夜が明ける。
あれからずっと眠れなかった。たった一晩で気持ちの整理なんかできない。でも…。
ユウくんの姉として、保護者として、一番近い理解者として、私にはこれ以上の干渉は許されない。
私にできる事は、弟の未来を祝福し、愛する異性との門出を見守る事。それだけ。
そう、今まで通り気さくな姉を演じ続けよう。ユウ君に余計な心配をさせないように。
「ぅん…んんんんっ」
「おはよう、ユウくん」
「おはよう…お姉ちゃんどうしたの?目が赤いよ」
「…ちょっと眠れなくて。それより早く起きなさい、学校の支度しなくちゃ」
「うん……(はっ!? どうしよう…僕…)」
「何やってるのユウくん、モジモジしちゃって?」
「お姉ちゃん…ちょっと、向こう向いててくれる?」
「? …クスクス、分かった、夢精しちゃったのね」
「ち、違うよ!そんなんじゃ…」
「いいのよ隠さなくても。姉弟じゃない私たち」
「………」
まだユウくんの中に溜まっていた精子がトランクスを濡らしたのね。
でもその理由は言えない。 私は努めて平静を装い話を別方向へ誘導する。
「ユリとの事思い出したんでしょ。夢の中であんな事こんな事…」
「………」
「男の子なんだもん、恥ずかしがる事じゃないわよ。ドーンとイけ青少年!」
「………」
ユウくんは黙ったまま動かない。 どうしたの? 回り込んで顔を覗いてみる…
泣いてる!?
「…違うんだ…」
「違う…?」
「ユリさんじゃない…夢の内容は思い出せないけど…胸に残った感じで分かる」
「……」
「僕…きっと、お姉ちゃんとしちゃったんだ…ユリさんじゃない!」
「ユウくん…」
「お姉ちゃん!僕悪い子だ!ユリさんだけじゃなくて、お姉ちゃんまで…!」
「落ち着いてユウくん!思い過ごしよ、そんな」
「ぅ、ぅ…ぅぁぁあああああん!ごめんよぅ、お姉ちゃんごめんよぅ!うわああああん!!」
私の希薄な身体に必死に縋って泣きじゃくるユウくん。
許しを乞わなきゃいけないのは、私なのに。
私の身勝手が弟の心に深い傷を負わせてしまった事に、ようやく気が付いた。