「…ん?何か騒がしくねぇか?」
「…ああ」
連れ立って食堂へ向かおうとしていたカイルとシャオ。
廊下を曲がったところで、食堂から響く怒号に気付いた。
「フーちゃんのばかぁっ!!!」
「馬鹿とは何よ、馬鹿とは!!」
「私だって、好きであんなこと言われた訳じゃないもん!」
「そーかしらぁ?まんざらでもないってカオしてたわよ?」
「してないもん!」
「してたわよッ!」
フレデリカはともかくとして、マリーまで顔を真っ赤にしながら怒鳴っている。
余程興奮しているのか、まるで子供の頃のような口調になっていた。
「あーあ、モテる女は大変よねぇ〜?」
「違う、違うもん!そんなんじゃないってばぁ!!」
「あれこそ正に、一目惚れってヤツよねぇ〜?」
「やだやだもうッ!あの人に言われても嬉しくないってば!」
「…へぇ〜え、じゃあ誰だったら嬉しいってのよ?」
「そ、それは…!」
「言われて嬉しい相手、居るんでしょ?教えなさいよ」
「い…居ないよ…!」
「嘘おっしゃい。顔にはっきり書いてあるわよ?」
「ち、違うよ、」
「違わないわよ」
マリーの言葉をぴしゃりとはねつけ、捩じ伏せるフレデリカ。
マリーとの間合いを詰めるかのように、じりじりと歩み寄る。
その瞳は、あからさまな嫉妬の炎に燃えていた。
「言えないのなら、アタシが代わりに言ってあげようか?」
「う…、うぅ…」
思わず後ずさるマリー。
困り切った表情と、瞳には涙を浮かべている。
「あの胸毛野郎じゃなくて、アゲ」
「いやあああああッッ!!!!!」
マリーの大声が、食堂中に響き渡った。
「フーちゃんの馬鹿あああッ!!!」
「あ痛ッ!!」
「きゃあっ!?」
捨て台詞を残して、食堂を飛び出そうとしたマリー。
入口で呆然と言い争いを眺めていたカイルに気付かず、
カイルの胸に、頭から突撃していた。
「どうしたんだよ、お前ら?」
そんなマリーの身体を抱き留めてやりながら、カイルはフレデリカに問い掛ける。
するとマリーが、大粒の涙を零しながらカイルの胸に抱き着いてきた。
「カイル君…ッ!…うわぁぁぁん!!」
興奮状態に陥っているせいか、人目も憚らずに大声を上げて泣き始めるマリー。
その頭を撫でてやると、フレデリカの冷ややかな声が飛んで来た。
「…アタシは悪くないわよ。本当のことを言っただけだもの」
「だとしても言い過ぎだぞ。マリーだって本当に嫌がってただろ」
「…どういう事だ」
夢喰島での出来事が原因であることは分かったが、行かなかったシャオには事情が分からない。
泣き続けるマリーを横目に、シャオはカイルに問い掛けた。
「ああ、大したことじゃねぇよ。夢喰島でやりあったオッサンが、マリーを嫁にするって言い出しただけさ」
「な…ッ!?」
(充分、大したことじゃないか!!)
「そ、それで、その後一体どうな」
「アタシは悪くないッ!悪いのはあの胸毛野郎よッ!!」
「かもしれねぇけど、流石に今のは言い過ぎだぞ」
「フン!!」
「……………」
シャオの言葉をぶった切って、すっかりへそを曲げてしまったフレデリカ。
腕組みをして、そっぽを向いていた。
「最近ずっと、このことでマリーをいじめてんだろ」
「だって!」
「いい加減にしろよ」
「…!!」
凄むカイルに、思わずたじろぐフレデリカ。
「マリーの気持ちも考えてやれよ」
「ぐ…」
「分かってんのか?」
「う…」
「うるっさいわよバーーーカ!!!」
「あ、コラッ!」
「痛ッ!」
憮然とした表情で、カイルを押し退けて食堂を飛び出すフレデリカ。
カイルの奥に居たシャオの足を思い切り踏ん付けると、ばたばたと走り去っていった。
「大変だったなぁ、マリー?」
「…っく、…ふえぇ…っ!」
「……………」
先程よりは落ち着いたものの、まだ肩を震わせて泣き続けるマリー。
そんなマリーに胸を貸し、その頭を撫でてやるカイル。
そんな二人を、呆然とした表情で眺めているシャオ。
踏ん付けられたばかりの足は、まだ痛んでいた。