カイルとフレデリカは部屋で二人っきり、特に何をするわけでもなく適当にくつろいで
いた。
彼はソファーで、彼女はベットで。 フレデリカの部屋ということ以外、普段の二人と
変わらない光景。
しかしカイルは不満たらたらで、俺たちは付き合っているんだしせっかくの二人きりなん
だし、もう少し何かあってもいいんじゃないか? と胸のうちで悶々としているのだが。
邪な下心の悩みつつも下手にものを言ってフレデリカの機嫌を損ねるとそれはそれで面倒
なので、おとなしく我慢していた。
そんなくだらないことを考えていたから気がつかなかったが、ふと気配を感じて視線をあ
げてみると、そこに彼女が立っていた。
「…フレデリカ?」
しかし様子がおかしく何か話そうとしても、彼女の顔が間々利に無表情で、名前しか出て
こなかった。
しばらくじっと見つめあう二人だったが、しかし急にフレデリカが胸の中に飛び込み抱き
つきてきて。
「フ、フレデリカ!?」
その行動があまりに予想外で、一瞬頭の中が真っ白になった。
「ど、どうしたんだ急に?」
「…別に。あたしの勝手でしょ。なんか文句ある?」
「いや、ないけど…」
「だったら、おとなしく抱きしめられていなさい」
「…はいはい」
こんな嬉しいことをしてくれても彼女は相変わらずの憎まれ口だが、もう慣れっこだ。
それにフレデリカのわがままはいつものことなのでカイルは軽く受け流す。
…こうしていると、彼女は女王と言うよりもお姫様のほうが似合っている気がする。
わがままで高飛車で、皆を困らせてばかりのおてんばなお姫様。
とすると、自分たちは彼女に振り回され、世話をする召使いか、と浮かんだそれがあまり
にも当てはまりすぎて苦笑してしまった。
でも胸の中にすっぽりと納まる彼女は自分とほぼ同じ年は思えなくて、これはお姫様と
いうよりむしろ――
「…小さな子どもみたいだな」
「…何よ? アンタまで子ども扱いする気?」
「んなこといってもな…今でも小っこい癖に……」
「ふ〜ん? そんなに燃やされたいわけ?」
「おおっと、ゴメゴメ!
…でもオレ、フレデリカの小さい胸も好きだぜ」
「…っ! な、何言ってんのよこのバカ…!!」
あわてて隠してもはっきりと見えた紅い顔はやはり可愛くて。
満足したカイルはより強く恣意さ名恋人を抱きしめた。
…胸の中で聞こえた「…でもなんかムカつくから、やっぱり燃やそうかしら…」という呟きは、
この際聞こえないことにして。
*ボツシーン
「…ねぇ、あたしたち勝てるのかしら……」
普段弱音を吐かない勝気なフレデリカの、唐突の弱音にカイルは驚いた。
「なんだよ、紅蓮の女王様らしくもない」
「建前よそんなの…。ホントは、不安でいっぱい……」
からかい混じりで言っても返る声は弱弱しく。
彼は小さくため息をつき、うつむく彼女を抱き寄せ腕に閉じ込めて、その細くやわらか
い髪をなでながら囁いた。
「大丈夫だって。何のために今まで修行してきたんだよ」
「…うん」
「アゲハだって助けれただろ? 絶対勝てるって」
「……うん」
この言葉に安心したのか、しばらくして小さな声で「ありがと…」といわれた気がした。
「…それに、オレの前では強がらなくでもいいから。…今のうちに吐いておけ」
「……何世最後の…。カイルのくせに生意気よ」
憎まれぶちを言いながらもどこかその顔はうれしそうで。
フレデリカは、まるで猫が甘えるときのように、カイルの胸に自分の頬を摺り寄せた。