長めのブランケットを肩にかけ、少年は階段を一段づつ昇る。 
誕生日パーティをこっそり抜け出したレオンは屋上へのドアを開けた。  
「誕生日おめでとう」  
一足先に待っていたルキアの唇がそう、動いた。  
九月九日はレオンが生まれた日だ。  
差し出された箱を受取り、彼がはにかむ。  
「サンキュ。なかなか抜けられなくて、悪い…寒かったろ?」  
「ううん、平気」  
大好きな彼女だから、こんなにも嬉しい。 
クラスメートから渡されたプレゼントも嬉しいが、彼女から貰うプレゼントが一番嬉しい。  
「嘘だろ」  
彼女の手を引き、自分の腕で抱き締める。 
温もりが冷えた躯を溶かしていく。 
 
─────────次に溶けるのは何?  
 
ふくよかな躯を抱き締め、レオンはルキアの首筋に唇を当てる。 
「躯冷やすなよ」  
「んっ……ごめん」  
夜の闇に浮かびあがる星々は煌めく。  
熱を増す躯…ああ、レオンが火を点けたんだ。 
じんわりとした温もりを感じたまま、ルキアはぽつりと呟く。  
 
「私ね…レオンの両親に会いたい……」  
「───急に、どうしたんだよ?」  
顔を上げ、その頬に触れる。  
「レオンが生まれたのは、レオンの両親がいたから……だから、私がレオンに逢えたんだ」  
あと、アカデミーね。と、付け加えたルキアはレオンの腕を離れ、フェンスに一歩ずつ近付く。 
「レオンのお母さん、それからお父さんに会ったとき、ありがとうって言いたい」  
くるりと振り向き、いつも以上の笑顔でにっこりと、そう言った。 
今晩の月は満ちていく月。 
未完成の銀色は雲に隠れず、光を放つ。 
 
 
フェンスに寄りかかり、星を眺める二人。 
寒くないように、ブランケットで冷えた夜風を凌ぐ。  
彼の薬指に、銀のリングがぴったりと納まる。  
「すげー…本当にありがと」  
「どういたしまして。実は…ほら、お揃い!」  
ルキアは首からチェーンを取ると、もう一つのリングが現れる。  
止め金を外し、リングを左の小指に通す。  
 
「さっきの話の続き…いいか?」  
彼がそう尋ねたので、彼女は縦に頷く。  
「両親がいなきゃ…俺は産まれることもなく、こうして…ルキアに逢うこともなかったんだろうな…」  
 
「「逢えて良かった」」  
 
伝えたい言葉は同じだった。  
「ははっ…考えていることは同じだったか」  
「それ、私が一番先に言いたかったのにー!」  
ちょっと待ったと彼。  
「俺は親父を越えてやる」  
ルキアに笑みがこぼれた。 
 
「あのさ、こっちに引っ越そう」 
レオンはルキアの左手を取り、小指のリングを抜く。  
「どこ?」 
「ここ」 
先程のリングを左薬指に嵌め直す。 
左薬指の意味を思い出すと、心の奥深くから愛しさが込み上がる。 
「レオン………大好き」  
ルキアは彼の首に腕を絡める。  
それから、目を閉じて…キスをした。  
軽いキスから始まり、次第に深くなる。 
後は何も考えられないくらい、深く甘い夢へと………堕ちた。  
 
 
end 

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