
それを自分の手の中に収めたくなる。  
「夜科? 映画、この時間じゃやってないよね? 私の家来ない?」  
決心を胸に夜科に短刀直入に用件を伝える。  
心拍数が上がるのが桜子にも分った。  
拒絶される恐怖が一瞬、桜子の脳裏を駆け巡った。  
「なに私……? よく知ってる夜科を家に呼んだだけじゃない」  
用件だけ伝えた桜子は気弱にそう呟いた。  
 
「うーす、雨宮来たぞ〜お前いい加減にしろよ! 俺がどれだけ待っ」  
開口一番、夜科は苦情を述べようとする。  
「夜科ごめんね」  
上目遣いで桜子が夜科を見つめ謝罪の言葉を先に言う。  
その態度に夜科は何かを感じ取ったのか文句の言葉を途中で止めた。  
いつもとは明らかに違う桜子の態度に夜科は何かを感じ取ったようだ。  
「まぁ良いよ。んで雨宮ん家ってゲームとか有るのか?   
 俺バーストの練習に集中してて全然憶えてねぇや……」  
部屋に大穴を開けたときを思い出したのかバツが悪そうに頭を掻く夜科。  
朝河飛龍ことヒリューと共にバーストの特訓をした時の事を思いだす。  
あの時は桜子にタッチするためにバーストを出したらメルゼズ・ドアだったという  
そんなオチだった……  
桜子は頭をポリポリ掻く夜科を可笑しく思いながら  
「ゲームなんて持ってないよ。夜科に伝えたいこと……できたから」  
ゆっくりと夜科に近づき桜子は夜科と手を繋ぐ、  
「雨宮どうした?」  
そしてそのままベッドの方へと夜科を導く桜子  
二人の間に流れる雰囲気がその行為によって確実に変化をもたらした。  
お互いの鼓動が早くなるのがわかった、夜科も桜子もお互いの手に汗がにじみ出るのが  
伝わってくる。それが二人の正常な思考回路をショートさせる。  
「雨……宮……?」  
導かれるままベッドの方へ足を向ける夜科、桜子の様子がおかしい事はもう理解していた。  
ベッドに後ろを向く形で夜科は立たされる。  
ここは桜子の考えるがまま流されてみよう夜科はそう思った。  
「伝えたい事があるの」  
桜子の唇がゆっくり動く、いや、夜科の目にはゆっくり言葉が紡ぎだされるように見えた  
だけかもしれない。  
そんなスローモーションのような錯覚を起こす空気が、二人の間には流れていた。  
「なんだよ……雨宮」  
二人の間に流れる沈黙、二人がお互いの顔を見て赤くなるのが分った。  
その表情が二人がこれから行うであろ行為を予感させる。  
そのとき、桜子が行動を起こす。  
「…………んっ……」  
桜子は背伸びをして唐突に夜科の唇に唇を押し当てた。  
「ん……ちゅ……」  
 
お互いの唾液の混じる音が部屋に響く、そのまま桜子に押し倒される形でベッドに倒れこむ。  
二人の鼓動が今までで一番早くなる。そしてゆっくりと唇が離れる。  
「ん……ふぅ……奪っちゃった……夜科の唇」  
夜科にまたがった状態の桜子が離れた唇を名残惜しそうに撫ぜる。  
「でも、こういう時は男の子が先導してくれるんだよ?」  
唇に手を当て悪戯っぽく桜子が笑みを浮かべる。  
桜子によって完全にペースを乱された夜科が唖然としている。  
「嫌い?」  
唖然とする夜科を見て少し不安を覚えたのか、桜子が首を捻る。  
すると、夜科は笑みを浮かべ桜子の唇を奪った。  
「ん……」  
桜子が声を上げる。  
「ちゅっ……ん」  
押し倒される形で居た夜科だが、ここで動きを見せる、桜子の体を持ち上げ  
今度は桜子をベッドにゆっくりと寝かせる。  
しかし、二人の唇が離れることはない。  
「んん……ちゅぅ……んっ」  
その間二人の唾液が混ざり合う音が部屋に流れる。  
そして、二人の唇が再び離れる。そこには唾液で二人の繋がった証が伝う。  
「好きだぜ、雨宮」  
桜子を押し倒した夜科が堂々と告げる。唖然としていた夜科はもう居ない。  
その発言に満足したように  
「よくできました」  
と言った。  
 
「いいよな、雨宮……?」  
押し倒しておきながら無粋なことを聞く男だ。桜子はそうおもいながら  
「うん、いいよ。して、夜科」  
と答えた。  
ウサギさん? がプリントされた洋服を脱がせ、スカートを下げる。  
そして夜科がいざブラに手をかけようとしたとき  
ジリリリリリリリリリ  
携帯のタイマーがけたたましく鳴り響く。  
二人はしばし、呆然とする。この瞬間、二人を包んでいた艶やかな空気は消滅した。  
「あ、トランスの練習しないと!」  
桜子は再び洋服に手をかけ立ち上がる。  
夜科は一人ベッドに取り残される。  
「ちょっ、待てって……ここでぇ!」  
男として当然の反応と言えよう、夜科はガックリとうな垂れる。  
「ごめんね夜科。マツリ先生との約束なの」  
無念、夜科アゲハ……すると  
「大丈夫。今度はゆっくり時間を作るから、そのときに続き……しよ」  
桜子は優しく夜科の頭を抱きかかえ耳元で囁く。その時の桜子の薫りはとても甘かった。  
ずるいと思った。でもそれだけで夜科は良かった。桜子とはこういう女性だ。  
夜科は納得した様子で声を出す。  
「了解、また今度な。さーて俺はライズの練習でもするか!」  
二人の時間はまだまだ続くようだ。  
 
 

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