今の生活に不満は無い。豪奢な住居、美しい衣服、美味しい食事。
子宝に恵まれてはいないが、優しい夫。可愛い二人の妹、暖かい家族たち。
何も、どこにも不満なんて無い。だから、これは私の責任なのだ。
…夫は、私を愛してくれている。
違う。
不器用な指先も、むしろ愛おしく感じる。
ちがう。
私はあの人を愛している。心で繋がっているなら、それでいい。
チガウ。
私が求めるのは―――――
「朝……………ね」
ベルを鳴らし、メイドを呼びつけて身支度を整える。
夫と談笑を交えつつ朝食を終え、送り出す。ほんの数文字で私の仕事は終わる。
後はどうやって夜までの時間を潰すか、ある意味、無為な日々だと自分でも思う。
農民からしてみれば夢のような生活なのだろう。けれど、人間は慣れる生き物なのだ。
今日はパーティーもない。久しぶりにアリスちゃんの可愛い顔でも見に行こうか…。
「キリキリ歩かんか! ほらッ! 進めッ!」
「やっぱりマズいですよ少尉…。俺なんかがこんな立派なお屋敷に…」
「むぅ〜〜〜…命令だ伍長! 歩け!」
門の前ではアリスと…あれは以前パーティーで見た…。
「アリスちゃん? 門の前でその様に騒がしくしては民に示しがつきませんよ?」
「姉様! 丁度良いところに、姉様からもこいつに言ってやってください!
屋敷に入れというのに門につかまって動きもしません!」
見れば、天を衝くほどの大男は申し訳なさそうに萎縮しているばかりだった。
確か伍長と呼ばれていたと思う、アリスちゃんの部下ね…。
「どうしたのかしら伍長さん? 事情は分からないけれど、ひとまずお上がりになったら?
それとも、レディーをこの寒空の下立たせておくのがお好み?」
自分の肩を抱いて震えるジェスチャーを見せると、伍長という人物は「うっ」と一声上げて、スゴスゴと私の言葉に従った。
アリスちゃんはどこか、不機嫌そうだった。
「と、いうわけです姉上」
つまり、伍長さんは今橋の下で生活している。
しかし民の規範となるべき軍人がそんな事ではいけない。
給料は何に使っているのか、寮に入るお金も無い。
物凄く簡略な説明で恐縮だけれど(何に?)おおよその所こんな意味合いだったろうと思う。
いまいち自信が持てないのは、アリスちゃんの剣幕が物凄かったからで、
その勢いだけで途中首を縦に振ってしまいそうだった。と言うことは彼女に伝えなくとも良いだろう。
「で、見るに見かねて連れて来たと…。あのねアリスちゃん。
私部下思いのあなたのことはとっても素敵だと思うけど、犬や猫じゃないのだから…。
おかしな噂が立っても知らないわよ?」
「大切な部下です! 犬猫と同列に考えてもらっては困る!」
ダン! と机に拳骨を叩きつけたけれど、怯えたのは件の伍長さんだけ。
(それがなおさら問題あるんだけどね…)と口には出さず。
椅子の傍らに立つ、天を衝くような小男とアリスちゃんを2、3度見比べ、
私はあっけなく結論を出した。
「まぁ、いいんじゃないかしら? 反対すればするほど燃えそうですし?
でも、そうねぇ、条件があります。伍長さんには使用人用の離れを使って
頂くこと、これは絶対に譲れません」
な――。と、食って掛かるアリスちゃんを伍長さんが制す。その顔は幾分か安堵の気色が見られる。
「少尉、多分、その方が…。ええと…少尉のお姉さん…」
「ソリスといいます」
「あっ…失礼しました。ソリスさん、お気遣い感謝します」
「いいのよ。それじゃあアリスちゃん。伍長さんをお部屋まで案内してあげてね」
アリスちゃんはやはり納得がいかないという表情をしながら、伍長さんになだめられながら
離れへと連れて行った。去り際、振り返って見せた笑顔は、まるで子犬のような人懐こさを感じさせられた。
私は背もたれに体を預け、ベルを鳴らしてメイドを呼ぶ。
「部屋を用意して頂戴。私も今日は泊まっていきます。
それと、電話を用意しておいて。今夜は帰れないと、伝えなければね。
ふふっ、あの人ホッとするかしら? ねぇ、あなたどう思う? ふふふっ」
(恋人じゃないなら…ちょっとくらい…いいわよね…。
あんな立派な体をしていらっしゃるのだし…。ああ、離れをカラにしておかないとね…)
今夜の事を思案しながら、私は口の端が僅かに歪むのを抑えきれないでいた…。
熱いシャワーを浴びて、度の強いブランデーをほんの少し口に含み、
香りを楽しんでから飲み下す。熱いアルコールと共に、黒い衝動が体中に
沁み、広がっていくのを感じる。熱く湿った溜息をついて、薄いネグリジェの上から
ガウンを羽織る。肌寒いくらいが丁度良い。荷物は粗末なランプだけ、静かにドアを閉め。
期待に胸を高鳴らせつつ、離れを目指す。今の私はどんな表情をしているのだろう…?
離れはすっかり寝静まっている。というか、今ここには伍長さん以外には誰一人いないはずだ。
私がそのようにしたのだから、間違いは無い。コツコツと靴音を鳴らし、伍長さんの部屋の扉の前まで進む。
胸が高鳴っている…。これは罪悪感かしら? ふふっ、そうかも知れない。
コン コン
「伍長さん? まだ起きていらっしゃいますか? ソリスです。
アリスの事で話が…」
別にアリスちゃんの事で話す事は別に無い。しかしこう言えば、間違いなくこの扉は
開くだろうと言う確信があった。入ってしまいさえすれば後はどうにでもなる。
しかし、返事よりも前に
ガタッ バササッ
何か、おかしな音が聞こえてきた。
「ハァハァ……ソリスさん…ですか? こんな時間に一体…?
お話であれば…失礼ですがドア越しでお願いしたいんですが…」
「あら? 何か見せたくないものでもおありになって?
そうね、例えば…猫を拾ってきてしまったとか? 構いませんわ。
猫くらい、会話の邪魔にはならないでしょう? それとも、とってもに大きな猫なのかしら?
さっきの物音からしても、確かに、随分大きそうね?」
彼は、プレッシャーに物凄く弱い。と私の勘が告げている。
多分これは間違いない。少し強めに…いえ、強くなくとも、少し押してやれば…。
「〜〜〜〜〜ッ……。い、あ…今、開けます」
これで最初で最後の難関…難しくもないけれど。ついに扉は開かれた。
後は日が昇るまで楽しむだけ…。何やら、予想外のお楽しみもあるようだし…。
「マズいですよ…絶対…こんな…」
「あら、それなら私を突き飛ばして追い出せばよろしいんじゃないかしら?
でも…それはとっても悲しいから、誰かに言わずにはおれないわね…。
アリスちゃんがどんな顔をするか…ああ、考えるだけで恐ろしいわ…」
「そっ…そうっ、思ってるなら…そのっ…その手を…どかしてください!」
部屋に入れば後は一方的なものだ。会話もそこそこに、伍長さんの逞しい胸によりかかり、股間を撫で上げる。
顔を見れば、真っ赤にして目をそらす。体中の筋肉はガチガチに硬直していて、初心である事が一目で分かる。
「初めてなんですのね? 伍長さん? ごめんなさいね…こんなおばさんが相手で」
「おばっ…そんな事!……ないです。ないと、思います。その…十分きれいで…」
「うふふ、ありがとう。嬉しいわ。でも今のは、認めてくれたのよね。私のこと。
大丈夫、すぐに終わるから…一夜の夢と思ってくれればいいの…。ね、お願い。屈んでくださる?」
体を押し付けたまま、手を伸ばして伍長さんの頬に触れる、ザラザラ、ゴツゴツとした感触が、不思議と可愛らしい。
高いところから荷物でも降ろしてくるように、伍長さんの顔が目の前まで降りてくる。私は伍長さんの顔を胸にかき抱く。
「んむっ!?」
「背伸びしてもキスが出来ないなんて…もう、困ったひと」
胸に伍長さんの顔を埋めたまま、額に口付ける。熱でもあるのではないか。と疑わせるほどに、そこは熱く焼けていた。
「これは最後の一線…ごめんなさい。ズルいわね。こうして強姦まがいにあなたを襲って。それでも貞操を保つつもりでいるのよ?
本当…」
「良くない…事です。これは。多分、しちゃいけない、事だと思います」
私が言うのを遮り、伍長さんは小さな声で話し始める。けれどどこか、強い意志が感じられる。
「伍長さん…」
「で…でも…。あなたのその…悩みが…その…俺にしか…できないことなら、俺は、俺は…協力します。
罪悪感…とか、なんか、そういうのは…ナシで、その…あの…あなただけ…苦しまなくても…いや、あれで、その」
反則だ。この男性はなんなんだろう? そんな体格で、そんなに縮こまって、そんな台詞を吐いて。
今の一撃で何もかもが砕け散った。男性への評価ではないかもしれないけれど、もう、可愛すぎる…!
ガバッ
手加減無しの抱擁。伍長さんの頭を潰してしまいそうな勢いで締め付ける。
「伍長さん、お名前は?」
「む…ぐ…ランデル=オーランド…です…」
分かったわ…ランデル。私のことはソリスと呼んでね。言うこと聞かないと、大声出しちゃうから」
「ふぁい…」
思う存分締め上げて、いざ、とベッドへ向かう。そう、一夜限りの夢なのだ。
そういうことで、いいじゃない。人生楽しんだもの勝ちよね?
私をベッドに座らせると、ランデルは毛布を―――――――――――――。
いつの間にか月は雲に隠れ、闇が世界を支配していた。
熱く絡み合うふたりをおぼろげに照らし出すランプは、それだけが世界で最後の灯のように感じられた。
いや、確実に、今はこの世界だけが全てだ。貴族としての地位も、妻としての立場も、何も無い。
今の私はただの女で、私が気に病む世界など、今この時だけはどこにも存在していない。
「そう…上手よ…。指の又に…ね、挟んで、うんッ、いいわ…もっと激しく…」
先ほどから、ランデルは私の胸に夢中になっている。まるでオモチャを与えられた子供のようだ、と。
場違いな想像に苦笑する。私の言葉に従順に従って、ぎこちなく、けれど確実に私の快感を引き出していく。
一生懸命な奉仕は心地良いけれど、それは予定調和の快楽に過ぎない。波間にたゆたうだけで、達することなど無い。
ランデルは楽しそうだけど…お、いいもの発見。
ぎゅむっ
「おあぁっ!? なっ、なっ、なっ!?」
何の前触れも無く、ランデルの股間に張ったテントを踏みつける。あくまで、優しく。
「こんなにしちゃって…興奮してくれてるのね? あン、手を止めちゃイヤよ?
上手に出来たら今度はランデルの番なんだから…」
グニグニとランデルのペニスをズボン越しに蹂躙する。触ってみて分かるけれど、この大きさは…。
と、感触を楽しんでいると、捨てられた子犬のような視線でランデルが見つめているのに気がついた。
「もう、ガマンできない? 悪い子ね…。いいわ、ズボ…ン…を…?」
それは予想外だった。もしかすると、私の腕ほどもあるのではないかというソレは、外気に触れて寒そうに震えていた。
ゴクリと唾を飲み込むと、恐る恐るソレに手を触れる。
「くっ…」
ランデルが苦しげに呻く。しかし、衝撃的なのはこっちの方だ。口にも収まるかどうか…。
「すご…。ねぇ見て…おっぱいからはみ出しちゃってるわよ…? 一体何センチあるのかしら…」
単純な口奉仕は不可能と判断し、胸を使うことにする。抱くように挟んで、余った亀頭を口に含んで吸い上げる。
「んっ…ふむぅ…ちゅっ…うふふ、あなたって、女の子みたいに濡れるのね? こんなに凶暴なのに…なんだか可愛い」
先走りの雫を舌で舐め取り、亀頭に塗りつける。その度にランデルの剛直はビクビクと痙攣する。
少しずつ胸で扱く速度を上げていく。双球が上下するのと合わせて、ランデルも声を殺して喘ぐ。
「声、出していいのよ? あなたが感じてくれているなら、私も嬉しいから…」
「だっ…だめッ…です…! そんな…早くした…ら…くあッ! でッ!」
「きゃっ!」
速度を上げてほんの少し、ランデルはあっけなく達してしまった。凄まじい量の精液が私の顔を汚していく。
「ぐあッ…ごめ…んなさい…。これッ…止まらなく…て…!」
まるでホースの用にビュルビュルと精液が迸っていく。生臭く暖かい白濁液は顔だけでは飽き足らず、
胸から体を余すところ無く汚していく。
「謝らなくていいわ、素敵よ。でも…こんなに臭いの沢山かけられて…私も余裕がなくなってきちゃったみたい…」
ギシリ、と、精液も拭かずにランデルを押し倒す。
「このまま…しましょう? 大丈夫…。私の方は準備できてるから…。ほら、あなたのもまだまだこんなに固いし…」
「い、や、あ、あの。俺、まだ心の準備が…」
「なーに言ってるの? 私にこんなにかけておいて…ほら、見ていて? 多分…入っちゃう…」
秘裂にペニスを宛がうと、くちり、と卑猥な水音が立った。騎乗位のスタイルで、少しずつ腰を落としていく。
「あっ…ホント…大きい…全然ッ…入ってかない…」
「無理しないで…ください…俺十分気持ちいいですから…」
もう、ランデルの言葉すら耳に入らない、ひたすら、男性器を女性器に埋める作業に没頭していく。
しばらくすると、もうこれ以上拡がらないと思われたそこが、次第にランデルのペニスを飲み込んでいく。
「あっあっあっあっ…拡がる…拡がっちゃッ…あッ! はいッ! 入るッ! 入るのッ! んくあッ!」
どんな音がしたのか、一番太い亀頭の部分が私の膣内に入り込んだ。それだけで、頭が真っ白になる。
達したのか、それすらもわからない。ただ、私の中の牝が、もっと、もっとと快感を欲していた。
「もう…大丈夫だから…お願い…ランデル…ぜんぶ…入れて…」
「くぅッ…無理です…これじゃあ、壊れて…」
「いいか…らッ! おかしくなりそうなの…! ほら…肩を掴んで…そう…一思いに…ぐっ…て、あぐッ!?」
ごり、と頭の中で響く。息が出来ない。何も考えられない。ただひとつ、私の中深くに打ち込まれた楔の、
ズクンと脈打つ鼓動を感じている。脳をピンク色の快楽が塗りつぶしていく。挿入の衝撃に呆けていたのは一瞬だったか、
それとも何時間もそうしていたのか、何時の間にか、私は自ら腰を振っていた。
「うあっ! ああッ! ランデルッ! いいのッ!」
抜ける直前まで引き抜き…一気に腰を落とす。その度に達し、頭の中を星が飛ぶ。
…目の前でランデルが口をぱくぱくやっている…、もう声すら届かない。あれほど強烈だった衝撃も今は薄れ。
獣のような声を上げてひたすら快感のみを貪る。ランデルの体を抱き締め、泣き叫びながら体を揺する。
度々感じる熱い精の放出。入りきらずに溢れ出た精液を指ですくい取り、舐める。その行為にまた達する。
まるで壊れたネジ巻き人形。いや、実際に壊れている。壊れていなければ、こんな行為は尋常ではない。
それから、何度の射精と、何度の絶頂があったろうか、差し込む陽光で目が覚めた。
「………………………」
状況がまだ把握できない。五感の殆どが塗りつぶされており、復帰には時間がかかりそうだ。
もぞりと、頭の下で硬い枕が動いた。その枕は私の頭を掴んで、サラリと撫でる。
枕の主はまだ夢の中のようで、目を瞑ったまま私の髪で遊んでいる。
「……ああ、私、やっちゃったんだ」
五感が次第に復活してくると、今の惨状も理解してしまう。
「えー………と。取り壊しましょう。この部屋」
我ながら大胆かつ的確な判断だと思う。それはそうと、眠い。早起きが習慣になっているのもなかなか煩わしい。
もう一度寝なおそう、と枕に頭を預ける………目が合った。彼は真っ赤な顔で、けれど私から目を離さない。
「おはようございます。伍長さん」