「まったくおまえというやつは!」
郵便横領事件の解決がみえたと同時に倒れるとはなにごとか。今回は大怪我もしなかったのに、
「腹を壊すなど自己管理がなっとらん! 拾い食いでもしたというのか」
そんなに生活に困っているのなら何故相談しないのだ、そんなに私は頼りないか?
詰め寄る少尉の剣幕に、伍長は一生懸命毛布を顔の上まで引き上げて隠れようとするが、巨体すぎて足先がどんどんはみだしていく。頭隠してなんとやら。
少尉はため息をつき、
「…あまり心配させないでくれ」
困ったように微笑んだ。
その優しい笑顔に、伍長はみとれる。肩で切り揃えた金色の髪に、この世の祝福すべてが宿って光輝いているようだった。
どうした、と無言の部下を覗きこみ、叱責に顔を赤らめているのに満足して、少尉はベッドサイドのテーブルから皿とスプーンをとりあげた。
「味気ない病院食だがな」
せめて食べさせてやろう…その申し出は魅力的すぎて、伍長は鶯の親に餌をねだるカッコウの雛のように、素直に口をあけた。
たまには生の芽付きじゃがいもをかじるのもいいかもしれない、と幸福を噛み締める伍長の口に、煮えたぎった粥がスプーンごと押し込まれたのは、次の瞬間だった。
粥を押し込んだ次の瞬間硬直し、背を丸めて口を抑える伍長。
涙目になり震えながらも、熱さに耐えて粥を飲み込み息をついた。
「す、すまん、大丈夫か!?」
伍長の様子にぽかんとしていた少尉が、慌てて顔を近付けてきて、思わず身を引く伍長だったが、
「こら、見せてみろ」
と、存外に優しい口調で命令され、頬をそっと柔らかい両の掌で包まれ、動きを止めた。
言われるがままに口を開け、少尉に口内の状態を見られながら、伍長の視線は上へ。
顔が近すぎて落ち着かない。
正視出来ないし、顔は熱くなってくるし、このままなのは大変ヤバイ。
口内に痛みはあるが、大した事は無い。
少尉へ内心の動揺を抑えながら大丈夫だと伝え様とするが、行動が遅かったらしく。
「…赤くなっているな。仕方無い。私の責任だからな。…冷やしてやる」
「へっ?…んっ」
ぬるりと、口内が柔らかいものに撫でられた。
視線を下にやれば、上目にこちらを見上げる少尉の顔が見える。
その頬が赤らんでいるのは、目の錯覚だろうか?