「アゲハさん……あの、今日も、お部屋行っていいですか?」  
「うぇ!? あ、あ……ああ。いいけど」  
「良かったぁ。じゃ……じゃあ、また後で」  
「お、おう」  
そう言って別れるアゲハとマリー。ぎこちない会話をするお互いの顔が真っ赤になってたのは  
見間違いではない。そして、そんな別方向へと姿を消す二人を追う視線が。  
「いやー、いつ付き合うかと思ったら既にだったですかぁ♪」  
「だよなー。まあ、シャオには悪いけどマリーはアゲハ大好きだったもんなぁ」  
カイルとヴァンだった。根を知り尽くした二人だからこそできる死角からの見物を終え、お互いに  
顔を見合わせた。  
「しかし、マリーとアゲハがもうそこまで進んでたなんてなぁ……いやぁ、びっくりだな」  
「ホントですよねー。マリーさんがアゲハさん大好きなの知ってましたけど」  
「いやいや。間違いなくそのキッカケはお前だから、ヴァン」  
「そうですか? 僕としては本当のことを言っただけなんですけどねー♪ まあ、シャオ君には  
 やや悪い事しちゃったかなとは思いますけど」  
「鬼畜だ……ここに鬼畜がいやがるぜ……」  
とは言いつつも、お互いの顔は気持ち悪いくらいにやけていた。こういった恋バナというやつは  
10年間縁がなかったのだ、心踊るのも仕方ない。  
「でもよ、アイツら何処までいったんだろ……や、やっぱアレかな?」  
「セックスですか?」  
「ちょ! おま! ストレートに言いすぎだろ!」  
「だって、それしかないじゃないですか。お部屋にいって二人で過ごすだけー、なんて普通の  
 10代にできると思います? なんだかんだでマリーさん美人ですし」  
「…………無理だな」  
「でしょ? それに、アゲハさんってああ見えて結構のエロだと思いますしね。しかも、フェチズム  
 に満ち満ちたエロの才能アリと僕は見ますよ!」  
自信満々に親指を立ててヴァンがサムズアップする。顔まで自信満々なそれを見て、10年前の無口な  
彼を誰が想像できるだろうか、いや無理だ(反語)。  
「じゃ、じゃあ! ど、どういう事してると思うよ? 前ハルヒコに見せてもらったごっついアレな  
 本よりエロエロだと思うか?」  
「そうですねー。僕の想像になりますが、アゲハさんってば足とか見てること多いんですよね。  
 主に胸4割に対して足6割ぐらいです。つまりそこから推測するに……」  
白熱する二人の会話。だから、彼等は気づかなかった。  
「推測するに!?」  
「足でアレしたりとか」  
「足でコシコシ!?」  
それは二人の後ろに音もなく後ろから忍び寄る。  
「まあ、胸で挟んだり?」  
「パパパ、パイでズリズリ!?」  
しかし、忍んだとしてもその怒りに満ち満ちた熱気は隠せようもない。だが、二人は気づかない。  
それくらいに熱中していた。  
「最後は恐らくマリーさんの性格からして、アゲハさんがガンガンと」  
「下からか!?」  
「後ろからもでしょ」  
「上から!?」  
「まあ、マリーさんの性格からしてありえますね」  
「じゃあ、イたせりつくせり!?」  
「イかせまくりでしょうねー」  
そして、その時が来た。  
「へー……? 誰が、誰を、どうしてるってー?」  
 
「っ!?」  
「はい?」  
酷く冷たい声なのに、酷く熱を帯びていた。ただし、熱は熱でも怒気なのだが。  
「アゲハがぁ……マリーとぉ……何してるのかしらぁ?」  
「フ、フフフフッ、フフ、フレデリカ……さん?」  
「ありゃりゃ、見つかっちゃいましたね」  
振向いた二人が見たのは、パイロクイーンの灼熱火球を背負った姿。笑ってるのに、その顔は  
間違いなく怒っていた。矛盾してるけど、そんな感じ。  
「さあ、ワンモアリピートよ? もう一度、誰が誰とナニしてるって?」  
「フ、フフ、フレデリカ! 落ち着け! 別に俺らはだなあ!?」  
「あー、これって言うべきですかねー?」  
慌てるカイルに落ち着くヴァン、ブチキレてるフレデリカと三者三様の状態。滑稽だが結構  
命のかかった危ない状態である。  
「じゃあ、ヴァン。言いなさい?」  
「はぁ。別にいいですけど」  
「待てヴァン! 俺はまだ死ぬ気はないぞ!?」  
「大丈夫よカイル? 話次第じゃヤケドで終わるだけだし」  
「消し炭確定だろ!?」  
「えーっと、言っていいですか?」  
「安心なさい。こんがりローストで終わらせるから」  
「殺す気満々じゃねえか!?」  
「ま、いっか。言いますね」  
カイルとフレデリカの息の合った突っ込みとボケに内心で感心しつつ、ヴァンが口を開いた。  
「マリーさんとアゲハさんはですねー。ぶっちゃけセックスしちゃってます」  
「…………」  
「…………」  
空気が凍り付いた。フレデリカの背中の火球が消えるくらいの凍りつき方。沈黙が3人の間に流れる。根にも人が 
いるとはいえ、人通りが少ない場所なだけにその沈黙たるや推して知るべし。  
「まあ、簡単に言うとです。マリーさん告白→キス→押し倒してベッドインの流れでしょうね、はい。  
 シャオ君には惨酷ですが、現実ってそんなもんですよね」  
「…………」  
「…………」  
沈黙を破るようにつらつらと語るヴァン、微笑を浮かべたまま固まったフレデリカと死を覚悟した  
表情のままのカイルを無視して続ける。  
「それでですね。先ほどもそこでマリーさんとアゲハさんが会話してたわけなんですけど、  
 この後お二人はいたすおつもりではないかと僕らは話してたわけなんですよ、ね? カイル君?」  
「お、おう……」  
「…………」  
気まずい空気。カイルはこの時思考する。フレデリカは小さい頃からマリーにべったりだった。  
それはもう、自分が保護者だと言わんばかりにである。今もその気はあるわけで、マリーをそれは  
もう大事にしていたのだ。  
じゃあ、なに? この後の展開ってだいたい予想がつくんじゃない?  
「あー……あの、フレデ、リカ?」  
「……ヴァン」  
「はい?」  
「どっち行った?」  
「お二人の事でしたらお互い別方向に行きました。が、十中八九アゲハさんの部屋ですね」  
「そう、ありがとう」  
「いえいえ」  
ニコニコしたまま、歩き出すフレデリカ。その時カイルは思った。ああ、アゲハ死んだな、と。  
根の突き当りを曲がり、フレデリカが消える。  
「でもですねー、そう簡単にはいかないと思いますよ」  
「へ?」  
カイルは隣にいたヴァンを見た。そして知った。  
「マリーさんて、案外押しが弱そうに見えて、やる時はやるタイプなんですよねー。それに、  
 フレデリカさんってばああ見えて押しに弱いですし」  
のほほんとした表情でサラリととんでもないことを言うヴァン。  
「え、えっと? ヴァ、ヴァンさん?」  
「いやー、今日の夜はアゲハさんも大変だろうなー」  
この根で一番怖いのは、ヴァンだ、と。  
 

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