突然、部屋のドアが開け放たれた。
誰もいない。いや見えないだけ。気配はある。
急速に近づくその気配を、ユウは背中越しにいち早く感じ取っていた。
「お、お姉ちゃ、あああっ!!」
振り返る間もなく、体ごと横っ飛びに張り倒された。
「ユウ!あんた自分が何やってるか分かっ…てぇええええ!?」
サツキがふと目をやった先には、更におぞましい光景が待っていた。
ユウを毛布ごと引き剥がされたクララは、素っ裸。
その体の至る所が、ヌラリとした液体にまみれて光っている。
そして、だらしなく開かれた秘部からは、白濁液が脈を打って漏れ出る。
「……ユウくぅん?」
間延びした甘ったるい声で弟の名を呼ぶ。トロンとして焦点の合っていない目。
ヤッていた。この二人。今の今まで。私がちょっといない隙に。
泥棒猫。眼鏡をかけた雌豚。寝取られた。許さない。私のユウを。
殺す。 そんなに死にたいなら私が殺す。
「やめて…お姉ちゃんやめ…やあああああ!耳、耳が!」
怒気の衝撃波が周囲を揺らし、満たした。部屋中の小物がカタカタ震えだす。
「死ね!!」
次の瞬間全ての小物が、一点めがけ勢いをつけて飛んでゆく。
「クララちゃん!!」
大音響。ガラスや陶器は粉々に砕けシーツが引き裂かれ壁や床に穴が開く。
しかし…クララの柔肌は傷つかない。一箇所たりとも。
「障壁!?小賢しい!これでもか!!」
詠唱と共にサツキの周りに展開する五色の魔方陣…火炎、氷結、雷撃、鎌風、光束。
それぞれの色に応じた魔法弾が順不同で絶え間なく標的を襲う。
生前この攻撃をかわし切った相手はいない。今度こそ!
…不思議です。
起きているのに眠っているような。
頭はぼぅっとしているのに、底の意識はどこまでも澄んでいる。
分かる…サツキさんの気配、次に撃って来る魔法弾の属性まで分かる。
無効化するには、逆の属性で障壁を張って対消滅させればいい。
火炎にはこう…氷結には…雷撃には…。教科書に載ってたから簡単です。
あれ、でも一度斜め読みしただけなのに、一字一句間違えずに思い出せる。
どうしてかな…。
それにしても…部屋中の物、一斉に投げつけてくるなんて、乱暴ですよね。
あの本や人形、私のお気に入りだったんですよ。弁償してくれるかなぁ?
ユウ君、張り飛ばされて可哀相…どこか怪我してないかしら。
後でまた抱いてあげるからね。痛いの痛いの飛んでけー…なんて。
くすくす。これじゃ子供扱いですね。いけないいけない。
…一休みですか、サツキさん?
あくびをしながら大きく伸びをして、クララがベッドからゆっくり起きだした。
「サツキさんって…アカデミーでも指折りの優秀な賢者って聞いたけど…
大したことないんですね」
「嘘…嘘だ!こんな化け物! 来るな! 来ないで!!」
「あ、それとも私、ユウ君のいっぱい貰ったからかな」
「クララちゃん…」
半分正解。
三度の深いセックスによる性的興奮、首を絞められて飛びかけた意識が、
一時的に尋常でない脳内物質の分泌と交感神経の働きを呼び覚ましたのだ。
勿論クララ自身の素質の高さもある。「早とちりで」賢者の魔道書を
持ち上げてしまったのは、決して偶然のみの成せる技ではない。
ガラスの破片が散らばった床を裸足で歩き出すクララ。
破片を踏んで血が滲んでいるのに、今のクララは全く気付かない。
「…私のターンですね」
「いやあああああああああああああああ!!!」