マサチューセッツ地方検事局。
オフィスの自分の机に、彼女、アニー・クレイナーは腰掛けていた。眼前には彼女が主任検事として受け持っている「マーカス・オズボーン事件」の裁判
記録が。これこそ目下、彼女の最大の頭痛の種。目を通すたびに、キリキリと
頭が締め付けられる。状況は全て、彼女に不利なほうへ、不利なほうへと進ん
でいるかのようだった。
それでも、引くわけにはいかない。
名門クレイナー家に生まれ、その父の名を継ぐためのエリートとしての意地?
そうでは、ない。この道も、この生き方も、彼女自身が決めてきた。信念を
貫くことが、自分らしさと信じて、前だけを向いて生きて来た。だから、今回
の審理も、最後まで、やり遂げる。そして、
(勝つのは、いつも私!)
空元気に近いが、心の中でそんなセリフを呟いて、再び資料へと視線を戻した……
がちゃん。
矢先にドアが開く。こんな場所には場違いといっていいかもしれない、少年が
姿を現した。
「ん……?少年か」
その子に対して、アニーはもっぱらその呼称を使っていた。事務所で働かせる、
なおかつデータ管理すら任せるのだから、アルバイトとはいえ素性は確かめる。
名前ももちろん知っていた。ソウ・トーマ。MITに十歳で合格した東洋人の神童、
肩書き煌びやかであるが、彼女の眼前に入るのはそこらのスクールの生徒と何ら変
わらない。だから、少年と呼ぶ。
もっとも、仕事ぶりに関しては一目置いているのだが。
「あ、一応、言われた資料整理の方が終わったので、報告をしようかなと」
トーマは事も無げに言い放つ。アニーはそれが常人なら数日かかるであろう、
手間のかかるものだと知っていたが、さして驚きはしなかった。それだけ、彼が
ずば抜けているだけなのだから。
(この子には、驚かせられてばかりね)
「あ、お邪魔でしたか」机に広がった資料を察して、トーマはそんなことを言う。
「ううん。気にしないで。もう詰まっちゃってて、誰かと話でもしたいところだっ
たから」
話、といえば。アニーはほとんどといっていいほど、この少年と話をしたこと
がないことに気付いた。アニーだけではない。仕事の進捗にあたって、事務的な
会話をする以外、ここに働く誰とも、少年が親しげに話をしている姿を見たこと
がなかった。
やはり、その類稀なる境遇から、一歩引かれて、色眼鏡で見られてしまうのだ
ろう。
そんなところ、もしかしたら自分自身に似ているのではないか?と思えてくる。
「僕の方は仕事が終わったので、手持ちぶさたになって。何かお手伝いできるこ
とでもありませんか」
「そう、ねぇ……」しばらく思い耽るアニー。そして何か思いついたらしく、得
心した表情を浮かべる。
「それじゃぁ少年には、この問題を解いてもらおうかな?」
手近の紙の余白に、記憶を頼りにさらさらと数式を書き出していく。
「これで、よし」
そしてトーマに手渡した。
それは、彼女が大学時代に学んだ中で、最も難しいと思われる、数学の公式だ
った。数学科の友人に見せられたもので、アニーを含めた数人掛かりで証明に勤
しみ、数日かかってようやく完成したというほどのものである。
無論、彼女の所属する法曹の世界にはまったく関係ない。
そのことにはトーマもすぐに気付いたらしく、書かれた公式を見るだに、軽
く首をすくめた。
「これは一体?」
「ちょっとクイズみたいなものよ」
MIT十歳の天才ぶりが、いかほどのものなのか、アニーにはちょっとした興味
があった。解けるとは思っていないが、この難問にどこまで歯が立つものか、試
してみたかった。
「そうね……制限時間は、二十分で、どう?」
ここまでくると、冗談以外の何者でもなかった。区切らなければ、いつまでも
考え続けるかもしれないし。
だが、問題を一瞥したトーマは。
「わかり、ました」
控えめに頷いた。
(あら、その難しさが解らないのかしら?)楽に構えていたアニーだが、すぐ
に自分自身の楽観を、嫌というほどに知らされる。
真剣な顔で、余白に証明式を展開するトーマ。長いものであるが、間違いらし
いものはみつからない。昔、アニー達が数人掛かりで、数日かかって導き出した
ものを、たかだか二十分で、この少年は成し遂げようとしている。
(なるほど、これが天才か。ホント、見かけはどっから見ても少年なのにねぇ)
その時、アニーの頭の中で、悪戯心がむくむくと。
机に座り、夢中になって問題を解く、トーマの背後に静かに忍び寄る。証明
式に躍起になっている彼は、まったく気がつかない。
労なく真後ろに位置どったアニーは、そのままトーマに覆い被さった。
「なっ!」
突然のことに、トーマが驚きの声を上げる。
「ほら、問題。制限時間二十分だよ」
ワンピース越しに胸を押しつけるような、情熱的な密着だった。言葉を交わ
せば、互いの吐息の音すら聞えかねない、密着した距離に、トーマは赤面する。
それでも彼は、問題へと走らせる手を、なんとか休めまいとする。押し当て
られた体温の感色を、没頭することで忘れまいとするように。
アニーにはその様子は、ひたすらいじましく、可愛らしく映った。
(天才でも、やっぱり少年ねぇ)
そのまま、手をトーマの胸のあたりに回した。筆記に動く、手は邪魔しない。
あくまで、耐えているこの顔を可愛がりたいのだ。シャツの上から、胸のあたり
に手を這わす。感覚器として未成熟なそこは、まだ掻痒感しか与えないだろう。
けれど、耐える少年の硬直した表情を見ると、アニーの背徳心が掻き立てられる。
ゆるりと、片手を下の方へ進めていく。へそを過ぎ、そしてジッパーを降ろし
てから、ズボンの中に侵入する。
(あは)
屹立したそれは、充分すぎるほど、機能があることを誇示していた。
「アニーさん、さすがにそれは……」
「ほら、手が止ってるわよ」
釘をさし、皮膜に覆われたそれにふたたび手を当てる。露出している亀頭の
先端に、指腹をかるく、しゅに、しゅにと擦らせると、
「うわ!」
椅子に座ったまま、びくびくと背を反らせた。おそらくこの類の刺激にはまっ
たく慣れていなかったのであろう。アニーの手に、先端から迸る液体が勢い良く
ぶつかる。どろりとしたそれは、ひどく熱をもっている。片手では収まりきれな
いほどの大量の放出だった。
「あ〜あ、出しちゃった」
アニーは悪戯な微笑みとともに、右手と、まとわりついた白濁に目を向けた。
トーマの乞うような視線に答える様に、ちゅるりと人差し指を舐める。白濁が除
けられ、代わりに唾液のコーティング。酷く淫らな動きで、一本一本、指を舐め
ていく。
それから、彼の向かっているテーブルの上、余白に成された証明の方に目を向
けると、その最後には……『QED』。
ものの十分で、完成したことになる。
(さすがね……)
ゆるりと、アニーの中でスイッチが入っていた。
「それじゃ、御褒美を、上げないとね」
戸惑うトーマをよそに、アニーはまず少年のズボンと、パンツを降ろした。
一度の放出を経ても、それは変わらず立っている。多めの皮膜により抑えられ、
中の肉茎が窮屈そうである。
座ったままのトーマに、「少年は、そのままにしていてね」と言うだに、アニ
ーはひざまずいた。暴発した白濁が、所々にこびりついているそれが、目前にあ
る。くにくにと手を擦らすたびに、
「……ん、はん」
押し殺したトーマの声が湧く。
(ん、可愛い)
こういうのはどうかな?独特の青臭さのあるそれに口を近づけると、そのまま
かぷりと飲みこんだ。敏感な部分に下のざらつきをあてるたびに、トーマは身を
捩る。再びエクスタシーに達せんばかりの衝撃が駆け抜けているのだろう。アニ
ーは口内で器用に、舌を動かして亀頭を露出させた。
「ぷは……」
口を離すと、唾液がちろりと糸を引いた。少年の下腹部で、あざやかな朱色の
モノが、そそり立っている。
「……最後は、中にね」
ワンピースをたくし上げ、アニーは自分の手で下着をずらす。椅子に腰掛け
たままの、トーマの、その膝の上に座る様に。体を密着した対面座位。片手を
添えて、導き入れるように。
つぷぷ……
腰を下ろすに従い、挿入がなされていく。
下半身を蕩かすような、熱を持った女性のそこへの侵入という、トーマにとっ
て初めての体験。
「だ、だめです、アニーさん、へ、変なんです。なんか、熱くて、頭の中がなに
も、考えられなくなりそうで……」
「いいのよ少年、そのまま、そのまま快楽に流されて……ね」
最奥に達した、その次の瞬間。成す術もなくトーマは昂ぶりに任せて、アニー
の膣内へと、二度目の放出をしていた。どくん、どくん。二度目とは思えない量の
それが、暴れるようにアニーの中を叩く。
愛液と混じった白濁は泡立ち、引き抜いた膣内から、こぽりと零れ落ちた……
快楽の奔流に、惚けた表情のトーマ。アニーはその頬に、最後に軽いキスをした。
「……これはオマケ」
また悪戯っぽく、微笑んでそんなことを言ったのだった……