『・・・やっちまった。』  
安い宿らしい薄手の毛布に包まり、隣で寝息を立てているフランシスカを見て彼はそう思った。  
 
 
事のいきさつは大した事でもなかった。  
間男らしく、狙った女に華を貢ぐはずが同じく花束を持った「亭主」に先を越されただけだ。  
ただしその現場を部下に見られ、なおかつ軽い嫌味でも言われれば彼でなくとも萎える。  
仕方無しに、行き先を失った花束をフランシスカに渡し【副長命令】という「花の処分」を言いつけた。  
「休暇中ですからっ。命令に従う義務なんてありませんからっ。」  
「絶対捨てませんからっ」  
以前からうすうす感づいてはいたが、この部下は自分に対し「単なる上司」以上の親愛の情を持っているらしい。  
仕事中は微塵もそんな感情は出さないけれども、元々分かりやすい性格であるため感情も読みやすい。  
彼は気にも留めないが、それでもそういった情を向けられるのは不快では無い。  
 
せっかくの休暇を共に過ごせる相手を失ってしまったが、生憎と時間はたっぷり残っている。  
そういえば、今朝から何も口にして無い事を思い出した。  
「軽く飯でも食うか?」  
後ろから花束を抱え小走りに寄ってくる部下に声をかける。  
「・・・えっ?」  
「イヤなら構わんが」  
「あ・・・いえ、そういうわけではっ・・・」  
「じゃ、行くぞ」  
 
 

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