伍長が両手を負傷した  
隊長たるもの部下の面倒をみねばならん  
   
「しょ、少尉。俺はあそこで」  
「馬鹿者。あんな不衛生なところでは治るものも治らんわ」  
寝床と称する橋の下から無理やり市内の家に連れ込む  
「あの、ここは…」  
「マルヴィン家の持ち家だ。父上が市内に留まる時などに使っている」  
「で、でも、こんな綺麗な所、俺は…」  
「む、確かに少し汚れているな。」  
パン、パン  
「伍長に湯浴みの用意を」  
「はい、お嬢様」  
どこからともなく現れたメイドの群が、慌てる伍長を囲み、引き潮のようにさらっていった  
 
「何でこんなことに…」  
呆然と広い浴室に立ち尽くす伍長  
その眼下には血と泥で汚れ切った軍服を不器用にぬがしていく少尉がいた  
「よし、浴槽に入れ」  
巨大な伍長の装具をはぎとり終えた少尉が、満足そうに指示する  
軍と研究所生活で、裸には抵抗のない伍長だが、少尉の前では落ち着かない  
とりあえず、目の前の浴槽に飛び込んだ  
「では、流すぞ」  
後ろに廻った少尉が伍長の大きな体を擦り始める  
「少尉、そんなことまで」「いまの私は伍長の手だ。嫌だというなら怪我などするな」  
少し怒った声を出されると、反論出来なくなる伍長であった  
 
『こんなにも…』  
伍長の広い背中は、さながら傷で埋め尽くされた地図の様だった  
古い傷もあれば、まだ癒えてない傷も…  
『数え切れないほど体を傷つけ、それ以上に心を傷付けてきたのだろうな。』  
いつしか少尉はその傷一つ一つに口付けを与えていた  
「少尉っ」  
「黙れっ!一人でこんなに傷付きおって。部下の傷を癒すのは上官の権利だ」  
うろたえる伍長を怒鳴り付け正面に向かう  
伍長の逞しい胸、引き締まった腹にも無数にある傷痕に唇を当てていく  
「どうした、私を見ろ」  
堪えるように天井を見上げる伍長の前に立ち上がった  
 
座り込んでようやく下になる伍長の頭を捕えるように抱き抱える  
額にも髪の中までも傷痕の無い所はない  
全てに口付けていく  
両手で顔を押さえ正面から向き合う  
伍長の顔を横断する大きな傷痕  
端に口付ける  
舌を出し、ゆっくり横に舐めていく  
そのまま左の頬の傷を伝い、顎の傷にたどりつく  
上目で伍長をみると、真っ赤になって目を泳がせている  
無性に腹が立った  
傷は顎で終わりだ  
あと3センチ動かす権利は、上官にはない  
故に一人の女として懇願する  
「ランデル…」  
男は意味を間違えなかった  
小さな唇を捕え、細い身体を抱き締めた  
 
口を塞がれ呼吸ができず、身体を締め付けられ骨が軋む  
ほとんど生命の危機に陥っている筈なのに、何故こんなに幸せなのだろう  
死と隣り合わせの幸福に酔いしれていた彼女が一瞬のちに、地獄に落とされた  
「す、すみません!少尉」目の前の愛する男が動かせない腕で彼女の肩を掴み、引き離していた  
「俺みたいな者が、少尉になんてことを…」  
あたふたと詫びる伍長に、悲しみや怒りを遥かに通り越した殺意を感じた  
「手を離せ、伍長」  
「えっ」  
「伍長、誰かその手の使用を許可した!お前の体は軍の物だ。完治するまで一切の使用を禁ずる!!」  
 
あまりの迫力に直立しする伍長  
『結局は上官としかみてもらえないなら…』  
「ランデル・オーランド伍長。だだいまより隊長への伽を命ずる」  
伍長の前で服を脱ぎ始める少尉  
あまりのことに、伍長がとめようとした瞬間、  
「誰が動くことを許可した!」  
少尉の叱責がとぶ  
能面のような表情で、軍袴と下着を脱ぎ捨て、最後のシャツに手をかける  
「止めてください。俺は少尉を抱くことなんか出来ません」  
「隊長命れ…「アリス!」男はいった  
「ランデル・オーランドはアリス・L・マルヴィンを愛しています」  
「ランデルとして貴女が抱きたい」  
 
「さっ、最初からそういえばいいのだ。馬鹿者」  
「大体、お前は愚鈍過ぎる」  
「女に迫らさせるとは、恥をしれ」  
嵐の様に罵り雑言を浴びせる彼女の頬にキスをする  
「すみません。もう泣かないで下さい」  
愛されていたという安堵感からか、彼女は滝のように涙を流していた  
「少しだけ貴女を下さい。そのかわり、俺の全てを捧げます。」  
動かない指を無理矢理動かし、アリスのシャツを脱がせる  
「自分で…「俺がやります!」」  
いつもの彼と違い、妙な恐さがある  
大体、これからのことは、机上の知識しかないのだ  
とりあえず、彼に任せよう  
 
アリスの身体は神々ししくさえあった  
光り輝くような、白い素肌  
鍛え上げられた、バネのような肢体に、少女の見本のような乳房が盛り上がっている  
神の至高の造形美であり、悪魔の淫蕩なる罠  
呼吸さえも惜しんで凝視するランデルに身を縮めるアリス  
「そんなに見ないでくれ。姉上たち程に育ってないのだ」  
恥じらう仕種に火をつけられ、ホンの一部手で隠されただけでも喪失感に堪えられなかった  
アリスを抱きしめ、小さな唇を奪う  
大切な宝物を無くさないために、しっかりと掴み、もう一方の手でまさぐり、存在を確認する  
 
彼の行動は、最愛の者の存在を、五感で確かめる行為にほかならなかった  
愛すればこそ、執拗に確認を重ねる  
光り輝く髪を、形よい耳を力強い目を、凛々しい唇を、細い首筋を、軟らかい乳房を、小さな乳首を、引き締まった腰を、女らしい尻を、手足の指まで、見て、味わい、触れた  
アリスはもはや自分が何処に居るのかも解らなかった  
大きな何かに喰われ、その胃の腑の中で解かされ、同化している、そんな気分だった  
夢のなかを漂っている感覚から、急な痛みで引き戻された  
気が付くと身体を起こした彼に対面して座るように抱かれていた  
 
彼の行為も殆ど無意識だった  
ただ彼女の深い所を感じるために、自分の長い器官を突き入れただけだった  
理性が残っていれば、絶対避けただろう  
彼女を汚してしまう、いや、傷つけてしまう、子供を作ってしまう  
そんなことは絶対できない、出来るわけがない、故にするわけがない  
ある意味信頼していた自分を、本能はあっさり裏切っていた  
いや、本当に裏切ったのは理性かも知れない  
尊敬であり、憧れてあり、保護欲であり、信頼であり依存であり、執着であり、愛情である  
全ての感情がアリスを欲していたのだ  
本能の生殖による合一よりも…  
 
ランデルはアリスを突き上げる、  
その口と舌は彼女の口を犯していた  
右手は彼女の尻を押さえ、指をアヌスに埋め込む  
左手は彼女の乳房を揉みしだき、乳首をまさぐる  
少しでも身体をあわせようと包み込むように、大きな身体を丸める  
   
痛みでアリスは覚醒した  
自分の膣に彼の巨大なペニスが挿入されていることに気付く  
その異様な姿に驚くが妙に落ち着きもした  
さっきまでは、喰われ飲み込まれていたが、今は飲み込んでいるのだ  
最愛の人を体に受け入れているのだ  
痛みも堪えられる。壊れたりもしない  
この人を愛しているから  
 
「お願い!名前を呼んで」  
「アリスッ!愛してる」  
最後の快楽の波に掠われ、ランデルはアリスのなかに放出した  
長い長い幸福の後、二人とも意識を失った  
   
「だっ、だいたい伍長は怪我の療養にきたのだ。あんなに無茶をしてはダメではないか」  
伍長の両手に包帯を巻きながら、少尉の説教は続く  
「我々は軍人なのだから、体調管理も仕事のうちだ。早く治さねばな」  
「はい少尉、あまりお世話になるわけにもいきませんし…」  
「そっ、それとこれとは話は別だ。そもそも軍人が野宿など以ってのほか」  
「はい、しかし」  
「お願い、ランデル」  
 
マルヴィン家の市内の家に、超キングサイズのベットが造り付けられました  
   
   
終  
 
 

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