−くち、ぬち…っ
「…や、あァ、いやッ!」
−つぷっ、ずちゅ…
「ひあッ…!はッ、あ、やァ…、あぁァ…ん!!」
狭い何かを、無理矢理こじ開けるような淫靡な水音が響き渡った。
その独特な音に合わせて、フレデリカは声を上げる。
カイル自身を受け入れ、快楽に溺れる時とは違う声色。
まるで、悲鳴そのものだった。
「…あッ!や、いや、あぁあ…!!」
カイルの指の動きに合わせ、びくびくと身体を震わせるフレデリカ。
人差し指は、第二関節の辺りまで蕾の中に埋まっていた。
指を出し入れするだけで、フレデリカの全身を快楽とは異なる電流が駆け巡る。
指先を曲げて内部を責められ、指を入れたままで蕾を押し拡げるかのように円を描く動きをされる。
ぐちぐち、という生々しい音が響いていた。
「やだ…!いやッ、痛い…ッ…!!」
まるで内臓を弄ばれるような感覚。
自分の意思とは関係なく、身体が跳ねる。
カイルの指が内部を蹂躙するたび、引き攣れるような痛みがフレデリカを襲った。
痛みが快楽に変わるのとは違う。
痛みは、痛みのまま。
そして快楽は、快楽のまま。
相入れないはずの二つの感覚。
その二つが、例えようのない強い「衝撃」となり、フレデリカの身体を犯していた。
「…ん、んん…ッ!!やだ、やだぁ…!!」
「逃げんなよ」
「あっ、あ、やあァァ…ッ!!!」
後ろを責め立てるカイルの指。
それから逃れようと、フレデリカは無意識の内に身体を浮かせていた。
しかし、空いていたカイルの手がフレデリカの腰を掴む。
そのまま下へと引き戻される。
胎内のより深くを貫くカイル自身に、フレデリカは激しく全身を震わせた。
カイル自身と指を軽く締め付けると、フレデリカは軽い絶頂に達していた。
カイルの上で身体を起こすことすら出来ず、カイルの胸に倒れ込むフレデリカ。
ぜぇぜぇと、荒い呼吸を繰り返していた。
灼けつくような吐息が、カイルの胸を撫でる。
吐息と共に、唾液が僅かに垂れ落ちていた。
「今、イッただろ。すげぇ反応だったな」
「…はぁ、はぁ…」
「言うこと聞かねぇから、こういう事になるんだからな?」
「………ッ」
以前にも、同じようにフレデリカが「交替」を拒否したことがあった。
徹底的に焦らされ、逆上したカイル。
その際に、嫌がるフレデリカを押さえ込んで「後ろ」を無理矢理責めたのだった。
「…っさい、…バカ…」
「んな事言ってる割に、こっちは凄い締まってたぜ?」
そう言って笑うと、カイルは繋がったままの身体を前後に揺すった。
カイルの動きに合わせ、結合部からはぐちゅぐちゅという水音が響く。
「…ッ!!」
「な。相当濡れてんの、分かるだろ?」
「ん、あ、…やだ…!!」
後ろを責められている間中、秘唇からだらだらと溢れていた愛液。
そのほとんどが、尻の方へと伝っていた。
一度指を引き抜くと、蕾の周りをべとべとに汚す愛液を指で掬う。
指にも絡めると、再び蕾へと指を捩じ込む。
新たな潤滑油を得て、フレデリカの蕾は先程よりもスムーズにカイルの指を受け入れていた。
「これだけ濡れてれば、ローションも要らねぇな」
「…ふぁ、…んん!!!」
たっぷりと愛液を絡められ、前からも後ろからもぐちゅぐちゅと淫らな音が響く。
慣れ始めた身体は、少しずつ痛みを忘れ、快楽だけを受け取りつつあった。
後ろを責め立てる指は、既に付け根まで蕾に埋められている。
中を掻き回すたび、フレデリカは俯いたままで身体を震わせ、喘ぎながらも嬌声を上げていた。
「随分慣れたみたいだな…。足りるか?」
「…え、…なに…?」
「こういうコト」
「……ッ!…あ、ああ、ふああッ!!」
ずるり、と引き抜かれた指。
再び指先が埋まったかと思うと、後を追うようにもう一本指が滑り込んできた。
カイルの指は、充分過ぎる程にフレデリカの愛液に塗れていた。
そのため、十二分に解されたフレデリカの蕾は易々とカイルの指を受け入れる。
しかしそれは物理的な問題だけであり、更に内部を押し拡げるような圧迫感に、
フレデリカは呼吸の仕方さえ忘れ、陸上に上げられた魚のように喘いでいた。
「指、一本じゃ足りなかっただろ?」
「…ぁ、…やだぁ…、…抜い、てよぉ……ッ!」
「何でだよ。お前のココ、めちゃくちゃ絡み付いて来てんのに」
「…ふぁ、…ん、んん…ッ!」
「どうせすぐ慣れるさ。我慢してろよ」
「……ッ!!あ、あッ、やあぁ…ん!!」
ぐちぐち、と狭い穴を蹂躙するような音を立てるカイルの指。
二本に増えたそれは、無遠慮に見えてフレデリカの弱いところを的確に責めていた。
フレデリカの身体は、堪え難い恥辱と快楽によってうっすらと赤みを帯びている。
ぽろぽろと零れる涙や、嬌声と唾液を漏らす唇。
嬌声を堪えることすら出来ず、快楽に溺れた瞳がカイルの方を見る。
向いているのに、何も映さない瞳。
この瞳を、身体を、もっともっと汚してやりたい。
カイルは、自分がそんな後暗い欲求に支配されていくことをはっきりと自覚していた。
「なぁ、フレデリカ」
「…な…に……」
後ろを責め立てる手は、止まない。
加えて前も、忘れた頃に揺さぶられて快楽を引きずり出される。
犯されている蕾を中心に、フレデリカの身体は狂うような快感に浸食されていた。
駆け巡る快感とは違う、神経を蝕むような感覚。
それでも、多少は慣れ始めた為か。
絶え絶えながらも、言葉は返せるようになっていた。
「こっち、挿れてみてもいいか?」
「…はァ!?…何、言ってん…のよ…!?」
「いやいや、冗談じゃないぜ」
「こんなの…、入る訳、ないでしょ…!!?」
「どーかなぁ。『指が三本入れば挿れられる』って言うけどな?」
「だから、アンタのは大き過ぎるって言ってんでしょ!?無理よ無理!絶対に!!」
一気にまくし立てると、荒い息を吐いて肩で息をするフレデリカ。
その様子を見て、カイルは苦笑いを浮かべていた。
「じゃあ、今日は止めとくかな」
「そうよ、当たり前じゃない!…………え?」
「そうそう。これからじっくり開発してけばいいんだよな?」
「え…、ちょっ、違…っ」
「遠慮すんなって」
狼狽するフレデリカをよそに、まるでいたずらっこのような表情で笑うカイル。
幼い頃と変わらない笑顔は、幼い頃には想像もつかなかった卑猥な言葉を口にしていた。
「ま、いいや。もう一回イカせてやるよ」
「…なッ、何、言って……、ああッ!?」
いきなり後ろの指を引き抜くと、指先をシーツで拭う。
突然のことに、反射的に身体を跳ねさせるフレデリカ。
カイルは両手でフレデリカの腰を掴むと、そのまま上下に揺さぶった。
「やだッ、あ、はあ、あッ…!!」
脱力しきったフレデリカの身体の重みと、その身体を持ち上げてやる余力が無いカイルの腕。
そのせいで、奥深く繋がったまま僅かに動かすのが限度だった。
長い間焦らされ、後ろを責めている間は断続的にフレデリカの秘唇が締め付けていたカイル自身。
自分が思っていたよりも、ずっと疲弊していたようだった。
(…ま、後で逆になれば大丈夫だろ)
呑気に構えると、再びフレデリカを責め立てる。
結合部は、ずぷずぷとまるで粘液を掻き混ぜるような音を響かせていた。
「…ぁ、あ…。やだ、さっきより、大きい…!」
「…当然だろ?」
「何、で…?」
「オレが、どれだけ待たされたと思ってんだよ?そりゃちょっとくらいは萎えるっての」
わざとらしく、呆れたような溜息を吐いてみせるカイル。
フレデリカの瞳が、困惑したように揺らめいた。
「折角、黙っといてやろうと思ってたのになァ」
「…う、…ッ!」
「これで、完全にお前の負けな」
「…そん、な…」
「ついでに言っとくと、オレまだイケそうにねぇから。誰かさんに焦らされまくったからかなァ」
「………ッ!」
「だから、イッた後はちゃんとオレの言うこと聞けよ…?」
フレデリカの返事は待たず、強く腰を掴むと激しく揺さぶる。
自分の上で、あられもなく嬌声を上げるフレデリカ。
その痴態を見ている内に、カイルの呼吸も荒くなる。
もう、限界だった。
何とか形だけは保っていた理性が、少しずつ壊れていく。
自分の内に存在する獣が、場所を明け渡せと唸っている。
いつしかカイルは、本能のままに腰を打ち付けていた。
無意識の内に、唇が歪む。
やっと手中に収めた「獲物」を、思う存分貪れることに。
痴態だけでなく、自分の内にあるそんな感情にすら興奮していることに。
「…あっ、あ!いやああああァッ!!!」
何も考えられなくなった頃、フレデリカの絶頂に達する声でカイルは再び理性を取り戻していた。
一際きつく、カイル自身を締め付けてくるフレデリカの秘唇。
短時間での行為は、焦らされた自身にはまだ物足りなかったようで。
一度耐えれば、何とかやり過ごすことが出来た。
「…っはぁ、…はあ…っ…」
ぐったりとして、カイルの胸に身体を預けるフレデリカ。
全身で息をするかのように、呼吸のたびに身体を上下させていた。
そんなフレデリカの背中を、宥めるように撫でてやる。
汗ばんだ身体は、突然のことにびくりと震えていた。
「…何だよ。すげー敏感になってんじゃん」
「……っは、…るさ…い…わ…」
「…でも、良かったんだろ?」
「……ッ!」
カイルの上に置かれていた掌が、握り締められる。
その様子に、カイルは思わず笑みを浮かべていた。
「いつも以上に反応良かったもんなぁ」
「………」
「可愛かったぜ」
「……ッ!!!」
言葉の代わりに、握り拳がカイルの胸を叩く。
力も入れられない程に消耗しているフレデリカ。
きっと今の一言は、そんな彼女にとって非常に気に喰わないものだろう。
本心なんだけどな。と思いつつも、カイルはフレデリカの頭を撫でていた。
「…さ、そろそろ交替しよーぜ」
頭を撫でていた手を止め、促すようにぽんと叩く。
まだ呼吸は乱れていたが、身体を動かせる程度には落ち着いていた。
「………」
身体はまだ、繋がったまま。
自分だけ絶頂を迎えさせられた。
あんなことやこんなことを言われたし、された。
自分が自分じゃないみたいに、すごく乱れてしまった。
面白くない。
本当に、面白くない。
上体を起こし、ふくれっ面を見せてそっぽを向くフレデリカ。
顔に書いてあるどころか、全身で不満だと意思表示をする。
「…カイルの馬鹿」
「馬鹿でもいーよ。ほら、交替交替」
「…イヤよ!」
「……お前なぁ」
あまりに予想通りの言動に、思わずうなだれるカイル。
しかし今日ばかりは、このわがままに付き合う気分では無かった。
「お前の負けだろ?言うこと聞けよ」
「イヤよ!大体、どこが『ちょっとだけ』なのよ!」
「オレの中ではちょっとなんだよ」
「あんな事しておいて!?この変態!」
「ああ、変態だぜ。だからどうした?」
「ぐ…ッ!!」
言葉を詰まらせるフレデリカ。
にやりと笑うと、カイルは言葉を続けた。
「変態な上に、今度こそ本当に我慢の限界だからな」
「だから…何よ」
「これ以上言うこと聞かないつもりなら、後ろから犯すぞ?」
「……やだッ、それだけは嫌ぁッ!!」
途端に目を見開き、首をぶんぶんと振るフレデリカ。
この場合の「後ろ」とは、いわゆる後背位を指す。
以前試しにとやってみたところ、フレデリカが「とても感じて」しまったのだった。
屈辱的な体位で感じてしまったことは、フレデリカのプライドを大変傷付けていた。
「なら、さっきみたいにもう一度あっちに指突っ込んでやろうか?」
「もっと嫌よッ!!」
「ははッ、じゃあ決まりだな」
「うるっさいわよ!!」
顔を真っ赤にして、尚も歯向かおうとするフレデリカ。
しかし、カイルの言葉が冗談でないことは分かっている為、渋々ながら身体を起こす。
カイルの胸に両手を着き、身体を浮かそうとする。
「…っん…」
引き抜こうとすると、名残惜しそうに絡み付く自分の秘唇。
与えられる快感に、身体が素直に動かない。
半ばまで抜けたところで、カイルがいきなり上体を起こした。
「やっぱり止めだ」
「え…っ?」
いつの間にか、腰と背中に回された手。
フレデリカの身体を支えると、そのまま背後へと引き倒す。
突然反転した景色に、呆然とするフレデリカ。
そんな視界を遮るかのように、カイルが自分を見下ろしていた。
「ごめんな」
「何…、どうい」
「もう、待てねぇ」
そう呟いて、フレデリカの両脚を広げさせると。
引き抜いたばかりの自身を、奥深くへと突き立てていた。
「ッあ!やぁあ!!」
「………」
「いや、いやッ、ああぁん!!!」
ずぷ、じゅぷっ、と水気をたっぷり含んだ卑猥な音が響く。
打ち付けるようなカイルの動きに合わせ、フレデリカは半ば絶叫のような嬌声を上げていた。
「あッ、やだッ、止めてよぉ…!!」
「………」
「カイ、ルぅ…ッ!!」
返事は、無い。
カイルはフレデリカを見下ろして、ひたすら腰を動かしていた。
無表情で、焦点の定まらない瞳。
今までに見たことの無い、カイルの姿。
本能的な恐怖から声を上げそうになるが、勝手に上がる嬌声に掻き消されていた。
(…やだっ、アタシも…変になってる…!)
口を開けば、快楽に溺れきった嬌声しか出て来ない。
先程までの行為で、散々後ろを責められて敏感になってしまったのか。
単調に突き上げるだけのカイルの律動に、フレデリカは嬌声を上げ続けた。
「…っは、……ッ、あ、ああッ!!」
不意に律動が止んだかと思うと、脚を持ち上げられる。
脚はカイルの肩に預けられ、先程よりも更に奥を貫かれた。
「…やっ、いやッ!やだあぁッ!!」
涙が溢れ、フレデリカの頬を汚す。
流れ落ちたそれは、シーツに染みを作っていた。
ぎりぎりまで引き抜き、最奥を貫く。
挿入したまま、胸に手を伸ばして硬くなった先端を責める。
カイルが与えてくる刺激の全てが、ただひたすらに気持ち良かった。
シーツの端を掴み、涙と唾液を垂れ流しながら、狂ったように声を上げる。
カイルの荒い吐息や、ギシギシと軋むベット。
そして、繋がった箇所から響く卑猥で激しい水音。
それらの音さえも、更なる快楽を得る材料でしかなくなっていた。
(…やだっ…、また…!!)
不意に、背中を何かが駆け上がってくる。
身体が勝手にがくがくと震え、それと同時にカイルが一際奥を突き上げてきた。
「あッ、んあぁ、カイル、カイルッ…!!!」
「………ッ!!」
フレデリカが、足をぴんと伸ばして絶頂に達したのと同時に。
カイルもまた、フレデリカの胎内に精を放っていた。
「…はぁ、…はぁ…」
「……ぁ、…っはぁ…」
肩を上下させ、荒い息を吐き続ける二人。
一呼吸置いてから、カイルはフレデリカの中から自身を引き抜いた。
少しして、こぽりという音と共に白濁がフレデリカの秘唇から溢れ出る。
息を乱しながらも、胎内から白濁が溢れる度にフレデリカは身体を震わせていた。
「………」
「はぁ…、あぁ…」
フレデリカはカイルから顔を背け、脱力しきった身体をベットに預けていた。
薄い胸が、呼吸の度に激しく上下している。
そんなフレデリカを見下ろしながら、カイルも同じように息を乱していた。
「…おい」
「…………」
「こっち向けよ」
不意に陰った視界。
カイルが、フレデリカの上に覆い被さっていた。
素直に振り向くのは不愉快で、ぷいと顔を背ける。
その様子に、小さな溜息が聞こえた。
カイルの右手が、フレデリカの頬を捉える。
「なぁ、フー」
「…何よッ!……んんッ…!」
苛立って、顔をカイルの方へと向けるのと同時に。
カイルの唇が、フレデリカの唇に重ねられていた。
「…っん、…ふ、ぁ…ッ」
ぴちゃぴちゃという音と共に、絡み合う舌。
敏感な身体は、それだけでも充分な快感を手に出来る。
フレデリカは無意識の内にカイルの首へと手を回し、互いを貪るように求め合っていた。
「…大丈夫か?」
「何がよ」
「身体。しんどくねぇ?」
「キツいに決まってんでしょ」
「…だよなぁ」
行為を終え、服に袖を通していくフレデリカ。
カイルは下着だけ身に着けると、ベットの上でフレデリカの様子を眺めていた。
「ごめんな。今日は何か、途中から意識飛んでた」
「へぇー、そう。いつもと変わらないくらいには酷かったわよ?」
「それは、お前が焦らしまくった揚句にオレの言うこと聞かねぇからだろ」
「だって…」
「いい加減に学習しろよ」
「……うるさいわ」
「もしかして、誘ってんのか?」
ベットから起き上がると、着替えを終えたフレデリカに詰め寄る。
たじろぐフレデリカを壁際に追い詰めると、壁に片手を付いてフレデリカを見下ろす。
元から小さな身体を更に小さくして、フレデリカはカイルを見上げた。
先程までの激しい行為を思い出したのか、瞳には緊張の色が浮かんでいる。
「誘ってなんか…ないわ」
「そうか?」
「そうよ」
「本当に?」
「しつこいッ!!」
「…ッだぁ!!」
−ゴスッ!
鈍い音と共に、フレデリカの肘鉄がカイルの鳩尾に決まっていた。
呻きながらその場にうずくまるカイルを尻目に、フレデリカはドアへと向かう。
「調子乗ってんじゃないわよ」
「…ッてぇぇ…!」
「アンタは、単なる練習相手。勘違いしないで」
「…そうかよ」
「何よ。不満でもあるの?」
「ああ」
「…言ってみなさいよ」
「オレが言うことじゃないかも知れねぇけどさ。マリーへの当て付けのつもりなら、もう止めろよ」
「…ッ!余計なお世話よッ!!!」
−バァンッ!!
八つ当たりするように、大きな音を立ててドアを閉める。
ばたばたと、せわしない足音が響いて、小さくなっていった。
「…畜生」
漸く立ち上がったカイルは、吐き捨てるように呟いた。
「………」
苛立った様子で、廊下を歩くフレデリカ。
図星を指されていることが分かっているからこそ、苛立ちが抑えられない。
…もしマリーがこのことを知ったら、何て言うのかしら。
「そういうことは、本当に好きな人とするんだよ」とでも言いそうよね。
でもそれは『愛される女の傲慢』ってヤツだわ。
アタシはそんな甘ったるいモノは、要らない。
女王なんだから。女王らしくなくちゃいけないんだから。
…男に抱かれて悦ぶなんて、女王失格よ。
カイルとの関係は、まだ誰にも気付かれてない。
まあ、シャオはもしかしたら気付いてるかもしれないけど。
人のことに口を挟む暇があるんなら、マリーとよろしくやってればいいのよ!
とにかく、今度こそはカイルに勝ってやるんだから。
…焦らし過ぎたらいけないって事は、良く分かったし。
さあ、部屋に戻って作戦の練り直しよ!
いつの間にか、すっかり機嫌を直していたフレデリカ。
意気揚々と軽い足取りで、自分の部屋へと戻っていった。
一方その頃、カイルはベットに突っ伏して盛大な溜息を吐いていた。
「くそぉ…。何やってんだよ、オレ…」
そもそもフレデリカが「勝負」を持ち掛けてきたのは、シャオとマリーが付き合い始めた直後のことだった。
自分達も、もう子供ではない。
付き合うことが、身体の関係を持つことと同義であることも分かっていた。
相手にするつもりは無かったのに、挑発されてそのままなし崩しに抱いてしまった。
男なんだから仕方ないと言ってしまえばそれまでだが、それだけで何度も抱けるものでもない。
いつしかカイルは、フレデリカに仲間以上の感情を抱くようになっていた。
「なのに、なぁ…」
フレデリカにとっては、カイルはどこまでも「練習相手」でしか無いのだった。
その理由が、マリーかあるいはシャオへの対抗心なのだから余計にタチが悪い。
もしも今、自分が想いを打ち明けたとしたら。
冗談だと思って、肘鉄でも喰らわせてくるのに違いなかった。
「どーすりゃいいんだよ、オレ…」
抱きたい。けれどこのままの関係は嫌だ。
どうすれば、フレデリカに気付かせることが出来るのか。
カイルは、常にその無理難題に頭を悩まされ続けていた。
ふと、ベットに残っていた長い金髪が目に留まる。
カイルはそれを指に絡めると、苛立ちを堪えるかのように枕に顔を埋めていた。
「…あの鈍感女。いい加減、人の気も知れっての…」
まだ僅かに、フレデリカの温もりと匂いの残った枕。
カイルは枕に顔を埋め、無言のままで枕を抱きしめていた。