−コン、コン
非常識な時間に響くノックの音。
それが来訪者のものだと分かっていたシャオは、読んでいた本を閉じた。
「開いてるよ」
そう声を掛けると、少し遅れてドアの開く音。
開いたドアの向こうから、マリーが姿を現した。
「ごめんね、遅くなっちゃった」
「いや、いいよ」
「お風呂、最後だったから」
そう言いながらシャオの元へと歩み寄るマリー。
ショートパンツにTシャツ姿のマリーの髪は、まだ生乾きのようだった。
近寄るにつれて、湯上がり特有のシャンプーの香りが周囲に漂う。
「長く空けちゃうと、色々溜まるね」
「俺達でも色々やってはいたけど、やっぱりマリーが居ないと分からないことも多かったよ」
「今まで、こんなに長くここを空けることなんてなかったもんね」
「そうだな」
ぎしり、と音を立ててベットの上に上がるマリー。
壁に背を預けたままのシャオに向かって、四つん這いになってにじり寄る。
まるで猫を思わせるようなその動き。
シャツの奥から覗く白い膨らみに、シャオは視線を奪われる。
「私が向こうにいる間、心配してくれてた?」
「ああ、連絡手段も無かったからな。すごく心配だったよ」
「私も…、心配だった。根に何か起きてないかって」
「そうか」
「早く、シャオ君に会いたかった…」
「マリー…」
間近にあるマリーの顔。
緑の瞳が、わずかに潤んでいた。
「寂しかったの」
そう呟くとマリーは、自らシャオに唇を重ねていた。
「…んっ、…はぁっ…」
静まり返った部屋に、小さな水音だけが響く。
自分の身体をシャオに預け、シャオの唇を求めるマリー。
柔らかい身体が、圧しかかるようにして密着している。
絡めていた舌を離し、シャオを見つめる。
その表情は艶を帯びていて、濡れた唇がやけに目を引いた。
「今日は、やけに積極的なんだな」
「仕方ないよ…、やっと帰ってきたんだもの」
「疲れてるんだろう?休めば良かったのに」
「…シャオ君の意地悪」
「分かってるんでしょ…?」
「…何をだ」
「ほら、絶対に分かってる…」
再び、至近距離まで近づくマリーの顔。
その瞳は、抑えきれない欲望に支配されていた。
「私は今すぐにでも、シャオ君のことが、欲しいのに」
「マリー…」
「…ねぇ、しよう?」
−もう我慢出来ないの。
マリーはシャオの耳元で、そう囁いた。
「…ッ、…あぁ、ん…!!」
薄暗い部屋に、マリーの嬌声が響く。
ベットの周りには、脱ぎ捨てられた衣類が散らばっていた。
「はぁッ、…あ、あぁ…ッ!!」
薄明かりの中に、マリーの白い裸体が浮かび上がっている。
自らシャオの肉棒の上に跨ると、そのままゆっくりと腰を沈めていった。
奥まで全てを受け入れると、身体を震わせて目の前にあったシャオの頭を掻き抱いていた。
「…んッ、…やっぱり…、イイ…よぉ…!」
「…俺も、気持ちいいよ」
「…ね、今日は私が、動いても、いい…?」
「……ああ」
頭を掻き抱かれ、マリーの胸に顔を埋めさせられる。
しっとりと汗ばんだマリーの肌と、欲しくてたまらないとでも言いたげな切羽詰まった声。
シャオの了承を得て、嬉しそうな声を漏らすマリー。
そのままの体勢で、ゆっくりと自らの腰を上下させ始めていた。
「はぁっ…、あぁ、んッ、ふあぁ…ッ!!」
マリーが腰を振るたびに、ぐちゅぐちゅと卑猥な水音が響く。
時折ふらつくその身体を、シャオは背中に手を回して支えてやっていた。
腰の動きに合わせて、マリーの唇からはしたない喘ぎ声が漏れる。
薄明かりに浮かび上がった、絡み合う二人の影。
それは、音や乱れた吐息もあいまって酷く淫靡な光景と化していた。
ふと、動きを止めてシャオを見下ろすマリー。
呼吸を乱しながらも腰を沈め切ると、貪るようにしてシャオの唇を求めてきた。
滑るようにして入り込んできた濡れた舌と、シャオの首に回された細い腕。
それに応えるように、シャオはマリーの身体を抱きしめると舌を絡めていた。
「んんッ、…ふっ、ふぁ…」
ぴちゃぴちゃという音を立て、絡み合う舌と混ざり合う唾液。
互いの体温すら重ね合わせるかのように、密着した身体。
ようやく唇を離し、肩で息をしながらもシャオを見据えるマリー。
その顔には、困惑したような表情が浮かんでいた。
「やぁ…、駄目ぇ、私、何かヘンだよぉ…」
「…そんなこと、ないさ」
「おかしいの、ヘンなの…ッ。身体が、身体が勝手にぃ…!!」
悲鳴にも似た声を上げながら、再び自ら腰を振り始めるマリー。
先程よりも激しく、容赦のない動き。
ぬめって、絡みつくようなマリーの内の熱に、シャオは思わず呻き声を上げていた。
「やだ、やだぁ、もっと欲しいのぉ…!!」
「…俺も、動いて…いいか?」
「いい、いいよぉ!私のこと、めちゃくちゃにしてぇ!!」
マリーの背中に回していた手を、そのまま腰へと回す。
細くくびれたマリーの腰を掴むと、シャオは躊躇うことなくマリーを突き上げた。
「やっ、あ、あああああッ!!!」
マリーは背をのけ反らせると、やっと待ち望んでいた快楽を手にしたことで
髪を振り乱しながら、狂ったように歓喜に満ちた嬌声を上げていた。
「…あぁっ、…シャオ君、私、もう…ッ!!」
「マリー…、俺も、そろそろ…ッ」
「駄目、駄目ぇっ、イっちゃう…!あっ、やああぁぁっ!!!」
絶頂に達し、白い喉を晒してがくがくと身体を震わせるマリー。
その姿を視界に捉えると、シャオは精液をマリーの胎内へと吐き出していた。
「……しまった…」
受け止めきれなかった精液に汚れた右手。
その掌を眺めながら、シャオは小さく溜息をついていた。
今頃きっと、マリーはフレデリカ達に誘われてゲームに興じているはずだった。
その光景を思い浮かべ、シャオは思わず呟く。
「どうせ俺の見ている景色なんて、他人には理解できないさ」
それは景色ではなく、妄想と言う。