ここは、国営農場の宿舎。  
農場運営が順調に進んでいるか、視察にきている。  
急な嵐に見舞われて、昨日はここに急遽泊まることになった。  
ここまでは、何の問題もない。  
 
俺の顔を見るたび赤くなるマーチス准尉や、意味ありげにニヤニヤ笑ってるオレルド  
准尉、ミョーにハツラツとした少尉の態度がなければ。  
 
ああ。俺、ホントにこれからも3課で、やってけるのかな……。  
 
 
――――――――――――  
コトの起こりは、夕方からひどくなった嵐だった。  
簡単に食事を終え、各自割り振られた部屋へ戻ってからだ。  
 
「伍長、話がある。入れてもらえないか?」  
本日の調査書類を片付け、そろそろ寝ようかというころに少尉が俺の部屋をノックした。  
渡しそびれた書類でもあったかな、と思いながらもドアをあけた。  
「どうしたんですか、こんな夜更けに――……ッ?ななな、なんて格好をしてるんですか」  
ドアの向こうにいた少尉は、下着姿で、毛布にくるまっていた。  
「ウン、雷が…ひどくてな。眠れんのだ。一緒に寝てくれんか?」  
何をいっているのか、最初は理解できなかった。  
「…ハイ?」  
「…ッだから、雷が…」  
ちょうどいいタイミングで雷鳴が轟く。少尉はビクッと体をすくませた。  
「…怖いんですか?大丈夫ですよ、めったなことじゃ、落ちないし――」  
すべてをいい終わる前に、また雷鳴が轟いた。  
今度のはちょっと近いか――そう思うまもなく、少尉が抱きついてきた。  
「きゃあっ!」  
小さく震えている。子供みたいだ。とりあえず、落ち着くのを待とう。  
部屋に招きいれ、ベッドに腰掛けさせる。シャツをずっとつかまれているので、  
俺も隣に腰掛けた。  
「…おかしいだろう?子供の時から苦手なんだ。…怖くて、一人でいられない。  
…おまえが、頼ってもいいって、言ってくれたから…」  
毛布ごしに、背中をポンポンとなでる。――今さらながら、その小ささを実感した。  
 
 
さて。困った。  
少尉の瞳はうるんで俺を見上げているし、シャツの胸元はつかまれたままだし、  
毛布の合わせ目からチラリとのぞく少尉の白い肌はやたらと刺激的だし。  
マズイ。どう見てもマズイ。  
俺は己の失態を恥じた。あのまま少尉の部屋まで送り届けなかったことに。  
いくらシャツをつかまれていても、隣に腰掛けた――しかもベッドに、だ。――ことに。  
ずくん、と欲情が頭をもたげる。  
「あっあの、しょっ少尉はここでお休みください。俺、部屋の外にいますから。」  
赤くなった顔を見られないようにそむけ、少尉の手を解く。  
「――ッバカッ!どうしてわからないんだ!怖くて怖くて、一人で震えていたときに  
浮かんだのは、お前の顔だけだった!ほかの誰でも駄目なんだっ……私を守るって  
いったじゃないか。」  
駄々っ子のように俺の胸をたたく。毛布が跳ね上げられ、白い肩があらわになった。  
俺はこらえきれずにその肩を抱きしめた。  
「守ります。俺のすべてで。だから…。そ、その、俺も、一応男ですし。  
あ、あの…。かえって少尉を傷つけちゃうかも知れないか…うわ。」  
少尉が胸に抱きついてきた。俺を見上げている目からは、涙があふれていた。  
「バカ。そんなの知ってる。…女の私に言わせるつもりか?ここにきた理由を。」  
雷が怖いって………違うのか?そんな表情じゃないよなー…って、えええええええっ!?  
「あ、いやそのっ。あうう。」  
しどろもどろする俺。  
少尉は焦れたように、俺のシャツの襟をつかんで思い切り引き下げた。  
つられてガクンと首が下がる。そのまま唇同士がぶつかった。  
「なっ…」ダメです、少尉!  
そう叫んだつもりだったが、頭をガッチリと固められ、唇はふさがれたままだ。  
うわぁ、やわらかい。いいにおいだなぁ…じゃなくて。  
ダメだってこんなの。  
それに…さっきから少尉、震えてる。  
もしかして、初めてなんじゃ…。  
 
少尉の背中に手を回し、ほんの少し引き寄せた。  
ビクン、と体が硬直するのを感じる。  
……やっぱりな。思ったとおりだ。  
顔をあげ、唇を離す。ちょっと、いやかなり名残惜しいけど、まあ仕方がない。  
「少尉。こういうの、初めてでしょう?」  
「なっ…!」  
真っ赤になった。確定。うん、無理。  
俺は下半身をなだめつつ、少尉をしっかりと毛布でくるみ、  
自分の体ですっぽりと包み込んだ。本当に、小さいなぁ。  
「嵐がやむまで、こうしています。…これなら、雷も聞こえませんよ。」  
「…っ私はっ、こういうことじゃなくて!」  
うーん、納得していただけませんか。でも、なぁ…。  
「今は雷で気が立ってるんです。そんな状態のまま、しちゃったら  
後悔します。………そんなのは、俺も嫌です。」  
「私は……そんなつもりでは……」  
腕の中で少尉がうなだれる。額が胸に触れている。心臓の音が聞こえてなきゃいいけど。  
なんとも言いがたい沈黙が部屋を包んだ。  
どのくらいの時間が経ったのだろう。時折遠雷が聞こえる。嵐が去っていく。  
 
「伍長は、あったかいな……。ずっと、こうしていたい……。」  
そうつぶやくと、少尉の体から力が抜け、規則正しい寝息が聞こえてきた。  
俺は少尉の額にそっとキスをして――このくらいは、許してもらえるだろう。――ベッドに  
寝かしつけた。結局シャツは離してもらえなかったから、隣に寝そべることになってしまったが。  
――なんだか今日は疲れたなぁ。  
引き込まれるように眠りに落ちてゆく。翌朝のことなど何も考えずに。  
 
――――――――――  
コンコン、とノックの音で目がさめた。  
「伍長、起きてる?入るよ。」  
マーチス准尉の声。ああ、朝か――――  
「――はい…。」  
ボンヤリと寝ぼけたまま返事をしてしまう。  
ゆっくりと上体を起こし……昨夜のことを思い出す。  
血の気が一気に引く。どどどどどうしよう?  
「んん……。」  
「昨日の書類なんだけど――――」  
少尉が寝返りを打つのと、准尉が部屋に入ってくるのは同時だった。  
「オ、オハヨウゴザイマス。――ああの、これには深いワケがありまして…。」  
准尉は俺の言い訳も聞かずに、真っ赤になって部屋から出て行ってしまった。  
あああああ。俺何にもしてないのに。  
クスクスと忍び笑いが聞こえる。少尉、起きてたんですか。  
「ホラみろ。どっちみち、うわさになってしまったぞ。…おはようのキスくらいは、  
ねだってもよかろうな?」  
まったく、この人は……。  
俺は少尉の頤に指をかけ、そっと唇を重ねた。  
 
おわり。  
 

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