よくある話ではあった  
『お話』としては、確かによくあると言ったほうが、わかりやすいか…  
棚の上のファイルを取ろうとした少尉が、バランスを崩し転んだ  
支えようとした伍長の頭と、少尉の頭がまともに鉢合わせ  
ダブルノックダウン  
目が覚めると、目の前に自分が…  
所謂、入れ代わりという奴である  
「どど、どうなってるんですかっ」  
「うろたえるな」  
余りにみっともなく動揺する、自分の姿に腹を立てビンタをかます  
二メートル超の大男が、華奢な少女に…  
一回転して、三メートル先の本棚に激突して止まる  
「す、済まない、大丈夫か」  
 
慌てて助け起こす  
予想外の惨事がショック療法になったようで、少しだけ落ち着いた  
「先ず確認するが、お前はランデル・オーランド伍長だな」  
顔に大傷を持つ巨人が、尋ねる  
「はい、でも俺が目の前に…」  
怯え切った少女が、震えながら答えた  
「私は、アリス・L・マルヴィン少尉だ」  
やはり、私も伍長になっているのか…  
状況は掴めたが、事態は何等変わりない  
きっかけは、頭をぶつけた事しか考えられない  
戻る為に、再度試みるが、何度かの徒労の末、伍長が根を上げた  
「頭が持ちませんよ〜」  
軟弱にも、泣き出したので中止する  
 
今の、巨大な体格を持つ少尉には、痛くも痒くもない『伍長は、こんなに泣き虫だったか?』  
えぐえぐと泣き声を上げ続ける少女の姿に、少し呆れる  
いや、昔の私はこうだったな  
父に、五才の頃から跡取りとして鍛えられた  
まだ、貴族としての誇りなど解らない少女には、ただただ辛い日々だった  
今はあの子が…  
滅多に会う事すらできない弟を思い、母性本能が爆発した少尉は、目の前の少女を抱きしめてしまった  
むろん、伍長にもこういう経験は少ない  
当たり前だ  
2メートルを遥かに超える巨体を、すっぽり抱けるサイズの人類は地上に存在しない  
 
不安と混乱の真っ只中にいた伍長も、子供の頃、母に抱かれた感触を思い出し、安らぎに身を委ねた  
互いを依り辺に、混乱から心を庇っていく  
状況変化は、少尉の身体から起こった  
膝の上に抱きしめている小さな存在  
ひどく柔らかく、よい香りがしている  
何だか、股の辺りがむずむずと突っ張っていく  
ちょうど、その上辺りにある伍長の尻に当てると奇妙な感覚が…  
痺れれるような、痺れが解けていくような、有り体にいって気持ち良い  
「あっ、あの少尉…」  
なぜか、首の後ろがむずむずし始め、正気に帰った伍長が、おずおずと声を掛ける  
 
「なっ、なんだ伍長」  
半分、夢の世界に飛んでいた少尉が、現実に戻ってきた  
「そろそろ執務室に戻らないとまずいのでは」  
確かに大分時間が経っている  
「そうだな、伍長」  
ちょっと考える  
「とにかく、課の者には内緒にしておくぞ」  
言ったところで、信じて貰えんだろうし…  
「はあ…」  
伍長も頼りなく頷く  
「まあ、あまり話さないようにして、終業時間まで乗り切ろう」  
   
   
…と、いう訳だった  
何とか執務を終え、共に退出する  
「取りあえず、伍長の家に行こう  
私の家だと人目がありすぎるからな」  
もっともな提案ではあったが…  
 
 
「馬鹿者!あんなところに住む奴があるか」  
ばれれば当然怒られる  
近くの安宿に入った後も、少尉の説教は続いた  
「体でも壊したらどうする!申請すれば…」  
ここで少尉が気付いた  
伍長の様子が変だ  
顔面蒼白で、カタカタと震えている  
「伍長、どうした?」  
「い、いえ、別に」  
明らかに、尋常でない様子に心配して、少尉は少し声を荒らげた  
「どうしたのだ!申してみよ!」  
顔を覗き込むように近付くビクッ  
伍長は、急に飛びのき、床に倒れる  
「大丈夫か?伍長」  
少尉が、助けようと伸ばした手を  
バシッ  
目の前の少女は払いのけた  
 
「「えっ」」  
お互い、思いもしなかった行動に、動きが止まる  
「すっ、すみません、少尉」  
先に、フリーズから解けた伍長が謝る  
「でも、どうしようもなく恐くなって…」  
「恐く?」  
少尉は首を傾げる  
「自分がこんなに恐いとは知らなかった」  
まあ、二メートル超の顔傷巨人に、目ぇむいて怒鳴られたら、そりゃ恐い  
少尉は一瞬、唖然としたがクククッ  
思わず笑い出す  
「では、お説教はここまでにしよう  
伍長、立てるか?」  
へたりこんでいた伍長に、手を貸し立たせる  
スイッ  
異様に軽い  
いや、こちらに力があるのか  
試したくなった  
 
「伍長、ちょっとすまない」  
目の前の、小柄な少女を抱き上げる  
「ひゃっ」  
軽い  
人間一人持ち上げてるとは思えない軽さだ  
「ズルイなぁ伍長は  
こんなに力持ちなのか」  
浮かれて、ステップを踏みながら、くるくると振り回す  
その時だった  
「イタッ」  
伍長が顔をしかめ、首筋に手を当てた  
「どうした、伍長」  
「はい、首が少し…」  
そういえば、昼間この怪力で殴って…  
「大丈夫か、見せてみろ」  
伍長をベッドに下ろし、上着を脱がせる  
「俺なら大丈夫です、このくらい…」  
遠慮する伍長だが  
「馬鹿者、それは私の体だぞ」  
 
非常にややこしい  
どちらにせよ、少尉に逆らえる筈も無い伍長は、大人しく診て貰うことに…  
首を回したり、曲げたりすると、少し痛みがはしる所がある  
「すまない、怪我をさせてしまったな」  
落ち込む少尉に、慌てる伍長  
「気にしないで下さい  
えーと、ほらっ、元々少尉の体なんですし…」  
何と言うか、これまたややこしい慰めである  
少尉も思わず、笑い出してしまった  
「ハハハッ、それもそうだな  
では、自分で手当てしよう」  
幸い、昼間使った薬を持ってきていた  
「シャツを脱がすぞ」  
「えっ」  
頬を赤らめる少女に、大男の胸が高鳴る  
 
「てっ、照れるな、馬鹿者  
そもそもそれは、私の体だ  
伍長こそ目を潰れ」  
「はっ、はい!」  
伍長が素直にギュッと目を潰るのを確認  
少尉は、気を取り直して、シャツを脱がした  
雪のように白い肌があらわになる  
肌から直に甘い体臭が香る肩越しにもはっきり見える、大きな膨らみ  
『なっ、何を考えているのだ、私は』  
再び、気を取り直して治療にあたる  
薬を少女の細いうなじへ…ピトッ  
冷たくぬめる薬をつけた、ごつく、やすりのように荒れた指で、敏感過ぎるうなじを撫でられたのだ  
目を綴じて、闇の中待っていた伍長には刺激が強すぎた  
 
「アアンッ!」  
伍長は、凄まじい色気を含んだ喘ぎ声を、漏らしてしまった  
「みっ、妙な声をだすな」「すっ、すみません」  
お互い、やましいこころを隠して、治療を続ける  
薬を塗って、後はマッサージだ  
「ンッ、クンッ…」  
声を漏らすまいと、耐える伍長だが、かえって悩ましい  
少尉も、いつしか淫声を絞り出すのが、目的になっていた  
うなじ、耳元、首筋、鎖骨の窪み、脇の下、二の腕など、時には強く、時には微かに触れる  
まるで、楽器を奏でるかのように…  
「少尉!」  
たまり兼ねた伍長が、意を決して飛びのく  
「どうした、伍長」  
 
どうしたもこうしたもないもんだが、まさか  
『セクハラは止めて下さい』  
と、言う訳にもいかず、伍長は、ついイランことを口にしてしまった  
「オシッコしたいです」  
言ってみて後悔したが、確かに下半身がムズムズしていた  
「そうか、では」  
半分、頭が飛んでいる少尉は、すぐに要求を叶えてくれた  
「こんなの嫌です〜」  
ズボンもパンツも脱がされて、幼児のように、膝裏にを押さえて抱えられる  
必死で抵抗したが、全く相手にならない  
自分のバカ力をカウプランに呪った  
「嫁入り前の体だ  
他のものに見せる訳にはいかんであろう」  
 
ぬけぬけと少尉は口にする  
「例え、伍長といえど見て良いものではない  
故に、私が世話する」  
理屈と膏薬はどこにでもくっつく  
大義名分を得た、少尉の暴走は続く  
「さあ、早くしろ  
それとも伍長は、私が病気になってもよいのか?」  
自分の体を盾に脅迫する  
あほらしいと言えば、これ以上あほらしい行為もないが、伍長には逆らえない  
催眠術にかかったかのように、体の力を抜いてしまった  
ショ〜〜〜  
   
排泄する少女の姿を見て、少尉の興奮は最高潮に達した  
冷静に考えれば、毎日見ている光景だが、伍長に強制したことが支配欲を刺激した  
 
「おや、目を開けているな、伍長」  
少尉は、目敏く見つける  
「あ、ああ…」  
あまりの恥ずかしさによるショックで、口も聞けない伍長  
まがりなりにも、最前線で兵隊をやっていた身にとって、人前で排泄することなど、どうということもないはずだった  
しかし、少尉に脱がされて、少尉に抱えられ、少尉に促され、少尉の見てる前でしてしまった  
少尉にさせてしまい、それを見てしまった  
見入ってしまったのを、少尉に見られた  
恥辱や罪悪感等の感情が爆発し、伍長を、自分がどうなっているのか、わからないほどの混乱に陥れた  
「困ったことだ」  
 
「こんなところを見られては、私は、嫁に行けなくなってしまうではないか」  
少尉は言った  
「どうする?私は、一生一人きりで生きねばならないのかな」  
からかうように、だが、どこか促すように熱を込めて…  
「おっ、俺が!俺が責任をとります」  
熱に浮かされたように、伍長は叫んだ  
いつもなら、決して口に出来なかっただろう  
少尉の体が勇気をくれたのか…  
「そうか、責任をとってくれるか」  
「はい」  
「伍長は私を嫁にしてくれるのだな」  
「は、はい」  
「ならば私は伍長のものだな」  
「は…」  
「私の身体も伍長の身体のものだ」  
 
ベッドに運び、少女を俯せに押し倒す  
「伍長のせいだ」  
私を狂わせたのは  
今の、伍長である少女の身体であり、伍長のものであった男の身体  
双方で私を狂わせた  
もう遠慮は出来ない  
「少尉、なにを…」  
後ろから押さえ込む  
「今から私を嫁にする」  
「えっ…」  
振り向け無いように頭を押さえ付け、首筋に唇を這わせる  
「ひゃうっ」  
先程の愛撫の名残か、伍長は直ぐに声をあげた  
『苦い』  
舌先を這わせると、薬の強い苦味がした  
虚言を使った罰か  
寧ろ、好ましい心地で、味わい続けた  
「止めて…、下さぃ、少尉ぃ…」  
伍長が懇願する  
 
「嘘だな」  
少尉は切り捨てる  
「私はいつも伍長に、こうされることを願っていたよ」  
大きな手を、シーツの隙間に押し込み、身体に潰されている乳房を掴む  
がさつく掌で押さえ、人差し指と親指で乳首を転がす  
「身体が熱くて、眠れない夜、」  
細い腰に手を廻し、抱きしめながら、脇腹に指を這わせる  
「こうして、浅ましく身体を慰めていた」  
股を割り開き、テントのように膨らんだ、股間を、少女の股間に擦りつける  
少女は、激しい責めに、ただ喘ぐだけだ  
「お前のせいだぞ」  
少尉は耳元に囁く  
「こんなに、嫌らしい身体になったのは」  
 
「俺の…せい…」  
うなされるように、伍長は応えた  
「そうだ、お前が何時までも抱いてくれないから、」  
腰を抱いていた手を滑らせて、股間を指でまさぐる  
「アアアッ」  
「こんなにも、苦しんでいたのだ」  
クチャクチャと水っぽい音が響く  
指を、タップリと湿らせるほど、蜜が溢れていた  
「苦しいだろう」  
膨れ上がった淫核を摘み、強く揉み上げる  
「ヒイッ」  
「苦しかったのだ」  
ズボンの前を開き、巨大な淫茎を引きずり出す  
「責任、とってもらうぞ」  
夢うつつの少女を、正面から抱きしめた  
「私はお前のものだ」  
一気に貫く  
 
身体を二つに裂くような、激痛が走った  
もとより、規格外のサイズが、初めての華奢な少女に納められたのだ  
尋常では耐え得る筈も無い苦痛を、歓喜が凌駕していた  
この痛みを、この傷を、この印を、遂に、与えられたのだ  
この幸福は、誰にも譲らない  
たとえ、伍長にも…  
激痛の中、少尉は静かに涙を流した  
   
伍長は、少女を組み敷いている自分に気がついた  
「…っ!」  
グロテスクなまでに巨大な淫茎で、裸の少女を犯し、血まみれにしている自分に…  
涙を流す少女の顔が、認識出来ない  
そんなはずはない  
自分が、全て捧げると誓った人だ  
 
ソンナハズ…  
呆然とする伍長の下から伸びた手が、胸倉を掴み引き寄せた  
そのまま、胸元を引き裂き、何かを抜き取る  
ドア・ノッカー  
対戦車用の巨大拳銃  
少尉の細い腕に握られた凶銃は、伍長の頭にポイントした  
「ここまで私にやらせたのだ」  
次の行動次第では…  
すみませんでも、大丈夫ですかでも、許されない  
少尉の意志を感じて、初めて伍長は、心の枷を外した  
何も言わなかった  
口を、言葉を発する以外の意志表示に使う  
初めて与えられた唇に酔いしれながら、少尉は銃を下ろす  
「呆れたやつだ  
ここまでしないと解ってくれないとは…  
 
心も身体も交じり合わせた、不思議な夜を過ごし、二人きりで迎えた朝  
お互い自分の身体を確認し直す  
少尉は華奢な少女だったし、伍長は傷だらけの大男だった  
正直、どのあたりから戻っていたのかはっきりしない  
自分がとったとは思えない行動もあったし、記憶自体、定かではない  
「まあ、良い」  
少尉はキッパリと言う  
「一番大事な事以外、必要無い」  
すっかり割り切った前向きな笑顔を見せた  
「はい、少尉」  
昨日より、さらに大事になった少女を見つめながら、伍長は明るく応えた  
 
 
終  
 

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