◇◇狂気の扉◇◇  
 
魔導学校の寮の廊下、月明かりが差し込み少女が歩く度にギシギシと軋む音を立てる。  
少女―リデルは何故か夜中の三時に目が覚めてしまった。  
起き抜けで喉がカラカラに渇いたので、彼女は食堂まで水を飲みに行っていた。  
そして自分の部屋に戻ろうとして廊下を歩いていた時だった。  
――自分の部屋の隣の部屋から微かに物音が漏れているのに気付いたのは。  
 
「ラフィーナさん・・・?」  
その部屋の主の名前を呟きながらリデルは扉に耳を当てて中の物音を聞き取ろうとした。  
「ご主人様ぁ・・・・。」  
リデルは扉の向こうから聞こえてきた声に疑問を抱いた。  
台詞の意味も分からないのだが、それ以上に声の主に疑問を抱いた。  
何故扉の向こうからアミティの声がするのだろうか?  
彼女は寮生ではないはず。  
 
「ここをこんなにして・・・、本当に変態ね。」  
アミティの声と入れ違うようにして、今度はラフィーナの声が聞こえてきた。  
そしてリデルの亜人間としての優れた聴力はガチャガチャと言う金属音も同時に聴き取る。  
――一体何を?  
リデルは短い呪文を唱え、透視の魔法を使う。  
そして、次の瞬間リデルは愕然とした表情をした。  
 
扉の向こうにはペットを縛るための鎖付きの首輪を首に付け、メイド服を着たアミティ。  
それとアミティの首輪に付いている鎖を握っているラフィーナの姿があった。  
 
リデルは自分の部屋に逃げようとした。  
――忘れろ、忘れろ。  
リデルは心の中で繰り返し呟きながら扉を離れようとした。  
しかし、不意に何かに服の袖を掴まれた。  
 
リデルは誰が自分の服を掴んでいるのか瞬時に悟った。  
――振り返ってはいけない。  
頭ではそう分かっているのだが、服の袖を掴むモノの力が強く引き剥がすことが出来ない。  
そしてそれはリデルの肩を掴むと無理やり振り返らせた。  
「ヒトの秘密を見て、そのままで済むと思ってたの?」  
その人物―アミティはいつも通りの笑顔で言ったが、語調にはまるで感情が感じられない。  
――怖い。  
いつも自分に向ける笑顔で話す少女を心の底からリデルは恐怖した。  
 
アミティはリデルをリデルの部屋に連れ込むとリデルを無造作に床に投げた。  
床に受身も取らず叩きつけられたリデルは少し呻いてゆっくり身体を起こした。  
バタン、ガチャ。  
アミティは後ろ手に扉を閉めて錠を掛けるとクスクス笑いながらリデルに接近する。  
そのペースはゆっくりとしていて、それがリデルの恐怖心を煽る事を計算しての事だった。  
「リ〜デ〜ル。こんな夜遅くに何してたの?」  
リデルはへたり込んだまま後退するが、すぐに壁に背中が当たる。  
「お水を飲んでたの?それともおトイレ?それとも―」  
アミティはしゃがみ込むとリデルの顔に息が掛かるほどの距離に自分の顔を持っていく。  
「キミもラフィーナに飼って欲しかったの?」  
 
リデルは聴いていない振りをした、悲しい現実逃避である。  
「でもラフィーナのペットになれるのはあたしだけ、だから―」  
アミティは既に興奮していた、呼吸が荒く、顔も紅潮している。  
「キミはあたしが飼ってあげる。」  
アミティはそう言うと何処から取り出したのか首輪や衣装を床にばら撒いた。  
――逃げなきゃ。  
リデルは抜けた腰を叱咤し、アミティを強引に押しのけると扉へ向かって駆け出す。  
しかし、すぐにまた服を掴まれリデルは勢いあまって地面に倒れた。  
 
「ペットプレイに興味があったから覗いたんでしょ、なのに逃げるの?」  
アミティはリデルの乳房を服の上から握りつぶした。  
「痛い!!痛い!!」  
リデルはいやいや、と言わんばかりに首を振る。目に少し涙が浮かんでいる。  
「痛い?気持ち言いの間違いでしょ。」  
アミティはリデルの苦しんでいる様子を見て笑みを浮かべると、乳房から手を離した。  
そしてリデルの服に手を掛けて服を脱がせ始める。  
「わたしのペットになるんだから、制服に着替えてもらわなくちゃ。」  
リデルを全裸に剥くとアミティは先程床に無造作に投げた衣装を拾う。  
アミティが手にしているのは和服だった。緑一色で柄はないが地味ではない。  
リデルは無言でかぶりを振った、彼女にとってこれは拒否を示すジェスチャーだ。  
しかし、アミティはそんなリデルをあざ笑う。  
 
「黙って首を横に振っていたら何でも拒絶できると思ってるの?」  
アミティの言葉にリデルは衝撃を受けた、彼女には否定できないからだ。  
アミティはリデルを嬲るように続ける。  
「それにキミが拒否したときのプランをわたしが考えてないとでも思ってるの?」  
クスクス笑いながらアミティは懐から黒い40cm程の棒を取り出しながら言った。  
よくしなるそれは鞭だった。アミティはぺロリとそれを舐める。  
リデルはいやいやをするが、アミティは容赦なく鞭を握った右腕を振り下ろす。  
ピシリ、と音を立てリデルの白い肌に赤い線が刻まれる。  
アミティは容赦なく何度も何度も鞭でリデルを打ちのめしながら言った。  
「どうする?キミがおとなしくあの服を着てくれるんならやめてあげるけど。」  
別にどっちでもいいよ、とアミティはサディスティックな笑みを浮かべながら言う。  
「着ます。着ますからやめてください!!」  
リデルは件の和服を手に取ると渋面を作りながらそれに手を通した。  
 
指の先が少し見えるくらいの長さの袖の割烹着。  
模様の無い地味な白いエプロン。  
レースの付いたカチューシャを着け、解かれた髪は腰の辺りまで垂れ下がっている。  
それが今のリデルの格好だった。  
「う〜ん、良く似合ってるね〜。わたしの見立てに狂いは無かったね。」  
満足そうにアミティは顔をほころばせる。  
もともと素材はいいものだが、それ単体では意味が無い。  
脇役がいてこその主役なのだから。  
アミティは目の前の一個の芸術品を作り上げた満足感に顔をほころばせた。  
 
アミティは懐から注射器を取り出した。ピストンの中には既に液体が入っている。  
注射器の中の液体はアミティがいつも打っている薬だ。  
これを打てば忽ち理性が吹き飛ぶ。これを打たないと目の前の玩具で遊びつくせない。  
アミティは袖を捲し上げると注射器の針を腕に刺し、中の液体を体内に注ぎこむ。  
最高の玩具で遊ぶには自分も最高でなければいけない。  
脇役あってこその主役なのだから。  
 
アミティは怯えるリデルを床に押し倒すと顔の上に腰を下ろした。  
「あはは、わたしのスカート越しの空気しか吸わせてあげないよ。」  
無邪気に言うとアミティは腰を揺らし始める。苦しいのかリデルは身体を捩る。  
リデルは知らない、非力な抵抗こそが攻める者をいっそう掻き立てることを。  
「苦しいの?痛いの?でもまだまだだよ。」  
全然物足りない。こんなに楽しいのに何でやめなくちゃいけない。  
理性の吹き飛んだアミティの頭には自分の行動の結果など想像できない。  
ただ、リデルを自分が満足するまで虐めたいというサディスティックな欲望しかなかった。  
アミティは漸くリデルの顔から腰を浮かす。  
リデルは顔からアミティのヒップが離れると貪るように呼吸をした。  
 
「リ〜デ〜ル、割烹着って後ろから胸を揉み易い様に出来てるって知ってた?」  
息を貪っているリデルにアミティは笑顔を浮かべながら言った。  
「次は、何をするんですか?」  
リデルの声は震えていた、その目は捕食者に追い詰められた小動物の目だ。  
アミティはリデルをうつ伏せに寝かせると割烹着の中のリデルの胸を掴む。  
「リデルって胸おっきいね。わたしなんてぺたんこって言われてるのに。」  
リデルの胸にツメを立てながら荒々しくアミティはリデルの胸を揉んだ。  
「いやぁ・・痛い・・痛い・・。」  
リデルはアミティの暴力ともいえる行為から逃れようと必死で抵抗する。  
華奢な体つきだが、リデルは結構力比べには自信が有る。  
ラフィーナと腕相撲をやって勝った事があるくらいだ。  
それなのにアミティの腕はビクともしない。  
 
アミティはリデルの必死の抵抗を楽しんでいた。  
実はアミティは事前に筋力を強化する薬をうっていた。  
リデルに抵抗されても抑えられるように。  
「抵抗するの?悪い子だね。また鞭で叩いちゃおうかな。」  
リデルの身体がビクッと震える。アミティは予想通りに相手の反応に満足する。  
更なる楽しみを追求する為にアミティは本当に懐から鞭を取り出し立ち上がってみる。  
別にリデルを鞭で叩くつもりは無い。  
「いやぁ、叩かないで!!」  
リデルは必死に懇願する。アミティはつい笑みを漏らしそうになった。  
「どうして・・・、どうしてわたしがこんな目に逢されなくちゃいけないんですか・・。」  
リデルは目に涙を浮かべた。しかし、リデルは泣いても無駄だと分かっていた。  
アミティの理性が薬で吹き飛んでいる事など知りもしないが、リデルには分かっていた。  
 

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