俺の胸の下で、甘やかな吐息混じりの声が、俺の名前を呼んでいる。  
苦痛とも、悦楽ともいえない、途切れ途切れの声。  
自分の体が邪魔をしてその表情は見えない。  
どうして、こんなことになったんだろう。  
やわらかく俺を締め付ける体に身を沈めながら、ふとそんなことを思った。  
 
あれはそう。俺が三課に入ってから何度目かの入院をし、復帰した日のことだった。  
快気祝いだと、准尉たちにつれられてパブに行った日だ。  
妖しげな店に行くのを阻止するため、という名目で曹長と、珍しく少尉も一緒だった。  
そこで曹長が一番初めに酔いつぶれ、オレルド准尉が担いでつれて帰ったんだっけ。  
そのあと少尉がジュースと間違えてカクテルを一気飲みしちゃって、俺が介抱することに  
なって。良家の子女をグデングデンに酔っ払った状態で帰宅させるわけにも行かなくて、  
少し休ませるつもりで近くの安宿に入って――初めて、お互いの肌を重ねた。  
いまさら言い訳がましいけれど、そんなつもりは毛頭なかった。  
少尉の小柄な体には、俺はあまりにも凶悪すぎて傷つけてしまう。  
怖がらせたくない。嫌われたくない。  
何より、少尉と伍長であるということから逸脱してしまうのが怖かった。  
『おまえの過去も、後悔も、罪だって一緒に背負う覚悟はとうにできてる。  
 もうおまえ一人で苦しまなくたっていいんだ』  
酔って潤んだ瞳でベッドに横たわりながらも、俺に差し伸べたあの手に、俺は引き寄せられた。  
俺の手は、血で汚れきっている。だけど。その存在を、確かめたかった。  
ただ抱きしめるだけでいい。ほんの少しのぬくもりを感じるだけで。  
俺は日に日に貪欲になってゆく。ただ側にいられるだけでよかったはずなのに――――  
 
「――ご……ちょ……んぅっ!……」  
少尉の声が高くなり、俺から逃れようと体をくねらす。もう限界が近いのかも知れない。  
少尉の中が、じわりと俺を締め付け、うねる。俺も、もうそろそろヤバい。  
胸の下の少尉の体をしっかりとホールドし直し、腰のストロークを緩める。  
少尉の体を抱えたまま身を起こし、つながったまま俺の腹に腰掛けさせる。粘ついた  
水音をたてて、俺の楔が少尉により深くうずめられた。  
ひときわ高い声をあげ、少尉が体を反らせた。桜色に染まった体も、快楽にゆがめられた顔も、  
きれいだ。  
俺にしか見せない表情。俺だけの。もっと、もっと見せてほしい。  
「ご、ちょ……。泣くな……んぁっ!私は、ここにいるから……」  
いつのまにか汗とともに頬を伝っていた涙を、少尉の白い指がぬぐった。  
どうして、涙なんて出たんだろう。悲しくなんかない。少尉の体はとても気持ちよくて、  
満たされていて、幸せなのに。  
少尉の手をそっとつかみ、口に移動させて指先を舌で舐る。  
整えられた、傷一つない滑らかな指。軽く歯を立てると、ぴくんと体が跳ねた。  
もっと全身で俺を感じて。反応して。俺以外、何も目に映らないくらい。  
俺も、少尉以外、何もいらない。  
少尉の中をかき混ぜるように体を動かす。その動きにも敏感に反応して、小さな高い声を  
あげた。見上げる緑の瞳は潤んで、もはや焦点も定まらない。半開きのままの口の中に  
指を入れた。本当はキスして少尉の口の中までむさぼりたい。上あごをなで、舌先を  
引っかくように指を動かすと、少尉の舌が俺の指を追う。  
ねっとりと絡みつく舌は、俺に更なる快感と欲望を起こさせた。  
閉じることを阻まれた少尉の口からは、唾液がとめどなくあふれてくる。  
絡みついた唾液を擦り付けるように、のどから鎖骨を経由して白い隆起の頂点に  
指を滑らす。  
桃色に染まったそこは、ぴんと存在を誇示していた。表面をさらりとなでると、  
少尉の体に電流が走ったように跳ね上がる。それに反して、俺を収めたところは  
激しく収縮をする。  
「ん、くっ……少尉っそんなに締め付けたら……っ」  
「……って、伍長の……っ全部気持ちい……っ」  
粘液のこすれる音と、肉がぶつかり合う音と、荒い呼吸音が部屋に充満する。  
白い胸をもみしだいていた手を解き、少尉の手と重ねた。  
ばね仕掛けの人形のように体をくねらせ、激しくたたき付け合う。  
あとはひたすら、駆け上がってゆく。  
「少尉、俺、もう……っ!」  
「ご、ちょ、来い……っ!」  
俺を飲み込んだ少尉の中が、うねって絡みつく。  
腰から突き抜けるようにすさまじいほどの快感が走る。  
びくびくと痙攣しながら運ばれるそれは、すべて少尉の中に収まりきらず、  
結合部分からぶくぶくとあわ立ちながらあふれていた。  
少尉の体から力が抜け、俺にもたれかかってくる。全身水をかぶったように汗でぬれていた。  
眠ってしまったのだろうか。体に変調はないか。  
腰を浮かせて引き抜こうとしたそのとき、少尉の手が物憂そうにその動きを阻害した。  
「……このままでいてくれ……少し、休む……」  
汗ばむ胸に頬をつけたまま、少尉が静かな寝息を立て始める。  
俺はそのまま仰向けに寝転がり、少尉の髪の毛をしばらくの間もてあそんだ。  
いつしか俺も睡魔に引き込まれ――二人の寝息が重なった。  
 
 
おわり  
 

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