「伍長の胸はあったかいな…」  
行為後、伍長の胸に倒れた少尉が頬を擦り寄せて呟く。  
上司である少尉とこういう関係になってしまって、伍長は気の休まるときがない。  
もちろん、幸せだ。幸福を感じている。小さい身体で自分の巨大なモノを懸命に受  
け入れてくれる少尉。指を組んで握り合う手は自分の半分の大きさしかない。  
そんな少尉は、伍長の広い大きな胸に頭を持たせかけ、乱れた金髪の下にちょっと  
した不満を抱えていた。  
伍長は自分が触っては潰してしまう、壊してしまう、と決して少尉の身体に積極的  
に触れてくれないのだ。抱きしめてくれない、胸に触ってもくれない。仕官学校時  
代、同級の男子生徒たちから好色な目を向けられたこの大きな胸が嫌になったこと  
もある。だが、愛しい男ができ、身体を触れ合わせたときには、相手を柔らかく受  
け止められるこの胸を誇らしく思ったものだった。なのに、肝心の相手は、触って  
くれないのだ。  
誇りを傷つけられたというわけでもない。悔しいともつかぬ感情だ。ひとことでい  
えばもどかしい。  
(伍長……)  
キュッと拳を握り、心の中で呼びかけた。その瞬間、男らしい伍長の硬い胸板がふ  
っと柔らかくなった気がした。上を向くと伍長が目を閉じて深い寝息を立てていた。  
緊張していたのが、眠ることで力が抜けたのだ。  
(私の気も知らないで……)  
太平楽に眠る伍長の胸を人差し指でつんつんと突付いてみる。少尉の白く細い指先  
が肉に埋まる。少し力を抜くと、弾力が指を押し返す。おもしろい! と少尉は思  
った。  
(こんな感触は初めてだ!)  
少尉は起き上がり、伍長の腹にまたがって両手で揉みしだきだした。寝入りばなを  
起こされた伍長がびっくりして大きな目を見開く。  
「うむ! なかなかいい揉み心地だぞ伍長!」  
「ちょっ…、いけません、少尉! 止めてください!」  
「お前が…、お前から私に触れてくれないから、私からお前に触れてやる!」  
「ダメです! ダメです! …あっ!」  
乳首を軽くつねった瞬間、伍長が息を呑み、少尉の白くまろやかな尻に伍長のモノ  
が当たった。  
「お前は、こうすると感じるのか? 伍長?」  
少尉が尋ねる。その口調には、意地の悪さが含まれていた。  
「ちがいます!」  
伍長がとんでもない! とばかりに、ふるふると首を横に振る。  
「これは罰だと思え。どんなふうに女を愛撫すれば喜ぶか、この私が教えてやる!  
「お、お言葉ですが、はしたないことは止めてください! 少尉!」  
窘めの言葉も少尉には届かない。  
涙目で顔を真っ赤にする伍長の様子が、少尉の嗜虐心を刺激してもう止まらない。  
少尉は高らかに宣言する。  
「よく覚えろ! これは命令だ!」  
 
暴れる伍長の腹の上に陣取り、少尉は好き勝手にその胸をいじりまわした。下から持ち上げ  
寄せたり、乳首を挟み込んだり押しつぶしたり。厚い筋肉で覆われた胸の感触もいいが、ぷ  
っちりと硬くなった乳首の感触もおもしろい。  
予想外の少尉の行動に焦る伍長は、まともに考えをまとめることもできず、逃げることもで  
きなくなっていた。伍長の膂力をもってすれば、少尉を持ち上げるのは簡単だ。だが、少尉  
の折れそうな細い腰は触るだけで壊れてしまいそうで、といってどこを掴んだらいいのか迷  
ううちに少尉をどける機会を逸してしまったのだ。もう腕に力が入らない。加えて、目の前  
で弾む少尉の柔らかそうな大きな乳房と桃色の乳首。伍長にとっては、それだけも刺激が強  
すぎるのだ。勃ち上がった自分のモノが少尉の尻に当たっているのも恥ずかしい。ついには  
少尉の下で大人しくなり、火照る顔を背け、下唇を噛んでただ耐えた。  
黙り込んでしまった伍長の目尻にうっすら涙が光っている。大きな手はシーツをギュッと握  
っている。  
(か、可愛い…。だが、反応がないのはつまらん……)  
と少尉は思い、どうすればよいか、一計を案じた。そして、「あの言葉」を叩きつけてみよ  
うと考えた。仕官学校時代、同期の男子たちから豊か過ぎる胸をからかわれ、不愉快な、腹  
立たしい、そして少し悲しい気持ちになった、あの言葉を。  
少尉はなるたけ高圧的に言い放った。  
「まったく! 『いやらしいおっぱい』だな! けしからん!」  
云われた伍長は、パッと大きく目を開いて少尉に向き直った。呆気にとられたように少尉を  
見つめる。そのまま数拍の間が空く。少尉は失敗したかと思い、己が失策を悔やんだ。  
だが、そのとき伍長の脳裏には少尉の放ったセリフがこだましていた。  
 
いやらしいおっぱいいやらしいおっぱいいやらしいおっぱいいやらしいおっぱい…  
男のくせに…、『おっぱい』で感じて…  
 
バッと口元をおさえた伍長の顔がカーッと真っ赤に染まる。ボロッと涙が零れた。声は完全  
な泣き声となり、その下から必死に懇願する。  
「止めてください! 云わないでください! 云わないで……」  
そのとき、びくびくと伍長の体が震えた。軽く達してしまったのだ。白い体液が僅かに先端  
から漏れ出し、伍長の竿に絡みながらゆっくりと伝い落ちていく。  
成功に気を良くし、完全に嗜虐心の虜となった少尉は、まだまだ伍長を責め苛んだ。  
 
 
そして、事後、我に返った少尉は、体育座りでひざを抱えぐすぐす泣いている伍長を懸命に  
慰めるのだった。  
 
 
(終)  
 

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