とりあえず状況を整理しよう。
今オレがいるのは見覚えのないくらい部屋。
家具らしきものは俺が今いるベット以外に何もなく殺風景。
どうやってここに来たかは覚えていない。
そしてオレはそのベットに縛り付けられている。
それも全裸で。
「…………一体何だってんだぁぁぁぁぁ!!??」
オレの叫び声は狭い部屋にこだまするだけだった。
いや、待て待て待て待て待て!?
なんでオレ縛られてんだ!? まさか誘拐か!? いやありえねぇ、最近は外にも出てねーしここは一番安全な
場所だし! ならここはどこなんだ!? 多分根≪ルート≫のどっかの部屋だとは思うけど見覚えないぞこんな部屋!
なんでここにいるんだ!? どーやってここに着たんだ!?
てゆーか、なんで裸になってんだぁぁぁーー!!!???
いやいやいや、落ち着け落ち着け。
とりあえずもっと状況分析。
今のオレはどうなっている?
体。両手を頑丈そうな縄で縛られて磔にされたような格好。足は自由だってのにまるで金縛りにあったようだ。試しに
ライズ使ってみるがピクリとも動かない。多分テレキネシスを使われてる。
…一瞬みんなの顔が浮かんだけど、頭をブンブン振ってそれを消した。
あ。首は動くんだ。いや、そうじゃねぇって。
なに考えてんだオレは、仲間を疑うなんてサイテーだ。
激しい自己嫌悪に襲われそうになったが、今はそれどころじゃない。とにかくもっと分析分析。
だったら記憶はどうだ?
ここに来るまでは何してた?
……駄目だ、思い出せねぇ、なんか頭がボーっとする。
…よし、なら今日のこと全部思い出してみるか。
確か、今日もいつものように朝飯食って、んでトレーニングルーム行って日課の訓練して、で汗かいたか
らシャワー浴びて流そうと思って、さっぱりしたとこでちょうど昼飯だー言われて、で昼飯食ってそれから……。
そうだ、それから暇になってブラブラしてたんだ。なんかねぇかなーって廊下歩いてたら急にフレデリカが出
てきて…。
そうだフレデリカ! あいつ、今日なんか様子がおかしかった。朝から全然絡んでこねぇし。顔合わせても黙っ
たままだったし。
でなんだったっけ…ああ、思い出した。それで不審に思ってたらいきなり「アタシとお茶しない?」って言われた
んだ。
そうそう、「まさかこのフレデリカ様のお誘いを断るわけないでしょうね?」って脅されたっけ。あんまりビックリして
オレが固まっていたから。
まぁ可愛い彼女の誘い、しかもめったとないアイツからの誘いを断るわけねぇし、ちょーどオレも暇だったし、もちろん頷いた
けど。
そのままアイツの部屋に行って、オレのための甘ーい紅茶をご馳走になって、二人っきりの時間を楽しみながら何気ないことを
話して、それで――――。
それからの、記憶がない。
「……なんで?」
その声はむなしく消えた。
…てことは、まさかアイツの仕業か?
いやいや、そう決めるのはまだ早い。絶対何かあったはずだ。
単にオレが忘れてるだけかも知れねぇし、もう一度記憶を探ろうとした、その時。
「あら、お目覚め?」
ドアの開く音と一緒に、聞き覚えのある声が響いた。
どうにか動く首で光のほうを見れば、立っていたのはシルエットだけで分かるような特徴的な動物耳のコートを着
た、間違いなくオレをこんな目にあわせたであろう少女。
「ヤッホー♪ 随分ぐっすりだったじゃないカイル! どう? ベッドに縛り付けられた気分は?」
「フレデリカ……」
やけに上機嫌なアイツは困難しているオレをよそに、かつかつと歩み寄る。
その顔は暗がりでもはっきり分かるほど清々しい笑顔だ。
「ふふん、いいザマねそのカッコ。ケダモノなアンタにはお似合いね♪」
「…オイ、いったい何のつもりだ!? どーゆうことか説明しろッ!」
「イ・ヤ・よ。何? 下僕の分際でこのフレデリカ様に質問する気? アンタ自分の立場分かってんの? まあ、ど
うしても教えてほしいって言うのなら『お願いしますフレデリカ様。ワタシは貴方の下僕です、何でも言うことを聞
きますからどうか教えてください』ということね」
「ぐッ…!」
オレが動けないことをいい事に上から好き勝手言いやがって!
相変わらず高飛車で生意気で、しかもめちゃくちゃムカつくことを命令されていつものように言い返しそうになったが、ここは何とか我慢してそれを堪える。
下手に言い返せば余計めんどくさいことになるだろうし、何より今は現状確認のほうが大切だ。
「お、お願いシマス、ふれでりか様……ワ、ワタシはあなたのげ…」
「なに? 聞こえないわ、もっと大きな声で言いなさい」
「〜〜〜ッ!」
だああああああムカつく!!! クソッ、もうどうにでもなれ!!!!
「お願いしますよフレデリカ様!! オレはお前の下僕だよ!! 認めてやるから
サッサと教えろッ!!!」
「ちょっと! 誰がそんな口をきいていいって言ったのッ!? …まあいいわ、特別に許してあげる」
使えない下僕を許す広い心も女王たるものには必要だ物ね…、とか言いながら不満たらたらそうにアイツのほうが折れた。
よし、これで何とかなるかもしれない。
半眼でこっちを睨むフレデリカが可愛いと思ったことはこの際どうでもいい。
「まず、ここはどこなんだよ?」
「ふふん、ここはアタシだけが知る、根≪ルート≫の隠し部屋よ。さしずめ女スパイの秘密アジトってやつね」
自慢するように得意げに話すフレデリカ。そういう風に話すと、妙に子どもっぽくなるのな。
まぁ、それを聞いてとりあえず安心した。変な場所に連れて行かれたわけじゃねぇし、もしかしたら誰かが助けに来るかも…
「…言っとくけど、助けになんて誰も来ないわよ。皆にアンタのことは風邪だって言ってあるし、ここは防音も完璧なんだか
ら」
「ゲッ…」
マジかよ。これで一縷の望みは絶たれたわけか…。
そうと分かると全てが投げやりになってくる。こうなったらヤケクソだ、なんだって聞いてやる。
「で、なんでオレはここにいるんだ? お前の部屋に行ってから記憶がねぇんだけど」
「なに? そんなこともわからないの? 全く、これだから単細胞の野蛮人は……」
「……。(我慢だ!ここは我慢するんだオレ!) お願いしますフレデリカ様…教えてください……」
「ふん、初めからそう言えばいいのよ」
いつものような女王様気取りが今はとりわけムカつく。
クソッ、縛られてさえいなけりゃ今すぐにでも押し倒していつものように啼かしてやれるのになぁ。フレデリカはイジメルと
すっげぇ可愛くなるのに。
…こんな状態犯りたくてもやれねぇけど。
「で? どうやってオレをここまでつれてきたか教えてくれませんか? フレデリカ様」
「別に? 簡単なことよ。アンタの紅茶に睡眠薬を入れて眠らせてPSYで運んだだけ」
「そうかよ…」
てことは全ての原因はあの紅茶か……なんか怪しいと思って多様な気がするけど。でもあの状況で飲むなっ
てほうが無理だよな…。
って待てよ? まさかコイツ、これが狙いで俺を誘ったんじゃ?
…てゆーか、なんで睡眠薬とか根≪ルート≫に」あるんだ? どこで見つけたんだよコイツは。
悶々と考えるオレのことはお構いなしに、フレデリカはご親切にさらに絶望的なことを言ってくれる。
「あと、逃げようとしても無駄だからね。アンタはアタシのテレキネシスで動けなくしてるし、そのロープは禁
人種でも縛れるぐらい頑丈なんだから」
「アーもう、…分かったよ……」
もう返事も適当だ。
なんか全部どーでもよくなってきたが、最後にこれだけは聞いておかなきゃならねぇ。
「…フレデリカ」
「なによ?」
「で? 一体なんのつもりだ? こんなことして、オレをどうする気なんだよッ」
「ふふん、決まってるじゃない!」
「今からアンタはアタシに犯されるの」
「は?」
…コノオンナハイマ、ナントオッシャイマシタ?
「アンタはこのフレデリカ様にレイプされるの。光栄に思いなさいよねッ!」
コイツは何を言っているのか、オレは何を言われたのか。脳ミソが停止して理解できなかった。てゆーか、したくなかった。