ある日の夕食後。  
フレデリカは、マリーを手伝って食器を片付けていた。  
食器を洗うマリーの横に立ち、水切りカゴに置かれた食器を布巾で拭っていく。  
黙々と食器を洗っているマリーが、先程から何かを呟いていることに気付いた。  
 
 
 
「…タ・メ・イ・キ まじり〜の〜♪」  
「ああッ!!」  
「きゃッ!?何、どうしたの!!?」  
 
突然のフレデリカの大声に、驚いた様子のマリー。  
しかしフレデリカはそれに構うことなく、興奮した様子を見せていた。  
 
「それ!アタシの作った『セクシーローズのテーマ』じゃない!!」  
「う、うん…」  
「なっつかしい!良くそんなモン覚えてたわね!」  
「うん、何かいきなり思い出しちゃって…」  
「その後が、セクシー・ローズ〜〜だっけ?」  
「そうそう。…で、その後は何だったかなぁ?」  
「…う〜ん、アタシも思い出せない…!」  
 
片付けの手は止めることなく、懐かしい歌で盛り上がる二人。  
まだフレデリカが「紅蓮の女王」でなく「女スパイ・セクシーローズ」を名乗っていた頃に作ったものだった。  
 
 
「何でだろう。このフレーズだけしか覚えてないなぁ…」  
「う〜ん…、確か3番まで作ったはずなのに…」  
「そうだよね。振り付けも作って一緒に踊ったりしたよね」  
「そうよ。どこかのアイドルグループの何期生か研究生かっていうくらいには猛練習したわよね」  
「…その例えは良く分からないけど。皆に見られたら恥ずかしいからって、お庭で練習してたよね」  
「そうよねー。…あれだけ一生懸命練習したけど、結局披露はしなかったわよねー」  
「…何で皆に見せなかったのかな?」  
「…さぁ。完璧に踊れたから満足しちゃったんじゃない?子供ってそんなモンでしょ」  
 
二人とも忘れていたが、実際にはフレデリカが飽きてしまったのが理由であった。  
 
「あぁ〜〜気になる!振り付けは何となく覚えてるけど、歌詞が思い出せないッ!」  
「…私も、う〜ん、さっきの『セクシー・ローズ〜〜』の辺りしか振り付けは覚えてないかなぁ」  
「えっ、覚えてんの!?」  
「…う、うん。だってフーちゃんに、すっごいダメ出しされた覚えがあるから」  
「そりゃそうよ、だってサビだもの。…ね、ちょっと踊ってみせて?」  
「ええええええ!!?」  
 
 
 
 
「で、でも、恥ずかしいよ…」  
「いいじゃない!アタシしか見てないんだし!」  
「誰か来たら…」  
「そしたら止めればいいでしょ。気になるのよ、すっごい気になるのよ!!」  
「でも…」  
「なに、マリーってばアタシがもやもやした気持ちで苦しんでもいいっていうの!?」  
「そ、そういう訳じゃ…」  
 
「じゃ、踊って。」  
「………うん。分かった…」  
 
恥ずかしそうに俯きながら、着けていたエプロンを外そうと背中に手を回すマリー。  
そんなマリーの前に掌をかざし、フレデリカはマリーの動きを制した。  
 
「待ちなさい、マリー」  
「な、なに?」  
「エプロンは、脱がなくていいわ」  
「…え??」  
 
 
 
 
「じゃ、じゃあ…、行くよ…?」  
「いつでもオッケーよ!」  
「あの…、出来たら歌はフーちゃんが歌ってくれないかな」  
「いいわよ。じゃ、さんはいっ」  
 
 
「タ・メ・イ・キ まじり〜の〜♪」  
「セクシー・ローズ〜〜」  
 
 
「…どう?思い出した?」  
 
フレデリカの歌に合わせて、恥ずかしそうにしながらも踊って見せたマリー。  
そんなマリーの姿を見て、フレデリカはカッと目を見開いた。  
 
「思い出した…!」  
「本当?良かっ」  
「何なのよ、その恥じらい丸出しの動きはッ!左手はこう!って言ってたでしょ!?」  
「え、あ、うん。…こう?」  
「ちっがーう!!もっと男を誘惑するようなカンジで!!こうよ、こう!!」  
 
真剣な表情で、ビシィ!と音でもしそうな程のポーズを決めているフレデリカ。  
その瞳が、マリーにも同じポーズをしてみせろと視線を送る。  
先程のマリーの動きが、フレデリカの内にある鬼コーチ魂に火を点けてしまったようだった。  
 
 
「えっと…。こう?」  
「違ーう!!ダメよもう、全ッ然ダメ!!」  
「じゃあ…、こんな感じ?」  
「もっとダメよそんなのッ!!何なのよアンタ、セクシー道をナメてんの…!?」  
「な、ナメてないよ…!というより、そんなの初めて聞いたよ…!」  
「セクシーは一日にして成らずって言うでしょ!」  
「言わないよ!」  
 
マリーは、心底困り果てていた。  
フレデリカは、本気なのだ。  
これ以上ないくらいに真剣なのだ。  
だからこそ、余計にタチが悪かった。  
 
「いい?タ・メ・イ・キの『イ』のところで、腰をぐいっと!」  
 
「そして、まじり〜の〜♪の『り〜』のところで、こう、胸を突き出すように!」  
 
「更に『セクシー』のところで流し目で色気を振り撒きながら…」  
 
「『ローズ〜〜』の最後で妖艶に決める!この時、相手を見下すような目線がポイントよ!!」  
 
 
 
「…さっ、もう一回よ!」  
「嫌だよっ!!」  
「やりなさいよ!」  
「嫌だよ!恥ずかしいよ!!」  
「や・り・な・さ・い・よ・ッ!!!」  
 
…フレデリカは、至って真剣なのであった。  
 
 
「はい、じゃあもう一回行くわよー」  
「………はい。ごめんなさい…」  
「ワン、ツー、スリー、フォー!」  
 
 
「ちっがぁーーう!!!」  
 
そして再び、フレデリカの怒号が響き渡った。  
 
 
「そこで!ちゃんと!胸を前にッ!!」  
「い、イヤだってばぁ…」  
「何言ってんの!そのおっぱいは何の為にあると思ってんの!?ただの脂肪の塊じゃないでしょッ!!」  
「で、でも…っ」  
 
「何の為にエプロン着けさせてると思ってんの!!」  
「知らないよぉ!」  
「『おかえりなさ〜い、ア・ナ・タ♪お風呂にする?ご飯にする?それとも、ワ・タ・シ?』でしょ!」  
「ベタ過ぎるよッ!」  
「昼は控え目で可愛い新妻!夜は淫らな人妻ッ!そう、時には娼婦のように!!淫らな女になりなさい!!」  
「何でそんな古い歌知ってるの!!?」  
 
 
 
 
「……………。」  
 
マリーとフレデリカが、食堂内で大騒ぎを繰り広げていたその時。  
食堂のドアに、人影が立っていた。  
 
 
(…いい…!)  
 
 
偶然通り掛かったシャオが、廊下に立って中の様子を眺めていたのだった。  
 
 
騒がしいので何事かと思い、扉を開いたところ。  
フレデリカ指導の元、マリーが踊っていたのである。  
幸いなことに、二人は特訓に夢中でシャオには気付いていない。  
しばらく様子を伺っていると、子供の頃に庭で懸命に練習をしていた  
「セクシーローズのダンス」を踊っていることが分かった。  
 
なお、当時の二人は誰にも見られていないと思っていたのだが。  
これまた偶然にも現場に居合わせたシャオは、木の上から二人をずっと観賞していたのであった。  
 
 
 
「そんな腰の動きで、男を落とせると思ってんのーッ!!」  
「ご、ごめぇん!!」  
 
 
(…いや、落ちるぞ…!)  
 
 
恥じらいを捨てきれずも、フレデリカの指示に従って悩ましい踊りを見せているマリー。  
後姿だけとはいえ、その姿は破壊力抜群な光景であった。  
恥じらっている為か、かえって男の情欲をそそるマリーの後姿。  
燃えに燃えているフレデリカの指導のおかげで、振り付けは当初とは全くの別物と化していた。  
 
色々な意味で、見事な成長を遂げたマリーの肢体。  
その豊満な胸、もとい身体を包むエプロン。  
そんな身体とは裏腹に、恥じらいを捨てきれていない動き。  
それらとフレデリカの振り付けが合わさって、誘惑どころか陥落させかねないものへと仕上がっていた。  
 
 
 
(…もうちょっと、こっちを向かないんだろうか)  
 
 
扉の隙間から、食い入るように中の様子を見つめているシャオ。  
背後からやってきた二つの人影には、全く気付く気配がなかった。  
 
 
「こんなところで何やってんだ?」  
「中に入らないんですか、シャオ君?」  
「うわあぁっ!?」  
 
振り返ると、カイルとヴァンが立っていた。  
二人は、入口で立ち尽くしていたシャオを見て怪訝そうな表情を浮かべている。  
何も知らずに、扉を開いて中へ入ろうとする二人。  
扉の向こうに広がる光景を見て、呆然としていた。  
 
「何やってんだ、お前ら」  
「まだ片付け終わってなかったんですか?」  
 
入口に立つ三人の姿を見て、マリーは顔を真っ赤に染めていた。  
 
「きゃあああああ!!!」  
「大丈夫よマリー、見られてないって!」  
 
「何だ、お前ら何かしてたのか?」  
「ああ、だからシャオ君がずっとそこに立ってたんですねー!」  
「おい、ヴァン!?」  
 
 
「「え?」」  
 
 
引き攣った表情を浮かべたまま、三人の顔を順に確認していくフレデリカ。  
 
カイル、きょとんとしている。  
ヴァン、同じくきょとんとしている。  
シャオ、不自然なくらい顔が赤い。  
 
それらの情報から、一つの結論を導き出したフレデリカ。  
うすら笑いを浮かべているその瞳は、一切笑っていなかった。  
 
 
「マリー…」  
「え、うん、何…?」  
「ちょっと、キッチンから包丁何本か取ってきてくれない…?」  
「え、えぇっ!?…何に使うの?」  
 
 
「覗き魔を、刺すのよ。PSIじゃ打ち消されるかもしれないしね」  
 
(!!!)  
 
 
「…おい、フーのヤツ何言ってんだ?」  
「…さぁ?」  
 
「…済まない、カイル」  
「シャオ?」  
「…後は頼む」  
「シャオ君!?」  
 
言うが早いか、そのまま走り去っていくシャオ。  
 
 
 
「逃がさないわよッ!この覗き魔ァァッ!!!」  
 
 
 
そしてフレデリカの怒号が、食堂中に響き渡っていた。  
 

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