『SUMMER VACATION(QMA MIX)』  
 
夕暮れの細い裏路地に、3人のガラの悪い男たちが転がっている。  
そして、3人を見下ろす厳しい表情のサンダース。  
「立ち去れ」  
低い声で言うと、路上に伏せていた男たちがヨロヨロと立ち上がり、怯えた表情で逃げ去った。  
「………大丈夫か?」  
男たちが去ったのを見届け、サンダースが声を掛ける。  
背後には、身を寄せ合っていた、3人の少女たち。  
「サンキュ…サンダース」  
そのうちの、髪をポニーテールに結わえた、活発そうな少女―ユリが立ち上がりお礼を言う。  
「なに、偶然居合わせただけだ。 あのような輩、ものの数ではない。 怪我はないか?」  
「うっ…怖かったよぉ、お兄ちゃん…」  
一番小柄な少女―アロエが涙声で答えながら立ち上がる。  
「ケガはしてないわ。 全く、災難だったわ…助かったわ、サンダース」  
これまた活発そうな、赤い髪の少女―ルキアがへきえきとした口調ながらも同じくお礼を言う。  
「…もう大丈夫なようだな。 では、私はこれで失礼する」  
サンダースはそれだけ言うと何事もなかったかのように表通りに足を運ぶ。  
「ま、待ってよ、サンダース!」  
ユリが慌てて呼び止める。  
「ん? やはり怪我でもしているのか、ユリ」  
「違うってば! お礼くらい、させてよね」  
「礼には及ばん。 それより、早くアカデミーに戻った方が良い。 この時間はなかなか物騒なようだ」  
ユリの申し出を丁重に辞退すると、サンダースは再び表通りへと消えていった。  
「……事で………な……リ…」  
サンダースが去り際に何か呟いたようだが、ユリには良くは聞き取れなかった。  
(まったく…って、あれ? 今、何て言ったんだろ…)  
しばらく何とはなしにサンダースの独り言を反芻していたユリだが、  
「ユリってば!」  
ルキアの声に我に返る。  
「さっさと戻ろ。 ホント、ひどい目に遭ったわ」  
「…そだね。 行こ」  
ユリは、アロエの手を引いて表通りへ向かう。  
(サンダース…アイツもいいとこあるのかな…?)  
頭の片隅でそんな事を考えながら。  
 
「さて、諸君!」  
うだるような夏の暑さの中、これまた熱気のこもった大きい声でガルーダ先生の声が響く。  
夏休み前の全校集会。  
ヴァルヴァドス校長の訓示に始まり、ロマノフ先生の休暇中の課題の伝達、生活指導…と  
教師陣の話が延々続くのはどの学校でも同じようだ。  
生徒たちは、いい加減うんざりとした表情を浮かべている。 マラリヤやサンダースは全く表情を変えていないが。  
「先程からあるように、公式にはあと一週間で夏休みだが、その前に…」  
ここでガルーダ先生は一瞬タメを作る。  
「急な話だが、リフレッシュ合宿を行う!」  
一瞬の凍りついた間の後、生徒たちから歓声があがる。  
要は、合宿とは名ばかりの「休み」の前倒しである。  
レオン、タイガが雄たけびをあげて喜びを表現すれば、ルキア、ユリなどのニギヤカな女生徒陣も隣構わずはしゃいでいる。  
「静かに! 出発は三日後、行き先はアカデミー所有のリゾート島だ! 各自、それまで準備に充てろ!」  
ガヤを制しながら、ガルーダ先生は手短に伝達する。  
「わからない事があるならば、俺や他の先生に尋ねるといい。 では、話は以上! 体調には気をつけろ! 解散!」  
ということで、全校集会は一気にお開き、生徒たちは思い思いにクラスメイトとわいわい騒いでいる。  
そんな中、  
「ロマノフ先生」  
「ん? どうかしたかね、サンダース?」  
「申し訳ないが…私は不参加とさせていただきたいのだが…」  
「む?」  
いつもと変わらぬ口調でサンダースがロマノフ先生に告げる。  
誰もが一瞬、耳を疑った。  
予想もしない発言に、ガヤガヤと騒いでいた面々が一様に沈黙する。  
「何か都合が悪い事でもあるのかね?」  
ロマノフ先生も、少々驚いた表情ながら、いつもと変わらぬ口調で返す。  
「この合宿は、堅苦しいものではないぞ」  
「それは承知している」  
教師の前でもやや不遜な口調を変えずにサンダースが続ける。  
「しかし、私が参加すれば恐らく―いや、必ず皆に不快な思いをさせてしまう」  
「………意志は固いようだな。 まあ、そなたがそう言うなら無理には引き止めん。 好きにするがよい」  
「自分勝手で申し訳ない」  
ロマノフ先生に軽く頭を下げて、サンダースは踵を返し、寮へとさっさと歩いていく。  
残された面々はただ唖然とするばかりだった…  
「…心身を休め、癒すのもまた、勉強かと思うがの」  
ロマノフ先生が誰に言うともなく呟く。  
 
「ちょっと、待ちなさいよ、サンダース!」  
独り先を歩くサンダースに追いつくべく駆け寄りながら、ユリが大きい声で呼び止める。  
レオンとルキアも一緒だ。  
サンダースは全く歩みを止めない。  
「待ってったら!」  
ユリがサンダースを追い越して、強い口調で再度呼び止め、彼の前に立ちふさがる。  
「………」  
サンダースは無言で止まる。 その表情は、いつもの仏頂面だが、目にありありと『鬱陶しい』と書いてあった。  
「なんで、一緒に行かないのよ!」  
そんな表情に構わずユリがまくしたてる。  
「そうだぞ、ちょっと自分勝手すぎやしねえか?」  
少し遅れて追いついたレオンも合わせて畳み掛ける。  
別段、彼らも普段サンダースと仲が良いわけではない。  
世界征服を目指すなどと言って超然と―むしろ傲岸不遜に―構えている彼と仲がいい人間なんてほとんどいない。  
人当たりの良いカイルか、無邪気なアロエ、これまた変わり者のマラリヤとぐらいしか会話をしているのを見ない。  
でも、何だかんだ言っても、同じように賢者を目指すクラスメイトである。  
不可解な行動を取られて黙っていられないのが、彼らの性分である。  
「なあ、何とか言ったらどうなんだよ、サンダース!」  
相変わらず沈黙を決め込むサンダースに、レオンの口調が怒気を帯びる。  
ユリ、ルキアも同調して厳しい目をサンダースに向ける。  
1分ほどの沈黙の後、サンダースが深い溜息をつく。  
「…仕方あるまい。 では、お前たち、覚悟はあるか?」  
「?」  
唐突なサンダースの発言に3人が困惑する。  
「話をするより、見せた方が早い」  
「一体、何の話よ!」  
ユリが、心底イライラした口調で言う。  
サンダースはそんなユリを一瞥した後、おもむろに上着を脱ぐ。 そして、その下のシャツも取る。  
「…げ」  
「…な、何なのよ…」  
シャツの下から現れた光景に、レオン、ルキア、ユリが軽く呻いて絶句する。  
サンダースの体には夥しい数の傷跡が刻まれていた。 胸、腹、腕…恐らく、ズボンの下の脚部にも似たような傷があるのだろう。  
「やはりな。 そういう反応になるのはわかってはいたが…」  
サンダースは仏頂面を少し崩してそう独りごちる。  
「…なんなんだよ、それ……デタラメじゃねえか…」  
レオンはあまりの光景にそれだけ言うのがやっとだった。  
ルキアとユリは衝撃で言葉も出ない。  
「名誉の負傷だ。 私の故郷では年端も行かぬ頃から軍役があってな。 その時のものだ」  
心なしか、寂しそうにサンダースは呟く。  
「…言ったろう。 このようなものを見せては、お前たちもリフレッシュにはなるまい。  
 ならば、私はここに残って自習をしている方が皆のためにもなる、ということだ」  
手早く上着を着直すと、サンダースは何も言わずに部屋へと戻っていった。  
…3人に再度呼び止められるはずもなかった。  
 
その日の晩。  
私服に着替えたユリは何度目かの大きな溜息をつく。  
「まさか…そんな…」  
あんな理由があったとは、想像もしていなかった。  
(そりゃあ、気にするよね…)  
思い当たるところはあった。  
例え暑かろうと、体育の時間も長袖長ズボンで通し、シャワーを浴びるのもいつも最後。  
また、普段からのあの口調も、必要以上に自分に近づけないための方便だとしたら。  
(わたし、何見てたんだろ…)  
強面に構える彼の真意―なのかはわからないが―漸く気付いたユリは部屋で独り沈み込んでしまう。  
「…謝らないと!」  
しばらくして、ユリが顔を上げて強い口調で呟く。  
明日からは実質休みだから、サンダースも下手をすれば捕まらないかもしれない。  
そうなってしまえば、リフレッシュ合宿が終わるどころか、夏休みが終了するまで謝る機会がないかもしれない。  
「急がないと!」  
こうと決めたら一直線、ユリは部屋を飛び出し、サンダースの部屋へ向かう。  
 
「ここだよね…」  
ユリが少し不安そうに呟く。  
さっきの事で、恐らくサンダースは怒っているだろう。 頭ごなしに面罵されるかもしれない。  
平手の一つも食らうかもしれない。  
(ううん、それくらいされても仕方ないよ、とにかく謝らないと)  
覚悟を決めてドアをノックする。 …返事はない。  
(あら? 空振り?)  
ドアのノブを恐る恐る廻してみる。 鍵が掛かっていて、もちろん開かない。  
(え〜、覚悟決めてきたのに〜…)  
ユリが落胆して、肩を落とす。  
そのフロアの住人たちは早々に寝てしまったか、出払っているかで物音ひとつしない。  
(どうしよう…)  
一旦、引き返そうか。  
(…ううん、ずっと待ってみる! サンダースは少し出かけてるだけだよね!)  
弱気な発想をすぐに振り払い、ユリはドアに凭れ、床に膝を崩して座り込む。  
(………何してんだろね、わたし…)  
確かに謝っておきたいというのはある。  
でも、今のユリの頭には、今までのサンダースの言動がいくつも浮かんでは消える。  
呆れたように追い払う口調、肩をすくめて去っていく姿、そして、  
(あ…あの時)  
街で、不良どもに絡まれた時に、あっさり撃退してみせた強さと、ぶっきらぼうな言葉に含まれたいたわり…  
(…やっぱ、サンダース、本当は優しいんだよ…って、あれ?)  
しばらくサンダースの事を考えているうちに、ユリは自分の頬が熱くなるのを感じた。  
(なんで赤くなってんのよ、わたし…)  
思わず、ユリが頭をブンブン振っていると。  
「…何をしている?」  
「なんでもない…って、ぎゃぼー!?」  
サンダースが戻ってきた。 やっぱり、いつもの仏頂面だった。  
 
「騒がしいぞ。 というより、こんな時間に何をしているのだ?」  
制服を脱ぎ、軽装のサンダースが静かに、しかし明らかに呆れた口調で問う。  
「え、あ、その……じゃ、邪魔だよ、ね?」  
「割とな」  
「うぅっ…」  
慌てふためくユリにサンダースはあっさり言い放つ。  
謝りに来たはずなのに、不意討ちを食らって取り乱してしまってはどうしようもない。  
「全く、夏とはいえ、そんな薄着では体を冷やすかも知れんぞ。 何の用かは知らんが、とりあえず暖かい茶くらい出してやろう」  
サンダースがそう言ってユリを払う仕種をする。  
「…ドアの前から動いてくれ。 でないと、開けられん」  
「ひゃっ! ご、ゴメン」  
慌ててユリがドアの脇へ退がる。  
ガチャリと固い音を立ててドアが開く。 サンダースはそのまま入っていく。 ユリもおずおずと続く。  
「殺風景な部屋だろう」  
「ううん、無駄なく片付いてるな〜って感じ?」  
飾り気が極端に少ない、らしいと言えばらしい部屋。 本は整然と棚に並び、勉強していたであろう机の上も乱れてはいない。  
「そのソファに掛けていろ。 茶を用意する」  
サンダースの言葉に従い、ユリが腰掛ける。  
ユリはなんとなく本棚に目を移す。 参考書は勿論、スポーツ・芸能・アニメ関連の書籍、学問・雑学で扱う小説…  
ジャンルごとにソートされて並んでいる。 そして、繰り返し読み込んだのを示すように所々に付箋が付いているのがわかる。  
(やっぱ、努力してるんだね…)  
サンダースは成績が良いほうである。 なるほど、これを見れば納得がいく。  
また、飾り気はないけど、決して居心地は悪くない。 生真面目な印象を与える部屋だ。  
(やっぱ、真面目なんだね…)  
「とりあえず、お茶だ」  
「ありがと」  
ユリは無遠慮にカップに手を伸ばし、暖かい茶をすする。 程よい温度でユリを潤す。  
「あの…ゴメンね」  
「何がだ?」  
「いや、さっきの事…」  
「気にするな、最初からわかっていた事だ。 謝る必要はない」  
ユリはとりあえず謝り始めたが、サンダースは寂しそうにそう答えただけだ。  
(なんか、寂しいよね…)  
自分の意志もあるのだろうが、他人に自分を理解してもらえない寂しさ。 他人に頼らない―頼れない―寂しさ。  
「用はそれだけか? 上着を貸してやろう。 羽織って自分の部屋に戻るがいい」  
サンダースは立ち上がり、クローゼットを開け、上着を探す。  
「サンダースってさぁ」  
不意にユリが問いかける。  
「好きな人っているの?」  
「おらん。 いるはずもない」  
即答。  
「…ひょっとして好き、って感情がわからないだけ?」  
「そうだ。 私は人を好きになったり、愛した事がない」  
サンダースは淡々と返す。 それはいつも通りで、それでいて、寂しそうで。  
 
「…戦場に愛だの恋だのはないからな。 戦いには無用と教えられた」  
寂しいよ。  
心底、ユリはそう思う。  
少なくとも、自分たちは、恋をしたりして心を通わせながら、いろんなことを学んできた。  
それは賢者になるとかそれ以前の話で、ヒトとヒトとの気持ち。  
一緒に泣いて、笑って…ここまで来たし、これからもそう。  
そんな感情までも、書物でしか味わえないなんて………例え賢者になっても寂寥としてる。  
「もう一つ聞いていい?」  
「何だ? …さあ、これを…」  
上着を差し出したサンダースを制して、ユリはサンダースを見つめる。  
「聞いて、サンダース。 誰かを好きになりたい、って思わない?」  
「ああ、興味はある」  
いつになく真剣気味のユリにあてられたのか、サンダースが苦笑して返答する。  
その表情が、ユリの心をくすぐる。  
(そんな顔、できるんじゃん…)  
サンダースのほのかな心の揺れを感じ、ユリの顔がほのかに紅潮する。  
そして、不意に、あの時の記憶が甦る。  
『……事で………な……リ…』  
いや、鮮明にフラッシュバックする。  
『…無事で良かったな…ユリ…』  
あの時、最初は皆を気遣ったセリフだったが、去り際は違う。  
明らかに、ユリだけに対して呟いていたのだ。  
ユリの胸が熱くなる。  
目の前にいるのは、仏頂面で強面の朴念仁ではない。 ただ、不器用なだけの年頃の少年だ。  
感情を知らないのではない。 ただ、うまく伝える経験が乏しく、気付いてないだけ。  
「どうした、早く戻らないか」  
サンダースが不思議そうな声で返す。  
「サンダース、あのさ…」  
ユリが立ち上がり静かに語りかける。 その表情は、微妙にはにかんでいる。  
「私が『愛』を教えたげる」  
こう言い放つと、スタスタとサンダースの前まで近寄ると、背伸びをして  
―触れるだけの優しいキスをした。  
 
サンダースは呆然としてユリを見つめている。 一体、何が起こった?  
「………何の真似だ?」  
「言ったでしょ、『愛』を教えたげる、って」  
少し得意げに、でも頬を少し赤く染めながらユリが返す。  
「…ファースト・キスなんだから、ありがたく思ってよね」  
「…!?」  
サンダースはますます混乱する。 今、ユリは何と言った?  
視線がせわしなく左右に振れる。  
ユリはサンダースの両頬に両の手のひらを添えて、彼の顔をまっすぐに見据えるよう固定する。  
「だ〜か〜ら、わたしは、サンダースが好きなの!」  
さっきよりも赤くなりながら、でもどこかやっぱり得意げにユリが告白する。  
「馬鹿な…!」  
「残念かもしれないけど、ホントよ」  
ストレートに言われて、サンダースは漸く事態を把握する。 そして、さらに狼狽する。  
何故だ? 何故、私などを好きになるというのだ?  
いつも傲岸不遜に振舞っていて、その実、頑健さ以外何も長所などない自分のどこがいいというのだ?  
ユリの手が頬から離れ、サンダースの両肩に触れる。 そして、グイッと押し込みソファに腰掛けさせる。  
そして、右手でデコピンを一発入れる。  
「くっ!?」  
「ほら、またなんか自虐的なこと考えたでしょ!?」  
驚きっぱなしのサンダースに、ユリは優しく微笑みながら諭すように言う。  
普段の元気いっぱいな笑顔でも、いたずらっ気を含んだものでもない、柔らかい微笑み。  
「サンダース、気付いてないでしょ? わたし、今までサンダースにいろいろ助けられてるんだよ?」  
「…そんな覚えは…」  
「ほら、ノート見せてもらったりとかさあ」  
「いや、それくらいは普通だろう?」  
「あと、覚えてない? ちょっと前にわたし達が、街で不良どもに絡まれた時、助けてくれたじゃない」  
「……? ああ、いつぞやの…」  
「正直、ヤバかったんだから。 あの時、サンダースがいなかったら、わたし、今、ここにこうしていなかったよ」  
「大げさだな」  
「で、去り際に、サンダース、小さい声で言ったよね? 『無事でよかった』って。 それも………わたしひとりに」  
「……!」  
サンダースが顔を赤くする。 ここまで狼狽する姿など、不正解時のリアクションでもこうはならない。  
「で、今わかったの。 あの時に一目惚れ―かどうかわかんないけど、わたしはあなたに惚れたの!」  
「…そういうことなのか」  
「そ」  
何とか事態を飲み込んだサンダースにニッコリ笑いかけ、ユリはここぞとばかりにサンダースにしなだれかかる。  
コロンの香りがサンダースを甘くくすぐる。  
「……こういうのって、据え膳食わぬはなんとやら、って言うんでしょ? 女のわたしにここまでさせて…恥かかせないでよね」  
上目遣いにサンダースの瞳を見てユリが頬を染めて、ダメ押しとばかりに囁く。  
次の瞬間、サンダースは思い切りユリを抱き締めていた。  
 
私は何をしている?  
ユリを抱き締めながら、サンダースは自分自身に驚く。  
『抱き締める』と理性で考えたわけじゃない。 とにかくそうしなければならない、という不思議な感情に任せた行為。  
普段、元気いっぱいに走り回っている少女は、今は少し小さく見えて。  
そして…何と言っていいかはわからないけど、愛おしくて。  
サンダースはユリを強く、強く腕に閉じ込める。  
「…もっかい、キスしよ?」  
抱き締められたユリが普段より低めの声で、甘く囁く。  
サンダースは返事の代わりに、抱き締めた腕をほどいて、ユリの頬に手を添える。  
ユリが軽く顎をあげて、瞳を薄目に閉じる。  
お互いの唇が触れ合う。  
サンダースの腕がユリの後頭部に廻り、強く吸い上げるようなキスに変わる。  
「ん…」  
ユリがそろりと舌を差し出す。 サンダースも自然に舌を差し出し、互いに絡ませる。  
しばらく、ついばむような水音を立ててから、キスを解く。  
「どう?」  
サンダースの分厚い胸に頭を寄せて、ユリが少し恥ずかしそうに尋ねる。  
「…うまくはいえないが、その…心地いいものだな」  
「フフ、そー言ってもらえて、わたし、嬉しい」  
ユリがさらにサンダースに体を密着させる。  
その仕種のひとつひとつが、サンダースの感情を大きく動かした。  
…が、この先、どうすれば良い? サンダースが逡巡する。  
その気配を察したのか、ユリがサンダースの胸から顔を起こし、サンダースの手を取ると、自分の胸に当てる。  
「!」  
サンダースが身体を強張らせる。  
「…いきなりそういうわけにもいくまい?」  
「…いいの。 今、ここでサンダースに…全部あげる、って決めたから」  
「いや、その…」  
「アレは10日前に終わってるから、万が一ゴム無くったって、気にしなくていいから」  
「いや、そうではなく―まあ、それもあるが―…」  
そこまで言って、サンダースが言いよどむ。 顔をまた難しく顰めている。  
「…先程も見ただろう? このまま最後までするとなると…また、あの見苦しいものを見せることになる…」  
「はあ? 何言ってんのよ?」  
ユリが少し呆れた口調で言う。  
「サンダース、言ったよね? 『名誉の負傷』だ、って。 サンダースが今まで誇りを持って生きてきた証拠じゃない?  
 見苦しいなんて、そんなのありえないよ」  
そう言うユリの口調はどこまでも優しくて。 サンダースはどこか胸のつかえが降りるのを感じた。  
「…君に、何ていっていいやらわからんな」  
サンダースの不器用で、でも柔らかい口調に、ユリはこれ以上ないであろう優しい微笑みを返す。  
「わたしの事、好きって言ってくれたら嬉しいな。 これからずーっとそばで」  
「…わかった。 精進する」  
短くそう返して、サンダースはユリをお姫様抱っこの要領で抱え上げ、ゆっくりと寝室へ向かう。  
 
ベッドにユリを横たえる。  
サンダースは上になり、ユリの空色の瞳を覗き込む。  
ユリがサンダースの頭を抱え込み、唇を求める。  
サンダースも導かれるままに、ユリの柔らかい唇を自分から吸い上げる。  
「ん…ふぅ…」  
互いの柔らかい吐息が部屋に低くこもる。  
唇を離すと、サンダースは堅い動きで、ユリの胸元へ手を伸ばす。  
ユリは黙ってコクンと頷く。  
ユリの上着のボタンを、上から一つ一つ外し、上体を起こしてスルリと抜き取る。  
就寝前だったのだろう、ユリはブラジャーを着けていなかった。 白い陶器の様な肌に、瑞々しく張っている乳房がこぼれる。  
「綺麗だな」  
「…ありがと。 じゃ、サンダースも…」  
「いい。 自分で脱ぐ」  
伸びてきたユリの手を制して、サンダースは手早く上半身裸になる。  
「…怖くないか? 明かりを落とそう」  
「だから、その傷だって、わたし、受け止めるって。 だから…明かり消さないで。 サンダースが見れないのって…ヤだから」  
自分でスカートを脱いだユリが恥ずかしそうにそう言い、サンダースの胸の傷跡を優しくなぞる。  
サンダースの背筋に甘い痺れが疾る。  
「わかった」  
それだけ言うとサンダースはユリの乳房に手を伸ばす。  
「しかし、なにぶん初めての経験だ。 加減というものがわからんので、もし痛いようならそう言ってくれ」  
「…だいじょぶ。 気にしないでして…」  
ユリは自分から胸を前に突き出す。 ぽふ、と無骨な掌に、豊かな乳房が収まる。  
サンダースはその柔らかい感触をいとおしむようにゆっくりと撫であげる。  
「ああ…」  
ユリの口から、普段は聞けない艶のある吐息が漏れ始める。  
その変貌に内心驚きながらも、サンダースの心も大きく欲望に突き動かされる。  
両手を使い、ユリの両の乳房を時にゆっくり、そして不意に強めに揉みしだく。  
そして、手を休めることなく、唇を首筋から鎖骨のあたりまでなぞるように吸いつく。  
「ああ…んんっ…」  
ユリはされるがまま、彼の愛撫に溺れている。 甘い声を漏らしながら、時折指はサンダースの胸や頬をなぞるように動く。  
サンダースの顔が少し下がり、少し尖り始めた乳首に唇を当てる。  
「やっ!?」  
瞬間、ユリがビクリと体を大きく震わせる。 引き締まった肢体がサンダースの下で跳ねる。  
「痛かったか? すまん」  
「ち、違うの…すごく、ビリッときて…でも、ヤじゃないから…続けて…」  
目を閉じ、眉根を寄せながらも、ユリはそうサンダースに訴える。  
与えられた衝撃に彼女も体を制御できないだけだが、サンダースにはまだそれはわからない。  
でも、ゆっくりと、ゆっくりと、サンダースはユリの体を優しく愛撫する。  
ユリはその感触に大きく息を弾ませている。  
サンダースの手が、ユリの桃色に染まった肌を下に滑り、パンツの辺りで一旦止まる。  
「…脱がせてもいいか?」  
「…うん……あと、お願い…」  
「うん?」  
「できれば…わたしの事…名前で呼んで…」  
「ああ。 じゃあ改めて言おう。 脱がせるぞ…ユリ」  
ユリは顔を赤く染めて頷く。  
顔が赤いのは、与えられている不思議な感覚―快感―のせいばかりではもちろんなかった。  
 
サンダースの指が素早くパンツをずり下ろす。  
膝下あたりに引っ掛かったそれは、クロッチ部分に重く染みが見て取れた。  
「こうも濡れるものなのか」  
「やだ、そんな事言わないでよぉ…」  
サンダースの素朴な感想がとても恥ずかしく聞こえて、ユリがかぶりを振る。  
その仕種は、普段の彼女から全く想像できないほど、可憐で、淫らで。  
サンダースは思わず固唾を呑む。  
「少し激しく行くぞ」  
「うん…」  
その返事を聞くと、サンダースは指を秘部に滑らせる。  
髪の色より暗く黒く沈んだ色の陰毛を越え、既にしとどに濡れた秘部のとば口に触れる。  
「あっ…」  
ユリが短く喘ぎ、体を震わせる。  
「痛ければ言ってくれ。 無理はしたくない」  
精一杯のいたわりの言葉を掛けて、サンダースは指先を膣内に沈めていく。  
「あんっ!」  
ユリの声が跳ね上がる。   
やはり、ユリの膣は狭く、指の第一関節を挿れるだけでも厳しく締め付けている。  
サンダースはそれ以上奥には侵入させず、先程以上に柔らかく、デリケートに愛撫する。  
「んんっ、ふぅ…」  
しばらくゆるゆるとした愛撫を続けると、ユリの表情が少し緩んだ気がする。  
合わせて、秘部からも少し粘った水音が大きく立ち始めてきた。  
(頃合いなのだろうか?)  
とサンダースがおぼろげに思い始めた矢先に、  
「ねえ、サンダース…もう、お願い…」  
ユリが潤んだ瞳でせがんできた。  
サンダースは秘部から指を離す。 指はユリが吐き出した蜜で薄く光っている。  
そして、自分のズボンと下着を脱ぎ、全裸になる。  
「ユリ、今一度聞く。 本当にいいのか?」  
「うん…奪ってちょうだい…もっとサンダースを感じたいから…」  
不安そうに尋ねたサンダースに、想像以上の献身的なセリフでユリが応える。  
もう、彼を受け入れるべく、緩く脚を開いて体を導こうとしている。  
「しかし、君を組み敷くのは、なにか壊すようで気が進まん」  
「じゃ、どうするの?」  
少し焦れたようにユリが返す。  
「…こうしよう。 ユリ、済まんが体を起こしてくれないか」  
サンダースが突如提案する。  
「座って差し向かいになって、君がゆっくりと腰を下ろすようにしよう。  
君への負荷も少しは減るだろうし、互いに…抱き締め合えるからな」  
「なんか、ちょっと恥ずかしいな…でも、サンダースがそう望むんだったら、わたし、そうする」  
ユリはそう言って、脚を緩く開いて座り込んだサンダースの下半身に腰掛けるような体勢を取る。  
「やっぱ…サンダースの、おっきいね」  
「言うな。 そんなもの他人と比較したことなどないからわからん」  
「ごめん。 じゃ…」  
ユリがそろそろと腰を沈め始める。 サンダースもユリの体に手を添えて、ゆっくりと彼女を導く。  
「んんんっ……!」  
ユリが呻く。 十分に濡れてはいても、裂けそうな痛みはやはり感じるのだろう。  
「…無理をするな」  
「や、やだ! さ、最後まで…!」  
目尻から涙を零しながらも、ユリはさらに腰を沈め、サンダースの体に強くしがみつく。  
ユリの奥の抵抗を切り裂き、サンダースのものが奥まで滑り込んだ。  
「………!!」  
ユリが悲鳴を懸命に飲み込み、サンダースの背中に爪を立てる。  
両目からはぽろぽろと涙が溢れている。  
サンダースは顔を顰めたままの彼女を抱き締める。 背中の痛みなど何も感じない。  
ただただ、彼女が愛おしい。  
 
「…大丈夫か?」  
サンダースが声を掛ける。 詮の無い話だとは自分でもわかってはいるが。  
自分の下腹部が鮮血に染まっているのがわかる。  
「…痛いよぉ…で、でも、それより……」  
ユリはようやく目を開けて、サンダースに囁きかける。  
「好きな…大好きな人と…結ばれたんだもん……その方が、嬉しくって…」  
また新たな涙を零しながら、ユリが言う。  
その健気な『女の子』の部分にサンダースは大きく魅き込まれる。  
サンダースは、ユリの頬を伝う涙を唇で掬う。  
「…願わくば、君の痛々しい涙を見るのはこれで最後にしたいものだ…」  
「ありがと…」  
深く繋がったまま、二人は抱き合ってキスをする。  
そうして、互いの鼓動を心地良く確かめている。  
しばらくそうしていたが、不意に、ユリがかすかに腰を揺らす。  
「まだ痛いだろう、無理はやめろ」  
「ううん…サンダース…わたし、なんかヘン…!」  
そういうユリの声に艶が戻っている。  
そして、サンダースも感じていた。 自分を強く締め付けるユリの中が少しずつ新たに潤いだし、蠢き始めるのを。  
「サンダースぅ、あ、熱いのぉ…!」  
ユリの声が明らかに快感を訴え始めている。  
「くっ…」  
サンダースも呻きを止められない。 明らかに、ユリの内部が自分に快感を与え始めている。  
「…う、動くぞ」  
我慢できなくなったサンダースが腰をせり出すようにユリを揺さぶる。  
「ああああっ! なんか、しびれちゃうよぉ!」  
ユリも刺激に身を委ね、腰をくねらせ始める。  
「むぅ、凄い…!」  
「やあんっ! お、奥が、熱い、よお!」  
お互いに快感に呑まれ始め、座ったままの体勢で互いの体を強く結びつける。  
サンダースは、ユリを強く抱き締めたまま、ベッドに押し倒す。 そして、腰を強く打ち付ける。  
「あああん! いいのぉ!」  
ユリの声ももはや絶叫に変わりつつある。 両脚をサンダースに絡みつけ深く引き寄せる。  
サンダースも昂ぶりが抑えられなくなってきた。  
「くっ、そろそろ…!」  
「い、一緒に来て! わたし、と一緒にぃ…!」  
ユリも無我夢中でサンダースをかき抱いて、昂ぶりの先を要求する。  
激しく腰を打ちつけながら、サンダースは  
「君でよかった、ユリ………愛してる」  
最後は少し逡巡しながらもユリに囁いた。  
「わたしも大好き! 好きよ、サンダース! ………ああああっ!」  
ユリが感極まって半ばうわごとのように叫んで、達する。  
サンダースも一際奥に打ち込んで、ユリの中で果てた。  
 
「大丈夫か? 済まんな」  
「…ううん、だいじょぶだから」  
終わった後。  
裸のまま、ベッドに二人寄り添っている。 サンダースが差し出している腕を枕に、ユリの頭が乗っている。  
「痛かったろうに」  
「そりゃ、初めてなんだもん。 でもね…」  
ユリがサンダースの顔に向き直って、  
「さっきも言ったけど、嬉しいの。 惚れた人に抱かれたんだもん」  
「そうか」  
「それに…サンダースに『愛してる』っていってもらえたんだもん」  
ユリが顔を真っ赤に染めて呟く。  
「偽りの無い気持ちだ。 ここまで私の気持ちが暖かく癒されるような事はなかったからな」  
サンダースはユリから視線を外してそう言う。  
ユリは腕を伸ばすと、サンダースの顔をユリへと向かせる。  
「素直にもう一回好き、っていってよぉ」  
そう言って、彼の胸の傷跡を優しくなぞる。  
「…精進する」  
そう言うサンダースの顔も赤くなっている。  
ユリが思わずクスリ、と笑った。  
 
波の音が聞こえる。  
ユリが両手にトロピカルドリンクを持ちながら、目当てのビーチパラソルへ辿り着く。  
鮮やかなトロピカルプリントのビキニとパレオが可愛らしい。  
「ほらあ、みんなと一緒に遊ぼうよ!」  
「…もう少し後にしてくれ」  
「もう! せっかく来たのに!」  
少しむくれながらユリが隣に腰掛ける。  
パラソルの陰のカウチにサンダースが寝そべっている。  
サングラスにビキニパンツのみで肌を灼いている。  
「…ユリ、君ともう少し二人でいたいからなんだが…」  
「…バカ。 こんな時だけそんな事言って」  
ユリはそうこぼすが、でも、やっぱり嬉しくて。  
遠巻きのクラスメイトの視線も構わず、サンダースにしなだれかかる。  
二人の熱い夏休みは、いよいよこれからである。  
 
―Fin ―  
 

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