紙袋を抱えた青年が二人、マンションの廊下を歩いていた
霧「あ〜もう。もっと早く教えてくれよ、今日がリトルバニーの誕生日だって」
頭にバンダナを巻いた青年が傍らの大柄な青年を仰ぎ見ながらこぼしている。
端から見れば、ひょろ長いバンダナの青年が体格も大きく髪を逆立てた青年に文句をつけるのは憚られそうだか、当の本人は苦笑を零すだけなので見た目よりも人は良いようだ。
飛「子供の頃から殆ど会って無かったんでうっかり……な」
それを聞くと、バンダナの青年は、性格はまともながらも何故か不憫なコイツの事だから、本当にうっかり忘れていたんだろうと納得する。
飛「ああ、そこだ」
つ、と大柄な青年朝河飛龍が指し示したドアを見ながら、バンダナの青年霧咲カブトは紙袋からクラッカーを取り出し、やたら派手な装飾の帽子を被る。
霧「じゃ、騒ぎますか」
自ら道化役に立候補して、楽しそうな表情を浮かべるカブトに、こいつなりに雨宮の事情を察して気を使っているのだろうと思い笑みを浮かべながら、呼び鈴に指を伸ばしたその時であった。
ダメイヤヤメテハインナイー
……聞き覚えが有る声だった。
と言うか確実に仲間の一人、何時も危機を切り抜ける先鋒になる男の声である。
飛「……………」
霧「……………」
ナニかがこの中で起こっている、石の様に固まり、じっとりとした汗を全身から噴出させながらもそれを理解した。
硬直から脱した飛龍がちらりとカブトの方に視線を送り、肘で軽く小突く。
飛「…………………………」
霧「…………………………」
どちらからともなく踵を返し、郵便受けに詫びの一文を添えたメッセージカードと共に紙袋から取り出したプレゼントを入れておく。
霧「……ファミレスでも……行くか」
飛「……そうだな」
明らかに襲われていた友人を、見捨てる形になったが。
あの場に踏み込めば馬に蹴られる所か明日の朝までには首と胴体が泣き別れをしている事が、幻視を使わずとも察せるのだからしょうがあるまい。
去り際に聞こえた鞭の音や、アッーという悲鳴を記憶から追い出しながら、哀れむべきか羨むべきか悩む二人の男はトボトボと暗い道を歩いて行った。