「何時も何時もすみません  
少尉」  
「仕方あるまい  
伍長はこうしないと、睡眠がとれないのだからな」  
恐縮する大男に、小柄な少女はキッパリと応えた  
さいわい、彼女のベッドは、彼女が五人寝れるほどの大きさがある  
市販のベッドでは、まずサイズの合わない伍長とでも、ゆったり横になれた  
大きな頭を軽く抱きながら  
「子守歌でも唄ってやれればよいのだが、あいにく私が唄えるのは軍歌ばかりなのだ」  
などと、色気のない話をする  
もっとも実際には、色気は不足どころか有り余っていた  
薄い夜着一枚に包まれた、健康的な身体  
少尉には邪魔でしかない双丘が、零れんばかりに張り出していた  
その胸に包み込むように、伍長の頭を抱えている  
細い腕に、しっかりと……「さあ、もう休め  
明日も仕事が待っているぞ」  
「はい、少……ぃ……」  
返事もそこそこに、伍長は落ちるように眠り込んだ  
『また、無理をしていたのだな』  
伍長の不眠症が発覚してから、幾度の夜を共に過ごしたことだろう  
始めは伍長の居眠りからだった  
もてもとデスクワークは苦手のようだったが、サボるような男ではない  
なのに、ここのところ書類仕事を始めると、直ぐに船を漕ぎ始める  
何時も注意したり、時には激しく叱責したが、一向に収まらない  
むしろ、少尉がいる時に限って居眠りしてしまうようだ  
心配になった少尉は、嫌がる伍長を無理やり病院に引きずっていった  
はたして病名は  
「不眠症!?」  
医師の診断に、驚きの声をあげる少尉  
「居眠りで困っている奴が、なんで不眠なのだ?」  
「ちゃんと眠れないから、居眠りしてしまうんです」  
医師は、慣れた口調で説明する  
「しかし、いつも居眠りする場所があるなら、そこなら睡眠がとれるかも知れませんな」  
「フム」  
何か考え込む少尉  
「よし、伍長  
今日から家に泊まれ」  
   
   
   
続く  
 

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