『レンタル』
「おはよう!……なんだ伍長はまだ来てないのか?」
私はさほど広くない陸情3課の部屋を見渡しながら、呟いた。
伍長ことランデル・オーランドはその性格に似合わない巨体だ。
例え蹲っていても、彼ならすぐに見つけられる、が、どうやら居ない様だ。
「おはようございます隊長、そういえば伍長は、まだですね」
「やっこさん、朝は弱そうだしな」
「人のこと言えるのかオレルド」
「伍長なら今日は、こんぞ」
この部屋の責任者である、ハンクスが言い切る。
「なぜです?」
私は顔を傾けた?原因を考えるが何分思いつかない。
「それはだな……
「私から説明するよ、少尉」
そう言って、情報部技術班主任、ウェブナー中尉が現れた。
「彼を少し貸してもらおうとハンクス大尉に頼んだんだ」
「伍長を?」
「なんでも機材が溜まったラボの片付け、だったか?」
「はい。整備班の連中は出払ってるんで、人手が足りなくてな」
「伍長、力持ちだもんね」
「デカ物だしな」
「マー君、残念だね、伍長さん今日は来ないって」
「く〜〜ん」
各々感想を漏らしている、私は颯爽と立ち上がり、
「ならば、我々も」
と言いかけたが、
「いや、お前達には別の任務だ」
ハンクス大尉にそう言われた。
「うぅぅ」
「どうしました?隊長?」
「!!なんでもない!運転に集中しろ!」
「はい、すいません」
いつも移動に使う車内、と言ってもオープンカーだが、隊長の機嫌は悪い。
「ま、解らんでもないか」
どうやら、オレルドには理由が解るらしい。
とはいえ、これだけ近くに居て『どうして隊長の機嫌が悪いのか?』などとは訊けない。
「ううぅぅっ」
隊長はまだ呻いていた。
(まさかとは思うが、中尉も魅力的な女性だし、二人きりで……)
『伍長、あの工具を取りたいから、肩車してくれ』
『はい、こう、ですか?』
『おお!高いな、見晴らしがいいぞ、これはいいな、気に入ったよ!』
『あの、そ、その……中尉、その』
『ん?あぁそうか、ふふっ、どうしたんだ?伍長』
『中尉、その、胸が……』
『ん?きっと少尉よりも大きいぞ、触ってみるか?』
『え、あの……その、おっぱい。』
ぶんぶんぶんぶん!!!!
いきなり顔を赤らめ首を振り出した隊長。
そしておもむろに胸元に手を持っていき、また頭を振った。
「どど、どうしました?隊長?」
「うるさい!わ、私を見るな!前を見ろ!」
「やれやれ」
怒鳴られるマーチスを少し可哀想な目で見るオレルド。
いつもとちょっとだけ違う陸情3課の風景だ。
……
どしどし、と言う効果音が今の彼女の歩き方に適切な効果音だろう。
「私は何を考えているんだ」
仮にも貴族の端くれ、しかし、今はここには居ない伍長の事しか頭に浮かばない。
以前オレルドに、『貴様は女の事しか頭に無いのか!』と罵倒していた自分が、だ。
(情けない、これも伍長が勝手に私の元を離れるからだ、そうだ伍長が悪い)
あまつさえ、全く悪くない伍長に責任転嫁、相当重症のようだ。
彼女は、恐らく伍長の居るであろうラボの一室にノック無しで入り込んだ。
「……中尉?早い休憩ですね、っしょ」
背中を向けたまま、なにやら重そうな機材を持ち上げては移している伍長。
「???あれ?少尉?」
ぱんっっ!!!
気がつくと、思いっきり平手打ちされている伍長。
「っぅtっっぅtぅう」
しかし涙目になっているのは、叩かれた伍長でなく叩いた少尉の方だ。
「少尉・・・・・・」
「どうしてお前は、何も言わずに離れるんだ」
「……」
沈黙が空間を覆っていく。
やがて伍長の傷だらけで無骨な手が少尉の顔にのびる。
「泣かないで下さい、自分はここに居ます」
そういうと、二人はゆっくり唇を重ねていた……
Fin〜