今日は降誕祭。  
サンタクロースが奇跡を起こす、年に一度のお祭り。  
戦災の傷跡はなかなか癒えないけれど、それでも人々は  
ささやかながらもお祝いをして、来年はいい年であるよう祈る。  
けれどもここ陸軍情報3課には降誕祭もニューイヤーもない。  
戦災に苦しむ人々を救うため、微力ながらも東奔西走しているのだ。  
うん、今日もがんばるぞ。  
そう意気込んで執務室に入るなり、課長に声をかけられた。  
「悪ィ、オーランド。おまえ今日戦災孤児収容施設に行ってくれ。」  
早速任務だ。…の割りに、課長の歯切れが悪い。  
それに、単独任務なんて珍しいな。  
オレルド准尉は複雑な表情だし、マーチス准尉は申し訳なさそうな顔してるし。  
「俺、一人ですか?あの、どういった任務でしょうか?」  
「んー、ボランティアの手伝いってトコだ。ま、行きゃわかる。マーチス、  
連れてってやれや。」  
手をヒラヒラさせて話の終了を告げる。ステッキン曹長がトテトテと走りよってくる。  
「伍長さん、これ忘れないでくださいね。」  
真っ赤なコートとズボンと帽子を渡された。  
何だこれ?今日の任務に必要なもの?潜入捜査?  
頭をひねっていると、マーチス准尉が声をかけてきた。  
「ごめん、伍長。これも重要な任務だと思って、がんばってね。じゃあ、行こうか。」  
何?何なの?俺どうなるの?  
俺は?マークを飛ばしながら、自動車に揺られ、戦災孤児収容施設へ運ばれていった。  
 
戦災孤児収容施設、と名前はご大層だが、建物は古びて小さい。  
あるだけマシ、というものなのだろうが、少々の失望感は否めない。  
ずっと無言で運転していたマーチス准尉が俺に指示を出す。  
「伍長、車の中で着替えちゃって。僕は職員とボランティアに挨拶してくるから。」  
車の中、って。これオープンカーですが。  
俺思いっきりはみ出してますし。ズボンはきかえてるときに警察きたらどーすんですか。  
上官に口答えしてはいけない。  
だけどあんまりな指示に口を開きかけたときに、准尉は車を降りていってしまった。  
…仕方がない。上官命令だし、着替えなきゃ。  
あたりをキョロキョロ見回し、通行人が途切れた隙にズボンをはきかえ、上着に袖を通す。  
帽子をかぶって、これでよし。と。  
バックミラーで確認をする。なんだかサンタクロースっぽいなぁ。  
上着のポケットに何か入っている。取り出すと綿で作った付け髭だった。  
……コレもつけとけってことかな。  
鏡を見ながら付け髭も身に付け、准尉の帰りを待つ。  
髭があるせいで、傷跡がくっきりと目立つ。こんなサンタいやだなぁ。  
やっぱり外そう、と付け髭に手をかけたところで准尉が戻ってきた。  
「お待たせ……伍長、似合うね……。なんか怖いけど。じゃ、こっちきて。」  
手招きに従ってついていく。教室の前に到着したところで、職員らしい女性に  
袋を渡された。  
「あら、今年のサンタさんは大きいのね。  
中に名前のついたプレゼントが入っています。名前を呼んで、一人ずつ手渡してくださいね。」  
「じゃ、伍長がんばってね。時間になったら迎えにくるから。」  
マーチス准尉はそう言うとそそくさと帰っていった。  
「え、あの。」  
「みんなー!今年もサンタさんが来てくれたわよー!」  
女性職員は俺の困惑などお構いなしに教室のドアを勢いよく開け放った。  
教室の中では子供たちがいっせいに歓声をあげる。  
「めっ……メリークリスマス……」  
「わぁ!サンタさんだぁ!」  
「違うよ、サンタさんはあんなデッカイ傷なんてない!体だって、デッカすぎるじゃん!」  
「怖ーい!」  
……素直な感想ありがとう。なんだか泣きたくなってきたよ、お兄ちゃん。  
子供たちに威圧感を与えないように身をかがめ、教室の真ん中にしゃがんだ。  
「ねぇ、サンタさんだよね?先生が、いい子にしてるとサンタさん来るっていってたもん。」  
「ケガしちゃったの?痛くない?」  
幼ない子がおずおずとよってくる。  
小さい子の夢を壊しちゃいけないよな。  
よし、俺今からサンタさん。  
「サンタクロースは、いい子のところに現れるんじゃよ。この傷はのぅ、ソリから  
落ちてしまったんじゃ。やさしい子じゃのぅ。」  
近くにきた子の頭をそっとなでる。  
顔がぱっと輝き、頬が上気する。  
「ホラ、やっぱりサンタさんだよ!すっごくやさしいもん!サンタさん、大好きー!」  
この一言が合図になったかのように、いっせいに子供たちが駆け寄ってきた。  
「サンタさん、俺ね、字が書けるようになったんだよ。お手紙かけるんだ!」  
「そっかぁ、がんばったのぅ。来年は、ワシにもお手紙を書いておくれ。」  
「あのねあのね、私嫌いなニンジン食べれるようになったよ。」  
「ホウホウ。ニンジンには、栄養がたっぷり入っておるからの。たーんと食べて大きくおなり。」  
なるべく一人ずつに答えながら、頭をなでていく。  
こんなに小さい子が、親を亡くしてしまっただなんて。  
どんなに心細いだろう、どんなに寂しいだろう。  
そう思ったら、涙が出てきた。  
 
「サンタさん、どうしたの、どっか痛いの?」  
「いたいのいたいの、飛んでけー」  
数々の小さな手が俺の頭をなでる。  
柔らかな暖かさに触れ、涙はなかなかとまらなかった。  
「グスッ……ヒック……。おまえたちが、あんまりにもやさしいいい子じゃから、  
涙が出てしまったんじゃ。……グスッ。みんな、みんないい子で、うれしくての。  
ワシもがんばるからの。みんなが笑って暮らせるように、もっともっとがんばるからの。」  
手の届くところにいる子供たちをまとめて抱きしめる。  
「あーっ、ずるーい。私もー。」  
「ぼくもー。だっこー。」  
こんなとき、大きな体は便利なのかもしれない。  
手を少し緩めると、腕の中が押し競饅頭のようになった。  
この小さな命のためにも、俺もっとがんばらなきゃな。  
「今年のサンタさんは、子供好きねぇ。助かるわ。……そうそう。大事なことを  
忘れてません?」  
あ、そうだ。プレゼント渡すんだった。  
「いい子のみんなに、プレゼントがあるんじゃよ。  
名前を呼ぶから、元気にお返事しておくれ。…えーと、エミリィ。」  
「はぁい!」  
いたいのいたいの、飛んでけをしてくれた子だ。  
「メリークリスマス、エミリィ。ずっとやさしい心を忘れずに、健やかに育っておくれ。」  
一人ずつ頭をなで、ハグする。  
「ジョージ。」  
「はいっ!」  
字が書けるようになったと教えてくれた子。  
「メリークリスマス、ジョージ。お手紙、待ってるから。大きくおなり。」  
エドワード、メアリ、ダグラス……全部で38人。  
結構時間がかかってしまったけれど、子供たちの満足げな顔を見たら  
そんなことはどうでもいいや。と思える。  
「では、ワシはそろそろ戻らなければならん。  
みんな、先生の言うことをよく聞いて、いい子でな。」  
「サンタさん、またきてくれる?」  
「いい子にしていれば、きっと。……楽しかったよ。ありがとう。」  
ポンポンと頭をなで、教室を出る。  
 
 
こんなので、本当にあの子たちの思い出になるんだろうか。  
夢や希望につながるんだろうか。  
大人の、身勝手な自己満足なんじゃないか。  
「――――毎年、パンプキン・シザーズの方にきていただいてるんです。  
子供たちは、それはそれは楽しみにしていて。プレゼントなんかよりずっと。  
戦争や戦後の戦災で親を亡くした子たちが、頼るよすがは、サンタさんくらいなのかも  
しれません。これからも、ここが必要でなくなるまで、お願いできませんか?」  
職員は、懇願というよりも半ば脅迫のような口調で語りかける。  
―――オマエタチノ シデカシタ 罪ヲ ソノ目ニ 焼キツケテユケ。―――  
軍に籍を置く以上、避けて通れない道。  
血で汚れた俺の手でも、あの子たちのひと時の希望になれるなら。  
生きるよすがになれるなら。  
「……手紙を、書いてもらう約束をしたんです。また来年も、ここへくると約束したんです。  
あの子たちが、笑って暮らせる世の中にするって。それが、俺の答えです。」  
一礼をして建物から出る。  
門の前ではマーチス准尉が車のそばで待っていた。  
「ごめんね、伍長。イヤな役を押し付けちゃって。……これも戦災復興のうち、とはいえ、  
どうにもやりきれなくって。」  
「……ジョージは、字が書けるようになったんですって。手紙を書いてくれるそうですよ。  
返事を書くの、手伝っていただけますか?その前に、カードを出さなくちゃいけないかな。」  
俺は車に乗り込んだ。  
足元でランタンが乾いた音を立てた。  
そっか、俺、今日持っていかなかったんだ。  
こんなもの、なくっても出来ることがある。―――そう思うと、なんだか妙にうれしい。  
「マーチス准尉、帰りましょう。みんな待ってますよ。」  
「ちょっと待って伍長。その格好で帰るの?」  
「ええ。だって今日はクリスマスですから。サンタが町を闊歩したっていいじゃないですか。」  
そう、今日は聖誕祭。  
サンタクロースが奇跡を起こす日なんだから―――。  
 
END  
 

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