「……それで、宿屋の窓から覗いていた子供というのは、昔その地で親に捨てられたまま、今でも親を待っていて、若い女性が泊まる度に『連れていこう』とするんですって……。
……と、これでおしまいなんだけど、どうだった?みんな。」
「ひゃあ〜!!怖かったよ〜!」
「お、おお。えらくジワジワくる話やな。何か終わってから急に鳥肌立ってきよったで。」
「ふむ、…さっきのユリの話みたいに、突然驚かせてくるような話も良いが、こうした全編に渡り臨場感を与え続けてくるような怪談も、中々良いものだな。」
「…サンダース、あなた何か怪談の楽しみ方を間違えていませんこと?」
月が不気味な程に綺麗に輝く丑三つ時。
この日、レオンの部屋に集まったアカデミー寮の生徒達は、それぞれの知る『怪談』によって盛り上がっていた。
「それじゃあ、次はアロエの番ね。」
「…ぇ、ふぇ?もう私の番だっけ?」
「はい。一応これで一回りですね。」
「え……、えっと、えっと……」
「アロエ、今起きてて眠かったりしないか?」
「無理はしなく方が良いアルよ?アロエ」
「ううん!大丈夫なんだもん!
……大丈夫なんだけど……」
俯いて、子犬のようにしゅんとしているアロエ。
その様子にピンときたクララが訪ねる。
「ひょっとして、怖い話が思い付かないんですか?アロエさん。」
「…あのね、アロエの知ってたお話、先にタイガお兄ちゃんがしゃべっちゃって……」
「「「………」」」
「「「ターーイーーガーー」」」
「な、何で?みんなごっつ目が座っとって……
ヒ、ヒィィィーーーッ!?」
『─故人や幽霊の遺恨より、現実に生きている者の想い・恨みの方が遥かに強く、恐ろしい─
杉作J太郎』
一見屈強そうな男が、薄暗い部屋の隅で膝を抱えてガクブルしている様。
それはそれで薄気味悪い。
「別に怖い『お話』である必要はありませんのよ?」
「ふぇ?」
「そうそう。最近アロエがちょっとでも怖いと感じたこととかさ。
何でも良いんだぜ?」
シャロンの言葉にレオンが続く。
基本的に怪談という催しにおいて、話の『怖さ・恐ろしさ』も勿論重要だが、それ以上に『皆で盛り上がれること』が大切な点。
月は静かに、夜空を照らし続けている。
「何でも良いんですよ?アロエさんが最近『怖いなあ〜』と思ったことで。」
「えーと……うーんと……
…あ、あったあった!」
どこぞの一休さ○よろしく、閃いた途端に顔を上げて満面の笑みを浮かべるアロエ。
「それじゃ、話すね!
……それは、この前あった大会でのおはなし……」
(……大会?)
(この前の?)
(……普段の授業ならば、……そうね、ロマノフ○生とか……)
てっきり彼女らしい、怖さとは遠いところの、むしろ微笑ましい話を想像・期待していた一同。
話の触りに少なからず違和感を覚える。
「……アロエ、何度もチャレンジして、200人以上のみんなに負けずに頑張ってたんだけど……」
(…200人だと?)
(こ、この飛び級天才少女……!)
さりげなくみんな、心の中でアロエに嫉妬。
「……でもね、その時はね、アロエが分からなかったり、知らなかったりする問題ばかり出てきたの……」
ざわ…… ざわ……
(え、そうなっちゃうと……)
(……200人が、一度に、さんぶんの……)
一同、話の流れを察し、想像すると同時に震え出す。
「それでもね、アロエ、何とかもう一問答えられれば雷におしおきされないっていうところまで頑張ったんだ。
……最後に出てきた問題が、『谷家最強の生物は』って出てきたの。
だからね、間違えないように『りょうこ』って打ち込んだんだ。
……そしたらね、問題が、
『りょうこ です 【が】』
って……」
「イヤアアアアアア!?」
「ギャアアアーッッ!!」
「お、恐ろしい……恐ろしいっていうレベルじゃねーぞ!」
アロエは『その時の雷がすごく怖かった』と続けたかったのですが、その前に部屋中が悲鳴飛び交う惨状と化したのでした。
めでたしめでたし