同じ顔をした双子がポツンと廊下の角に立っている。  
何かの映画でこんな場面がありましたっけ。  
だとしたら次に赤黒い血が濁流してくるはずだ。  
「アハアハ…表パン屋のう〜ら〜め〜し〜や〜」  
双子の片方が知恵が足らなそうに言った。僕は生理的にその馬鹿面を引っ叩きたくなった。  
「で、君達。何か御用ですか?」とおくびにも出さずに僕が言う。  
「お〜ば〜け〜だ〜ぞ〜でろでろでろ〜」  
無論僕はこんな奴ら相手にしていられないので、ごく自然な風にそばを通り抜けようとした。  
「あっ…ちょっと待って下さい」と双子のもう片方が僕の服の袖を引っ張ってくる。  
「僕らはここに棲みついている幽霊です。  
結構目撃されたりとかしているんであなたも噂で聞いた事があるでしょう。  
で、こうやってお引止めしたのは、折り入ってお願いがありまして」  
なるほど確かに彼らには足がない。だが、死んでいるからといってそれがなんだ。  
死人だからといって何でも言うことを聞いてもらえると思っている。  
大人しく柳の下でどじょうすくいでもしてやがれ。こういう相手には無視が  
最も効果的だ。僕は奴の手を糸くずみたいに払い除けて歩を進めた。  
その幽霊は卑屈なにやにや笑いを固めてその場で立ちつくしている。  
相手にされないのがまったく意外だという様子。いい気味だ。  
「ねえねえまってよお〜。わたしはユウちゃんっていうの〜」  
頭が悪そうな幽霊は馴れ馴れしく追いかけてくる。  
自分に愛称などつけているこいつをぶん殴りたい気持ちは抑えてここは  
断固無視。ここで喋ったら、奴の存在を認めてしまうことになる。  
「あそぼうよーねえねえ」徹頭徹尾相手にしない。  
「ねえったらあー」やかましい、と喉まで出かかるが飲み込んでおく。  
「ええ〜い。そっちがそのきなら、れっどうぃすぷかも〜ん」え? アッ……。  
 
それにしても油断していた。この僕としたことが。  
僕のグレートな魔法を使う前にウィスプに束縛されているじゃないか。  
…だが決して負けたわけではない。自由意志に基いて引っかかってやったのだ。  
僕は沈黙を続ける。なんとなく立ち止まっているだけだという風に振舞い、  
彼女とは視線をずらす。  
「いじわるしないで…見て見てぇ」  
なんだよ。おい。これ。  
目の前で彼女は立ち止まり身にまとった布に片手を入れた。股のあたりに  
テントが張られる。肩が小刻みに揺れ、盛り上がりは一定のリズムで振動を始めた  
彼女の息遣いが荒くなるにつれて、舌がのたうつ様な音と布がこすれあう音がはっきりとしてくる。  
僕にその手の動きをまざまざと見せつける。背中が汗ばむのがわかった。  
ポンチョ状の白布のはためきと虚ろな青い目は天気のいい日に干したシーツを連想させた。  
生モノがはいずりまわるような音とのアンバランスがいやらしさを引き立てる。  
いやがうえにもその内側を想像して、僕はつい劣情を催した。  
「あはは…レイ君みたいに大きくなってる…」高潮した顔つきで息つきながら言う。  
 
不可抗力だが僕は彼女との連続性を認めてしまった。  
 
 
僕はやつらに引っ張られ教室へ。無理やり話を聞かされた。  
「そういったわけで僕ら、霊になって彷徨っているのです。  
その時のトラウマで姉は記憶が消えて、奇行が目立つようになりました」  
どうやらこの姉の幽霊はスッカリ自慰機械も等しいらしい。今もまた発情している。  
学習机の上に腹ばいになって角を股間に激しく打ち付ける。机の脚の高さが合っていないらしく、  
彼女が体を動かすたびに机の先端のキャップとリノリウムの床が擦れる音が教室に響く。  
ものほしそうに僕らへ肉の虜らしい色目を送ってくる。  
「ふん…まあ概ね君が言いたい事は分かったよ。ウン、確かにこの僕の  
グレートな魔法なら以前のお姉さんに戻すことはできるだろうね」  
僕が言い終わらないうちに弟は嬉しそうに顔を上げる。  
なお、いっておくが人が喜ぶのが嫌いである。しかも半ば強制的にヒッ連れられて  
こいつが僕がカウンセリングを引き受けたも同然なまでのツラしてるのにムカっ腹が立った。  
「でも、ちょっと不明瞭な所があるな。…お姉さんがそいつらにされたことだけどね  
もうちょっと具体的に何処を何でどうされたかを説明してくれ。終いまで見てたんだろ? 君?」  
僕は性犯罪の被害者の供述を促す裁判官みたいに言った。  
弟は答えない。さっきまでの得意気な表情はみるみるうちにどこかに消えうせた。  
項垂れて膝(有るのか?)の上で拳骨を組む。白布の服にしわができて腕が震えた。  
あはは…モウ泣きそうじゃないか。幽霊らしくうらめしそうな顔で上目に僕を睨んできやがる。  
「何やってたのか解りませんでしたってわけじゃないだろ?」  
今の一言で彼が今まで押さえつけてきた感情が裂けたらしい。  
堰を切った風に突然な夕立の涙が白装束に染みをつくる。  
鼻水をズーズーすすっているのを見たら少しだけ気が晴れた。  
「…まあ話したくないなら別にいいよ。あとで本人に聞くから」  
こいつの潔癖面が気にくわない。どうせおっ勃ててやがったんだろ。  
悔しそうに顔を真っ赤にして泣いているのをみると、やはり姉に似ていた。  
男女の一卵性なんて変だなと僕は思った。  
 

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