何故こんなことになったのだろう・・・。  
眼鏡をかけた青年、マーチスはそうひとりごちた。  
場所はラブホテルの一室。外では、ここに入る原因となった雷雨が今も荒れ狂っている。  
そして浴室からは、シャワーの音。その音を聞き、浴びているのかが誰なのかを考えると、彼はどうにも落ち着かなくなった。  
落ち着け僕。大体彼女とは兄妹ほども歳が離れているじゃないか。変なことを考えている方がおかしいのだ・・・。  
そう考え、一つ深呼吸をし、ようやく落ち着きを取り戻しかけたその時、  
 
シャワーの音が、止んだ。  
 
途端に落ち着きを無くすマーチス。そうして無意識のうちに浴室へと意識を向けてしまう。  
布で体を拭く衣擦れの音。湯上りのためか、荒い息遣い。そして・・・。  
がちゃり。  
浴室のドアが開く。マーチスはそれを見ながらここに至るまでの事を思い出していた・・・。  
 
 
「遅いぞマーチス!さっさとついてこんか!」  
てこてこてこと元気に歩きながら、セッティエームは元気に叫ぶ。  
「はあっはあっ、ち、ちょっと待ってくださいよ姫様・・・っと、セ、セッティエーム。」  
セッティエームにぎろりと睨まれ、すぐさまマーチスは呼び方を変えた。  
 
あの出会いからしばらく後。セッティエームはちょくちょく帝国へとやってくるようになった。  
そうすると、彼女の小間使いに任命されたマーチスも駆り出されることとなる。  
しかし、マーチスはそのことをそれほど面倒には思っていなかった。むしろ、それを楽しみにしている部分もあった。  
彼女は王族でありながらとても気さくであったし、何より一緒にいるとマーチス自身も楽しかった。  
確かに我侭で手を焼かされることも多々あるが、そういう風に振り回されることも、また楽しかった。  
 
そう、ちょうど優しい兄がわがままな妹の面倒を楽しくみてやるかのように。  
 
ところで根が真面目なマーチスは、こういうプライベートな時でもつい敬語を使ったり、敬うような態度をとってしまうことがある。  
それがセッティエームは気に入らない。深いため息をひとつ吐いてマーチスに説教を始める。  
「のうマーチス。二人きりの時は必ず呼び捨てにするように!と何度も口を酸っぱくして言っておるのに何故また姫様などと呼ぶのじゃ?  
妾は一度見聞きしたことは必ず忘れんというのに・・・。やはり下衆の頭では無理なのかのお・・・。」  
「何だよその言い方は!そりゃ悪いのは僕だけど、そんなにネチネチ言うことは無いじゃないか!君はよく爺やは口うるさくてかなわんなんて言っているけど、  
それ以上にうるさくてしつこいじゃないか!」  
「何だと!?それは聞き捨てならんな!妾がいつそのような口をきいたというのじゃ!?」  
「今だよいまいま!」  
傍から見ると、まるで仲の良い兄妹のようである。  
もっとも、マーチスはある程度わざとこのようなくだけた態度をとっている。  
幼い頃から気の許せる人間が数えるほどしかおらず、しかも身内から命を狙われる生活。  
それがもたらすストレスが一体どれほどのものか。想像すらできない。  
そのような生活の中で、マーチスと過ごす時間が彼女にとってどれほど貴重で大切か。  
それが分かって居るから爺やは彼女の我侭を許してこういった時間を与え、  
そしてまたマーチスも精一杯彼女を楽しませてやろうと誓っているのである。  
もっとも、慣れるまでは胃がきりきり痛むことも多かったが。  
 
「まぁ細かいことをそんなに気にするな。そのうちハゲるぞ?」  
「誰の所為だよまったく・・・まぁいいけど。それでセッティエーム?今日はどうする?またあのホットドッグ屋さんに行こうか?」  
「うむ、それも良いが・・・今日は・・・その・・・?む?」  
「?どうしたの?」  
何か思案していたセッティエームが急に怪訝な顔をしたのでそう問いかけたマーチスであったが、その理由はすぐに分かった。  
「雨?」  
さっきまで晴れていた空が急に暗くなり、ぽつぽつと雨が降ってきたのである。  
しかも雨足はすぐに強くなり、ぽつぽつと降っていた雨はすぐに土砂降りへと変わった。  
空には稲妻が走り、雷が落ちる轟音が何度も轟く。  
「これはまずいな、どこかで雨宿りしないと・・・。セッティエーム!」  
しかし名を呼ばれてもセッティエームは聞こえないようであった。  
「これは・・・まさに天佑・・・ならば・・・。」  
何か呟いているようだが、そんなことをしている場合ではない。マーチスは怒鳴るようにしてセッティエームを呼ぶ。  
「セッティエームってば!」  
「お!?おうなんじゃマーチス、どうした?」  
「どうしたじゃないよまったく!雨がひどいから、どこかで雨宿りしようって言ってるの!」  
「雨宿り?うむ!それなら妾が良い場所を知っておる!いくぞマーチスついてこい!」  
そういうとセッティエームはマーチスの手を握り、豪雨の中を駆け出した。  
 
「着いたぞ!ここじゃ!」  
「ちょっ!君!ここはラブホテ・・・!」  
そう、セッティエームがマーチスを連れてきた先は小さなラブホテルであった。  
状況をつかめずに口をパクパクさせるマーチスに、セッティエームが説明する。  
「いや以前からこのケバケバしいホテルが気になっておってな?まぁ下衆どもが利用するホテルなのじゃから大した事は無いのであろうが、  
知らないというのも気にくわん。機会があれば調べてみたいと思っておったのじゃ。」  
「いや君、ここがどういう所かホントに分かってる?どこか別の所に行ったほうが・・・。」  
そんなマーチスの提案も、セッティエームに一蹴される。  
「バカ者!これ以上雨の中を走ったら風邪をひいてしまうではないか!ぐだぐだ言わずにさっさと入らんかッ!」  
そういうとセッティエームはマーチスを引きずりながらラブホテルにてこてこてこと入っていく。  
どこで覚えたのか、迷いもせずに部屋を借りて鍵を受け取り、部屋へと向かう。もちろんマーチスの首根っこをつかんだままだ。  
 
部屋に着くと、セッティエームはマーチスに話しかけた。  
「さて、マーチス。妾はこれから・・・ってマーチス?聞いておるか?」  
セッティエームが怪訝そうに話しかける。それもそのはず、マーチスは緊張のあまり、ベッドの上で正座していた。  
「マーチス?」  
「ハ、ハヒイィッ!?な、なんでしょう!!?」  
思いっきり裏返った声を上げるマーチス。セッティエームは腰に手を当て諭すように話しかける。  
「なんじゃその声は。お主、少しは落ち着け。」  
「うう、ごめん・・・。こういう所に慣れていない、というか来るの初めてだから緊張して・・・。」  
ふぅん、と気のない風な返事をしてセッティエームは言った。  
「まぁ良いわい。妾はこれからシャワーを浴びてくる。流石に風邪を引いてしまうでな。それでなマーチス・・・。」  
セッティエームにじっと見つめられ、マーチスは落ちつかなくなる。  
その様子を見てにっ、と笑い、セッティエームは言った。  
「のぞくなよ?」  
「なッ!!」  
マーチスが何かを言う前に、セッティエームはするりと浴室へとすべりこんだ。  
マーチスは深いため息をつくと、ベッドに腰かけた。そして、冒頭に至る。  
 
 
セッティエームはバスタオル一枚で浴室から出てきた。  
「ふう、下衆のホテルのわりには中々の湯であった・・・ってマーチス?何をやっておるのじゃ?」  
彼女がそう言うのも無理は無い。マーチスは、何故か部屋の片隅で体育座りをしていた。  
「い、いやこの格好が落ち着くから・・・。」  
「ふぅん?まぁ良い。それよりお主もシャワーを浴びたらどうじゃ?」  
マーチスは激しく首を振る。  
「ぼ、僕はこのままでいいよ・・・。」  
「何を言う!そのままでは本当に風邪を引いてしまうぞ!せめて服を脱いで体を拭け!なんなら妾が拭いてやるぞ!」  
そういうと、セッティエームはバスタオル一枚のままで、マーチスの服を脱がしにかかる。  
「えっ!ちょっ!や、やめてよ!」  
「何を恥ずかしがっておる!妾とお主のなかではないか!そらそら!」  
調子にのっているセッティエームに少し苛立ったマーチスは、やや荒っぽく彼女を振り払う。  
「やめてって言ってるじゃないかっ!」  
「あっ!・・・。」  
振り払われたセッティエームはうな垂れる。それを見て、マーチスは後悔した。  
何もあんな風にすることは無かったんじゃないか?そう思った彼は、セッティエームに謝ろうと口を開く。  
「ごめん、セッティ・・・」  
「マーチス。」  
しかし、それはセッティエームの発した言葉によって遮られた。  
「マーチスは・・・妾の事が・・・嫌いか?」  
「そんなことない!」  
マーチスは即答する。それは嘘偽らざる気持ちであった。彼女を大切だと思う心に嘘はない。  
セッティエームはマーチスをしばらく上目づかいに見ていたが、やがてふるふる、と首を小さく振った。  
「!セッティエーム!嘘じゃない!僕は本当に・・・!」  
「そうじゃな・・・。お主は本当に妾のことを大切に思ってくれておるじゃろう。それは信じられる。そして嬉しい。  
じゃが・・・それは、例えば兄が妹に対して感じるようなもの・・・なのじゃろう?」  
「・・・・・。」  
マーチスは黙ってセッティエームを見つめている。彼女が言わんとすることを理解するため、彼女に集中している。  
そんな様子を見て、セッティエームは再び言葉を続ける。  
「じゃがなマーチス・・・。妾が欲しい想いは・・・そして妾がお主に対して抱いている想いは・・・もっと違うものなのじゃ・・・。」  
そう言って彼女は顔を上げる。その瞳には強い光が宿っていた。その光でマーチスを射抜きながら、セッティエームは言った。  
 
「妾は・・・お主のことを愛しておる。一人の男として、な・・・。」  
 
マーチスは何も言えなかった。ただ、呆けたように彼女を見つめていた。  
その様子を見て、セッティエームは寂しげに笑い、言う。  
「分かっておる・・・。妾は子供じゃ・・・歳も、体も、な。じゃが・・・」  
そういうと彼女は、バスタオルに手をかけた。マーチスがびくん!と震える。  
「先ほども言ったとおり、お主を一人の男として愛しているのは本当じゃ・・・。だから・・・。」  
バスタオルがはらり、と床に落ちる。  
一糸まとわぬ姿となったセッティエームはマーチスに囁きかける。  
 
「妾を・・・わたし、を・・今だけで良いから・・・愛して欲しい・・・。」  
 
マーチスは・・・ただ呆然と、そして陶然と彼女を見つめていた。  
マーチスには幼女趣味は無い。いたってノーマルな性癖の持ち主である。  
しかし。  
セッティエームは美しかった。  
腰を超える長さの艶やかな髪。  
小さいが、しかし確かに膨らみはじめている胸。そして先端の桜色の乳首。  
腰から尻にかけてのなだらかなライン。そして。  
まだ毛は生えていないが、既に潤み始めている秘所。  
全てが、美しかった。  
それらをマーチスは我を忘れて見入っていた。  
 
「あの、マーチス・・・。そんなに見られると、その、流石にちと恥ずかしいのじゃが・・・。」  
その言葉でマーチスは我に返った。セッティエームと目が合う。一瞬で顔に血が上るのが分かる。  
「セッティエーム・・・その・・・。」  
「良いのじゃマーチス。こんな幼い体では欲情なぜせんじゃろうが、それでも妾は・・・」  
そんなセッティエームの呟きをかき消すように、マーチスは叫ぶ。  
「いや!セッテイエームはきれいだ!とても!」  
そういって彼女を抱きしめる。  
「マ、マーチス・・・?」  
戸惑うセッティエームに、マーチスはたどたどしくも、自分の想いを伝える。  
「正直、今すぐに君に対して恋愛感情を抱くことは・・・・出来ない。」  
それを聞いたセッティエームは視線をおとす。しかし。  
「だけど、その・・・。まだ恋愛感情じゃ無いんだけど、でも、兄が妹に抱く感情は超えている、っていうか・・・。  
大切にしたい、愛しいって思う気持ちが大きくなってきてるっていうか・・・。その・・・。」  
しどろもどろになりつつも何とか自分の想いを伝えようと四苦八苦しているマーチスを見て、セッティエームはくすり、と笑う。  
そして。  
「マーチス。」  
「う、うん?」  
「お主のそういうところ・・・好きじゃぞ?」  
唐突にキス。  
「セ、セッティエーム!」  
「ふふ・・・。しかし、濡れた服のまま抱きしめられるのはちと辛いな。お主も服をぬいで・・・ベッドで温めてはくれぬか?」  
「う、うん・・・。」  
そして二人は生まれたままの姿でベッドに入る。  
 
 
ところでマーチスは童貞である。しかし彼は、同僚で幼馴染でプレイボーイのオレルド准尉から聞いた話や、  
彼自身が収集したコレクションなどから膨大な知識を得ていた。  
そしていま彼は、セッティエームにそれらを駆使していく。  
 
まずはディープキス。舌をこじあけ彼女の口内を犯す。セッティエームも積極的に応える。  
髪を撫でながらキスをしていたマーチスだが、キスする場所を変えていく。  
唇から頬、鼻、額、まぶた、そして耳。耳を嬲るとセッティエームはぶるり、と体を震わせた。  
マーチスは頭部から下にキスをしていく。首筋、肩、鎖骨。あまりキスマークをつけるのは不味いのだが、  
もうそんな事に気をまわす余裕は童貞のマーチスには無かった。  
マーチスに強く吸われる度に、セッティエームは小さく声を漏らす。  
そして胸に到達。桜色の突起にしゃぶりつく。  
「ひぃんっ!」  
今まで抑えていた喘ぎ声が、遂に我慢できずに出てしまう。  
セッティエームの胸は小さかったが、しかしその肌はきめ細かく、まるで上等な布地のようである。  
揉むというよりはさすっているようなものだが、しかしマーチスは夢中でしゃぶりついた。  
強く吸って刺激を与えたあとは、乳輪から優しく舐めあげてやる。  
優しく舐められて体の力が抜けた時を見計らい、乳首を甘噛みしてやる。  
気を抜いた時に痛みに近い快感を与えられ、セッティエームは身を震わせる。  
どうやらイッてしまったようだ。彼女の体にじっとりと汗が浮かぶ。  
ここでマーチスはセッティエームの後ろにまわった。右手で彼女の胸をいじり、左手は腹、腰、そして尻を撫でていく。  
そうしながらも、彼女の背中を舐めていく。彼女の汗をすべて舐め取るかのような執拗な舌使い。  
そうして遂に彼女の秘所にふれる。  
 
大洪水、であった。  
 
あまりの濡れっぷりに内心ビビるマーチスではあるが、ここで引いたら男が廃る。彼は必死にポーカーフェイスをし、愛撫を続けていく。  
指でゆっくり入り口をほぐす。彼女の呼吸が乱れる。指の動きを大きくし、クリトリスも責め始める。  
そうして愛撫を続けていたが、マーチスは身を起こし、彼女の足の間に顔を埋める。  
「いや・・・だめ、そこはきたな・・・」  
「綺麗だよ、セッティエーム。」  
そういってマーチスは秘所を舐め始める。セッティエームは既に声を我慢しておらず、鼻にかかった嬌声がひっきりなしに聞こえる。  
いつもの我侭で威張った態度の彼女からは想像もできない姿にマーチスは更に興奮し、クリトリスをきゅっ!と噛んだ。その瞬間。  
「ああっ、ああああああああああーっっ!!」  
背骨が折れるのではないかと思うほど身を反らせ、セッティエームは盛大にイッた。  
そのイキっぷりにまたビビるマーチスだが、自身の興奮でそれを押さえ込んだ。  
そして、己自身をセッティエームにぴとりと当てる。  
「・・・いくよ?」  
セッティエームはこくり、とうなずく。そしてマーチスはゆっくりと腰を沈めてい・・・こうとしたのだが。  
 
 
「ひぎいいいいいいいいだめえええええええ!!!」  
 
マーチスのモノは、伍長と違ってごく平均的であった。しかしそれでも流石に挿入は無理であった。  
 
「うう・・・。マーチスは妾をたっぷり愛してくれたというのに・・・。  
 愛する男を迎え入れることができないなんて・・・妾は・・・・ッ!!」  
 
しかしマーチスはこの事態を想定していた。そしてこれに対応しうる方法を既に見つけていた。  
その方法をセッティエームに伝える。  
 
「んっ・・・これでいいの・・・?あっでもこれ・・・きもちいい・・・!」  
横になったマーチスの上にセッティエームがまたがり、性器と性器をこすりあわせていく。いわゆる「素股」だ。  
すでに十分すぎるほど濡れそぼった秘所でマーチスの怒張をこするため、それもセッティエームの愛液ででしとどに濡れていく。  
しばらくそうしていたが、マーチスはそっと彼女を抱くと、体をひょいっと回転させた。  
「マ、マーチス、何をするのじゃ・・・ってな、なんじゃこの格好は!?いやぁ!」  
彼女がしている格好は、俗に言う後背位の体勢である。濡れきった秘所だけでなく、菊門までまる見えである。  
しかしマーチスはセッティエームを後ろから抱きしめるとこう囁いた。  
「何言ってるんだい・・・。下衆で獣じみた行為は実に興味深いんだろう・・・君は・・・?」  
「だ、だけどこれはさすがに・・・!」  
「でもさっきより濡れてるよ。」  
そういうとマーチスは腰を振りはじめた。  
「あっ!あっあっ何これ!気持ち良い!こんなかっこうなのにすごくきもちいいよおぉっ!!」  
バックでされる羞恥心とマーチスに与えられる快感のせいで、セッティエームはほとんど獣じみた喘ぎ声をあげるようにまでなっていた。  
その姿を見てマーチスも更に高ぶる。もう限界も近い。  
「くっ!そろそろイクよ・・・!」  
「いいよぉ!きてぇっ!わたしにだしてぇっ!マーチスのいっぱいかけてぇぇぇっ!!」  
その言葉を引き金に、マーチスは盛大に射精した。熱い精液が秘所や菊門、尻、背中、髪に大量に降り注ぐ。  
その熱でセッティエームはまた達し・・・そしてふたりは抱き合って眠りについた。  
 
 
 
「おーよく晴れたのう!さっきまでの悪天候が嘘のようじゃ!」  
「まったく元気だね・・・。あれだけイッてたのに・・・ふぐうう!?」  
マーチスは、顔を真っ赤にしたセッティエームに殴られた。  
「まったくデリカシーの無いやつめ・・・!もっと気を使えっちゅーに!」  
「ううごめん・・・。お詫びってわけじゃないけど、今日は好きなとこに連れて行ってあげるよ。時間はあまり無いけど・・・。」  
マーチスがそう言うと、しかしセッティエームは妙にさばさばした様子で言った。  
 
「いや、今日はもうどこへもいかずとも良い。このままゆっくり帰ろう。」  
「え?でも雨が降る前は何か考えてたみたいじゃないか。」  
「う、うむ・・・。実はあの時考えていたのは、その・・・。今しがたやっていた事を、どうにかヤれぬものか、という事だったのじゃ・・・。」  
「はぁん!?」  
マーチスは本気で驚く。その様子を見たセッティエームが慌てて弁解をする。  
「お、お主の所為なのじゃぞ!?お主への想いが募り過ぎて・・・。そんなことを考えていたら、  
折りよく雨が降ってきたのでな?これぞ天佑とばかりに以前から練っていたプランを実行に移した、という訳じゃ。」  
喋っているうちに何故か段々偉そうな態度になっていくセッティエーム。  
そんな彼女を見ながら、マーチスはやるせない気分に打ちひしがれる。  
「つまりは殆ど仕込みだったわけね・・・。」  
「男のくせにガタガタうるさいぞマーチス!そんな奴にはこうじゃ!」  
そう言ってマーチスの頭を抱え込んでキスをするセッティエーム。マーチスはわたわたと慌てる。  
「ちょ、ちょっとセッティエーム!外ではまずいよ!」  
「うるさい!それよりマーチス、覚悟をしておけよ?今日はお主を受け入れられなかったが、お主を受け入れる事が出来たなら・・・  
その時からお前は正真正銘未来永劫妾のモノなのじゃからなっ!分かったか!?」  
顔を真っ赤にしながらもそう言う彼女が愛しくて。  
「・・・ま、期待しないで待ってるよ。」  
らしくも無い台詞を吐くマーチスであった。  
そうして二人は仲良く帰る。二人を見つめていた視線があった事に気づかずに。  
 
 
 
それから数日後、セッティエームは帰っていった。  
去り際に「浮気なぞしたら承知せぬからなッ!!」と言われたのを思い出し、苦笑を浮かべながらも書類仕事を片付ける。  
そんなマーチスに、オレルド准尉が近づいてきた。  
「なぁマーチス。ちぃっと相談があるんだけど・・・。」  
付き合いの長いマーチスは、その態度だけで彼が何を言いたいのかを察した。  
「お金なら貸さないよ。大体、デート代くらい自分で何とかしなよ。」  
はっきりとそう言ってやる。いつもならこう言ってやると「ちぇっ!冷てーの!」と悪態をついて自席へ戻るのだが・・・。  
「おいおい、そんなつれねーこと言うなよぉ?」  
そう言って、さらに近づいてきた。そうして囁くように言ってきた。  
 
「なぁ、助けてくれよ。幼姦マーン。」  
 
「?ヨーカンマン?何それ?どういう意味?」  
キョトンとするマーチスに、ニヤニヤしながらオレルドは言う。  
「いやー、何日か前によう、よく行くラブホに行こうとしたら、知り合いが出てくるのを見ちゃってよ?  
しかもその組み合わせがメガネ君と幼女・・・・」  
 
「うぼぉぉぉぉあああああっ!!!」  
マーチスは鬼の形相でオレルドの口にアイアンクローを敢行する。脳裏には正しく変換された幼姦マンの文字がでかでかと躍っている。  
何事かと見つめる他の3課の面々に何でもないと強張った笑顔を向け、オレルドに向き直る。  
「お・・・おまおまおまっ・・・!」  
「まぁ落ち着け。そんな言いふらしたりなんかしねーよ。まだ一人にしか言ってねーし。」  
もう一人に喋ったんか!と怒鳴りつけたい気持ちを抑え、マーチスは財布から紙幣を取り出しオレルドに握らせる。  
「・・・頼むからこれで!」  
「おぉ有難う親友よ!大丈夫、お前の秘密は俺が守ってやるよ!」  
そう言って上機嫌で自席にもどるオレルド。それを歯軋りして見つめていたマーチスだが、もっと重要なことに気づく。  
 
オレルドが喋った相手は誰だろう?  
 
気にはなったが、しかしそれは分からないし、オレルドも口を割るまい。気を取り直して仕事に集中しようとした瞬間、  
首にぎゅっと腕が回された。  
煙草の匂いが鼻をくすぐる。と同時に、背中に柔らかく大きい二つの塊が押し付けられた。  
「よぉ、幼・姦・マン?」  
「・・・ウェブナー中尉・・・ッ!」  
マーチスは己の足元ががらがらと崩れる錯覚に襲われた。ショックで眼鏡にも無数の亀裂が走っている。  
どう言い訳したものか、パニックになった頭で考えていると、ウェブナー中尉はくすりと笑い、マーチスの頭をぽんぽんと叩いた。  
「まぁそんなに緊張しないでよ。あたしも別にいいふらしゃしないし、気にもしてないからさ。」  
「ほ、ホントですか?よ、よかったぁ・・・。」  
そう言って机につっぷすマーチス。そんな彼を見ながら、ウェブナー中尉はちょっと悪戯っぽく言う。  
「あ、でも、何か口止め料みたいのは欲しいかな?今夜の食事をおごる、ってのでどうだい?」  
「あぁいいですよ。というか、中尉にだったら喜んで食事ぐらい奢らせていただきますよ。」  
「そうかい?じゃあ今夜楽しみにしてるよ。・・・幼女なんかに負ける訳にはいかないからねぇ・・・。」  
ウェブナーの後半の呟きは、マーチスには聞こえなかった。  
 
次の日、妙につやつやしているウェブナー中尉と妙にげっそりしているマーチスが目撃されたり、  
セッティエームとウェブナー中尉が鉢合わせして、そのプレッシャーでマーチスが心筋梗塞を起こしかけたり、  
マーチスの称号は何が良いだろう「妻と愛人の板ばさみにあいおろおろするヘタレ亭主」ってのは長すぎだよなぁやっぱり  
などと考えているハンクス大尉がいたりするのだが、それはまた別のお話。  
 
 
 
 

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