「まったくなんて広い胸だ」  
アリス少尉は横たわる部下の汗まみれの上半身をぬぐいながら、呆れたような、それでいてうっとり  
するような奇妙な気分に囚われていた。見た目がどうであろうと貴族のお姫様であることには変わり  
ない彼女は、異性の裸体などほとんど目にしたことはない。  
 士官学校時代は男に囲まれていたものの、十三貴族の威厳に加え彼女自身の性格がかもし出す雰囲気の  
せいか、周囲の男たちはみな遠慮のカタマリと化し、猥談の一つもめったに彼女の耳に届く事はなかったのである。  
『病人の体を拭いているだけなのに、なぜこんなにやましい気持ちになるのであろう?』  
街の娘が自室に引き取った後、ほどなくしてオーランド伍長は眠りに落ちた。  
熱も少し下がったようなので安心して自分もウトウトしかけたアリスだったが、低いうめき声に目を  
あければ、ベッドの伍長はひどい寝汗をかき、どことなく苦しげであった。  
『そもそも、なぜ服を脱げ、とあの時言いだせなかったのだ?』  
雨の中動く事もできずに何時間も放置されていた彼の全身はびしょぬれだった。熱を出していることを  
考えれば濡れた服は脱がせるべきだったろう。着替えはないがシーツにでもくるまっていればいい。  
こんな非常事態なのだからズボンまで脱いでも何も思わなかったのに。  
 なぜだかどうしても言い出せず、気持ち悪ければ伍長が自分から脱ぐだろうと放っておいたのだが……  
そんなことも自力でできないほど弱っていたとしたら、まったく申し訳ない事をしたものだ。  
 そう思うと腹筋の割れた腹を締め付けているベルトがとても窮屈そうに見えたので、あまり音をたてない  
ようにそっと抜き取った。ズボンもぐっしょり濡れている。コートの下だからそれほどでもないだろうと  
思っていたのに、首から入った雨が流れ込んだのかもしれない。  
 さぞかし気持ち悪いことだろう……ズボンも脱がせたほうがいいのだろうけど。  
『な、何を迷うことがある! 腹が冷えたら大変ではないかっ』  
アリスは決意を固めると伍長のズボンに手をかけ、ウェストのボタンを外しファスナーを引き下げる。そして  
ズルズル引き下ろそうとしたが、濡れて絡みつく下着まで一緒に降りていったので急にどきりとして、  
それ以上はやめてしまった。ズボンも下着も骨盤のあたりで引っかかった形になる。  
 下着は引き上げたほうがいいだろうと視線を移せば、そこは女とは違い、おかしな具合に盛り上がっていた。  
 アリスは何故だかいたたまれない気分になったが、ヘソから下着の奥に向かって黒い体毛がまばらに  
生えた辺りも濡れているようなので、拭いてやろうとタオルを持った手を近づけた。顔を寄せると  
なんとなくむっとしていて……シャツを脱がせた時とは違う、もっと強いにおいがする。  
下着のふくらみがとても大きいので思わず袖をまくった裸の腕が触れてしまった。そこはさらに熱く  
妙にふわふわしていて、そんな女の体には存在しない感触に彼女は大いにうろたえ、やけどでも  
したかのようにすばやく手を離した。  
『か、下半身のことは見なかったことにしよう!!』  
 
 そこはそのまま放っておくことにして、アリスは頭を振ると自分が風邪をひき入浴できなかった時に、  
どんな世話をされたか思い出すことに集中した。……首や脇の下を拭いてやろう。  
 伍長の体は呆れるほど広く、拭きながら彼女は士官学校時代のフェンシング場の床磨きなどを思い出す。  
『いっそのことあんなふうに雑巾掛けしてやろうか。……おや、こんなところにも傷痕が……』  
脇腹の傷を指先でなぞると大きな体がビクリと反応し、アリスは慌てて指を離した。なんだか物凄くいけない  
ことしたような気になる。狼狽しつつボサボサの黒い前髪をかきわけ額に手を当ててみたが、熱は以前より  
下がったらしく、苦しんでいる様子はない。もう平熱のようだな……彼女は安心した。  
 伍長の体は幅広くて、反対側の脇を拭こうとすれば、必然的に覆いかぶさる形になってしまう。アリスの  
まろやかな乳房が洋服越しに広い大きな裸の胸に密着したが、そのあまりにも自分とは違う感触に彼女は  
戸惑いを感じ、飛び跳ねるように体を離すと、まじまじと見下ろした。  
『すごく硬い。お前の胸は筋肉で出来ているのだな』  
男と女とはこうも違うものなのか……アリスはしげしげと観察し、思わずその大胸筋の盛り上がった広い胸を  
触ってみた。縫合痕のせいで滑らかではない。乳首はずいぶん端のほうについていて、桃色の自分のものより  
ずっと濃い茶色で、そしてずっと小さかった。  
『男もやはりくすぐったいのであろうか?』  
熱が下がったことに安心した彼女は好奇心に加えちょっとしたイタズラ心が湧いてきて、レンズマメほどしかない  
小さな突起を、細い指先で軽くつついてみる。  
 反応はない。  
『小さいせいか……やはり女とは違うな』  
彼女はなんとなくつまらなくなり、指でつまむとこすってみた。だんだん硬く、尖ってくる。なんだか面白くなって  
もう片方の乳首も当時に刺激してみた。そちらも同じように反応してくる。  
 ふいに、伍長が体をよじりうめき声をあげた。  
 アリスはどきまぎと手を離し、誤魔化すように丸めた濡れタオルを胸に当てる。私は拭いているだけなのだ、  
と何度も強めにこすってしまい、硬く絞ったタオルの下で乳首がますます硬くなったのに彼女は気づかない。  
 伍長の体温が上昇したような気がした。見れば、顔が赤らみうっすらと汗をかいている。なんだか苦しそうだ。  
 服を脱がせたせいで冷えたのかも、と心配になったアリスはきちんと整えようと、見ないようにしていた下半身に  
目をやった。  
『な?! なんと!』  
 下着の膨らみが明らかに以前より大きくなり、形も変わっている。ウエストのゴムがわずかに持ち上がっていて、  
隙間から何やら赤っぽいものが見えた。  
『……と、とりあえずズボンをはかせてしまおう!』  
男女の体の仕組みについては家庭教師から教わっていたはずだが、剣術一筋で男女の出来事に興味を抱いた事の  
なかったアリスにとって、それは知識でしかない。いきなりの出来事に思い出すこともなく、ただなぜだか  
やましい気持ちでいっぱいになり、彼女は触ってはいけないと禁止されていたものに触れて壊してしまった子供の  
ごとく、隠してしまうことしか思いつかなかった。  
 ズボンを上げファスナーを引こうとしたが、当然そののままでは引き上がるはずもない。強引に動かしていると  
ゴムがずれてしまい、赤い肉棒がひょこりと飛び出し、開放されたせいかますます大きくなってしまった。  
 アリスは慌てて下着を引っ張り上げたが収まる限度を超えているらしく、それでも無理に引き上げようとすると  
硬いゴムが先端の茸のカサのような部分を何度もこするかたちになり、伍長は苦しそうなうめき声を出したが、  
それでも目覚める気配はない。  
 無理やり捻じ曲げ収めようとすると、さっき腕が触れた時はあんなにやわらかかったのに、今は骨でも入っている  
かのように硬く、無茶をしたら折れてしまいそうだ。おまけに何が出たのか手触りがヌルヌルしはじめ、  
彼女が慌てれば慌てるほど、それは大きく硬く、太くなってゆく。  
 突然、ノックの音が響き、アリスは文字通り飛び上がった。ドアの外から街の娘の声が聞こえる。  
「あのー、軍人さま。苦しそうなお声が聞こえるのですが……どうかされたのですか?」  
 
 よくわからないが見られてはいけない光景のような気がする。慌ててドアに飛びつき、わずかな隙間から  
対応した。  
「い、いや、悪夢にうなされているだけだ、大事はない」  
「お水でもお持ちしましょうか?」  
「いや眠っているから!! わ、私一人で対処できる、お前は休んでいるがよい!!」  
娘はけげんな顔のまま立ち去り、アリスはしっかり鍵をかけると眠れる巨漢の傍らに戻ったが、下着のゴムを  
窮屈そうに食い込ませたまま、伍長はあいかわらず苦しそうに息を荒げている。  
 アリスは途方にくれつつ、その赤く張り切った物体を眺め……不意に屋敷の厩舎を思い出した。  
『おお、そう言えば!ピーロの種付けの時、同じ様なものを見たぞ!!』  
アレに比べればやや小ぶりだと思ったが、思えば伍長は人間である。しかし牝馬もいないし熱を出しているのに……。  
『なるほど、これが姉上の言われていたことなのだな! やはり男は下半身の神経が独立している生物なのだ!!』  
合点がいったアリスの脳裏に、様々な知識がめまぐるしく浮かぶ。  
『そうだ、射精させてやれば、きっと元の大きさにもどる!!』  
士官学校の噂やソリスの話から寄せ集めた、断片的で且ついい加減で誤解に満ち満ちた知識を総動員し、彼女は伍長の  
ものをむんずとつかんだ。  
『確か魔法のランプのように、こすれば出るという話だったな』  
片手でつかむと皮を上下させるようにしごいてみた。伍長はうめいたが透明な汁が滲み出すばかりで、噂によれば  
一メートルぐらいは飛ぶものらしいから、これは違うもののようだ。  
「こら、さっさと出してしまえ!!」  
なんだか恥かしくなってイライラしてきたアリスは、右手をものすごい勢いで上下させる。もしも伍長が目覚めて  
いたら、もっと優しくして下さいと哀願したことだろう。そんなに激しくしないで、もっとゆっくり大事にしてと。  
 彼女は士官学校時代ふと耳にした、男子学生たちの先っちょがどうのこうのという話を思い出し、先端の穴の  
辺りに左手の親指の腹を当てがい、ぐるぐる回してみた。透明な汁が後から後から溢れてくるのでとてもスムーズに  
できる。他にどんなことをすればよいのだろう。学生たちはアリスに気づくと、怯えた目つきで蜘蛛の子を  
散らすように逃げていってしまったので、残念ながら続きを聞くことはでなかった。  
 横たわる伍長は顔を赤らめ眉間に皺を寄せ、ひどく苦しげに息を吐いているが、溜まると大変ツライというらしい  
から、きっとそのせいだろうと思う。だいたい射精は男にとってとても気持ちのいいことらしいではないか。  
『えーい、まだ出ぬのか!!』  
手の疲れてきたアリスが赤い先端を覗き込んだ時。突然何かが飛び出し、鼻の頭にびちゃり、とかかった。  
 彼女がびっくりして飛びのくと、白い半透明の卵の白身のようなものが、びゅっびゅっと勢いよく飛び出し、  
そのたびごと伍長はうわずった声を上げた。四、五回繰り返すとそれは止み、腹筋の見事に割れた腹の窪みに、  
糊状の痕を残した。  
 
 行為の間中緊張していた伍長の体は今やすっかり弛緩し、水中に沈みこむようにぐったりとベッドに横たわっている。 溺れている夢でも見ているのではないかと彼女は思う。  
『うー、ヘンなにおいっ』  
鼻の頭に手をやると生温かくにちゃりとする。  
 それにしてもたくさん出るものだ。  
 一体何億匹の精子が無駄になったことだろうと、顔をしかめて彼女は伍長の腹を見下ろす。  
 彼女が嗅ぎなれぬにおいに辟易しながら飛び散ったものをぬぐい終わった頃には、厩舎で目撃したものはすっかり  
小さくなり 、ただのくにゃくにゃした肉の塊に戻っていた。  
 下着を引き上げズボンを元通りにととのえる。ファスナーを上げる時少々しくじり挟んだような気がしたが、  
ひっぱったら 外れたので大丈夫だろう。  
 アリスはようやく一息つくことができた。  
 しかし、伍長はまた汗をかいてしまったらしい。  
 ゴワゴワになったタオルは丸めてくずかごに捨て、新しいもので広く分厚い胸板を雑巾掛けしながら、彼女は  
男性の体の不思議を思う。ピーロに比べれば小さめとはいえ、あんなものが女性の体に入るものだろうか?   
まあ、ピーロの相手の牝馬も、私の心配をよそに元気にいなないていたから、きっと収まるようにできているのだろう。  
『なにしろ赤子が出てくるところであるしな』  
 自分の体でも入るのだろうか……という考えが、チラリと脳裏に浮かびかけた時、彼女は何やら視線を感じた。  
 うつむくと伍長がぼんやり自分を見上げていた。どうやら眼が覚めたらしい。  
 いけないことをしたとも悪いことをしたとも思わないが、このことは絶対、彼に悟られてはいけないような気がする。  
 アリスは視線が恥かしくてたまらなくなり、……夢中でビンタを振るった。  
「寝汗が酷かったから拭いてやっていただけだ。不誠実な事などなにもない、ウン……」  
 
 
 END  
 

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