守衛は少尉を抱えた伍長を見るなり「お前、またか」といってさっさと門を開けてくれた。
通り過ぎる人は子供を連れているのをみても3課だし・・・と納得していた。
ハンクスもなぜかあっさりと「保護」の許可を与え、晴れてランドル・オーランド伍長の任務は一日お姫様のお世話係となった。
(日ごろの行いって大事だ・・・)
そんなことをつくづく思う。
だが一方で困ったことが起きた。
大して多くも無い書類仕事をかたずけてしまおうと机にむかっていると、くいくいと軍服のすそを引っ張られた。
「ランデル」
振り返ると少尉がのすそを握って見上げている。おおきな瞳でじっとみあげられて伍長はうろたえた。
さすがにいつもの口調だと何かの拍子にばれそうなので子供として振舞ってもらっているのだが、こちらはわりとうまくいっている。
しかし・・・
「その、あ、アリ・・・スさん。その、名前を呼ばれるのは落ち着かないんですが・・・」
「さんはいらない」
視線をさまよわせていると、少尉は話しやすいように座っている伍長の膝によじ登ってきた。
ちいさな体が膝の上に納まると、体と机の間に小さな密談スペースができた。
(いつもなら少尉とこんな風に接近するなんて絶対ありえないよなあ・・・)
ふと18歳の少尉を膝に座らせている自分を想像してしまい、妙に後ろめたい気持ちにかられる。
伍長のやぶさかでない心情はおかまいなしに、少尉は前を向いたままぼそぼそとしゃべり始めた。
『仕方ないではないか、伍長伍長と呼んではつい地が出るやもしれん』
『あの、しかしですね・・・むずがゆいというか耳慣れないもので』
『それに、こうでもしないと気が治まらん』
ちらりと少尉が示した方。准尉ズが笑いながら雑談している。
マーチスに女心の何たるかを熱弁するオレルドを横目に見る少尉の視線はすこぶる寒い。
今の少尉は記憶喪失の子供ということになっている。
変に下手な設定をつけるより、何も知らぬで通したほうがボロが出にくいと踏んだのだが、
そこによけいな口をはさんだのがオレルド准尉だった。
『呼んでみたいからといって上官の名前を付けるとは何を考えてるんだっ』
『それがどうして俺の名前につながるんですか』
『八つ当たりだ』
『そんなぁ・・・』
『いいではないか、お前は今のうちに慣れて・・・ランデル後ろ』
『は・・・?』
「アリスちゃん、伍長さんとないしょ話ですか〜?」
「わぁっ」
いつのまにかうしろからステッキン曹長がわくわくと覗き込んでいて伍長はのけぞったが、膝に少尉が乗ったままなので腹筋を総動員して何とか倒れこむのはこらえる。
少尉のほうは接近に気が付いていたらしく、すっかり「子供モード」になっていた。
伍長の体越しという妙な会話が始まる。
「うん、曹長さんにもないしょ・・・」
「うふふ、膝に抱っこなんてしちゃってすっかり懐かれちゃいましたね伍長さん」
「だっ・・・こ・・・って、これはあの」
「照れること無いですよ〜。アリスちゃんは伍長さんのこと好きですか?」
事情をしらないステッキンはなんて事はない質問をしただけだったのだが・・・
周りにとっては迷子の子供でも、伍長にとっては憧れの少尉である。
異常な勢いで心臓がどくどくと高鳴り始めた。
「な、何聞いてるんですか曹長〜〜」
「うん・・・ランデルのこと、好き」
その1秒、周りから一切の音が消えた。
自分の心臓の音さえも聞こえない静寂の中で、伍長は何故か遠くで教会の鐘の音がなった気がした。
「ほら、やっぱり〜♪」
ステッキンは嬉しそうに手を叩くと、妙な鼻歌を歌いながらコーヒーを入れに戻っていった。
微妙な空気が後に残される。
半放心状態になっている伍長の顔を見上げて少尉は困ったようにこう言った。
『子供らしく答えたつもりだったのだが・・・何かおかしかったか?』
『そんな・・・ことは』
『ならいいのだが』
少尉の背がもたれかかってくるのをぎこちなく受け止めると、か細い肩がゆっくりと上下する。
無音の嘆息。
「ねぇランドル。もしも私が明日になっても明後日になってもずっとこのままだったら・・・」
「アリス・・・?」
自然と名前を呼んでいた。今はこうするほうがあたりまえなんだというように。
見下ろす目と見上げる目がカッチリと合わさった。
・・・
ワフワフワフワフッ
(あれ?)
「マー君だめーーー!」
ステッキン曹長の悲鳴と同時に伍長の後頭部にマグカップと、その中身が激突した。
運の悪いことに頭からかぶったのは子供用にミルクと砂糖のたっぷり入ったカフェオレだった。
熱くは無かったが、拭いただけでは髪の毛や首がべたべたして気持ちが悪い。
仕方が無いので猛烈に謝る曹長にものいいたげな少尉を預け、シャワーで洗い流すことにする。
そうしないではいられなかった。
伍長は狭い個室で熱い湯を頭から浴びながら、先ほどの少尉の表情を思い出していた。
(あんな顔をする少尉、初めて見た・・・)
力なく、腕の中から不安げに自分を見上げるその表情(かお)は
部下を見る上官の顔とも、大人をからかう子供の顔ともいえない、まったく別の「何か」のように見えた。
少尉が突然あんな姿になって振り回されもしたが、少尉と秘密を共有しているという事実は少なからず伍長に優越感を与えていた。
例え偶然だとしても、、あの場所を通りかかったのが、少尉が頼ってきた相手が、オレルド准尉でもなくマーチス准尉でもなく・・・かのレオニール・テイラーでもなく。
自分であってよかったと。
(まるで子供は俺のほうじゃないか)
冷たいタイルに額を押し付ける。
あの顔を見たときに思い知らされた。
突然、家族や仕事や自分の親しいと思われるものすべてから隔絶されて寂しいと思わない人間がいるはずないのに。
(だめだ、こんなことじゃ。俺がこんな気持ちでいたら少尉が安心できない)
「伍長、どうした?」
「・・・ッ!?しょ、しょ少尉?」
いきなり件の人物から声をかけられて、心の準備もなにもなかった伍長は慌てて頭を上げたひょうしにシャワーのノズルに頭を打ち付ける。
ゴキンと鈍い音がして突き抜けるような痛みに涙がにじんだ。
「〜〜〜つッ」
「大丈夫か伍長。悲惨な音がしたが・・・。」
「だ、大丈夫です」
答えてから今自分が裸だということに思い当たって急に恥ずかしさがこみ上げてきた。
シャワー室は個室にも簡単ではあるが扉がついているので直接見られるということは無いが、扉の一枚向こうに少尉がいると思うだけで気持ちが落ち着かなくなる。
さらに下半身にうずきを感じさらに泣きたくなった。
(何考えてるんだこんなときに、いくら少尉がいるからって、今は子供じゃないかっ俺の馬鹿)
微妙に挙動のおかしい伍長にぴたぴたと少尉の足音がちかづいてくる
「本当に大丈夫か?」
「すいませんホントに大丈夫ですから。」
動揺を悟られまいと必死になんでもないように振舞う。
振り返って少尉の顔を見るのが怖かった。
自分の情けない顔を見られるのも。
ガチャ、ばたん
扉が開いてすぐに閉まったかと思うとシャワーの残響音が変わっていた。
「ちょっと、何入ってきてるんですか少尉〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
「わめくな人が来るぞ」
「っ!」
あまりのことに思わず振り返ると、幼い素肌を晒した少尉がそこに立っている。
すぐに目をそらしたものの、立ち込める湯気のベールのむこうにはっきりとそれを確認してしまい顔が熱くなる。
今更のように自分が裸であることに思い当たり、慌てて掛けてあったタオルを腰に巻きつけた。
そうすることでやっと気休め程度に落ち着きを取り戻すことができた。
「少尉、なんで・・・」
「1日離れるなといったのはお前だ。」
「そっ、それはそう・・・ですけどっ、いくらなんでもこんなこと」
できるだけ距離をとろうと壁に張り付くが、少尉が一歩前に出るだけでその間はすぐに埋められた。
小さな少女一人押しのければすぐ脱出できるはずなのに、どうしてかそれだけはしてはいけない気がしてそれ以上動けない。
「今の私は子供なのだから特に気にすることもあるまい。それとも伍長は幼女趣味でもあるのか?」
あまりに無頓着な言葉に自分だけが空回りしている気がして心をかき乱される。
「ちっ違います!外見がどうであっても、少尉は少尉だから・・・っ」
(こっちばっかり意識して、うろたえて・・・)
「ランデル、こっちを見て」
名前を呼ばれ、条件反射で顔を向けそうになるのをぐっとこらえた。
これ以上振り回されたらどうにかなってしまいそうで・・・
「だ、だめですっ」
「お願い」
すがりつくような、必死な声。
(ああもう・・・)
結局逆らえずに振り向いてしまった。
日焼けのない真っ白な肌。
幼い、ゆるい曲線でできた体はあまりに華奢で綺麗だった。
ため息が出そうになるのをこらえてうつむく少尉のつむじを見ていると、しゃくりあげる声がした。
「少尉・・・泣いてるんですか!?」
「泣いてない・・・ッ」
それでも顔を上げる気配が無いので、意識しないように努めながら膝を付いて顔を覗き込むと、ぼろぼろと涙をこぼす緑の目とかちあった。
「見るな馬鹿っ」
ばちんっと頬を張られる。
「見ろって言ったくせに・・・」
「言ったが、なかなかこっちを見ないから勝手に涙が・・・とにかく、お前が・・・悪い」
それっきりしくしくと泣き出してしまった。
訳が分からない上にものすごく理不尽な気がしたが、それよりも少尉が泣いているという事のほうが重要だ。
とにかくなだめようと、やわらかい金色の髪を軽く撫でてみる。
ビクリとちいさな肩が跳ねた。
慌てて手を引っ込めると「続けて」とかすれた声が返ってきたのでおそるおそる手の動きを再開させる。
少尉は肩の力を抜き、しばらく目を閉じたあとようやくつっかえつっかえしゃべり始めた。
「きっと、バチが・・・あたったんだ」
「バチって、そんなことあるはずが。」
誰に恥じる事の無いように、まっすぐ生きるこの少女に誰がバチを当てるというのか。
否定しようとした伍長の口を手でそっと制し、涙をそのままに少尉は顔を上げた。
「だって、このところずっと、考えていたから・・・。私が貴族でなかったら、少尉でなかったら・・・自分の気持ちを臆することなく告げられる立場だったら、お前との関係はどう変わっていたんだろうって。」
「しょ、少尉・・・」
うまく語彙が汲み取れない。 『貴族でなかったら。自分の気持ちを告げられる立場だったら』自分の都合のいいように解釈してしまいそうになる自分に焦って何を言っていいかわからなくなる。
言いよどむ伍長から少尉は目をそらさない。
「最初はチャンスだと思った。いつもと違う自分を見せる事で、お前の意識を変えさせられるんじゃないかって。」
辛そうに笑う少尉に伍長の胸は締め付けた。
髪に触れている手を背中に回して、抱きしめて安心させてやりたいと思う。だが、いいのだろうかと怖気づく自分が邪魔をする。
「周りを気にすることなく触れられて・・・名前を呼べて、一時は嬉しかったけど・・・やっぱりそれは私の本当にしたかった事ではなかった・・・。いくら別の道を望もうとも、今生きてる私は私としてしか生きられないんだと・・・それを思い知らせるための罰だったんだこれは」
伍長はいつしか期待する自分を抑えきれずに熱っぽい視線で少尉を見つめていた。
「私はやはり、アリス・L・マルヴィンとして。私を取り巻くすべてを含めてお前に求められるようにありたい。」
それが上官としてだけの台詞でないことは今度こそはっきりと分かった。
濡れて宝石細工のような光をたたえる瞳の奥に伍長と同じ熱がゆらめいている。
「俺、うぬぼれていいんでしょうか」
伍長は意を決して少尉の肩を引き寄せた。
驚く少尉の小さな頭を抱きかかえ、シャワーで湿った髪に鼻先をもぐらせる。
上等な石鹸の甘い匂いを深く吸い込むと、くすぐったそうに少尉が身じろぎしたが、逃げる様子はなかったので安心する。
「ご、ごちょ・・・」
思いがけぬ伍長の行動に上擦る少尉の声。
「い、いまさらこんな事いって、・・・困っただろう?」
「そんな事無いです・・・俺、胸が一杯で。」
「だって、私は・・・っ、元に戻れるかどうかも分からないのに」
いいながらも不安げに首にすがり付いてくるのが無性に愛しくて、不思議とスラスラと口が動いた。
「俺も、少尉に謝らなきゃいけないことがあります」
「謝らなきゃいえない、事?」
「大変なときなのに、俺を頼ってくれた少尉を独り占めできて喜んでました。」
弾かれるように頭が離れ、顔を凝視される。
真っ赤な顔はお互い様のようだった。
「少尉はどんな時でも俺にとって一言で言い表せないほど大事な人で、少尉にとっての俺もそういう存在になりたいってずっとおもってたから。」
「伍長・・・」
不器用に笑って見せると緊張していた少尉の表情が少し緩む。
「でもやっぱりそれはパンプキン・シザーズの少尉と伍長としてすごした時間があったから育った思いだから・・・。他の出会い方をしていたら今とはまったく別の感情を抱いていたかもしれないし、もしかしたら出会うことすらなかったのかもしれない。」
「・・・うん」
再び引き寄せると、少尉は膝の上に立つようにしてさっきよりもしっかりと伍長の首に抱きついた。
「そんなの嫌だから。俺、アリス・L・マルヴィン少尉と一緒の今でよかった」
「私もだ・・・っ」
「たとえ元に戻れなくても俺、待ちますから・・・、これからもずっと少尉を守らせてください。」
「ありがとう・・・伍長。」
何もいわずただ抱き合う。お互いに同じぬくもりを、同じ思いを共有しているそれだけで充分な幸福に酔えた。
タイルと背中を打つシャワーの音だけが響く。
しばらくして、か細い声で少尉が沈黙を破った。
「ご、伍長?」
「どうしました?」
「実は、ここに来た・・・のは、別の目的があったからなのだ」
「別のって・・・」
「ゆ、誘惑しようと思って」
・・・
目が点になった。
(誘惑?誘惑っていったかこの人??)
意識しないように努めていた『裸で二人きり』という現実が反動をつけて戻ってきて警笛をガンガン鳴らしはじめる。
立った一言で一箇所に集まり始める血流に泣きたくなった。
このままではまずいと、さりげなさを装って少尉を膝からおろそうとすると首を絞めんばかりの強さで抵抗される。
「あ、呆れてるんだろう!!」
「聞き間違い・・・」
「違わないっ!」
かたまる伍長にやけになった少尉が一気にまくしたてる。
「だってお前が私のことを慕ってくれているなどと考えていなかったから・・・こんな体でもこのさいダメ元でと思ってだなぁ・・・っ、ああもう自分でも馬鹿だと思ったんだっ」
真っ赤になって恥ずかしがる少尉の姿はさきほどまでなら「可愛らしい」と思えただろうが・・・今は膝の上に爆弾を抱えたような気分だった。
「軽挙妄動といわれても仕方ない行動だった。でも、でもな・・・」
裸の胸が伍長に触れる。ふくらみのない平らな胸はトクトクと脈打ち、確かに少尉のぬくもりを感じさせた。
「今は、ただお前に何かしてやりたい気持ちで一杯なんだ・・・だめか?」
腕がほどかれ、少尉の小さな手が伍長の頬を包んで自分に向けられる。
何をと問い掛ける前に少尉のいとけない顔がかつて無いほどに近づき、反射的に目を閉じるとやわらかいものが自分の唇に触れた。
唇が重なった事に気がついたのは少尉が唇を離したあとだった。
かわりに額同士を軽くあわせ、猫のように摺り寄せる。
「少尉・・・今の」
「恋人への最初の接吻はお前にやる」
そういって笑う少尉の表情は子供の顔だというのにいつもより「女性」を感じさせ、さらに伍長の胸をかき鳴らした。
「2度目は・・・誰にあげるんですか・・・?」
「誰だとおもう?」
茶化すような口調だったが、その目はまっすぐに目の前の男だけを見つめている。
「俺からもらいに行きます」
迷うことなく離れようとした顔を捕まえて再度唇を重ねた。抵抗などあるはずも無かった。
2度といわず何度もついばむように口付ける。
「ンッ、ごちょう・・・くるし・・・っ」
うまく息継ぎができなかった少尉は身をよじった。
「ッあ!」
そのひょうしに、足に何かが触れ、伍長が短く悲鳴をあげる。
「なンだ?今硬いものが・・・」
「わーーーーっ!ダメです少尉見ないで」
見下ろす視線から隠そうと腰に巻いたタオルの前を手でおおったが、すでに高く隆起してタオルを持ち上げたソレは少尉の目にばっちりと焼き付いてしまっていた。
ぱちぱちと目を瞬かせ、おそるおそる視線を戻すと耳まで赤く染めた伍長の顔があった。
「伍長・・・、お前幼女趣味はないと言ったじゃないか」
「ち、ちがいますっ・・・、少尉じゃなきゃ俺こんな」
「そ、そうか・・・」
「ハイ・・・」
チラリと盗み見ると、頬を染めたまま腕を組んで何か考えている少尉の姿が見える。
不快感を現すような表情では無いようだが・・・。
(な、何考えてるんだろう・・・)
「伍長っ」
「は、ハイッ!」
「そのままでは辛かろう・・・鎮めてやるから、手をどかしてくれないか」
「ハ・・・えぇえええ!?」
意を決した少尉は伍長の膝から降りると腰のタオルをとりあげようと引っ張ったが、当然のごとく伍長は抵抗する。
「こ、こらっ、逃げるなっ」
「ダメですよ少尉!そんなことさせられません!!」
好意を持って触れようとしてくれているのは不相応なほどに嬉しいが、大人でも受け入れるのが困難なモノを、子供の姿の少尉にどうこうしてもらうわけにはいかない。
しばらくタオルを引っ張り合っていたが、ついに勢いで腰からタオルがはがれてしまった。
、伍長の巨きなモノが露出する。
「ひっ!?」
初めて見る上、あまりのサイズと形をしたそれに、少尉の体が金縛りのように固まった。
「だからいったのに・・・」
予想はしていたとはいえショックは隠し切れず、かたまった手からタオルを奪い返すとしょぼくれた犬のように伍長はうなだれた。
「怖かったでしょう?無理しなくていいですから・・・」
「むっ、無理なんかじゃないっ」
がっくりと伍長の顔を引っ張り上げ、少尉は意気込む。
「受け入れるのは物理的に無理かもしれん・・・がっ、他にも方法はあると姉上に聞いた事があるっ」
「姉上・・・って」
普段姉妹でどういう会話をしてるんだろうという疑問は決意と涙に彩られた真剣な瞳に押しとどめらる。
「待つといってくれたお前に報いたいんだ。頼む」
そんな決死の「お願い」をされては伍長に打ち勝つ術もあるはずがなかった。
タイルの壁に背を預けると、小さな少女が伍長の足の間にかがみこむ。男の体躯との退避も相成って異様な様相をかもし出しているが、2人ともそんなことに気をかけている余裕はなかった。
「こ、これが伍長の・・・」
緊張からかこくりとつばを飲み込んで、少尉はそろそろと伍長の半分固くなった雄に絹綿のような手をかけた。
「うっ・・・」
「っ!」
ふにっとやわらかい指が赤い先端をなぞった瞬間、ぞくりとした快感が背骨を駆け上がり、伍長は思わずうめき声をもらした。
反応した雄から慌てて少尉が手を離し肩をすくませている。
やはり怖いのだろうが、「やめますか?」と目で問い掛けるとそれでも気丈に睨み返してきた。
「大丈夫だ・・・っ、お前はよけいな心配をせずに任せていればいい・・・!」
気合を入れなおして再び触れる。今度は先端ではなく幹の方へ。
ごつごつとしたそれの輪郭を確めるようにおそるおそる指が這う。
先ほどほどではないが焦らされるようなじくじくとした快感に息がつまる。
血管にそって輪郭をなぞるように指を滑らせると、再度それは震えたが手は離さない。
「これが・・・伍長の・・・む・・・ぅ、片手で指が回らないな」
「うぅ・・・」
今まで散々言われて申し訳ないような切ない気持ちになってきたが、少尉の口から言われるとまた格別にせつなく、恥ずかしかった。
年端も無い子供に卑猥な行為をさせているという現実が頭の根底に罪悪感を根付かせていたが、それでも体は律儀に『少尉にしてもらっている』事実に対して素直に反応を返していく。
(ああ・・・俺って、わりと節操が無かったのかもしれない・・・。)
「気持ちいいか・・・?」
少尉は小さな両手を使って幹の部分をなで上げたりなでおろしたりを繰り返しながらおそるおそる聞いてくる。
口をあけると喘いでしまいそうだったので、口を引き結んだままうなずくと安心したように先ほどより大胆に手を動かし始めた。
裏筋に親指を当て軽くしごき上げ、膨らんだ先端のカサにそってなでつける。
そうして満遍なく触りながら伍長の様子を注意深く確認し、次々と気持ちのいいところを探り当てていった。
次第に息が乱れ、熱くなっていくのを感じ、伍長は少尉の観察眼のよさに舌を巻いた。
「あ、さっきよりも大きくなって・・・先のほうが・・・濡れてる、というのかこれは」
「しょ、少尉ぃ・・・っ」
「何てこと言うんですかと講義したかったが、好奇心の先行した少尉は先ほど触れたきりだった先端に指を這わせ、にじんだ先走りを塗り広げてしまった。
びりびりと駆け上がるはっきりとした刺激に再び声が漏れた。
「う・・・ぁあ・・・」
「ふふ・・・いいなその顔。こんな私でもお前を喜ばせられるんだ」
あどけない顔に恐ろしいほどの色気を含んで少尉が微笑む。
無性に愛しくなって口付けたい衝動に駆られたが、体格の差がありすぎてそれも叶わない。
もどかしさに体をゆすると膝の上に座っていた少尉の体も揺さぶられた。
「こら、動くなっ」
バランスをとろうと、ぎゅっと男の大事なところを締め付けられ、伍長は焦りと苦痛とで身悶えする。
「アァぁッ!?ちょ、ちょっと少尉・・・ッ、イタイですって」
「あっ!そ、そうかっすまんここは急所でもあるのだったな・・・」
思わぬリアクションに少尉は我に返り、真っ赤になりながらオロオロと伍長の様子を上目使いに伺う。
本当にすまなそうにしているので伍長は何も言い返すことが出来なかった。
「本当にすまない、痛かったか?」
締め付けた部分をあやすように両手で撫でさすられ、再び快感が戻ってくる。
「は、はい・・・」
意図はしてないだろうが、痛みと快感の波状攻撃に頭が朦朧とし始めた。
もう痛みが無い事を確認すると少尉は何を思ったか、これ以上ないくらいそそり立った雄を胸元に押し付けるように抱きついてきた。
膨らみの無い胸はやわらかさこそ乏しかったが、絹のような肌触りと熱いほどに感じるぬくもりが気持ちよかった。
「あァ・・・今度は何を・・・」
「手だけでは、触れるにも面積が小さいだろう・・・?だからこうした方が気持ちいいんじゃないかと思って工夫してみたん、だが」
伺う表情を見下ろす視界に、自分の下腹と少女のすべすべの白い肌にはさみこまれひょっこりと顔を出した張り詰めた先端が見えるのがひどく背徳的でエロティックだった。
「こうすると、お前のが脈打ってるのがよくわかる。」
少尉も熱に浮かされたようにうっとりとした口調になっている。
しゃべると熱っぽい吐息が吹きかかり、それだけで射精してしまいそうな衝動が尿道をせりあがってくるが伍長は下腹に力をこめて何とか我慢した。
それでも無意識にさらなる刺激を求めてせっつくように腰を揺らしてしまう。
「少尉・・・俺・・・俺・・・」
快楽で溶け始めた口がだらしなく続きをねだると少尉はまた魅惑的に微笑んで、抱きついたまま体を上下に動かし始めた。
(うわ、凄い・・・!)
圧迫され、やわらかい肌でこすり上げられる悦はどう表現しても表現し尽くせないと思われるほどだ。
直接感じる快楽と、一生懸命な中に興奮をにじませた少尉の表情。その倒錯感。
自然に増える先走りが曇りの無い柔肌をぬめぬめと汚し、胸の動きを助けていた。
それを申し訳ないと思うと同時にほの暗い悦びが興奮を助長させていく。
シャワーの音にまぎれてねちゃねちゃと粘着質な水音が響いていた。
「んっ、ふ・・・私の胸まで、ぬるぬるで・・・っ動かしやすい」
弾む息の中で少尉もどこか嬉しそうにつぶやく。
時折深く押し込んだ先端が少尉のあごを突き、それを避けようと背をのけぞらせると押し当てた肌の圧力が増して自然に絞り上げるような動きになる。
「っん!?」
「ごめんなさい、おれもう・・・っ」
それがたまらず、思わず自分から少尉の背を抱き腰を突き上げる。するととさらに深くなって唇に届かんばかりになった。
「ご、ご・・・!やだっ、そんなにしたら胸がッしびれてしまうぅ」
「・・・しょうい・・・っしょういッ」
本当は、もっと続けたい。
この時間を味わっていたい。
(でも、でも・・・)
一度タガが外れると、あとは一直線に解放へと向かってひた走るだけだ。
それも近い。
「伍長、出そうなの、か?」
揺さぶられ、それでも離れないようにしがみつきながら少尉が切ない声をあげた。
粗い息の中、必死にうなずいて返すと少女の顔がくしゃくしゃにゆがむ。
「終わる・・・終わってしまう・・・ランデル・・・ッ」
ひときわ深く押し付けた先、少女の唇が先端に触れた瞬間---
「好きです、アリス・・・ッ !」
限界まで張り詰めたものが迸った。