コツ、コツ、コツと誰もいない静かな廊下にフレデリカの足音が規則正しく響く。そして、迷う事なく一つの扉の前で止まる。  
 
――コンコン  
 
「ヴァン〜?もうすぐご飯だけど、寝てるの〜?」  
 
――コンコン。コンコン。ガチャ  
 
「あら、やっぱり寝ているのね」  
泥のようにベッドに仰向けに倒れ込んでいるヴァン。予想通り完璧に熟睡しているようだ。  
「ヴァン起きなさい。もうすぐご飯よ」  
ベッドに近付いて呼びかけるが反応はない。  
「起きなさい。ヴァン。ヴァンったら」  
今度は胸の上に手をおいてゆさゆさと揺さぶるが、まったく起きる気配がない。  
「ヴァン。早く起きないとご飯抜きにするわよ!」  
更に揺らしたり軽く叩いたりしてみるが、やはり起きる気配どころかまったく反応を示さない。  
(やっぱり全然起きないわね。……どうしてやろうかしら)  
ちらりとヴァンのあどけない寝顔を見る。ドキンと心臓が跳ねた。  
(起きないんだったら……)  
フレデリカは若干顔を赤くし、ベッドに腰かけ顔をヴァンに近付ける。  
「ヴァン?早く起きなさい。起きないと……酷いわよ…?」  
耳元でそう囁くが、やはりヴァンは起きない。  
フレデリカは深呼吸を一回し、顔をヴァンに近付けていく。少しずつ距離を縮め―――その距離をゼロにした。  
「ん………」  
頬にちょん、と触れるだけのキス。だがそれでも限り無い幸福をフレデリカにもたらす。  
「ヴァン……」  
唇を離し、愛しそうに微笑みながらヴァンの名前を呼び、髪を撫でる。  
「好きよ。ヴァン」  
「そうですか。それは知りませんでした」  
「え!?」  
「おはようございます。フレデリカさん」  
驚くフレデリカを尻目に目を開け挨拶をする。  
「ああああんた一体いつから…!」  
「実は最初から起きていました」  
「んなっ!」  
「珍しく起きていたのでちょっといじわるしようと思って狸寝入りしていたのですが……寝込みを襲うなんて大胆ですね」  
「ぶっ!お、襲うって…」  
「おや?寝ている僕にキスをしてきたのはフレデリカさんですよ?」  
「う…そ、それは…」  
「まぁ別に良いですけどね。なかなか良い事も聞けましたし」  
「あ、アンタねぇ!!」  
「僕も好きですよ」  
「……へ?」  
「聞こえなかったんですか?僕もフレデリカさんが好きだと言ったんです」  
 
怒りと羞恥で真っ赤になっていたフレデリカだが、ヴァンの言葉が脳に染み渡るとぷしゅ〜、と風船の空気のように怒りが抜けたが今度は狼狽し始める。  
「そ、そんな事言ってごまかしても…」  
「ごまかすも何も先に好きだと言ってきたのはフレデリカさんですよ?」  
「うぐ…。……さ、さっきの…ほ、本当なの…?」  
「本当です。僕はフレデリカさんが好きです」  
「本当に本当なの?嘘じゃないわよね?」  
「本当に本当です。嘘でも夢でもありませんよ」  
「……でも…」  
「も〜疑り深いですねぇ。なら証拠をみせてあげます」  
ヴァンはそう言うとフレデリカの唇に素早く自分のそれを重ねる。  
「…ん…!?」  
フレデリカは最初は驚いき目を見開くが、再度訪れた心の底から暖まるような感情に目を瞑り身をゆだねる。  
「ん……」  
「どうです?これでも夢ですか?」  
「あ……」  
唇を離された後、ぽ〜と蕩けたフレデリカの中にこれ以上ない程の幸福感と共にジワリ、とこれは現実であり、想いが受け入れられたという実感が涌いてきた。  
安心から脱力しベッドに座り込む。  
「好きですよ。フレデリカさん」  
 
フレデリカの頬につぅ、と一粒の涙が伝った。  
 
「フレデリカさん?」  
「ッ!見ないでっ!」  
「大丈夫ですか?」  
「うるさい!見るな見るな見るな!」  
涙は止まらず後から後からこぼれ落ちる。フレデリカはヴァンの肩に頭を乗せて、涙を見せないようにする。  
 
ヴァンは嗚咽するフレデリカを優しく抱き締め、よしよしと背中を軽くさすった。  
 
 
(良かったね。フーちゃん)  
フレデリカが遅いので様子を見に来たが、扉から漏れる声を聞き、足音をたてない様にそっと離れる。フレデリカの気持ちに薄々気付いていただけに先程のやり取りを思い出すと足取りは軽く、表情は自然と笑顔になる。  
同じ恋する少女同士。自分の想いが受け入れてもらえる事が嬉しいのは容易に想像がつく。  
「なんにしてもお祝いしなくっちゃね!」  
そう言うとマリーは張り切った様子で厨房に戻って行った。  
 
 
「……もう、落ち着きましたか?」  
「う、うん」  
「では食堂に行きましょうか。皆さん待っているでしょうから」  
「あ……うん」  
そう言うと二人ともベッドから降り、立ち上がる。  
「フレデリカさん?」  
何故か顔を赤くしてモジモジしているフレデリカにんー?、と首をかしげて考える。  
「トイレですか?」  
「違うわよ!」  
 
即答された。ではなんだろう?と再び首をかしげて考えたらピンとひらめいた。  
「ちょっと失礼しますね」  
そう言うとフレデリカをひょいと横抱き――所謂お姫様抱っこをして持ちあげる。  
「きゃっ!?ち、ちょっと!」  
「おや、随分と可愛い声を出しますね」  
「ばっ!馬鹿な事言ってないで早く降ろしなさい!」  
フレデリカはジタバタと腕の中で暴れるが、ヴァンの腕にしっかりと固定されていて降りれない。  
「む。違いましたか」  
はずれた事にちょっとがっかりしながら腕からフレデリカを降ろす。  
「あ……」  
「?なんですか?」  
「な、なんでもないわよ!」  
何故か残念そうな顔をするフレデリカにヴァンは軽く首をかしげる。  
「ほ、ほら、早く食堂に行くわよ!」  
「そうですね」  
ベッドから立ち上がってヴァンを急かし、共に部屋から出て食堂に向かう。  
 
「フレデリカさん」  
「な、なによ」  
「さっきからチラチラこちらを見ていますがなんですか?」  
「な、なんでもないわよ!」  
「そうですか。  
早く行きましょう。お腹が空きました」  
そう言うとフレデリカの手を取り、引っ張っていく。  
「あ……」  
「どうかしましたか?」  
「!…ううん。なんでもないわよ」  
繋がれた手を見て、はにかんだ笑いを浮かべながらそう言うと今度はフレデリカがヴァンを引っ張りだす。  
「おっとっと」  
「あはっ!ほら、早く行かないとご飯冷めるわよ!」  
「それはいけませんね。早く行きましょう」  
フレデリカとヴァンはそのまま手を繋いだままダンスを踊るかのような足取りで食堂へ向かった。  
 
 
続く…………かも?  
 
 

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