『empathy』  
 
「クララ、君のことが好きだ。 君のことをもっと深く知りたい」  
サンダースに唐突に切り出されて、クララは呆然とする。  
授業終了後、ロマノフ先生の言いつけで、使用した魔法書を2人で図書室へ運んで片付けた帰りの道すがらの一言。  
「………はい?」  
何を言われたのか一瞬理解できずに、クララは素っ頓狂な声で返してしまう。  
「ん? 聞こえなかったか? ならば、もう一度言おう。 クララ、君のことが…」  
「ま、待ってください! どうしたんですか、いきなり!?」  
表情を変えずに再び告白を始めたサンダースを慌てて遮る。  
「むぅ…帰り道がてらの廊下では、やはり雰囲気が無くて伝わらぬか…では、場所を変えて話そう…」  
「そうじゃなくって! 一体どうしたんですか、サンダースさん!?」  
「どうしたも何も、己の素直な気持ちを伝えているのだが」  
「………!」  
クララの顔が紅く染まる。  
…思えば、何となく思い当たる節もあった。  
授業の合間の会話、調理実習でペアを組んだ時の事…彼は、さりげなく彼女を持ち上げる言動を示していた。  
感情を表に出さない厳つい表情だから、ぱっと見にはわからないけれども。  
そう、ほんのわずか、クララがぼんやり感じる程度ながら、彼は彼女に気のある素振りをしめしていたのだ。  
…でも。  
「…………こ、困ります」  
たどたどしい声でクララはサンダースにそう伝える。  
「…君に奴がいることはわかっている。 だが、だからといって何もせずに諦められる性質(たち)ではなくてな」  
そう、クララには恋人がいる。  
同じアカデミーのクラスメイトで、青い髪を後ろで束ね、いつでも柔和な表情を湛えた、眼鏡を掛けた少年。  
端から見れば、ほのぼのとした秀才カップルだ。  
「君を想うこの気持ち、カイルにも劣らぬ。 いざとなれば、奴とも…」  
「…!」  
サンダースの台詞に力が篭ったのを察して、クララがすくみ上がる。  
「…いや、済まない、君を脅しつけるような発言だったな。 そこは撤回する」  
クララが顔と身体を強張らせたのを見て取って、サンダースはすぐさま謝った。  
「今ここですぐ返事をくれ、とは言わん。 また来週同じ時間に授業で一緒になるはずだ。 その後で聞かせてくれたら有難い」  
そう言って、サンダースは、固まって伏し目になったままのクララの顔を屈みこんで覗く。  
「…!」  
弾かれたように、クララは踵を返し、寮に向かって走り去る。  
「むぅ、しまった、誤解されたか」  
見ようによってはあらぬ誤解を招く行為に気付き、サンダースは短く刈り込んだ髪を掻き撫で、溜息をつく。  
「…済まんな。 困らせるだけなのはわかってはいるが…」  
サンダースは寂しそうに独りごちて、彼女と同じ方向へ歩き出す。  
はるか先の窓から、一部始終を見ている眼には、二人とも当然気付いていなかった…  
 
廊下を一目散に駆け抜けて、自分の部屋のドアを開けるや否や、飛び込むように部屋に転がり込んで鍵を掛ける。  
ガチャリ、という施錠音にやや遅れて、クララは床にへたりこむ。  
「はぁ……はぁ…」  
息が荒い。 胸も早鐘を打つようにドキドキとしたままだ。  
でも、わき目も振らず走り続けたせいだけではない。  
(こ、告白…されちゃいました…)  
上気した顔がさらに赤く染まる。 知らず、両手を頬に当てる。  
クララにしてみれば、異性から告白されるのは初めてのことである。  
カイルについては、自分から告白したわけであり(後で、カイルにしきりに恐縮された)、  
彼と恋人関係になったというのもあり、自分が告白される立場になることなんか、全く思ってもいなかった。  
(ど、どうして私なんか…)  
独りきりの部屋で首を振りながら、クララの思考は混乱する。  
(私なんて、お勉強とお料理くらいしか取り柄ないのに…他にも私よりきれいで素晴らしい人がいっぱいいるのに…)  
少々自分の魅力に気付いていないというか、卑屈になりがちなのがクララの欠点ではあるが、  
それにしてもサンダースが、自分のどこに惚れ込んだのかがわからない。  
(こ、断らなきゃ………で、でも…)  
クララが好きなのは、カイルをおいて他にない。  
サンダースであろうと、いや、他の誰であろうと、どんなに情熱的に告白されようと、その気持ちが揺らぐことはない。  
しかし、『ごめんなさい』というには、かなり勇気がいる。  
まして、あのサンダースだ。  
曖昧な言葉で濁すだけで通じる相手ではないし、そのような不誠実さは、最も嫌うところだ。  
それに、クララもそんな真似ができない。  
…呼吸が落ち着いてきたが、まだ動悸は続いている。  
そして、ほんの少しだけ湧き上がる、愉悦。  
そう、今まで読んできた恋愛小説のヒロインに似た気持ち。  
『愛してます』  
『君を守りたい』  
『君が欲しい』  
男性から告白される、というヒロインならではの特権。  
女の子なら、誰でも少しは憧れるシチュエーション。  
(…ほ、ほんの少しだけ、酔ってもいいですよ、ね…)  
クララはしばらく夢想の世界に浸る。  
甘い言葉を、カイルの声に置き換えながら。  
 
(………あっ、こんな事考えてる場合じゃないです)  
しばらくして、漸く我に返る。  
ふと気が付けば、部屋の窓から西日が流れ込んでいる。  
ヒロイン気分に浸っている場合ではない。 というか、むしろ自分にとって想定したくない事態に陥っていることを改めて思い出す。  
「はぁ………」  
深い溜息。  
(どう言ったらいいのかしら…?)  
明確な断り文句が見出せないまま、時間が過ぎてゆく…  
 
週末の放課後。  
「はぁ…」  
誰もいなくなった教室の窓際の席に座りながら、クララが溜息をつく。  
この2,3日でどれだけの溜息をついたかわからない。  
頭の中で、サンダースを振るシミュレーションを幾度も無く行っては、『無理』と否定するのも、もう何度目だろう。  
授業中もそんなことを考えてしまうため、危うくおしおきを食らいそうになったのも、2,3度。  
窓の外の空にぼんやりと目を向ける。 青空に、うろこ雲と一条のひこうき雲。  
(断らなきゃ…だけど……でも…やっぱり、怖いですぅ…)  
結局、行き着くポイントはそこになる。  
あの後、授業や図書室でサンダースと顔を合わせる機会があった。  
知らず竦むクララをよそに、彼は全く普段と変わらない態度だった。  
(なんであんなに平然としてられるんだろう…)  
態度をはっきりさせられない自分が嫌で、いたたまれなくって、泣きたくなる。  
(こんなんじゃ、サンダースさんにも、カイルくんにも顔合わせられない…)  
『ごめんなさい』とサンダースに言い切ることが最良なのはわかっているし、自分の素直な気持ち。  
でも、『怖い』のは、フラれたサンダースが、逆上して暴走しないか……では決してない。  
いや、その懸念もあるけれど。  
『見られる』のが怖いのかもしれない。  
自分への恋心を秤に掛けて、どこか優越感に浸っている自分。  
自分を想う男を拒絶し、突き落として見下ろす、恋の勝利者としての驕慢な自分。  
それを思い、クララは自分にすくみ上がる。  
「はぁ…」  
またしても溜息。  
ガラリ。  
教室のドアが開く。  
「あ、ここにいましたか、クララさん」  
自己嫌悪にも似た考えを巡らしていたクララは、その声に弾かれたように顔を向ける。  
「あ…カイルくん、おかえりなさい」  
「今、集中講座から戻ってきましたよ」  
柔和な表情の、眼鏡を掛けた少年―カイルが、穏やかに微笑みかける。  
「お疲れ様ですぅ」  
表情を緩めてクララは返事をして、席を立つ。  
「いやぁ、結構密度の濃い授業でしたけど、ためになりましたよ」  
彼は昨日からの集中講座に出席していたため、丸一日以上ぶりだ。  
「へぇ、今度私も参加してみようかな」  
「なかなかいいものですよ」  
カイルとの他愛のないやりとりが、なんて心地いいのだろう。  
クララは心底安心した。  
「そうそう、一緒に勉強しませんか?」  
「え、でも、戻ってきたばっかりで疲れてないの?」  
「大丈夫ですよ、そんなに長い時間拘束されたわけじゃないですから」  
気遣うクララにカイルは普段通りの笑みを返す。  
「それに…」  
言いながら、カイルは周囲を見回す仕草。  
「え?」  
「…クララの顔を見たら、疲れなんか吹っ飛びましたよ」  
少し照れくさそうにそう囁かれ、クララが顔を赤く染める。  
二人きりの時だけ、彼は『クララ』と呼ぶ。  
…クララは何も言わずに、そっとカイルの胸に体を預ける。 柔らかく、彼の腕がクララを閉じ込める。  
遥か西の空が翳り出し、窓に射し込む光量を削り始める…。  
 
「はい、ジャスミンティーを用意しましたよ」  
「ありがとう」  
カイルの部屋。  
私服に着替えたクララは、今日初めて楽な心持ちでカイルの部屋へ向かった。  
ゆったりと柔らかな空間と時間にただ癒されるような気持ちだ。  
そっとティーを口に含む。 程好い熱さに茉莉花の香りが身体に柔らかく染み込む。  
「おいしい…」  
「どういたしまして」  
クララは、飲みながら、珍しくカイルの部屋が散らかっているのに気付く。  
「すみませんね、講座の時の資料がまだ片付いてないんで」  
「気にしないでください」  
部屋の中には、カバーを掛けられた本が多く積み上げられ、テレビの前にもDVDがいくつか散乱している。  
「予習しっ放しで出てしまったんで…」  
「フランシス先生の授業だったんですね」  
DVDのタイトルを見て取ってクララがそう言う。  
「ええ、少し昔の映画中心だったもんで、なかなかきつかったですよ」  
カイルはそう言って、カップに口を付ける。  
「少し見てもいい?」  
「いいですよ。 じゃあ、僕のおさらいも兼ねて見てみますか」  
カイルは快く応じて、テレビのリモコンをONにする。  
DVDは予め電源が入っているようで、画面は作品のチャプター画面になっている。  
「あ、この映画は…」  
「そうです、あの有名な刑事アクションものですよ」  
言いながら、DVDを再生する。  
画面上では、テロに巻き込まれた刑事が、ボヤきながらも派手に立ち回っている。  
「いやあ、この作品のタイトルや主演俳優さんは有名なんですけど、何せ内容に深く突っ込んだ問題が多くてですね…」  
「えー、フランシス先生、厳しいですぅ…」  
「ああ、有名すぎる作品は深く、それなりの作品はそこまで無茶は問われませんでしたよ。 そう、この敵役とか舞台が出ましたね」  
「えーっと、敵役はっと…」  
作品をレビューしながら、ポイントごとに二人してペンを走らせる。  
元々優秀な二人だが、カイルが既に深く理解しているため捗りが良い。  
「…じゃ、これはこの位にして、次の作品を観ましょう」  
「はい」  
カイルは手元のリモコンを操作する。 デッキのハードディスクに録画してあった作品にカーソルを合わせ起動させる。  
「あ、この作品、結構好きです」  
「ははっ、この手のラブロマンスが好きですものね、クララは」  
そして、カイルは作品の頭からではなく、チャプターを選択して再生ボタンを押す。  
「あら? 最初からじゃないんですか?」  
「是非観ておくべきポイントですよ」  
クララの不思議そうな声にそう答え、カイルは画面に目を向ける。  
クララも釣られて画面を見る。  
画面には、婚約者持ちの心理学者のヒロインが、突然同僚の男に告白されてしまうシーンが映る。  
(あっ!)  
クララの脳裏に突如、例の記憶がフラッシュバックする。  
数日前の自分とサンダースではないか。  
ドクン。  
突然、クララの中で、鼓動が弾ける。  
(え……ウソ…何か、体が…)  
クララの動悸がますます速くなり、体も熱を帯びてくる。  
思わず、自分の両腕で体を押さえつける。  
 
「…どうしたんです、クララ?」  
カイルが画面から目を離し、クララに声を掛ける。  
「な、何か…体が…熱くって…」  
クララは自らの異変にうろたえる。  
体の熱さと共に、映画の二人の台詞が、クララの記憶にシンクロする。  
「ご、ごめんなさい、カイルくん! その映画、止めて!」  
クララは絶叫して、きつく眼を閉じて体を抱えながら椅子の上で縮こまる。  
「………困りましたね」  
「…え?」  
そう言いながらもカイルは、全く動揺もせず、DVDを停止させる素振りもみせない。  
その違和感にクララは眼を開いてカイルを見る。  
「…同じです、ね」  
画面にまた視線を走らせると、ヒロインがパニックに陥って、思わずその場から逃げ出すシーンになっていた。  
「……お、同じって…な、何………?」  
クララが問う。 その声は、はっきりと震えている。  
「ほら、2,3日前ですよ。 クララ、サンダース君に言い寄られていたでしょう?」  
ようやく停止ボタンを押したカイルがそう言い放つ。 いつもの表情のまま。  
「………!」  
クララの顔から血の気が引く。  
見られていた…! でも、どこで?  
いきなりその事実を突きつけられ、クララは激しく動揺する。   
でも、血の気が引いているのに、体はますます熱くなる。 いや、体のあちらこちらを蝕むような疼きに変わりつつある。  
「いや、たまたま窓から見えましてね。 声は聞こえませんでしたが、凡そは察しがつきますよ」  
カイルは淡々と話す。 DVDのリモコンをまさぐり、また再生ボタンを押す。 また違う映画が始まる。  
「ほら、見てください」  
リモコンを机の上に置いてから、カイルは静かにクララへ歩み寄る。  
恋人に寄られているはずなのに、クララの体は安堵するどころか、恐怖で萎縮する。  
「…いや、こ、怖い…」  
「大丈夫ですよ、ほら」  
クララの頬にカイルの手が触れた瞬間、ビクリ、と震えが疾る。  
その震えも無視して、カイルはクララの顔を画面にゆっくりと向ける。  
抵抗もままならず、画面を直視したクララの眼に、男にじわじわ言葉で追い込まれる半裸のヒロインが映る。  
「い、いや! いやです…カイルく…ん…」  
「…僕も嫌です」  
「え?」  
「何故、あの場で、きっちりサンダース君に断りをいれなかったんです?」  
「あ……それは…」  
「僕が好きだから、とはっきり言えないんですね」  
「そ、そんなことない…」  
「それとも、何でしょうか、『告白されたこと』が余程嬉しかったのですか?」  
「……!」  
見透かされている。 クララは縮こまったまま動けない。  
「…残念です」  
画面から、平手を打つ音がする。 男がヒロインの頬を打ったのだ。  
「…僕には、あんな真似はできません。 クララに傷を付けるなんて真似は…」  
代わりにカイルは小さくなったままのクララを強く抱き締める。  
「…でも、改めて教えてあげますね。 クララは、僕のものだって事をね」  
クララを見つめるカイルの表情は穏やかなままだ。 でも、細い眼から覗く青い瞳に静かに渦巻く、嫉妬。  
クララは思わず目を反らした。 もはや、カイルからも、この熱からも逃げられない。  
 
「…さて、もう一つ質問です。 クララ、体の具合はどうです?」  
カイルの声が聞こえるが、クララにはもうその声を受け止めるだけの余裕はない。  
サンダースの告白を知られたこと、カイルの嫉妬への恐怖、カイルへのいたたまれなさ、そして突然襲ったこの熱と疼き、  
クララの心と体を折るにはもう十分に過ぎる。  
「…もう答える余裕はありませんか」  
ポツリとカイルが呟く。  
「……ご、ごめ…んなさ…い…」  
クララはやっとの思いで声を出す。 頭に浮かんだのは、この台詞だけだった。  
「…いえ、謝らなくたっていいんです。 僕にも責任がありますから」  
言いながら、カイルはクララの頭を撫でる。  
「クララを迷わせてしまう、この僕が不甲斐ないんですよ」  
カイルは自分を責めるように、ポツリポツリと言葉を継ぐ。  
(悪いのは私…だから…お願い…やめて…)  
熱で壊れそうな自分と必死に抗いながらクララはそう思うが、言葉にできない。  
(で、でも、何故…こんなに私のから、体、熱いの……?)  
クララがそう疑問に思った矢先、カイルがまた呟く。  
「雑学の問題です。 今、クララの体にこもっている熱は何でしょう?」  
クララの眼に、机に置かれたままのティーカップが映る。  
(………! まさか、あのジャスミンティー…! た、確か、ジャスミンの効能は…!)  
クララは、そこに思い当たり、潤んだ眼を見開く。  
「…そう、あのジャスミンティーです。 アロマにおけるジャスミンの効果は知っていますよね?」  
ジャスミンの効果は癒しばかりじゃない。 催淫効果の高さはイランイランを超えるとも言われる。  
「…たまたま、この茶葉はマラリヤさんから戴きましてね。 その様子を見ると、特別製ですね」  
錬金や調合が得意なマラリヤにとって、ジャスミンの催淫効果を飛躍的に高めるなど朝飯前だろう。  
一部で『魔女』とも呼ばれる親友の顔が浮かび、クララは力なく首を振る。  
「…そ、そんな事…しなく…たって…わ、私………」  
そう言った途端、クララの心臓と臍の少し下あたりが一際激しく疼き、椅子からずり落ちそうになる。  
「頃合いですね…」  
カイルは呟き、クララを支え直すと、横抱きに抱え上げる。  
「クララ…ごめん…でも、僕だけを想っていて欲しいんだ…」  
腕の中で息を乱しているクララに謝る。  
「手荒になるけど…」  
その先の台詞をカイルは飲み込み、クララを抱え寝室に入る。  
……寝室のドアが閉じ、部屋にはDVDから流れるくぐもった声だけが続いていた…  
 
ベッドのスプリングが幽かに軋む。  
カイルは、クララをひどく優しく横たえる。  
媚薬に蝕まれたクララは、もはや抵抗する素振りもない。 薄く涙を見せながら顔を横にしている。  
「………変に動かないで。 破いてしまいますから」  
クララのブラウスのボタンに手を掛けて、カイルは流れるような指つきでボタンを外す。  
ブラウスの前をはだけてから、カイルは更にスカートのホックとファスナーを緩め、靴とソックスを脱がせる。  
されるがままになっているクララの体には、細かく震えが疾っている。  
ゆっくりとクララの体を起こして、ブラウスを脱がせ、スカートも抜き取る。  
白い下着のみの姿になったクララを再び横たえて、カイルは彼女の服を丁寧に畳んで、自分の勉強机に置く。 脱がせた靴もベッドサイドの床に揃えて並べる。  
「…ゆ、許して…」  
これから始まるであろう事態に、精神を追い込まれながら、クララは精一杯の懇願を試みる。  
しかし、カイルは、首を振って、  
「許す、許さない、じゃないさ…」  
と呟き、部屋にある椅子をベッドの脇に持ってくる。  
そして、クローゼットを開いて、何本かのネクタイやタオルを取り出し、これもベッドの上に無造作に置く。  
そして、自分も服を脱ぎ、トランクス一枚の姿になる。  
「さて…」  
「あっ!」  
カイルがクララの体に触れる。 跳ねるようにクララの体がわななく。  
「体、起こすよ…」  
クララの背中と太腿の裏に両手を入れて、再び抱き上げる。  
そして、先ほど用意した椅子にクララを座らせる。  
「…え…な、何を…?」  
展開が読めない様子のクララを置いて、カイルはベッドに置いていたネクタイを1本取り出し、  
クララを後ろ手に縛り、椅子に固定する。  
「そ、そんな…」  
体を捩るが、うまく動かない。 下手をすれば椅子ごと倒れる。  
あまりに惨めな姿にクララは涙ぐむ。 それでも、苛まれた体は疼き、淫らな熱をもたらす。  
カイルは、もう一つの椅子をクララの前に置いて、向かい合わせに座ると、  
「…僕だって、好きでこんな真似をするわけじゃないよ。 でも、クララは事実、気持ちが揺れているよね?  
 だから………もう一度、僕だけをはっきり見て欲しい。 あの時、僕のことを好き、と言ってくれたクララに…」  
静かな口調に静かな瞳。 その奥に映る嫉妬、独占欲。  
「…わ、私……!」  
クララが掠れた声を張り上げる。  
私はカイルくんが好き。 心の底から愛してます。  
途切れた言葉の先がこう叫ぶ。  
「…今日は、君の体から、その答え、聞かせてもらうよ」  
少し寂しそうにカイルが言って、クララの背後に廻る。  
「………!」  
クララがビクリと震える。  
「怖がらないで…」  
おさげ髪を軽く持ち上げ、項から耳の辺りまでを優しく撫で上げられる。  
「ああっ!?」  
敏感になっているクララの体に甘い電流が疾る。 ほんのり桃色に染まった肌に鳥肌が浮かぶ。  
 
「…はあ…あ…あん…」  
狭い部屋に、クララの荒い吐息と甘い喘ぎ声が響く。  
どれくらいの時間が経ったのか、もう感覚がおかしくなっているのか。  
カイルの愛撫は非常に緩やかに、とろ火で炙るようなスピードで進む。  
項から耳にかけて撫でられ、耳に舌が這う。  
そして、首筋をほんのわずかに擽るように舌が転がり、鎖骨のくぼみにキスが落ちる。  
その度に、クララは激しく反応し、身を捩る。  
カイルは正面に廻り、クララの顎を軽く持ち上げる。  
そして、緩く開いた唇に顔を寄せる。  
激しいキスを期待したクララの気持ちに反して、カイルの唇はわずかに逸れて、細く零れ落ちた涎を啜るだけだった。  
そうしながらも、カイルのもう一方の手はそろりとクララの脇腹や太腿を掃く。  
クララにとっては、生殺しにも似た拷問。  
「…お、お願い…もう………やめ…て…」  
クララが懇願する。  
「おや、気持ちよさそうですが、やめていいんですか?」  
カイルがさも意外そうな声を掛ける。  
「こんなの……イヤ…です…」  
クララが頭を振る。  
「イヤ? おかしいな、いつぞやの手紙の文面は嘘、という訳かい?」  
「…!」  
カイルの言葉に、クララは眼を剥く。  
そう、カイルの誕生日の時だ。  
初体験からしばらくセックスのなかったクララは、ルキア、ユリ、マラリヤの協力を仰いで  
無理矢理カイルをその気にさせた。  
さすがにそのいたたまれなさを含めて、カイルに手紙で託したのだ。  
その気持ちに嘘はない。  
『愛する人に犯され、悦ぶ』と書いた自分の性情は本当だ。  
あの時の深い快感を思うたびに、身体が濡れる。  
だから、カイルに犯されるのは構わない。 でも。  
「う、嘘じゃないです…でも…こんな気持ちのまま…犯されるのは…イヤ…です…」  
泣きながら、クララが言葉を吐き出す。  
「………」  
「お願いです…手、ほどいて…」  
「………」  
カイルは黙ったまま、クララの後ろに廻り、椅子に結び付けていたネクタイをほどく。  
そして、クララを抱え上げて、またベッドに寝かせる。  
「カイルくん…」  
クララが少し安堵したような表情を見せる。  
「じゃあ…」  
カイルが掠れた声で呟く。  
そして、クララの背中に手を廻し、肩のストラップがないブラのホックを外し、一息に剥ぎ取る。  
「きゃあっ!?」  
クララが悲鳴をあげて、両手で思わず胸を隠そうとするが、カイルはそれよりも早くクララの両手を掴み、ネクタイで両手を後ろに縛り上げる。  
「その言葉、嘘じゃないか、態度で示して」  
「………」  
「僕の事が、本当に好きなら、態度で示して。 それとも、やっぱり、サンダース君がいいのかい?」  
 
カイルが発する残酷な台詞。  
クララの顔が苦痛と快感に歪む。  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
もう、限界。 身体も、心も。  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
消耗したクララの精神が悲鳴を上げて、折れる。  
 
 
「…違うのっ…! わ、私が好きなのは、今までも、これからも、カイルくんだけですっ…!  
何だってするから、何だって受け入れるから、私を犯して! イカせてっ!  だ、だからっ…  
 私を疑わないでっ…! 疑われたまま犯されるのだけはイヤぁっ……!!」  
クララが爆発したように絶叫する。  
「………」  
カイルは、クララの感情の爆発に少し茫然とするが、クララの頬に手をやり、涙を拭うと、顔を合わせ、瞳を見つめる。  
クララもカイルの瞳を見る。 ―彼の瞳には先ほどまでの静かな激情の色はない。  
いつものような穏やかで柔らかい光と―ほんの少し覗く、満足感と後悔。  
「…ごめんなさい」  
カイルが謝る。 普段どおりの声だ。  
「…僕も、自信がなかったんです。 本当に、クララは僕の事を好きなのか、僕より素晴らしい人が現れたら、僕の元から去ってしまう、と…」  
「…」  
「そこへ、サンダース君が現れた。 この2,3日、正気でいるのが苦しかった…」  
「…」  
「…最低ですね、僕は…形はどうあれ、クララは僕を好きでいてくれていたのに…」  
カイルは自嘲して、クララの両手のネクタイに手を伸ばす。  
「…でも、もういいです。 やめましょう、こんな事は…」  
「待って」  
ネクタイを解こうとするカイルを制して、クララが声を掛ける。 未だ媚薬に蝕まれている表情はやや苦しげだ。  
「…いいの。 私があいまいな態度だったから…でも、カイルくんは、ここまでして私を繋ぎ止めようとしてくれた…」  
ここで一呼吸を置く。  
「…だから、私がカイルくんを好きだって事、私がカイルくんのものだってこと、ここで証明させて…?」  
言いながら、クララは不自由な身体ではいずり、顔をカイルの下腹部に埋める。  
「な、何を!?」  
驚くカイルに構わず、クララは口と舌で、トランクスのスリットからカイルのペニスを晒し出す。  
「…ご奉仕させていただきますね…」  
やや固くなったカイルの亀頭にいとおしげにキスをして、クララは丁寧に舌を這わせる。  
「ううっ!」  
カイルがうめいて、腰を引く。 でも、クララの舌の感触にペニスは昂奮状態に戻る。  
自分の唾液で清めるように、とにかく丹念にクララはカイルを舐め上げる。  
両手が利かない姿勢で、時折、彼のペニスが暴れて、頬を叩くが、クララは全く意に介さず、舌を動かし続ける。  
「ク、クララ…」  
苦しそうに喘ぐカイルに、  
「…出したくなったら出してください…カイルくんの、飲ませて…」  
とだけ呟くと、クララは小さな口を精一杯広げて、彼のペニスを飲み込む。  
「うわぁっ!」  
暖かく柔らかい感触に吸い付かれ、カイルはのけぞる。  
クララはゆっくりと頭を上下させて彼を愛撫する。 テクニカルな事はさしてわからないけど、とにかく一心に吸い上げる。  
クララの動きはたどたどしいが、カイルにはそれだけで十分だった。 こみ上げを感じて、クララのお下げ髪を掴む。  
クララは亀頭に愛撫を集中させ、柔らかく吸い上げる。 自由の利かない中でできる精一杯の最上級の愛撫にカイルのペニスが一気に限界を迎える。  
「ああっ、で、出る…!」  
カイルの声に呼応して、クララが深くカイルを飲み込む。  
ビクリと一際大きくペニスを震わせ、カイルが達して、クララの口に精を吐き出す。  
クララも口の中で、精液を嚥下し、彼の味を感じていた。  
「………何も飲まなくても…」  
言いかけたカイルの台詞が止まる。  
口を離したクララの表情は、恍惚に緩み、焦点を無くした瞳が淫らに蕩けている。  
 
「はあ…カイルくん、おいしい……」  
うっとりした表情で、聞かせるともなしにクララが呟く。  
口の両端から、飲み残しの精液が垂れている様子は、まるで別人を見るようだ。  
「あ、もったいない…」  
また呟き、ピンク色の舌で、精液を舐め取り、また恍惚の表情を浮かべる。  
カイルは眉間を押さえながら首を振る。  
確かに、ここまでクララを追い込んだのは自分だが、いざこうなると、どう扱うのがいいのか考えていない自分に今更気が付いたのだ。  
(えーっと、じゃあ、次は一つになるのがいい選択なのかな…?)  
我ながらひどい段取りだと自分に呆れながら、クララの体を転がし、トランクスを脱ぎ…ふと、思い出す。  
(そうだ、あの時を思い出すんだ…)  
自分の誕生日の時に二人して演じた痴態。 そうだ、あれはクララが望んだ形の一つだ。  
………。  
「よく飲めたね。 きつかったでしょう」  
「いいえ、嬉しいです、私…カイルくんに感じてもらえたから…」  
顔を紅潮させてそう言うクララの瞳に、濁りが宿る。  
よく見れば、彼女は太腿を内股に閉じて、じれったそうに揺すっている。  
(そうだ、彼女は今、ひどく感じているんだ…薬のせいもあるでしょうけど)  
そして、色事に鈍いカイルも、ようやく整理がついた。  
クララは、セックスにおいて、基本はMである。  
ただ、暴力に訴えたり、罪悪感を盾に追い詰めると、苦痛に耐えられない。  
愛情や安心感を下地に置いておけば、そのシチュエーションに同期して、どこまでも隷属するタイプだ、と。  
(となると…)  
「僕も嬉しいですよ。 そこまでしていただくなんて…男として、冥利に尽きます」  
カイルは言って、この部屋で初めてのキスを交わす。  
「あ、ありがとう…ございます…」  
「では、僕からもお礼をしましょうか…」  
言いながら、カイルは枕を取り、クララの腰の下に敷く。 腰を浮かせるのと、後ろ手の負担を和らげるために。  
「さて、僕は君を悦ばせようと思ってます。 どうされたいですか?」  
臍の辺りをそっと撫でながら、カイルが問いかける。  
「あふぅ…はぁ…好きに……弄んでくださぁい…」  
軽く肌を撫ぜるだけでも感じるのだろう、クララは声を蕩けさせながら腰をくねらせる。  
「好きにして、ということですね? …少し、物足りませんね、はっきり言えませんか?」  
カイルは少し考え込むふりをして、反応を見る。  
「……あ、あの…」  
クララがおずおずと声を掛ける。 不安そうに眉を寄せる表情が色っぽく映る。  
「どうしたの?」  
「……む、胸とか……あ…あの…あの部分を…いじ…弄って……くださ、い」  
今の彼女にできる、精一杯のおねだり。  
「…わかりました。 そうして欲しいんですね、クララ」  
「……はい……」  
瞳を伏せるように目を反らして、クララが頷く。  
「では…」  
カイルはクララのパンツに手を掛ける。 クララも緩く足を開いて膝を軽く立てる。  
するり、とパンツが抜き取られる。 クロッチの部分が重く変色しているのがわかる。  
カイルは何も言わず、タオルを置いて、脱がせた下着をその上に置く。  
そして、ネクタイを何本か取り出す。  
 
「では、まず、このネクタイをこうしますね」  
「あっ…」  
カイルは自分のネクタイを、クララの両の足首に巻きつけ固定する。 縄のように結んでいるため、簡単には解けない。  
「痛くないですか?」  
「だ、大丈夫です……」  
涙目のままクララが答える。 カイルは続いて、クララの首にネクタイを廻す。  
「首を絞めるわけじゃないから」  
少し怯えた様子のクララに優しく微笑みかけて、カイルは、自分の制服に結ぶ要領でネクタイを結びつける。  
クララの素肌に、カイルが日常使用しているネクタイが都合3本巻きついている。  
「そうして縛られてるクララも、可愛いですね」  
「ああ……カイルくんに触られてるみたい…」  
クララが酔ったような表情で心地よさを表現する。 愛する人に束縛される快感。  
「ふふ、そうですか。 では、お望み通り、ご褒美ですよ」  
自分の意図通りにクララが入り込んだのを感じて、カイルはクララへの愛撫を開始する。  
両方の乳房をそっと掴む。 既に固く張り詰めた小振りな乳房が、掌の中で心地良く弾む。  
「ああん、気持ちいいですう!」  
ようやく、カイルに感じる部分を触ってもらえた事実に、クララは歓喜の声を上げる。  
カイルは頂点で尖っている乳首に口を寄せて、舌で転がすようにして快感を伝える。  
その下で、クララが高い嬌声を上げながら、激しく身を捩じらせている。  
カイルは乳房から口を離すと、クララの両のおさげ髪を取り、先端を軽く舐める。  
「髪の毛…汚れてますよ…」  
「汚れてなんかいませんよ。 …頭、引き攣れていませんか?」  
「大丈夫です…」  
カイルはその返事を待ち、クララのおさげ髪の先端で、彼女の乳首を掃くように刺激する。  
「ひゃああん! へ、変になっちゃい、ますぅ…!」  
クララも自分の髪まで使われてしまうとは思ってもいなかったらしく、未知の刺激に体が断続的に震え出した。  
「こっちも…凄いですね…」  
カイルがクララの足首を持ち上げて嘆息する。  
濡れる、どころか溢れ出る、という表現が適切なほど、膣口から愛液が流れ、内腿まで拡がっている。  
「……恥ずかしい…です…」  
「どうして? クララが僕で感じてくれている証でしょう?」  
恥じ入るクララにそう声を掛けて、カイルは充血して開いた膣口に口付ける。  
「はううっ!」  
クララの腰が不自由に跳ね上がる。  
「では、そろそろ、聞きますね。 クララ、どうして欲しいですか?」  
「…イカせてくだ、さい」  
「…具体的にどうやって達したいのです? そこまではっきり言ってください」  
「…カ、カイルくんの指で…私の……お……お○○○を、掻き回してええぇっ!」  
「…はしたない台詞ですね…でも、わかりました、クララのおねだりですからね」  
カイルは持ち上げていたクララの脚を左に下ろす。 クララの体勢が上から見て逆の『く』の字になる。  
そして、右手の中指と薬指を膣に沈める。  
「あああああっ! いい、いいですぅっ…!」  
クララが絶叫する。 膣内は既に痙攣するかのように震え、指に襞が絡みついていく。  
カイルは何も言わず、膣内に挿れた指を軽く曲げ、強く擦るように掻き回す。  
同時に親指が、膨れ上がったクリトリスを捉え、強く潰す。  
「いい、イッ、イッちゃい、ますぅ! ………………ッ!」  
散々昂ぶっていた身体には、この刺激だけで十分だった。 クララは、最後は声にならない嬌声を発して絶頂に達した。  
 
髪を乱し、白い喉を反らせて絶頂の余韻に浸るクララが、淫らで愛おしく映る。  
カイルはゆっくりと膣から指を抜く。 彼の指だけではなく、手首の辺りまで、愛液が飛沫いている。  
「……良かったですか?」  
たっぷり時間を置き、クララの呼吸が少し落ち着いたのを見計らって、カイルは声を掛ける。  
とろんと微睡んだような眼を向けて、クララがコクリと肯く。  
「…もっと、気持ちよくなりたいですか?」  
愚にも付かない台詞をカイルは吐く。  
「カ、カイルくんの…大きいのが…欲しい……ですぅ…」  
この上なく、淫らな雌の隷獣の表情でクララが応える。  
カイルも、さすがにこの表情には戦慄を覚えたが、彼自身も、クララが欲しくてたまらない。  
後ろ手に縛っていたネクタイを解く。  
「あ……ほどいたら…イヤ……です…」  
クララが、子供の駄々のように首を振る。  
「カイルくんに…きつく……閉じ込められて……犯されたいの…」  
「………わかりました。 クララの言う通りにしてあげます、ね…」  
カイルはクララを仰向けにする。 そして、縛られたままの脚を天井へ向け、クララの体に押し付けるように畳む。  
「クララ……両手で、脚、抱えて」  
カイルの命令にクララは従い、ひかがみの辺りで抱え込んだ手を組む。 カイルはその両手を結ぶ。  
縛られた両脚を抱えて、下半身を差し出す卑猥な図になる。  
「…挿れますよ」  
カイルは高く上げたクララの足首を掴んで、猛ったペニスを膣口にあてがう。  
「………い、挿れて、ください…私を…お、犯してくださ、いいいいっ!?」  
クララの淫らなおねだりを最後まで聞かずにカイルは深く挿入する。 クララの語尾が奇妙に跳ね上がる。  
「ううっ、す、凄い…!」  
挿入して早々、カイルの腰が震える。 クララの膣が奥まで吸い寄せようと蠢く。  
カイルは下半身に力を込め、快感を抑制しながらクララを深く、深く貫く。  
「はあああんっ! く、苦しい! でも、でも、すごくいい、いいのぉ!」  
窮屈な姿勢で犯されながら、クララは涙を流して、快感を貪る。  
それでも、クララの微妙な動きと膣の締め付けにカイルは射精感がこみ上げる。  
(く、くそっ、ま、まだだっ…!)  
カイルも激しい快感に身を焦がされながら、必死でクララを絶頂へ導こうとする。  
カイルが、抱えていた脚を更にクララに押し付ける。 そして押し被さるように上からクララの内奥を圧迫する。  
「……………!」  
下からカイルの体重を跳ね返すように痙攣しながら、声も出せずにクララがまた絶頂に達する。  
膣からさらりとした透明な液が溢れる。  
それでも、カイルは律動を止めずに奥を犯す。  
「も、もっとぉ……もっと、激しく、来てくださ……い…!」  
顔を緩めて快感を訴えるクララの嬌声と共に、膣内の襞の蠢きが一段と激しくなる。  
「……い、行くよ、クララっ!」  
限界を感じたカイルが絶頂の合図を告げる。  
「ま、また、私もイッちゃううっ! …あああああっ!」  
呼応したクララが一瞬先に達し、すぐにカイルも達して、クララの奥に激しく精を放つ。  
「……ああっ、カイルくんの、熱いぃぃぃっ…!」  
互いに薄れる意識の中、クララの弛緩した唇から、聞こえた気がした。  
「私は今、カイルくんのものになりました」と…  
 
翌朝の8時。  
「あれ? もうこんな時間ですか?」  
「おはよう、カイルくん」  
「…うわああっ!? ク、クララ!? ご、ごめん…!」  
「? どうして謝ってるんですか?」  
カイルは昨夜の事を思い出し、謝らずにはいられなかったのだが、クララはキョトンとしている。  
「いえ、あんな事したんですから…」  
「クス。 だから昨日言ったじゃないですか。 カイルくんの事は全て受け入れる、って」  
服を着て、エプロン姿のクララがニッコリ笑う。  
(そうか……)  
クララの表情には昨日までの曇りは全くない。 普段通り…いやカイルだけを包む癒しの表情。  
「さ、朝ごはんできましたよ。 一緒に食べましょ」  
カイルに踵を返し、クララがダイニングへ向かう。  
カイルは眼を剥く。  
クララはブラウスを着て、エプロンを着けているが、明らかに下半身には何も着けていない。  
(………まだ誘われてるようですね…ま、食事してから、『事情』を訊きますか…)  
カイルも手早くシャツとスウェットを身に着け、ダイニングに向かう。  
…この週末は長くなりそうだ。  
 
「サンダース君…」  
「ん? クララか、どうした?」  
「後で、いいかな…?」  
告白されて一週間後。  
授業の後にクララはサンダースに声を掛ける。 もちろん、この間の返事だ。  
「…いや、もういい」  
「え?」  
「その表情…いや、雰囲気とタイでわかる。 どうやら、私の出る幕はないようだな」  
「…ごめんなさい」  
「構わん。 こっちも無理を承知だったからな。 …この週末で雰囲気が変わったようだな」  
サンダースはあっさり振られて『くれた』。 クララが顔を赤くする。  
「私なら気にするな。 早く奴の所へ行ってやれ」  
クララはそれ以上何も言わずに、サンダースにペコリとお辞儀をして教室を出る。  
「……フラれたのね」  
「ん? マラリヤか。 大きなお世話だ」  
「運が無かったのね…でも、また恋をするチャンスはいくらもあるわよ…ほら」  
憮然とするサンダースにクスリと笑い、視線をサンダースの背後に投げる。  
少し幼い足音が近づいてくるのが聞こえる。  
 
クララはカイルの部屋へ向かう。 制服のリボンの陰で、彼の棒タイが結ばれている。  
風が吹いて、リボンとタイが一緒に舞った。  
 
―Fin.―  
 

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