「カーくん、そろそろお昼にしよっか?」  
「ぐー!!」  
 晴れ渡った空の下一人と一匹は、見はらしの良い丘に敷物をひく。  
少女は背負っていた荷物の中から小箱を数個取り出すと、肩の上の  
カーくんと呼ばれた生き物(?)に念を押す。  
「いーい?ぼくの分まで全部食べちゃ嫌だよ?」  
「ぐーっ!!」  
 ばっちりという意味だろうか?奇妙な仕草とともに勢いよく返事  
をする。それもつかの間、少女が蓋を開けると彼(?)は一瞬にして  
その昼食を平らげてしまった。  
「もぅ。やっぱりこうなっちゃうんだね。」  
 落ち込んだ少女はおかわりをねだる生き物のほっぺを軽く摘む。  
 
「こらーーっそこ!!カーバンクルちゃんに何をする!?」  
 聞き覚えのある声の主が、少女と生き物の座る敷物に影を落とした。  
 
「君は・・・・・・・・確か、サンタ!!」  
 影の主を指さすと少女はからかうように言った。  
「サ・タ・ン!!・・・・・・コホン・・・お約束はいいから。どんな理由があれ  
 カーバンクルちゃんをつねるなんて、この私が許さないぞっ!!」  
 当の生き物は、彼が現れたと同時に少女の背後に身を隠したのだが、そ  
んなことは彼の眼中にはなかった。そう、この男、自称『魔界の貴公子』  
は、思いこみがかなり強い。顔だけは、ボクが会った人のなかでもすごく  
格好いいのにな、とさえ少女は考えたことがあったが、性格がこうじゃそ  
れも台無しだと、すぐに考えを止めた。  
 
「どうもこうもカーくんが、ぼくのお昼ご飯食べちゃったんだよぅ。」  
 少女は彼の苦情に平然と答える。  
「むぅ。カーくんは、よく食べるからな・・・・まぁそこが可愛いんだが、  
 ・・・・・・よし、いいだろう。アルル。」  
 何やらぶつぶついいながら、サタンは少女の名を呼ぶと何やら企みを秘  
めた表情でほほえむ。  
「なに?」  
「今晩、我が城の夕食に招待してやろう。」  
「・・・・・・・・?君何時から世帯持ちになったの?」  
 少女の反応に魔界の貴公子は思いっきりバランスを崩すと丘を転げ落ち  
るのだった。  
 
 
「・・・・・・・・うーん。」  
 ボク―アルル・ナジャは、目の前の大きな城を眺めながら、肩の上の友達―  
カーくんに話しかけた。  
「・・・・・絶対、なにか企んでるよねぇ?」  
 そう、ボクは、ついさっき(といっても半日くらい前だけど)みたサタンの  
笑顔に何か嫌な予感を感じていた。それは、久々に会ったのにも関わらず、い  
つもの台詞を言わない彼の言動にもあるのだけれど。  
 考え込むボクをよそに目の前の重たそうな扉が音を立てて開いた。  
「まぁ、何かの悪巧みなら、やっぱりボクが懲らしめないとね。」  
 
 意を決して城の中に入ったボクは、辺りを見渡す。こと(ぷよ勝負)あるご  
とに最初に待ちかまえる骸骨の刺客―スケルトンTがいないことを確認すると、  
すこし安心出来た。そんな僕の様子を見いたのか、サタンが笑いながら現れる。  
「恐れる必要はないぞ、アルル。基、未来の我が后っ!!」  
 彼が指をならすと同時に、僕が入ってきた扉が消える。  
「・・・・ボクには君のお嫁さんになる予定はないよ。」  
 扉の方を振り返っていたボクは、そう答えると再びサタンに向かって姿勢を  
戻す。その瞬間変化する光景に唖然とした。さっきまで城内の入口の広間にい  
たのに今、ボクの目の前に広がる景色は、明らかに城内のものではない。  
「うわぁ・・・・・・すごいや。」  
 
 一面に広がる青空とお花畑とそこに置かれた大きく長いテーブルに  
置かれた料理に、ボクは思わず声をだした。これも彼の凄まじい魔力  
のなせる技の一つなんだろうか、城ごと空間をねじ曲げる、ボクなん  
かじゃとても想像がつかないほどの魔力の。ふいに怖くなったボクは、  
もう一度彼に目をやる。  
「どうした?アルル。気に入らなかったのか?」  
「えっ?・・・いや、すごく素敵・・・・・だけどっ・・・・・。」  
 勝手に話を進めていくいつものサタンにはない台詞にボクは不意を  
つかれた。彼はボクの反応を気にしていたらしく、眼があったボクは、  
あわててそらしてしまった。もしかしたら、ほんとにただ夕食に誘っ  
てくれただけなのかも。だとしたらボク、悪いコトしちゃったな。  
彼を返り討ちにする気分でここに来た自分がとても嫌になった。  
「・・・・・・ごめんね。ボク、折角招待してくれたのに手ぶらで来ちゃって。」  
「気にすることはない。日頃から疑われるようなことをしてきたのだからな。  
 お前が来てくれただけで十分すぎる程だ。」  
 丘から落ちたときに頭でもぶつけたのかな。ボクは続く彼の台詞に  
固まった。そう言って微笑むサタンに僕は不自然な笑みで答え席に着  
いた。まだ、嫌な予感を残して。  
 
「ふぅ、おいしかった。」  
 ボクは苺パイの最後の一切れを食べ終わる。テーブルに並んだ料理はどれもおいしく  
ていくら食べても減ることはない。いや文字通り、減らないのだ。ちょうど、今食べた  
苺パイも、またデザートとしてテーブルの隅に並んでいる。食べても次から次ぎへ現れ  
る料理にさすがのカーくんも大きくなったお腹をそのちっちゃな両手で抱えテーブルの  
上に横たわっていた。そんなカーくんの仕草を嬉しそうに見ているサタンに、ボクはこ  
の魔法の仕組みを聞いてみることにする。ボクにだって、無制限にでてくる苺パイは魅  
力的だ。もしかしたら、お昼を食べ損ねることだって無くなるかもしれないしね。  
「ねぇ、サタンこれどうなってるの?」  
 ボクの言葉にサタンの体ががギクッと強ばる。  
「そんなっ、まだ時間には早いはずだ・・・・・・・・・・・」  
 急いで懐から懐中時計を取り出し、何やらぶつぶつ言うサタンにボクは言葉を続けた。  
「??・・・・・・・食べては現れる料理のことなんだけど、誰も持ってこないのに、不思議だなって・・・・・。」  
 慌てたサタンがぴたっと止まると胸をなで下ろす。怪しい。いくらボクでもやはり彼が  
何か企んでることを悟る。  
「なんだ、そんなことか。これはな・・・・・まぁ簡単に言えば、オートの召還みたいなものだ。」  
「うぅ、そうなんだ。」  
 駄目だ。ボクには、まだ召還魔法は使えない。その上、自動的にするなんて一体いつに  
なったらこのパイの魔法が使えるのだろうか。がっくりきたボクは、食事も終わったので、  
そろそろ彼の企みを追究するべく話を続けた。  
「サタンさぁ、さっき時間がどうとか言っていたけど、何か用事があるの?何だったらボク、  
 もう帰るけど・・・・・・・。」  
「いや、それは困るぞ。この後、お前に見せたいものがあるのだ。」  
 サタンの言葉に嘘はなかった。というのも彼の嘘はいつもバレバレで態度に出るものが多い。  
特に悪いことを企んでいるときには・・・・・やはり悪い企みはないのだろう。さっき疑ってかかっ  
た自分が嫌になったコトを思い出す。自分で軽く頭をこづくとボクは考え直した。ボクの疑い  
過ぎかな?嫌な予感と嫌悪感に板挟みにされた状態でボクはサタンに聞いた。  
「何を見せてくれるの?」  
 
 サタンに目を戻したボクは、彼がじっとこちらをみていることに気づく。先刻、カーくん  
を見ていたあの顔つきだ。  
「何かボクの顔についてるの?」  
「?何もついてはいないぞ。」  
 じゃあなんで?問いかけようとするボクより先にサタンが続けた。  
「お前は、頭の中がみんな顔にでる。見ていると何か面白くてな。」  
「・・・・・失礼しちゃうなぁ、もぅ。」  
 笑い出すサタンにボクは恥ずかしくなる。ボクがサタンの企みをうかがうように彼も又、  
ボクの考えを読んでいたのだろう。そんなボクをまだ見ながら、サタンは初めの質問に答えた。  
「まぁ、ついてからのお楽しみだ。」  
 再びサタンは微笑むと、また指を鳴らし城の魔法をとく。たちまち青空は消え、またもとの城  
内に戻った。ボクは、ついて来いと城の階段を上りだす彼の後に続いた。  
 
「うわぁあ!!」  
その眺めにボクは驚く。さっきのお花畑を見たときとはまた違う驚きだ。だってボクは生まれて  
16年間こんな場所をみたことはなかった。ボクとサタンの入ったはずの部屋は窓もなく天井も  
なく床もない。あるのは真っ暗闇に呑み込まれないようにそれぞれで光る無数の星たち。夜空に  
とけ込んだような気分になる。  
「どうだ?ひどく美しいだろう・・・・。」  
 サタンの言葉にボクは何度も頷いた。  
 星の輝きに見とれているボクの横をちっちゃな星屑が通る。すると、一瞬だけボクとサタンの  
間の闇が照らされた。星屑を目で追うボクの焦点がふと虚無を見つめるサタンの横顔に合う。随  
分、悲しそうに見えた。不思議に思ったボクの頭の中に誰かにきいた話が甦る。  
 この魔導世界は創造主によって造り出された最も不安定な時空の切れ端だというコト。そして、  
少しでもそのバランスが崩れればこの世界はすぐにここのようになっちゃうかもしれないコト。  
上も下もないただ闇の中にバラバラになった世界のピース。考えるだけで恐ろしくなるような話  
だけど、ボクは何かを確信していた。気の遠くなるような歴史の中でこの世界は幾度となく崩壊  
の危機を乗り越えてきたという事実・・・・まるで誰かに守られて・・・・・・いる・・・・・・・・・・みたいに。  
 
 この部屋では時間の感覚もなく、長くいるとだんだん微睡みの中にいる気分になってくる。  
つい耽ってしまったボクは、そこで自分の意識がとぎれたことにも気づきもしなかった。  
 
 アルルが意識を手放すと彼は倒れゆく体を支えた。闇の中に佇み微笑むのその姿は、彼の  
サタンたる呼び名に相応しいものではあったのだが。彼女が夢うつに見た彼の表情はえらく  
自嘲しているようにも見えた。  
 
 ふんわりとした温もりの中、ボクは目を開く。今までどうしてたんだっけ?体を動かそう  
とするが侭ならない。見覚えのない天井に、自分がいたはず場所が一気にフラッシュバック  
してきた。ボクは・・・・そうだ!ここはサタンの・・・・・思いつくと同時に彼の声がする。  
「ふっふっふ、やっと起きたかアルル。」  
 なんか記憶の最後の方にある印象とは打ってかわってのいつものノリだ。ボクは動こうと  
しない体に嫌な予感が当たっていたこと理解した。どうやらストップ系の魔法か何かをかけ  
られているらしい。  
「おっと、声は出させてやらんとな。」  
 そう言ってサタンはボクの喉に軽くふれる。  
「・・・っちょっと!これは一体どういうことだよ?」  
 ボクが食ってかかっても、サタンは平然と横たわるボクを見下ろしているままだ。首があ  
る程度動かせることに気づいたボクは自分がいる大きな部屋の一面を見渡す。  
「ここ、どこなの?お城の中?」  
「私の部屋だ。そして、お前が寝ているのは・・・・。」  
 サタンが続ける言葉が想像できると何だかの背筋に思いっきり悪寒が走る。慌ててボクは、  
彼の言葉を遮った。  
「っ!・・・そんなことはどうでもいいよっ。」  
「どうでもいい?つれないことを言うな、我が后よ。」  
 サタンはボクが横になっているベットに腰掛けると顔をボクの鼻の先まで持ってくる。息  
がかかる距離にボクは思わず目を堅くつぶって言い返した。だってボクはサタンのお嫁さん  
になる予定もなった覚えもない!!  
「だ、駄目だよ!!もし今、ボクに何かしたら・・・・・・・・・ボク、君を許さないからね!」  
「・・・・・・・・・・・。」  
 サタンは答えずに、ボクの力一杯引いている顎を片手で軽々と彼の顔に向けた。  
 
「っ!!」  
 避けることも出来ずにサタンの唇がボクの唇に吸い付く感じで触れる。何度も繰り返し吸い付いて  
くるサタンにボクは反抗する隙を見失った。頭を左右に振ることも出来ずにいると、何かぬるっとし  
たものが入ってくる。その正体に気づいたボクは慌ててそれを防ごうとするけど間に合わない。  
 サタンの舌がボクの口の中を動き回る。力が抜けて何がなんだか分からなって・・・・・・・・・・・いやら  
しい音だけが広い部屋に響く。ボクは頭の中が真っ白になった。  
 長く舌を交えると、サタンはアルルの唇をやっと解放した。唾液が引いた糸を手の甲でこすると、  
彼は彼女にかかった呪文を解く。アルルは初めてのキスの激しさに息が上がり、先ほどまでの拒絶心  
を失っていることが見て取れた。  
 
「お前でなくては・・・・・ならんのだ。」  
 サタンがボクの耳元で囁く。その声にボクは体中が鼓動するように感じた。ほんとにどうかしてる。  
さっきのキスのせいだろうか、ぼーっとなった頭をボクは左右に振って答える。  
「君の気持ちは嬉しいけど、やっぱり今のボクには答えられないよ。」  
 そうボクには一流の魔導師になるっていう夢があるし、それに何より、ボクの友達ルルーは、彼を  
とっても慕っている。そんな彼女を裏切るような結果にだけは絶対したくない。  
 ボクは自分の上に既に覆い被さっている状態の彼の胸を両手でぐっと押すと続けた。  
「君にはボクなんかより、君をずっと愛してくれる人が側にいると思うよ?」  
 なんだかちょっとうずく胸に知らんぷりをしてボクは言い切る。止まらないサタンはボクの背中に  
両手を回すときつく抱きしめてくる。あまりの力の強さにボクは肋骨がきしむ気がした。  
「・・・・・・・何故だ。」  
 サタンが少し情けない声で呟いたのをボクは聞き逃さなかった。答えようとするボクの口をまたサタ  
ンが唇で塞ぐ。ホントにどうしてだろう?ボクはそのキスを未然に防げず。力の入らない体は再びサタ  
ンの舌を受け入れてしまった。今度は手足をじたばたさせて抵抗しようとするものも、彼の抱きしめる  
力がさらに強くなると、それすらも叶わなくなった。キスがだんだん首筋へと位置を下ろしていく。  
 
「いやだっ・・・・・やめてよっ!!サタン!・・・・お願い。」  
 服をめくられ、キスが胸までくるとボクは声を震わせて最後の抵抗にでた。ここでなんとか彼を思いと  
どまらせなくちゃ、ホントにサタンのお嫁さんにされちゃうよ。ボクは彼に堪えそうな魔法を唱えるべく、  
体中の魔力をねりはじめた。  
「ひゃんっ!」  
 いきなり走る先端の痛みが思わず声にでてしまう。サタンが胸にキスをする度に集中力が途切れてしま  
いうまく魔力がねれない。それどころか、さっき痛かった胸先もだんだんと気持ちよくなってくるのが分かる。  
ボク、おかしくなっちゃったのかな。ボクの体から顔を起こすとサタンは意地悪く微笑んで言う。  
「そろそろ、効いてきたか。」  
「き、効くって・・・、何が・・・?」  
 ボクは息切れながら思い当たらないサタンの台詞に聞き返した。サタンの手がまたボクの胸先をつまむ。  
「ひゃぁっんっ!!」  
 最初とは明らかに違う感じだ。体全体を駆けめぐる衝動にボクは仰け反ってしまった。  
「お前の食事にちょっとした細工をした・・・・。」  
「・・・・さ、さあぁいく?・・・・ぅ・・・ぁん。」  
 ボクは聞き返すも上手く舌が回らない。サタンはもう片方の手でボクの下着を脱がしだす。  
「いやぁ・・・・・ぅん!!っ・・・・・・やめてよ・・・お願い・・・・・・サタァ・・・っん。」  
「・・・・・・・・・・・・・無理をするな。もう止めて欲しい状態ではないのだろう?」  
 止めて欲しくない?わけがわからなかった。頭の中ではとっても嫌なのに、今まで必死に閉じてた足の  
力が抜けてしまう。意識も何か朦朧としてくる。  
「媚薬だ。欲求に耐えれば、気が狂うぞ?」  
 サタンの愛撫に、ついにボクは考えることを放棄してしまった。  
 
 サタンは顔を再びボクの鼻先に近づける。彼の長い髪の毛がボクの頬をくすぐった。  
「大丈夫だ。悪くはしない・・・・・・。」  
 聞き取れないくらいとても小さな言葉を呟いた唇で、優しくキスをすると、彼の指先が体をつたい足の間へと落ていく。  
そして、わずかな痛みもなくボクの体が彼の指を呑み込んだ。体の中を撫でられてるようでとても気持ちいい。さっき  
サタンが言っていた薬のせいなのかな。意識の糸はかろうじて繋がっているけど、体が自分のものでないようなそんな感覚。  
身体全体が疼き、身をよじりそうになると快感が声に漏れた。  
「うぁ・・・・・・・あァんっっ!!」  
 何かとても体が熱くなり、足の間が濡れる。視界がぼやける。こぼれそうになる涙を察して、サタンが目尻に唇をずらす。  
それでも涙は止まらない。そんなボクを見かねて、サタンはボクの涙をぬぐい体を抱きしめると、再び耳元で囁く。  
「どうしたい?アルル・・・・・・・このまま、私の后になるか?」  
 さっきまで忘れかけていた感情が一気に胸の中にあふれだす。快感に震えていた体が心を取り戻すのがわかる。気づいた  
ときには、ボクは嗚咽をうちながら泣いていた。  
「うぅ・・・・ひっく、ボクには・・・・・ヒック・・・・無理だよ。」  
 頭の中に、ルルーの顔がはっきりと浮かぶ。ボクに彼女を裏切ることはできない!意識するまでもなく、そう心にあるの  
だからこれがボクの本心だ。さっきまでは錬ることすら出来なかった魔力がボクの体中から湧いてくる。  
 
 サタンの顔が引きつった。たった今まで泣きじゃくっていた少女にとんでもない魔力が集まっているのが見て取れる。随  
分と高密度な力に、冷たい汗が頬を伝う。嫌な予感を押さえきれず彼は彼女の名を声にした。  
「・・・・・・・・・・・・・あ・・あ、アルルくん?」  
「・・・・・・・ボク、今回ばかりは君を許せそうにないよ。」  
 間髪入れず、アルルの返事が返ってくる。彼女は完全に正気を取り戻していた。みなぎる力に身をじらしながら、脱がさ  
れた下着を身につけ、纏っていた服装を正す。サタンが惹かれるその幼気な笑顔は、今やこの世に存在した事すら怪しく  
思えてくる。そう、それほどまでに今の彼女の不適な笑顔には、悪寒を感じざるおえなかった。  
少女は呪文とともに押さえ込んでいたエネルギーを解き放つ。  
「ばっよえ〜ん!!!!!!!!!」  
 
 
〜サタンの反省会〜  
「薬の調合を間違えたのか!?否、そんなことはありえん。ちゃんと終わりから最後まで魔導書通りに・・・・・・・・。」  
 ベットの上で全身のあちこちにある生傷を治療されながら、主はぶつぶつ言い続ける。それというのも、珍しくも  
上手くいきかけた作戦が、例のごとく失敗に終わってしまったらしい。まぁ・・・・・・・・・実によくあることである。  
「・・・・・・・・・今頃は、ねだるアルルを抱いて、二人の愛を確かめ合っている手筈であったのに・・・・・・・・・・・・ぶつぶつ」  
「もー、サタンさま!とにかく動かないでください!!」  
 いつもは城内の掃除を担当とするメイドが、彼の手当しているわけだが。彼女は、小言をぼやきながらその度に動  
く主をそろそろ限界に感じていた。包帯を捲くのはそう苦手ではないが、患者が動いているなら話は別だ。  
「・・・・・・・・・となると、やはり飲み合わせがまずかったのか。確か、野苺のパイに仕込んだハズだが・・・・・・・・」  
 ふと彼女は、主の言葉に昨日自らが手がけた料理の名を聞く。  
「昨日の夕食にだされた苺パイがどうかしました?」  
「いや、こっちの話だ・・・・・・そうだキキーモラ、あれの材料が分かるか?」  
 主の質問に手を休め、考え込んで答える。  
「・・・・・・えぇと、苺の木の実・・・・・・・・小麦粉・・・卵に・・・・・・あ、あとサタンさまから渡されたお砂糖、ちょっと苦か  
ったんで普通のお砂糖と混ぜて使いました。」  
 あぁ、そうだ。サタンは、確か彼女に調味量として薬をもらせた事を思い出す。  
「砂糖?渡した覚えはないぞ・・・・・・・・・・・・それだ!!!!!」  
 訳の分からない台詞を喋る主はキキーモラを指さすと同時に、顔を真っ青にする。  
「うぎゃああああ!!!!!!!!」  
「・・・・・・・・・さっきから動かないように言っています。手の怪我が一番ひどいのに。」  
 のたうち回るサタンを見て、呆れたキキーモラは新しいバイト先を探そうと密かに決心するのであった。  
 
 

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