(第一部・昇段の間)  
 
「待ちなさい、マラリヤ!」  
アメリア先生の声が響く。  
「…はい?」  
「はい?じゃないでしょ。どういう事!?」  
床に置かれた巨大な魔道書を指差す。  
「持ち上げてみなさいって言ったのよ。それを触りもしないで!」  
「…だって賢者でないと持ち上げられないんでしょ?やるだけ無駄です」  
「だから逃げるって言うの?ダメでも試してみるのが大事なのよ!」  
「物事には順序があります。賢者になったらまた受け取りに来ますから」  
一瞬の沈黙。睨み合う二人。  
「(…おしおき…かな)」  
 
不意にアメリア先生がニヤリと微笑む。  
「クララはちゃんと持ち上げたわよ」  
「…嘘でしょ?」  
「本当よ。ほんの少しの間だったけど、確かに魔道書は持ち上がったわ」  
 
「…(そういう事か…無茶したわねあの娘)」  
 
 
(第二部・マラリヤの回想)  
 
「…ふぅん。強壮剤ねぇ…コレ?(親指を立てる)」  
「違います!そんなんじゃなくて!  
明日だけ…どうしても明日だけ力が必要なんです!」  
「作れないことは無いけど…  
マンドラゴラの根、蛇の黒焼き、熊の肝臓、ドラゴンの角、蝙蝠の睾丸…  
いずれにしても、誰かのマジックペットを犠牲にする必要があるわよ」  
「うぅ…(私の魚じゃダメですかぁ…)」  
「…まぁそういう訳にもいかないし…あなたにピッタリの薬を作るわ。ついて来て」  
 
中庭の一角に生えている茸や草の根を引っこ抜く。そうそうコレ。  
「勝手に自生してるように見えるけど…ここは薬草の宝庫よ。  
誰かが意図して植えなきゃこうはならない。誰の趣味かしらね…」  
「へぇ…」  
「このくらいでいいかな。帰るわよ」  
 
摘んできた素材を刻んで煎じた液体を手渡す。  
「できた…飲んでみて」  
「(ごくん)…うぇぇぇ、苦いですぅ…」  
「良薬は口に苦し、ってね。でも無理して全部飲む必要はないわ」  
「いいえ、飲みます!(んぐ、んぐ、んぐ…)う゛え゛え゛え゛ぇぇ…  
でも…何か、力が湧いてきた、気が、します…うぇぇ」  
 
「…明日って、そんな気合の要る予定があるの?」  
「はい、魔導師の昇格テストです!」  
「魔導師って…まだまだ先は長いのに。力の入れ所が間違ってない?」  
「明日は特別なんですっ!」  
 
あの聡明なクララが目の色を変えて薬に縋るなんて、ただ事ではない。  
これで何かひと悶着あったら、自分も共犯になるのかな…。  
「頼まれたから調合したけど…面倒は嫌よ」  
「大丈夫です、マラリヤさんの事は絶対に言いませんから」  
「あと一つだけ注意。あまり下っ腹に力を込めないでね。大変な事になるかも」  
「はい、気を付けます。 …あの、今日は有難うございました!」  
 
意気揚揚と部屋を出て行くクララ。 嫌な予感がする…。  
 
 
(第三部・アメリア先生の回想)  
 
「優勝はクララ!そして魔導師昇格おめでとう!イエーイ!」  
「あ、有難うございますぅ!」  
「昇格の印に、これをあげるわ。受け取ってね」  
「(これが賢者の魔道書…大きい…重そう…。でも…!)」  
 
「試しに持ち上げてみて」  
「はいっ! …ん、んん、んんんん〜〜っ!」  
「どう?それが賢者の重みよ。それは知識の重みと、知識を行使する責任の重さなの」  
「んんん〜〜、んぐぐぅ、ふんんんんっ!!」  
「今は持ち上がらなくても当然。相応の魔力と、人間としての精進が必要ってことね」  
「んく、くぁぁ、ぁぐぐぐぐ、んん〜〜!!!」  
「その重さをしっかり心に刻んで、明日からの授業も…ってちょ、嘘ッ!?」  
 
片側から持ち上げた魔道書の下に体を滑り込ませ、今まさに全身で魔道書の重みを  
受け止めようとしている。  
「やめなさいクララ!今無理しなくても!潰れちゃうわよ!」  
「ふぅぅ、ぅんんんん、んああああああああっ!!!!」  
(プシャアアアアアアア…)  
「…持ち上げちゃった…」  
 
「先生!やりました先生!見て下さい、私っ!(シャアアアアアアア)」  
「( ゚д゚)…ポカーン」  
「先生!? あ、ああっ私やだ、おしっこ!?止まってぇ!」  
慌てて魔道書から手を離し、小水しとどに溢れる股間を押さえてしまった。  
「クララっ!!」  
(ズズゥゥゥ……ン)  
 
寸手の魔力アシストが間に合って、最悪の事態は免れたけど。  
「重いぃ、痛いぃ、助けて下さいぃ…」  
「無茶するからよ!そこまで必死にならなくても!」  
「先生…これで私、賢者にひとっ飛びですよね?」  
「はぁ!?」  
「だって、魔道書を持ち上げたら賢者になれるって…」  
「違うって! 賢者になったら軽々持ち上がるとは言ったけど」  
「そんな、勘違い?勘違いなんですか? …がっくり」  
 
 
(第四部・再び昇段の間)  
 
 
「…と、そういう事なのよ。先生久しぶりに感動しちゃった!  
信じる心があれば不可能が可能になるのよ!」  
「ただの勘違いじゃない…」  
 
「目標に向かって努力する姿が尊いの!マラリヤも見習いなさい。  
汗を流す事を避けてたら、いい賢者になれないわよ」  
「彼女の器量なら、もっと要領良く楽して賢者になれるのに…」  
 
「アカデミー始まって以来の快挙なのよ!(どうもこの子苦手…)」  
「理解できません…それじゃ(あの娘、何を焦っているのかしら?)」  
 
「待ちなさい、どこ行くの!? 話はまだ終わってないわよ!」  
「馬鹿正直なクララさんを茶化しに…(詳しく話を訊く必要があるわね)」  
 
「あぁもう! じゃあ最後にひとつ質問。私、クララの何を見習えって言った?」  
「人前で放尿する度胸」  
「違うっつーの!!(雷撃)」  
 
 
(第五部・保健室)  
 
 
賢者に…なれなかった。  
魔道師からの階段が、とても長く感じる。  
焦ることなんかないと、人は言う。  
若いんだから。賢いんだからと。でも…。  
今の私には、時間がない。  
 
まずは何よりも階級。  
サツキさんは生前、相当高位の賢者だったらしい。  
私は…霊感も呪法のセンスもないから、  
サツキさんより上の階級に昇り詰めて  
正面から圧倒するしかない。  
 
ユウ君が賢者になったら…  
きっとサツキさんを蘇生させるだろう。  
自分の命を引き換えに。  
サツキさんがユウにしたのと同じ方法で。  
それは姉弟以上の縁で結ばれた命のループ。  
 
割って入る事なんて、許されないのかもしれない。  
でも私…どんな事をしてでも  
ユウ君の一番になりたい。  
サツキさんが必要なくなる位の。  
その為なら、どんな悪い事でもしてみせる。  
 

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