とある休日。
アカデミーの近く。
人気のない小さな草原。
セリオスが気に入っている休憩場所の一つだ。
たまに一人で静かに過ごしたい時にここに来る。
今日も本を片手に訪れていた。
「やはり晴れの日はここに限るな。」
ゴロリと横たわり本を広げる。
本はその日の気分によるもの。
「空気はいいし室内で腐らないから実に健康的だな。」
そよそよと風が草を揺らす。
強すぎない心地よい風だ。
「なにより静かだからな。のんびりするには最適だ……」
「おーし、今日はここでやろっ!」
「静か……だ?」
「はっ!とうっ!」
「………」
聞きなれた声。
いつも教室で聞いても何も感じないのに何故だろう。
今は凄くやかましい。
「せーのっ、ユリちゃんあっぱーっ!」
「……っ!」
本に集中できない。
イライラがたまってきた。
そして……
「ぎゃぼー!?着地失敗!」
「だあっ!やかましい!!」
「ひっ!?」
取り乱した。完全に。
「あれ、セリオスいたの?」
「……ゴホン、頼むから僕の邪魔をしないでくれ。たまの休日をのんびり過ごしていたいんだ。」
「えーっ、でも今日はここで特訓しようと思ったのに……」
今の何のどこが特訓なのか。
気になったが面倒なので気にしないことにした。
「その前に既にここは僕の憩いの場だ、邪魔するなら他でやってくれ。」
「むーっ……」
ユリは渋々どこかへと去っていった。
「ふぅ……」
平安を取り戻し再び読書にふける。
これがなかなか幸せだ。
「………」
「よいしょっ……と。へへっ。」
隣に誰か来た。
見なくとも誰なのか見当はつく。
だからあえて無視。
「………」
「…ぷっ、はははっ!」
「……………っ」
「はぁ、面白いなぁ。」パラパラパラッ
「…………くっ!」
「……はははっ!おっかしーっ!」
「いい加減にしろ!」
「ひっ!?」
また取り乱した。
多分カルシウム不足だ。
「だいたい何しに来た。」
「いや、静かに読書するならここにいてもいいのかなって……」
セリオスは呆れ果てた。
一つ、ユリが全く静かでなかったこと。
二つ、ユリが読書といいギャグマンガを読んでたこと。
三つ、静かにいても結局邪魔していることに変わりないことに気づいてないこと。
最早相手にするのも馬鹿馬鹿しくなった。
「……勝手にしろ。僕は寝る。」
「へ?本は?」
「そんなもの後でも読める。」
ぷいとユリに背中を向けてしまう。
狸寝入りでやり過ごしてやろうという魂胆だ。
こうなると手持ち無沙汰になるのはユリだ。
一人じっとしてることは苦手。
しばらく草をいじっていたがふと悪戯心が芽生えた。
セリオスの狸寝入りを暴いてやろう。
「ねーねー、狸寝入りでしょ?」
「……(狸寝入りしていてハイと答えるバカがいるか。)」
「……あ!見て見てUFO!」
「(……馬鹿らしい真似を。)」
「ぅ……。うむむ………キャーッ!セリオス助けてぇっ!」
「……(ユリなら自力で何とかできる。そもそも暴漢が来た音はしてないな。)」
「ぅ…うむむむむ………」
ユリは相手が相当手強いと思い知った。
セリオスを意地でも起こすために頭をフル活用して悩んだ。
「……(ようやく静かになったか。あと少しだな。)」
セリオスの顔に笑みが浮かぶ。
もう撤退も時間の問題かと踏んでいた。
そんな時。
「……んっ」
「………?」
声がいきなり妙に艶っぽくなった。
「やっ……はぁ、声でちゃう…」
衣が擦れる。
もぞもぞと身を揺する音。
「(なるほど考えたな。自慰の真似事か。)」
そうとわかれば興奮する余地はない。
しかし。
「してる……あたし、セリオスの隣でしちゃってるよぉ……」
「…っ!」
妙に力の入った演技にセリオスは本能を抑えきれない。
「あっ…はうぅ……」
「(くっ……背を向けたことが裏目に出たか!)」
音がしてもその光景が見えないとなると嫌でも想像してしまう。
セリオスの頭の中でユリがいやらしく動く。
例え真似事とわかっていても、だ。
「セリオス……寝てるから大丈夫だよね…?」
「(我慢しろ……こんな物、別段どうということは……)」
「あたしの声、聞かれてたら恥ずかしいよ……んんっ。」
「(くっ……僕としたことが!?)」
本能はやはり理性より強い物らしい。
セリオスは下半身に血が集まっていくのを自覚した。
これでは思うつぼだ。
「ね……セリオスぅ、冷たく……しないでよ…」
「(くっ、落ち着け……!)」
「セリオスと…んふ…仲良く…したいのにぃ…」
「(よく言う……!)」
「はぁっ…セリオス……セリオスぅ……」
「(くそっ……僕は何を惑わされている!)」
徐々に焦り始めるセリオス。
演技とわかっていても、落ち着かない。
そんな自分に苛立ちさえ覚える。
「んふっ…も…だめぇ……!」
「(………!)」
ひたすら耐える。
しかしこの期に及んでユリの痴態が目に浮かんでしまう。
そんな感じで悶々としていると……
「……えいっ!」
「うわっ!?」
急に股間を触られた。
驚きのあまり飛び起きるとニヤニヤしたユリがいた。
「ふふーん、声だけで興奮するなんてセリオスもやっぱり男の子なんだねぇ♪」
「く…貴様!侮辱する気か!」
「ううん、健全でいいと思うよ?」
「………!」
自分だけ焦っていることに急に照れくさくなってきた。
「それとも……もっと聞きたかった?」
「なっ……勝手にしろ!僕はもう帰る!」
本をそそくさとしまい早足で去っていく。
「あっ……」
引き止め損なったユリはそれを静かに見送った。
風が少し強くなった。
「……セリオスあたしのこと女の子として見てくれてたんだよね。……よかった。」
ユリは一人顔を赤くする。
正直不安だった。
自分が好意の対象になり得るかが。
「がんばるよ……あたしがんばるよ?だからいつか……振り向いてほしいな。」
下着がさっきの行為で既に濡れてしまっている。
再び静かにそこへ指を伸ばす。
「あたし…バカだから…んふ……真似とかできないもん…」
あの時も。
振り向いてほしかった。
エッチな自分を見てほしかった。
「セリオス……好きだよ。」
そしてまた行為に没頭する。
人知れず思い続けて。
風はまだ吹き続けていた。