今宵はクリスマス。時刻は夜の8時頃。
帝国陸軍本部の構えるこの帝都も、ささやかではあったが、人々が聖なる夜を祝う空気で満ちていた。
そしてここ、陸情3課でも……。
「こ……これは……」
アリスは一人、シャンメリーを片手に呆然としていた。
ステッキンは、マーキュリー号と共に、だらしない笑顔で寝ている。
マーチスは、散々からんだかと思うと、今はトイレに行ったまま戻ってこない。
大尉がいない今、頼みの綱のオレルドは、サンタガールの格好をした他の課の女を見つけて、
颯爽と口説きに行ってしまった。
ランデルは……。
「ひょうい〜のんれまふか〜」
完全に酔っ払っていた。
途中までちゃんと机で呑んでいたのだが、今は床に座り込んで、アリスを見上げる格好になっている。
まるで、ダラダラとしている大きな熊のようだ。
「伍長、だから私は呑まないと……」
「ええ〜のんれないんれすか〜……のみまひょうよ〜ひょうい〜」
酔っ払った赤い顔で、酒の匂いをぷわ〜んと漂わせながら、アリスにグラスを向けてくるランデル。
「う……酒臭い……」
いくら伍長とはいえ、強烈な酒の匂いは、未成年な上に下戸のアリスにとっては苦手だ。
「ひょうい……」
グラスを受け取ってくれないアリスに、ランデルは突然涙目になる。
「うぅ……ろうせ……ろうせおれなんか……ひょういにとってはなんれもないんれすよね……。
こんな……らんたんなひじゃ……なんもれきない………うう…ぐす………」
「あ、あー、悪かった悪かった!もらおう、ありがとうな、伍長!」
泣きながら酒をあおる伍長に困り果て、酒の匂いを我慢しつつ、グラスを受け取るアリス。
これでは、まるであの時の赤ん坊と同じではないか!と思わずにはいられなかった。
「えへへへ〜〜……ひょうい〜〜めり〜くりふま〜ふ!」
さっきの涙はどこへやらで、にへら〜、と笑うランデル。
「……ああ、メリークリスマス」
そんな無防備な、極上の笑顔を見て、笑みをこぼさずにはいられない。
アリスの胸が、温かい気持ちでいっぱいになっていった。
「お前が素直に酔える今の瞬間が、私にとっての、戦災復興だ……」