普通と逆なのではないか、という疑問はふたりの間には起きなかった。お互いが  
お互いの初めてであったし、身体を重ねるようになってから日も浅い。他人が通  
常どう行為をしているかなど気になる余裕すらなかった。ただお互いだけだった。  
裸になって寝台に待つのはいつも伍長のほうで、そこに全裸になった少尉が上掛  
けを捲り上げて入ってくる。それがふたりの間では普通だった。  
仰向けの伍長の割れた腹筋の上に座る。  
まずキスをする。それから首筋へ。乳を揉み、わき腹を擦る。稚拙だが、どうし  
てほしいか如実に表れた愛撫。男根に直接手を触れるのはさすがに恥じらいが先  
に立って躊躇われた。  
傷だらけの身体と、赤く染まっている顔が愛おしい。羞恥から目を瞑ろうとする  
伍長を叱り、目を開かせる。少尉にとってはこれから自分にされることを教えて  
いるわけである。恥ずかしいからといって逃げられては困る。何よりも伍長から  
求められたいから教えているのだ。自発的に積極的に、…いつかは荒々しく。  
 
「さあ、やってみろ!」  
少尉はそういって、伍長の身体を起こし、反対に自分が寝台に仰向けになった。  
伍長のモノは完全に勃ちあがり、解放を求めて先走りを垂らしている。細い指の  
繊細な愛撫に焦らされて濡らしていた。  
少尉も白い頬も肌も朱に染め欲情しきっていた。秘裂からは蜜が溢れ内股を濡ら  
していた。今更愛撫など必要ないほどに。伍長の手が触れるだけで唇から切ない  
吐息が漏れ、小柄な肢体が跳ねるほど敏感になっている。だが、我慢しなければ  
ならない。  
伍長は教えられた順番どおりに少尉を愛していった。行為の回数を重ねることで、  
自分の大きいばかりの肉体が、腕が、指が、少尉の白く細い肉体を壊してしまう  
のではないか、という心配は薄れていった。  
人を殺しても人を愛することはできる。それは自分が戦場で殺した者たちに対し  
て不遜で傲慢かもしれなかったが、嬉しかった。すまないと思いながらも、嬉し  
かった。そしてそれを教えてくれた少尉が愛しかった。  
しかし、伍長は少尉を気持ちよくさせたいと懸命であったが、少尉にのやり方と  
は少々勝手が違った。少尉は完全に伍長に乗っかっり、自由な両手を使う。だが、  
伍長が上になった場合、体重を少尉の華奢な体に預けるわけにもいかず、片腕を  
支えに、開いているほうの手で愛撫しなければならない。上手くやれていないの  
ではないかとあわあわ焦る伍長を、少尉は下から見上げ、「可愛い…」と思いな  
がらくすぐったそうに笑うのだった。  
 
伍長の腕の中にすっぽり収まる小さな体。伍長の手にも余る豊かな乳房。  
さっきまで自分を見下ろしていたときと打って変わって少尉は小さい。子猫や小  
鳥のようだ。乳房は大きくたっぷりとしているが、身体は熟れ切っていない少女  
のそれだ。金髪で汗ばんでいい匂いがする。甘やかな香りを吸い込みながら伍長  
は思った。  
ここからはどうやるべきか教わっていない。毎度これでいいのかと疑問に苛まれ  
ながら、伍長は小さな秘裂に太い指を這わせる。薄く柔らかな金の恥毛の奥。こ  
んな小さなところに自分の巨大なモノが入るのが伍長には不思議でしかたない。  
緩い粘液で濡れている襞がぬちゅくちゅと卑猥な音を立てる。呼吸を乱す少尉の  
口から喘ぎが漏れる。少尉が眉根を寄せる。その表情だけで達してしまいそうだ  
った。  
伍長の不器用な指が膣の上部の肉芽をかすり、電気が走ったかのように少尉の肢  
体がビクリと跳ねる。眉根を寄せるその顔にさらなる欲望をそそられながらも、  
痛かったのだろうか、と伍長は咄嗟に手を離してしまう。伍長は優しい、だがも  
っと花をいじめる意地の悪さがあってもいいのに、と少尉が歯噛みしているのも  
気づかずに。  
 
さすがにこの瞬間だけは、臆さぬ少尉も身震いが来た。十分に解された秘所に伍  
長のモノが押し当てられたのだ。巨大な亀頭が熱く濡れそぼった入り口をゆっく  
り広げる。この先の圧迫感、重量感、痛み、そして快楽を予感させる。  
初めて受け入れた時ほどではないにせよ、巨大なモノに体の内部を広げられる痛  
みが背骨を這い上がって脳髄まで響く。だが、「痛い」と口にするわけにはいか  
ない。そんなことをしては、優しい伍長はきっと止めてしまうから。自分の欲望  
を抑えてでも。目の前にあるのは男の逞しい胸。涙で滲んだ視界に傷だらけのそ  
れが映る。身長の差から、顔は少尉の遥か頭上で表情は窺い知れない。だが、お  
そらく泣きそうな顔をしているのではないかと容易に予想できて、痛みの中でも  
少尉は自然と頬が緩んだ。  
 
行為の快感にいまだ慣れぬ伍長は、幾度も達して大量の精液を少尉の膣に注ぎ込  
んだ。熱い精液がぶつけられ、ぬめりが痛みを和らげ、少尉の理性を奪う。突か  
れるたびに精液が漏れ出る。痛みは快楽へと変わり、少尉はいつしか堪えきれな  
い叫びを上げ続けていた。  
まだ同時に達する域までいかない。けれど、  
(これからじっくり解り合えばよい…)  
愛しい男の胸板に顔を寄せ腕を回して抱き締めながら、少尉はそう思った。  
 
まだ少尉の中にいたい。頭の芯がジン…と痺れる。  
伍長は俯き、少尉は上向いて見つめ合う。伍長の透明な瞳は、生来の優しさと  
今は欲情している雄の獣性を宿して、なんとも危うい。  
子供のようなアンバランスさを秘めた瞳が、物問いたそうな視線を少尉に送った。  
少尉はたおやかな両手で伍長の傷だらけの頬を挟み、するりと撫でて云う。  
「わからないことがあればなんでも訊いていいぞ」  
つい、何も知らぬ幼い子供に物を教えるときような優越感をくすぐられてしまった。  
「前から…、聞きたかったんですが…」  
伍長ははぁはぁと荒い息を整えようとしては失敗する。  
「奥のほうにある…、ちょっと堅くてこりこりしてるのはなんですか…?」  
一度大きく熱い吐息を吐き、  
「これ…、当たるのが…、すごく…気持ちよくて…」  
乱れた呼吸に合わせて言葉を継ぐ。言葉にしたら再び熱いものがこみ上げてきて、  
伍長はふるっと身を震わせた。  
少尉は一瞬言葉に詰まり、もじもじと恥じらいながら、答えた。普段の少尉ならば  
即座に平手打ちを繰り出す状況だが、自ら「なんでも訊いていい」と言った手前、  
それはできなかった。  
「それは、その、…うだ」  
よく聞き取れなかった伍長が、え? と問い返す。  
「…子宮だ」  
少尉は、顔を赤らめて答える。だが、伍長の顔の方がさらに真っ赤になっていた。  
「あ…」  
「当たると気持ちいいのか。だが、あまり突き上げないでもらえるとありがたい」  
痛いから…、と恥ずかしさから俯いて、少尉は続けた。  
数瞬の沈黙が流れた。  
「あの、その…」  
沈黙を何とかしたいと焦る伍長は適当な言葉を見つけようと懸命の努力を繰り返した。  
「大事にします!」  
焦りから上ずった声。だが、素朴で秘められた誠意の大きさが少尉にとって何より心  
に深く染み込んだ。  
 
少尉は口付けをねだった。艶やかに濡れた桃色の唇で伍長を促す。振るいつきたくな  
るようなそれに、伍長は抵抗することもできず夢中で唇を重ねた。  
つながったままでは、限界まで背骨が湾曲して、かなり苦しい姿勢だ。だが、少尉への  
想いが優先し、伍長はいつも己の苦しみなど蚊帳の外に置いてしまう。打算もなく、見  
返りも求めず。  
(少尉のためならなんでもしてあげたい…)  
少尉は、伍長の太い首にしなやかな腕を絡めて強く抱き寄せ、幸福に満たされた心の中  
でうっとりと呟いた。  
(ああ、伍長…)  
 
グキ……  
 
 
(続く)  
 
 

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