「あ、いっけね!」
シャオとの組手を終え、シャワーを浴びてから部屋へと戻ったカイルは思わず叫んでいた。
部屋に置かれたままの本を手にすると、困った様子で唸る。
その本はシャオの物で、PSIのコントロール技術について記された貴重なものだった。
数日前から借りていたのだが、読み終わった為にそれをシャオに返す話をしていた所、
偶然その場に居合わせたフレデリカが、自分にもその本を貸して欲しいと申し出たのだった。
読書嫌いのフレデリカにしては珍しいことだが、夢喰島での戦いの影響なのか
PSIのコントロールについて真面目に研究しようという意識を持ち初めていたらしい。
思い立ったら即行動しないと気が済まないのか、
「今日の夜のうちに持ってきなさいよ!絶対よ!」と、念を押されていたのだった。
壁の時計に視線を送る。時刻は11時30分を指していた。
尋ねるには少々遅い時間だが、明日に回せば何を言われるか分かったものではない。
この時間ならまだ起きているだろう。
そう判断したカイルは、本を片手にフレデリカの部屋へと向かっていた。
ドアの前に立ちノックをするが、返事はない。
しかし、部屋の中からはフレデリカの声が聞こえていた。
マリーと一緒に居て、話に夢中になっているのだろうか。
試しにドアに手を掛けると、鍵は掛かっていなかった。
それなら本を渡してさっさと部屋に戻ろう。
そんなことを考えながら、カイルは勢いよくドアを開けていた。
「おーい、フー。今日言ってた本、持ってきたぞー?」
そう言ってから、異常に気付く。
部屋の中は真っ暗で、マリーの姿はなかった。
そして部屋の外から聞こえた「声」の正体に気付き、カイルは驚愕する。
「…んぁ…、あっ、…いやぁ…!」
ごそごそと、ベッドから聞こえる衣擦れの音とくぐもったフレデリカの声。
頭まで毛布を被っているのか、ノックはおろか先程のカイルの声も聞こえてはいないらしかった。
「…っは、…あ!駄目…、駄目…ぇ…!!」
情欲に溺れた声音と、生々しい熱気の篭った室内。
フレデリカが「何」をしているかは一目瞭然だった。
このままドアを閉めて立ち去るか。
それとも本だけは室内に置いてからにするか。
そんな選択肢がカイルの脳裏に浮かぶ。
僅かに考えた後、とにかく見なかったことにして立ち去ろうとしたその時−
「…ぁ、あ…っ!…もう、イク…、イッちゃうよぉ…っ!!」
−バサッ。
一際大きなフレデリカの嬌声に驚いたカイルが、手を滑らせて本を取り落としてしまっていた。
決して小さくないその音は、今度こそフレデリカの耳にも入ったようで。
全ての音が、ぴたりと止んでいた。
「誰…?」
静まり返った室内に、小さな声が響く。
その一言には、怒りや羞恥や戸惑いが混じっていた。
「…あ、オ、オレ…だけど…」
「…カイ、ル…?」
ごそごそという音がして、毛布から顔を覗かせるフレデリカ。
呼吸は荒く、髪も乱れている。赤く染まった顔と潤んだ瞳が、入口のカイルを見上げていた。
嫌な緊張感に包まれた室内。
カイルがどう切り出そうかと困惑していると、フレデリカが不機嫌そうな声を上げた。
「…何の用?」
「あぁ…、本、持ってきたんだけど」
「あっそ。…そこ置いといてよ」
ぞんざいな仕草で机を指差すフレデリカ。
一応ノックをしたとはいえ、勝手にドアを開けたことを咎められるかと思っていたカイルは安堵する。
言われるままに机に本を置くと、背後から冷ややかなフレデリカの声が飛んできた。
「もういいでしょ?とっとと出てってよ」
「………」
気まずいのは分からなくもなかったが、余りにも横暴な物言いにカチンと来る。
カイルはその場で振り向くと、無言のままでフレデリカを見下ろしていた。
「フー」
「な、何よ」
カイルを見上げて、ばつの悪そうな表情を見せるフレデリカ。
露骨な程に、全身から「早く出て行って欲しい」と主張していた。
「お前、やらしーことしてただろ?」
「な…!!」
図星を指された為か、途端に慌てふためくフレデリカ。
そんな様子に、カイルはニヤリと笑う。
それを見たフレデリカは、更に慌てた様子を見せていた。
「アンタ馬鹿!?そんな訳ないでしょっ!!?」
「そうかぁ?オレはてっきり、オナ」
「それ以上言わなくていいからっ!!!」
ぜえはあと、肩で息をしながらカイルを睨み付けるフレデリカ。
カイルはフレデリカのあからさまな反応に、笑いを堪え切れずにいた。
「笑うなぁ!カイルの馬鹿!!」
「や、だってさ。そんな態度じゃ、やってましたって言ってるようなモンだぜ?」
「やってないわよ!!」
「悪りぃけど、声出してんの聞いちまったんだよなー」
「な…!!」
冷汗をだらだらと浮かべながら、口をぱくぱくと動かすだけのフレデリカ。
カイルはそんなフレデリカに対し、とんでもない「申し出」を提案したのだった。
「後ちょっとでイキそうだったんだろ?」
「あ…、ぅ…!」
「オレにも責任あるみてぇだし。続き、手伝ってやろうか?」
「……はい?」
想定外の言葉に、ぽかんとした表情を見せるフレデリカ。
そんな反応も予想の内なのか、フレデリカを見据えるカイル。
カイル自身もまた、フレデリカの痴態に当てられていたのだった。
(何で…こんなことになってんのよ…!)
強引なカイルとの押し問答の末、フレデリカは結局カイルの「協力」を仰ぐ羽目になっていた。
真っ暗な室内でベッドに腰掛けたカイルに抱き抱えられるようにして、カイルの真上に座っているフレデリカ。
背中から伝わるカイルの体温や、首筋を撫でる吐息に、完全に落ち着きを失くしていた。
「そんな緊張すんなって」
「…無理に決まってんでしょ!」
「さっきも言ったろ?絶対に『本番』はしねぇってさ」
「そういう問題じゃなくて!」
「…遊びだよ、単なる遊び。気にすんなよ」
「だから!」
「あーもう、うるせぇな」
「ひゃ…っ!?」
背後からフレデリカの身体を抱きすくめ、白い首筋に口づけを落とすカイル。
突然の刺激に、フレデリカはびくりと身体を跳ねさせていた。
「敏感だなぁ…」
「う、うるさ…いっ!」
体内に篭った熱は、吐き出される前に無理矢理押さえ込まれてしまっていた。
燻っていた熱に、再び火を点される。
カイルに触れられるだけで、フレデリカの身体は新たな熱を帯び始めていた。
「…っは、…ん!」
「声、我慢しなくていいからな」
「…んぅぅ…!」
繰り返される口づけに、堪え切れない嬌声が漏れる。
身体に回された手が、胸元へと伸びていた。
ネグリジェの上から、控え目な膨らみに触れるカイルの掌。
カイルの指先がフレデリカの乳房をなぞるだけで、フレデリカは身体を震わせていた。
「する時は、胸もいじってんのか?」
「…あ…、ぁっ…」
「なぁ、どうなんだ?」
「……」
「してないなら、止めるけど?」
「…………てる」
「ん?聞こえねぇ」
「して…る、わよ…っ!」
肩で息をしながら、カイルの問いに絶え絶えになりながらも答える。
カイルの指が与えてくる刺激に反応してなのか、それとも羞恥からなのか。
フレデリカの身体は、ひどく強張っていた。
「へぇ、やーらしー」
「アンタだって、そうじゃない…!」
「いやいや。オレは欲求不満な誰かさんの性欲の発散に協力してるだけだよ」
「な…!何よ、アンタだってどうせ、やってるんでしょ!?」
「当たり前だろ?」
「……!!」
勢い任せに吐いた言葉に、予想外の答えを返される。
それを分かっているのか、カイルはさも愉快そうな笑い声を上げていた。
「しない男なんか居ねぇよ。まあ、オレはちゃんと鍵掛けてからやるけどな?」
「あ、アタシだって、いつもは…!」
「いつも?そんなにやってんのかよ」
「あ…!」
失言を悔いたが、時は既に遅く。
ククッ、というカイルの笑い声が、やけに耳に残った。
「…なら、こんなんじゃ足りねぇだろ?」
「きゃあっ!?」
ずぼっと、両手をネグリジェの内へと潜り込ませるカイル。
突然のことに、フレデリカは素っ頓狂な悲鳴を上げていた。
それには構わず、無遠慮にフレデリカの乳房を揉みしだく。
乳房を責めながらも、器用に肩紐を滑らせて腕へと落とす。
ぐい、とネグリジェを臍の辺りまで引き下げると、上半身だけフレデリカの裸体があらわになっていた。
「下着、つけてないのか。…手慣れてんなぁ」
「そ、そういう訳じゃ…!」
「しかも乳首、すげぇ固くなってんだけど」
「!!!」
「オレ、まだちょっと触っただけだぜ?」
「あ…、その…」
「もしかして、結構興奮してんのか?」
「別に…そんなんじゃ…、やっ、やだ、あぁんっ!!」
下から掬い上げるようにして、フレデリカの乳房を鷲掴みにするカイル。
痛みにも似た刺激がフレデリカの身体を襲っていた。
「ああ、そうか。結構じゃなくて、我慢出来ないくらい興奮してんだな」
「ひぁ…!は、うぁ、いやぁああっ!!」
カイルが二本の指で、ぴんと張り詰めていたフレデリカの乳首を摘んで捏ねた。
その途端、弾かれたようにフレデリカが身体をのけ反らせて叫ぶ。
こりこりという感触が、カイルの指先に伝わっていた。
「やだやだぁ!こんな、激しくしないでぇ!!」
「痛いか?」
「違っ…、痛いんじゃないの!気持ち良くてっ、変に、なりそ…!」
「なればいいだろ」
「!!?」
突然、カイルの全ての動きが止まった。
乱暴に扱われていた乳房にはカイルの指の跡が残り、フレデリカが浅く乱れた呼吸を繰り返す度に
乳房は呼吸に合わせて、ふるふると不安げに揺れていた。
「いいよ、変になっちまえよ」
「あ…、え…?」
「遠慮しちまったら、意味ねぇだろ?」
「やだ、そっちは…!」
左手は再び乳房を掴み上げ、右手がネグリジェの裾からその奥へと潜り込む。
フレデリカの身体をしっかりと抱き寄せると、カイルはフレデリカの耳元で囁いた。
「滅茶苦茶にしてやるから」
そう言い残してフレデリカの耳たぶを甘噛みすると、
潜り込ませていた右手を更に奥へと這わせ始める。
フレデリカには、もう抵抗するだけの気力は残されていなかった。