何故こうも上手くいかないのだろう…?  
すぐに届きそうな所にあるというのに、手を伸ばすと羽が生えたようにするりとすり抜けていき、後に残るのは拷問に近い焦燥感。  
どの様な手段を使っても手に入れたい存在、それがアルル・ナジャ。  
初めは持ちうる魔力が目的だった筈が、彼女自身を欲する様になっていくのにはそう時間はかからなかった。  
光と闇は相反するが故に強く惹かれる…彼女は光だ。  
おそらく、自らの腕の中に収めるという事は、何物にも代え難い快感になるだろう。  
眠りに就く毎に夢にまで見た瞬間が、今ようやく実現するのだ。  
 
 
「うぅぅ…ボクをどうするのさ!」  
傷付きボロボロになりながら床に座り込んでいても、その瞳には今だ強い意志を残している。  
「最初から言っているだろう、お前が欲しいと」  
「…変態」  
どう言われようが気になるような事は無い、言葉通りだ。既に(魔力)が欲しいという概念が消え去り、彼女の全てが欲しいのだから。  
「お前がどう思おうとかまわんよ、俺の言葉に偽りは無い」  
身体を手元に引き寄せ、四肢に呪文を掛ける。  
この時の為にパラライズの呪文を改良したものだ、直接相手の身体に触れた部分にしか効果は無いが。魔道士たるもの、拘束するのに縄を使うというのは無粋だ。  
「いっ、嫌ぁ…何するの、放し―」  
「五月蝿い口だ、静かにしろ」  
頤を上げ、腰を引き寄せ口付ける。  
震える唇を抉じ開け、少しずつ舌を差し込む。  
小さな舌を捕らえ、強弱を付けながら絡ませる。静寂がくちゅくちゅと唾液をかき回す音を際立たせ、否応がなしに神経を研ぎ澄ましていく…。  
長い間口付けては一旦開放してやり、またすぐに口付けるというのを何度も繰り返す。  
暫くの間無理にじたばたとしていた体が、徐々に静かになり、力が抜け、身を預ける格好になり始めた。  
顔が仄かな桜色に染まり出したのを見ていると、愛しく思うのと同時に嗜虐心が鎌首をもたげるのを感じる。  
『所詮、俺もただの男と変わり無かったということか…』  
引き寄せた腰を少しずつ、少しずつ、割れ物を扱うような手付きで愛撫する。  
その一方で、戦いで破れてしまい申し訳程度に身に付けている服とアーマーを脱がしていく。…否、剥ぎ取ると言った方が正確だろうか。  
「…っ、こんなのやだよぉ」  
か細く吐き出した言葉は、意思とは裏腹に身体は熱く火照る事への戸惑い…それとも自らの無力さへの呪詛なのか…。  
大きく開かれた瞳から一筋の涙が頬を伝うのを見た瞬間、壊したいという欲望が弾け、体中に広がる。  
目の前の彼女は呪文で動けない為に、例えれば生きた人形の様である。  
普通人形は物だ。しかも今、腕の中に居る彼女は自分の所有物。所有物ならば持ち主が壊しても、何ら不都合は無いのではないか…?!  
 
 

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