”コロセ”  ”コロセ”  ”コロセ”  
真っ暗な世界・・・・・・停戦から3年間、ほとんど毎日見てきた夢。  
数え切れないほど浴びてきた血の臭い。真っ黒な衝動が俺を塗りつぶそうとする。  
日が届くことのないどこかの沼。そこに沈んでいる無数の死体が俺の脚を掴もうとする。  
だけど・・・・・・大丈夫だ。もうすぐ現れるものが俺をここから引きずり出してくれる。  
 
前のほうに、かすかだが確かな光を感じた。もう少し、もう少しだ。  
光が大きくなっていく。まるで太陽のように眩しくて、俺は思わず目を瞑る。  
瞼の上から見える光を確める為に俺は少しずつ目を開いていく。  
ゆっくりと、しかし確実に光の中にあるものの輪郭がおぼろげながら見えてくる。  
俺はこの悪夢から出ることができる。  
そうだ。俺はこの人に出会ってから・・・・・・  
 
えっ?  
 
目の前に現れた少尉は、いつもの少尉とは違っていた。いや、違うわけではなくて、少尉は  
少尉であるのだけれどしょ、しょ、少尉は少尉で少尉が・・・・・・  
「伍長!」  
だっ、だ、な、な、な、ち、違う。いや、言ってることはいつも通りだけど!  
「戦災復興だッ!」  
でも今ここにいる少尉は大きなむ、むねっ、は、はだっ、はだっ、かっ?  
なっ、何でっ!? こっ、これって、ど、どういうっ、こと、かっ!?  
 
「・・・・・・ょう! 伍長ッ!」  
「う・・・・・・?」  
「よかった。目が覚めたか! 私が分かるか? 伍長」  
「うっ・・・・・・うわぁぁぁぁぁぁぁ――――――ッ!」  
「きゃあああぁ―――っ!」  
パーン!  
 
「わ、私を見るなり突然叫んだりする伍長が悪いのだ!」  
「・・・・・・すみません」  
少尉の声がするたびにさっきの夢を思い出し、顔が熱くなるのがわかる。  
何度も自分の顔を正面に見据えようとしてくるけど、俺はその度に目をそらしてしまう。  
「・・・・・・だ、だが、いきなり頬を叩いたことは謝る。すまなかった」  
「いえ・・・・・・」  
生返事を返す俺の顔はきっと真っ赤だ。これは叩かれた頬のせいじゃない。  
いつもより強く差し込む夕日のおかげで気付かれずに済んでいる・・・・・・と思う。  
「まあ、いい。それは今は置いておこう。それよりも・・・・・・」  
「?」  
少尉が真後ろを振り向いた。俺はようやく顔を上げる。  
「オレルド、マーチス。お前達、私が病室に入る時に共に来なかったな」  
「げっ」  
「うっ」  
「この・・・・・・大馬鹿者ぉっ!」  
逃げる准尉達を追いかけながら何やら深く頷いている少尉を見て・・・・・・俺は  
何だか自然に頬が緩んでいくのを感じた。  
 
でも・・・・・・しばらく、少尉を直視できそうもない。  
それに・・・・・・さっきから、痛い。  
 

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