暑い訳でもないのに、どうも寝苦しい。  
フレデリカは小さく溜息を吐き、ごろりと寝返りを打っていた。  
 
「………はぁ」  
 
しばらくの間枕に頭を預け、暗闇の中で壁を眺める。  
そして半ば諦めたように再び小さな溜息を吐くと、ショーツの中へと指を潜らせていた。  
 
「ん…っ」  
 
まだ触れてはいなかったはずのそこは、既に潤んでいる。  
秘唇からじんわりと滲み出した愛液が指に絡み、フレデリカの指の動きに合わせて音を立てていた。  
ショーツの奥からは、すぐにぐちゅぐちゅと淫猥な音が響き始める。  
その音がフレデリカの劣情を煽り、指の動きもより一層積極的になっていた。  
 
「あ、あ…ッ、んぅ……ッ!!」  
 
ベッドの上で身体を丸めて枕に顔を埋め、唇から漏れる熱を帯びた吐息と喘ぎを噛み殺す。  
強い刺激に時折肩が跳ね、もう片方の手はシーツを強く握り締めていた。  
愛液に塗れた指先は陰核を撫で、その刺激を物足りなく感じてきたら指の腹を押し当てる。  
そうしてようやく得られた強い快感に、フレデリカは嬌声を堪えられずにいた。  
 
「ん、んんっ…、は…ぁ…ッ!!」  
 
呼吸を乱しながら、愛液の溢れる秘唇へと指を伸ばす。  
つぷ、と音を立てて人差し指が膣内に埋められていた。  
フレデリカの細い指を飲み込んだそこは、これでは足りないとでも言いたげに指を締め付ける。  
自分の身体とは思えない程に熱く、物欲しげにひくひくと震える秘唇。  
フレデリカは苛立ちながらも、更なる快感を欲して指で秘肉を掻き回していた。  
 
息が上がり、快楽に狂おうとしている身体は何度も跳ねる。  
頭の内に響く「声」を掻き消そうと、乱暴なだけの愛撫は一層激しさを増していた。  
 
 
(『フー、もうこんなに濡れてるじゃねぇか』)  
 
(『本当にやらしい身体してるよなぁ、処女とは思えねぇ』)  
 
 
「…ッ、…うる…さ、い…!!」  
 
乱れきった呼吸と、ショーツの奥から響く淫靡な水音。  
フレデリカは枕に頭を埋めたまま唇を噛み、背筋をじわじわと這うように襲い来る快楽を求めていた。  
 
−ちゅく、つぷ、ぐちゅ…っ  
 
「ふあ、あ、は…ッ、んああ……!!」  
 
背筋を駆け上がる快感を後押しするかのように、指の動きは激しくなる。  
指先から与えられる刺激も、いやらしく響き渡る水音も、全てがフレデリカを絶頂へと導こうとしていた。  
枕に埋めていたはずの顔はいつの間にか横を向き、快楽に溺れきった甲高い嬌声を上げる。  
 
(今度、こそ…、イッちゃう…ッ!!)  
 
フレデリカは秘唇の内を掻き回していた指を引き抜き、愛液に塗れた陰核を指先で摘む。  
電撃に貫かれたかのような衝撃が全身を駆け回り、フレデリカは身体をびくんと跳ねさせていた。  
 
「あぁ…ッ、ん、んんーッ!!」  
 
快感の波は押し寄せても、絶頂に達する前にそれは引いてしまう。  
改めて指で弄ってみても先程までの快感には到底及ばず、フレデリカは呼吸を乱しながら壁を見つめていた。  
熱く火照った身体はじっとりと汗ばみ、うるさく響く鼓動と乱れた吐息がフレデリカの聴覚を支配する。  
フレデリカは布団の中で自分の身体を抱き寄せ、苛立った風に足をばたつかせていた。  
 
「どうして…、イケないのよぉ…」  
 
再び顔を枕に埋め、切なげな吐息を零す。行き場を失くし、身体の内で燻る「熱」がもどかしい。  
ここ数日の間こんな状態が続いており、フレデリカは我慢の限界に達しつつあった。  
枕を握り締め、その「原因」である相手の顔を思い浮かべる。  
そして、涙混じりの声で恨み言を呟いていた。  
 
「…カイルの、ばかぁ…!絶対、絶対アイツのせいなんだから…ッ!!」  
 
連鎖的に先日の『行為』を思い出す。そしてフレデリカは顔を真っ赤に染め、枕を抱きしめてじたばたと暴れ出していた。  
どきどきと、今にも飛び出しかねない勢いで鳴り響く鼓動。  
それが体内で燻る劣情だけによるものではないことは、嫌という程分かっていた。  
 
数日前のことである。  
フレデリカはいつものように、就寝前の習慣になりつつあった自慰行為に耽っていた。  
そして悪い偶然が重なり、たまたま鍵を掛け忘れていた日に、たまたまカイルが部屋を訪ねてきたのだった。  
布団に潜って行為に没頭していたフレデリカはそのことには気付かず、  
 
『…ぁ、あ…っ!…もう、イク…、イッちゃうよぉ…っ!!』  
 
一部始終を、カイルに見聞きされてしまっていたのだった。  
その後カイルの存在に気付いてからの気まずさが筆舌に尽くし難かったことは、勿論言うまでもない。  
どうにかしてカイルを部屋から追い出そうと、ばつの悪さも相俟ってぞんざいな態度を取ったことが  
逆にカイルの怒りを買ってしまい、事態は更に奇妙な方向へと発展する。  
 
『後ちょっとでイキそうだったんだろ?』  
『あ…、ぅ…!』  
『オレにも責任あるみてぇだし。続き、手伝ってやろうか?』  
『……はい?』  
 
そして結果的には、半ば無理矢理にカイルの「協力」を受ける羽目になってしまい、  
そのことが後々フレデリカを酷く悩ませることになってしまったのだった。  
 
(あれから、なのよ。自分でしても…イケなく、なっちゃったのは…!!)  
 
そもそも男性経験のないフレデリカの自慰行為は、言ってしまえば稚拙なものだった。  
それでも自分の身体なら、回数を重ねれば気持ち良くなる方法を知ることは出来た。  
一度絶頂を知った身体は、例え稚拙であっても同じ行為で絶頂を迎えることは容易い。  
フレデリカはいつしか、絶頂によって得られる快楽を求めて自慰行為を繰り返すようになっていた。  
 
しかし先日、カイルの「協力」によりフレデリカは、自分の行為がいかに稚拙であったかを思い知ることになる。  
闇雲に刺激を与えて安易な快楽を得るだけのフレデリカの行為とは違う、より深い快楽を知っている行為。  
指の動き一つとっても別物のようなカイルの愛撫に、フレデリカの身体は素直に与えられる快感に溺れていた。  
そして迎えた絶頂は、これまで感じていたものがいかに瑣末であったかを思い知るには充分過ぎるものであった。  
 
有り体に言えば「カイルにイカされた」のだが、問題はそれだけでは済まされない。  
弊害としてフレデリカはそれ以来、自分の手で絶頂を迎えられなくなってしまったのだった。  
一度次元の違う「快楽」を知ってしまった貪欲な身体が、それまでの稚拙な愛撫に満足出来るはずもなく。  
しつこく陰核を責め立てようとも、指を膣内に捩じ込んで掻き回そうとも、絶頂に至ることは出来なくなっていた。  
 
(…何が、違うって言うのよ…)  
 
熱に浮かされた頭と鎮まらない身体に阻まれながらも、フレデリカは思考を廻らせる。  
カイルに「された」ことを思い浮かべながら、見よう見真似で自分でもやってみているのに一体何が違うというのか。  
フレデリカの行為はただ単に指での刺激を快感として受け取っているだけに過ぎず、  
身体の奥底から湧き上がる快感に狂わされてしまった、カイルとの行為とは比べるべくもない。  
 
「…………」  
 
フレデリカは、顔を赤らめて唇を噛む。  
そして劣情の混じった切なげな溜息を吐くと、これまで散々思い浮かべたカイルとの行為を再び思い返していた。  
 
初めて他人から「刺激」を与えられ、フレデリカの身体は過剰に反応していた。  
全てが信じられない体験の連続であったことは言うまでもない。  
 
(それに……、あんなに大声、上げちゃうなんて……!)  
 
『ん…っ、や、あぁんッ!!』  
『声、出し過ぎなんだよ』  
『…フーが、オレとこんなことしてるなんて知ったら、マリーはどう思うんだろうな?』  
『うぐ…、んん!』  
 
カイルの指に責め立てられる度に、狂ったように嬌声を上げてしまった。  
指摘され、隣室のマリーの存在を意識出来たのはほんの一時に過ぎず、  
結局は最後まで室内に響き渡る程の大声を上げ続けさせられる羽目になったのだった。  
翌朝マリーと顔を合わせた時は気が気ではなかったのだが、  
 
「あ、フーちゃんおはよう。今日は早起きだね?」  
「…………」  
 
マリーは一度眠りにつくと、ちょっとやそっとの「騒音」では目覚めないことに感謝せずにはいられなかった。  
だからこそ普段からも、声を殺すこともなく思う存分自慰行為に没頭出来るのだが。  
一晩中大声を上げ続けたとあっては、流石に不安を抱かずにはいられなかった。  
 
「は…ッ、ああ…」  
 
体温は上昇し、枕で塞いだ唇からは吐息が零れる。  
あの時カイルの膝の上で、フレデリカは色々と「開発」されてしまってもいた。  
それまで闇雲に秘部と乳首を弄ることしか知らなかったフレデリカの身体は  
耳や首筋や太ももに指を這わせるだけでも、焦れったく背筋を這い回る快感や  
秘肉を掻き回し、内から溢れて指を汚す愛液を口に含む、その背徳的な行為にさえ快感を覚えていた。  
 
「ん、っは……」  
 
いつの間にか、快感を欲して指先は再びショーツの奥へと潜る。  
カイルにされた行為や囁かれた言葉を思い浮かべ、秘唇を弄りながらそれらの行為を繰り返す。  
目を閉じ、自分の指をカイルの指に置き換えてみるだけで、絶頂には至らずとも強い快感を手にすることは出来る。  
ぐちゃぐちゃといやらしい音を立てながら、白い指先が秘唇を乱暴に掻き回す。  
フレデリカは秘唇を弄る指先はそのままに、呼吸を乱しながらもう片方の手で自分の背中や尻に指を這わせ始めていた。  
 
「あっ…あ、はぁ……ッ!!」  
 
カイルの膝の上に抱えられていた時、ずっとカイルの自身を押し当てられていたのだった。  
フレデリカといえど、興奮すれば自身が「固く」なることくらいは知っている。  
しかしそれはあくまで知識だけのもので、あんな風に自分に対して露骨な「欲望」を向けられるものだとは想像だにしなかった。  
そしてその行為が今となってはフレデリカを興奮させており、秘唇を弄りながら指を押し当てられたカイル自身に見立てて  
熱を求めて自分の背中や尻を撫でながら自慰行為に耽るという、奇妙な癖を繰り返していた。  
 
「……んッ、はぁ、あ……」  
 
触れてくる指も、首筋を撫でる吐息も。  
押し当てられ、抑え切れずに擦り付けられる自身の熱さも。  
何もかもが思い返すだけで、フレデリカの内に潜む劣情を煽る。  
いくら脳内ですり替えようとしても、自分の指では満足出来るはずもなく。  
カイルの声や指を思い浮かべては、もう一度「それ」が欲しいと願うようになっていた。  
 
「はぁ、あ、あぁあ……ッ!!」  
 
秘唇を責め立てる指の動きに合わせて背を弓なりに反らし、身体はびくびくと跳ねる。  
強い快感は全身を駆け回りながらも、どうしても絶頂には至れない。  
フレデリカはベッドに身体を預け、秘唇を掻き回していた指を引き抜く。  
そして愛液に塗れた指先を眼前に翳すと、ちゅぱ、と音を立ててそれを口に含んでいた。  
てらてらと淫靡に光る愛液を全て舐め取り、フレデリカは大きな溜息を吐く。  
 
「どうしろって、言うのよ……ッ!!」  
 
いくらカイルにされたことを真似てみても、単に興奮するだけで絶頂を迎えられる訳がない。  
それが分かっているからこそフレデリカは戸惑い、苛立っていた。  
いたずらに終わりのない快感を与えられた身体は、とうの昔に我慢の限界を越えている。  
この苦痛から開放されたい。その為にはカイルに「もう一度して欲しい」と頼むしか術がない。  
だがしかしそんなことを頼めるはずは勿論なく、フレデリカは文字通り身体を蝕むような性欲を持て余す羽目に陥っていた。  
 

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