「うん、大丈夫」
青空の下でマリーはつぶやいた。
その表情は穏やかですっきりとしている。
ずっとずっと10年も思い続けてきたアゲハへのけじめのつもりだった。
彼はもうこの世界に永遠に来ることはないだろう。
それでいい。愛する人と笑いあって過ごしてくれたら。
強がりなんかじゃない、心からの本当の気持ち。
アゲハに会えなくなるのは寂しいし、悲しい。
しかし恋愛感情でいえば、覚悟が出来ていたのかそれほど引きずっていなかった。
だから『けじめのつもりだった』なのだ。
けじめというにはあっさりしすぎているような気がする。
(不思議…あんなに好きだったのに)
空を見上げ、思わぬまぶしさに手をかざす。
アゲハは自分にとっての太陽だった。それが一番しっくりくるかもしれない。
「マリー」
不意に声をかけられ、振り返るとシャオが少し離れた所に立っていた。
「シャオ君。」
「フレデリカが探していたよ」
「わざわざ言いに来てくれたの?ありがとう!」
「いや…」
そう言って何か言いにくそうに口ごもる。
察しのいい彼はもしかしたら自分がアゲハのことでここに来た事に気が付いているのかもしれない。
彼は心配そうな、というか戸惑っているのだろうか、なんとも言い難い表情をしていた。
「マリー、」
「アゲハさんのことならもう大丈夫!」
「え、あ、いや…そう、なのか?」
「うん。なんていうか、思ったより全然平気だったの。自分でもちょっと不思議なんだけど」
「そうか…」
「うん!あ、シャオ君フーちゃんどこ?」
言いながら近づいていく。
いったい何の用事だろうか。
今日のお菓子のことかもしれない。そういえばもうそろそろそんな時間だ。
「…フレデリカは急ぎじゃないみたいだったし、先にいいかな。マリーに言いたいことがあるんだ」
「?うん」
シャオは少し深めに息を吸い、吐く。
いつもより真剣なまなざしに胸が鳴った。
「好きだ」
一瞬周りが真っ白になって、ほとんどにおいての認識が出来なかった。
顔が熱くて、体が動かない。心臓が耳の奥で五月蠅く暴れている。
シャオの瞳に映る自分は目を見開き固まっている。
そんなマリーをおいてけぼりにしてシャオは続ける。
「マリーがアゲハさんを好きになるよりも、ずっと前からマリーの事が好きだった」