(そろそろ、終わってるかな)
大広間の柱時計へ目をやり、弟の部屋へと向かった。
ユウくんに恋人が出来た。活発で、いつも明るい少女、ユリ。勉強ができる…というわけではないが、意志はとても強い子。
もちろん聞いた時は嬉しかった。弟に、愛する人がいるのだから。
だが、私はそれは偽りの感情であることを自分で痛感することになる。
今日は授業が終わった後、夕食まで二人で勉強するという事になったので、私は席を外していた。授業の空いていたフランシス先生のお話に付き合っていたら、六時を回っていた。
いつものように壁をすり抜け、弟の部屋へ入った瞬間、私は凍り付いた。
飛び込んできたのは、二人の男女がベッドの上で激しく愛し合っている光景だった。上に乗っているのは紛れもなく弟のユウくんだった。
「あん、はぁん…ユウくぅん…!」
「ユリさん…!」
(……!)
予想だにしなかった事態に、息が詰まった。幸い、こちらからは背中しか見えなかったため、私が気付かれることはなかった。
そう、幼いとはいえ、恋人同士ならこうなるのは当然だ。何もおかしくない。深呼吸して、落ちついて、と言い聞かせて部屋から出る刹那だった。
「ユリさん、好きです!大好き…!」
ユウくんの言葉がざっくりと私の胸を抉った。まだ幼いが故の、真っ直ぐで無垢な愛の気持ち。それがはっきりとユリへと向けられた。
「わたしもだよぉ、ユウくんっ!」
彼女も弟に応える。激しく腰を打ちつけ合いながら、二人は濃厚な接吻を交わす。
私は部屋を出て、その場にへたりこんだ。後から後から涙が頬を伝う。私は今、自分の気持ちにはっきりと気が付いてしまった。
ユウくんを愛してる。家族としてではなくて、一人の男性として。
そして、その弟を独り占めにするユリが、許せない。
(どうしてよぉっ…!)
いつもこんなに近くにいて、こんなにもユウくんが好きなのに。私は彼にとって家族でしかなく、身体も無い…。
やり場のない気持ちばかりが渦巻いていた。
「おやすみ、おねえちゃん」
(うん、おやすみ)
時間は十時。ユウくんはベッドに入って目を閉じた。その寝顔を眺めていられるこの時間が私は大好きだった。すぐに可愛い寝息が聞こえてきた。
(ごめんね、ユウくん)
いけないことだとわかっているけれど。それでも、もう止められない。
私はそっと杖を振った。
そこは久しぶりに見る実家の弟の部屋だった。
私は、ユウくんの夢の中に入った。
夢の中でも、弟は変わらずにベッドで眠っていた。なんて愛しいのだろう。そっとユウくんの頬に手を当てた。久しく味わえなかったこの感触。とても温かい。
私はおもむろにユウくんに口付けた。唇と唇が触れ合った瞬間、瞳の奥が熱くなる。鼻と塞いだ唇からは小さな寝息が届く。
あぁ、ユウくん…。ずっと、こうしたかったの…。
唇を離すと、薄い睫がぴくりと動いた。
「あれ…?おねえ…ちゃん?」
目を覚ました弟は瞼をこすりながらぼんやりとした調子で答えた。
「うふふ。ほら、夢だから…さわれるのよ」
毛布を捲って自分よりも小さな手に触れた。確かな温かさが伝わってくる。
「ほんとだ。なんか嬉しいなぁ。久しぶりだね!」
ああ…この子はなんて素敵なんだろう…。
無邪気な笑顔に自分を抑えられなくなる。私はユウくんを抱き寄せて強引に唇を奪った。
「んっ…!」
まだ成長過程の細い身体は私の力でも御しきれた。きつく抱き締め、舌を入れて口腔を舐め回す。ユウくんの吐息が口の中へ伝わってくると体が熱くなった。
「おねえちゃん…?だ、だめだよぉ…」
「ユウくん、お願い。今だけでいいから私とセックスしてほしいの」
「でも、僕たち、姉弟だから…」
「大丈夫。これは夢よ。本当にしてるわけじゃないんだから」
純情な弟は押し切っても拒むのは目に見えている。彼の性欲に呼び掛けるしかないと最初から思っていた。私は服を脱いで下着を外した。夢の中の弟は、やはりユリの体と比べているのだろうか。
「私、魅力無い…?」
「お、おねえちゃん…」
「…ほら、ここ…硬くなってるよ」
大きく盛り上がったズボンを撫でると、ユウくんはぴくりと身体を震わせる。
「いいのよ。男の子なんだから」
スウェットをトランクスごと降ろすと、想像よりもずっと大きなペニスが顕れた。私は息を呑む。
「こんなに元気じゃない」
「うぅ…おねえちゃんのいじわる…」
私は躊躇なく下半身に口を近づけた。少し強い匂いが鼻を衝いたが気にならなかった。私はセックスの経験が無い。ユウくんが初めてだ。酷いことをしていると承知している反面、嬉しくもある。
歯を当てないないように、飴を味わうように舐めてみる。
「あああ…!」
やはり先端が敏感らしい。ちろちろと焦らすように舌先で突いてみたり、深く含んで動かしてみる。
「お…おねえちゃん…」
「んっ…気持ちいい?」
その気になれば私を蹴っ飛ばすぐらいのことは出来るだろう。でもユウくんは今にも泣き出しそうな顔でこちらを見つめている。
酷いことをしているのはわかっているが、もう私も止めることは出来なかった。
触れた肉棒は熱かった。口と同時に優しくしごいてみる。
「ひゃあ…」
体を震わせ、ユウくんは甘い声を出す。ペニスは更に大きく反り立つ。
根元や睾丸にも軽く触れる。先端からは徐々に味の濃い液体が滲み出、口の中に広がる。これが、ユウくんの精子…。
ああ…嬉しい…。
「だめぇ、でちゃうよぉ…」
その声を聞いて私は口と手を動かすスピードを上げる。次第にユウくんの呼吸が荒くなってゆく。彼の全てを受け止めようと、深くくわえ込む。ベッドの上のユウくんの手は固く握りしめられていた。
「お、おねえちゃんっ!ああっ!」
ユウくんが叫ぶのとほぼ同時に熱い液体で口の中が満たされる。私はそれを一滴も残すまいと飲み込んだ。なんというか、とても濃い味で、喉に引っかかるような感じもするが全く気にならない。
放出され、飲みきれなかった精子が口から垂れ落ちた。それを指で掬ってまた口に運ぶ。
射精が終わっても男性器は萎えてはいなかった。
「いっぱい、出たね。おいしかったよ、ユウくんの…」
弟は顔を真っ赤にして背けた。
「うふ…。まだ元気だね。私も感じたいの。お願い」
既に私の秘所は先刻の愛撫とユウくんへの思いとで溢れそうなくらいとろけている。
ユウくんの肩に手を乗せると、その手を握って弟は不安そうな面持ちで私に問いかけた。
「おねえちゃん…これ、本当に夢だよね?大丈夫、だよね…?」
「そうよ。ほら…いくね」
またがるようにして私は自分の割れ目にペニスをあてがって、ゆっくりと腰を沈めた。奥に進む毎に痛みが走る。けれど、その痛みが気にならないほど、弟と初めて繋がったことに私は至福を感じた。
ずっと抑制していた、許されない行為。今、それが叶ってしまった。後悔はしていない。だって、こんなにも彼を愛しているのだから。
収まりきったペニスからは熱い鼓動が伝わってくる。私は喜びを噛みしめながら腰を動かし始めた。
「あぁ…すごい、よ…ユウくん…」
大きなペニスに貫かれ、刺すような感覚が膣内を襲う。痛みはあるが、擦れるたびに体が震える。
「いけないこと、なの、に…」
「心配しないで…。おねえちゃんが…気持ちよくしてあげるから…」
自ら淫らに腰を動かすのに全く苦はなかった。臀部に力を入れて揺すってみる。
「っ…痛っ…!」
「おねえちゃん、初めてなの…?」
「気にしないで。私、嬉しいの…。ずっと…ユウくんとこうなりたかったんだよ?だから、今だけ…」
キスを落として私はまた動き始める。
伏し目がちだった弟は大きな瞳でこちらを見上げて尋ねた。
「ここ…気持ちいい…?」
弟は陰核を愛でるように撫で回す。突然の弟の行為に、体が無意識に反応した。
「いやっ、だめよ、ユウくん…!あああっ!」
膣内は腰を振る度に硬い肉棒に刺激され、外からも快楽を与えられる。愛する人からの施しに気が遠くなりそうだった。
「はぁ…はぁ…あぁ…!」
ユウくんも腰を動かし始めた。奥まで侵入してきたペニスが忙しなく膣内を暴れ回る。あまりの衝撃に腰の動きを止め、弟の華奢な背中に縋り付く。
「ごめんなさいっ…!もう止められないよぉ…!」
「いいのよ、ユウくん!あぁっ、そんな…!」
突き上げる速度がどんどん激しさを増してゆく。ユウくんの小さな手が乳房に触れた。ゆるゆると手で揉みほぐされる。下半身とは違う緩慢な快楽に溜息が出る。
立ち上がった乳首をユウくんが口に含んだ。赤ん坊のように胸をしゃぶる弟が愛しくて、私は思わず彼の頭をかき抱く。
「あぁっ…!ユウくん…!」
荒々しく吸うかと思えば、舌先で優しく転がしてくる。自分の乳首は恥ずかしいくらい立ち上がっている。それを歯で噛むように愛撫され、また甘い声が漏れる。
きっと、いつも…ユリちゃんにこうしてあげてるんだ…。
嬉しいのに、そう考えると少し切なくなった。
そんなことを考えていると、ゆっくりと視界が変わり、天井が目に入った。
「あ…」
ユウくんに上から見つめられるのは初めてだった。
「僕が、やってあげるから…」
「ユウくん…」
ユウくんは腰を掴んで再び私の膣内を突き始める。男性主導の体位だからか、先刻よりも更に激しい快感に私は身を捩って悶えた。
「ふっ、あぁ!は、激しい…よぉ!」
「まだ、つらい…?」
「ううん、もっと、もっとしてほしいの…!」
規則的に軋むベッドの音とお互いの吐息で部屋が埋め尽くされる。
私は体の変化を感じた。内側からたぎるこの感覚。初体験の自分にとって大きすぎる快楽だった。これがオーガズムというものなんだろうか。
「はぁぁっ!なんか、すごいっ…!」
留まることの無い快感に溺れながら、ユウくんの背中に腕を回す。
こうして、ずっとユウくんと繋がっていられたらいいのに…。
「おねえちゃん、僕…もうだめ…!」
「うんっ、出して!私の膣内に…!」
もう何も考えられなくなっていた。全てをユウくんに委ねて私は理性を手放した。
「うあっ…!」
「あぁっ!きちゃう、よぉ!ああああっ…!」
何度か強く腰を叩きつけられ、私は達した。熱いものが注ぎ込まれるのを感じる。彼の全てを受け止めたくて、荒い息をつきながら強く強く抱き締める。
「ありがと…ユウくん…」
「ううん…おねえ、ちゃん…」
肩に顔を寄せて、ユウくんは眠りについてしまった。
こうしてずっとユウくんを抱き締めていたいけれど、幸せな時間は終わりだ。私は現実へ戻ろうとしてベッドから出た。
その時私は初めて気が付いた。机の上に立っている写真立て。笑顔の弟とユリが写っていた。体に重石がのしかかったような感じがした。
やっぱり…彼の気持ちは動かせない。
消沈した私は杖を振って夢の中から抜け出した。
私は現実へと戻った。
杖をもう一度一振りしてユウくんの頭へと向ける。これで目が覚めてもユウくんは夢での出来事を忘れてしまっている。日常生活に支障を来すこともないだろう。
静かに眠る弟の寝顔を見ていると、目から涙がこぼれ落ちた。自分がしてしまったこと、弟に対するどうしようもない想い、ユリへの申し訳なさ、嫉妬。
今はもう、あの細い腕で抱き締められることも、手を握ることすら出来ない…。
「ごめんね…ユウくん…でも…」
枕元に顔を埋め、私は声を殺して一晩中泣き続けた。
蒼ざめた月の光が室内を淡く照らしていた。