ユウは何時になく緊張していた。無理もない。今、保健室にいるのはユウとユリの二人だけ。扉には「しばらく退席中」の札が掛かっており、ミランダ先生は不在だった。少し開いた窓からは穏やかな風が吹いていた。  
幸なのか不幸なのか、目の前の彼女はいつもまとめている鮮やかな青い髪を降ろしており、いつもと違う雰囲気を醸し出していた。  
いつもユリが着けているリボンは半分が赤く染まっており、空いた椅子に横たえられている。  
彼女の肩口に巻かれた包帯を見て、ユウは改めて申し訳なく思った。  
 
(全部、揃ったね)  
うん、とユウはサツキに返事をした。そろそろ夏に差し掛かる暖かな日、ユウは学問の実験で使う材料を集めに森へ来ていた。  
少し深い所まで来てしまったが、道は記憶しているから大丈夫…のはずだった。まだ幼い少年には到底対応できない事が待ち受けていた。  
「う…あ…」  
ユウの目の前に現れたのは体長二メートルはあるであろう巨大な熊だった。口元の涎にギラギラと光る目。押し寄せてくる威圧感に足が竦み、ユウはその場で動けなくなってしまった。ここのあたりは生徒も立ち入り可能な場所なのでユウの動揺も無理からぬことだった。  
(ユウくん、逃げないと…!)  
サツキの必死の呼びかけも、ユウの耳には届いていなかった。歯の根は合わず、涙が頬を伝う。心臓は張り裂けそうな程に高鳴り、下半身はがたがた震え、思うように動かない。どうにか一歩後退ると、すとんと尻餅をついてしまった。もう数メートル先に熊は迫ってきている。  
ぼ、ぼく…死ぬんだ…。  
本当に諦めた時だった。  
 
「そりゃあっ!」  
熊の背後から何かが飛び出し、強烈なソバットを熊の顔面に叩き込んだ。どすんと音を立てて熊は仰向けに倒れる。突如舞い降りた幸運にユウは我が目を疑った。  
ユリさん…!  
長く青い髪を棚引かせた救世主は、ユウのよく知る先輩であるユリだった。彼女は追い打ちをかけるように熊に跨る。その動作に入るまでの身のこなしの鮮やかなこと。呆気にとられて見つめていると、ユリは黒い体毛で覆われた太い足を掴み、それを思い切り捩った。  
「スピニングトーホールド!」  
ユリの掛け声と共にボキッと嫌な音と熊の呻き声がユウの耳に届いた。ユリは熊の足を折ったのだ。  
す、すごい…。  
ユウが呆然としている間に、熊は折られていない方の足をユリに向かって振り上げた。彼女は素早く身を翻し、後ろへ退いた。が、足の爪が僅かに彼女の肩を掠めた。散った鮮血がユウの瞳に焼き付いた。サツキは目を覆う。  
しかし本人は何事もなかったようにひらりと熊から離れ、こちらに駆け寄ってきた。  
「だいじょぶ!?ケガなかった?」  
「あ、あの、僕より、ユリさんが…」  
間近でみると、傷つけられた彼女の肩は生々しかった。深くはなさそうだが、細い腕を真っ赤な血が伝っていた。  
「へーきへーき、これくらい。それにしても、こんなとこに熊がいるなんてねぇ」  
尚も呻りながら、熊はこちらへ這うように近づこうとしてくる。だが足を折られてはその動作は機敏といえるものではなかった。  
「とりあえず、ここ出よっか。歩ける?」  
「はい」  
差し出された手は、先ほど熊の足を折ったとは思えないほど美しかった。その手を握って立ち上がるとユウは漸く安堵した。  
ふとサツキの方を見ると、姉の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。  
(よかっ…たぁ…)  
ズキンとユウの胸が痛む。  
一度お姉ちゃんに命を救ってもらったのに。さっきだって自分では何もできなかった。僕はなんて情けないんだろう…。  
 
「…あの、ユリさん。本当にありがとうございました」  
「あはは、いいってー。偶然ウチの学科の授業中でさー。(過酷な)鬼ごっこみたいなのやってたんだ」  
傷を負ったのに彼女はいつもの表情で笑う。この人は僕と違ってなんて勇敢で強いんだろう。  
ユリは両手を後ろに回していつも自身の髪を結っているリボンをほどいた。艶のある青い髪がさぁっと広がる。初めて見る彼女の姿にユウは逡巡した。  
彼女はほどいたリボンを上腕に巻き、止血を試みる。みるみるうちに白いリボンは真っ赤に染まっていった。ユリ本人はあまり気にしている風はなく、寧ろ止血がうまくいかずに苛立っているようだった。  
「僕がやりますよ」  
「いいの?ありがと」  
ユウは慣れた手つきでリボンを巻き始める。少しきつく巻き、余らせた端を結ぶ。そしてポケットティッシュで彼女の腕に滴る血を拭った。  
「一応出来ましたけど、保健室行きましょう。ちゃんと手当しないと…」  
「うんっ。ありがとね!」  
 
という経緯である。当然いると思っていたミランダ先生は不在で、サツキは校長先生のところへ行ってくるね、と言って行ってしまった。きっと安全地域に熊が出たのを報告するのだろう。  
手当を終えたユリをちらりと見た。ベッドに腰掛けているユリは素敵なプロポーションに加え、少し露出の多い制服を着ている。二人きりのこの状況でユウが落ち着かないのも無理はなかった。  
以前から、女子生徒なのにも関わらずズバ抜けた運動神経と根性の強さにユウは憧れていた。  
夜食を買いに出た時、トレーニング室に残っているのを見たこともある。成績はあまりよくない、と耳にするけれど、スポーツの試験では毎回自分より高得点を取ってくるユリは、ユウには目に留まる存在だった。  
「ごめんなさい、ユリさん。僕のせいで…。リボンも駄目にしちゃって…」  
「いいっていいって!…あのさ、ほんと言うとあたし、森でユウくん見かけてから後ろをずっと歩いててさ」  
だから助けに出られたんだよねぇ、とユリは照れくさそうに笑う。  
「え…どうしてですか」  
「…好きなの。ユウくんのこと」  
頬を赤くしながらユリが言った言葉に、我が耳を疑った。…今、ユリさんなんて言ったの?  
「あ、あのっ…」  
「やっぱりだめかな。あたしバカだし…」  
「そうじゃないです…だって僕、ちっとも男らしくないし、子供だし…。僕なんてユリさんには勿体ないです」  
「そんなことないよ。ユウくんは年下とは思えないほどしっかりしてるもん。それに、可愛いし。えぇっと…ぼせいほんのう?くすぐられるって言うのかな」  
信じられなかった。ユリさんが僕のことを好きと言ってくれた。まだ幼い自分は目にも留まっていないと思っていたのに。  
 
緊張のあまりか細くなった声でユウは応えた。  
「僕でよければ…」  
「ほんとっ!?よかったぁ…」  
「すごく嬉しかったです。ユリさんかっこいいし、綺麗で…」  
「あはっ、恥ずかしいなぁ。…ねぇ、ユウくん。こっちおいで」  
左手を握られた。おずおずとユウは立ち上がり、ユリに近づく。彼女は座ったままなので、ユウがユリを見下ろす形になった。  
「キスして」  
ずっと高鳴っている心臓の鼓動が更に早くなった。そんなユウを尻目にユリは目を閉じた。髪を降ろしている今の彼女は、ユウには女神のように神々しく映った。  
ユウは震えながら自分とユリの唇の距離を縮めていった。鼻が触れるくらいに近づいた時、ユウも目を閉じた。唇と唇が重なり合う。  
あったかい…。  
生まれて初めての接吻は、先刻の緊張が嘘だったかのように、ユウに甘い一時をもたらした。芳しい香りを鼻いっぱいに吸い込み、ユリの背中に腕を回す。  
暫くユリの温もりに酔いしれていると、頬にユリの手が添えられた。ユウが目を開けるのと同時に、ユリの舌がユウの咥内へ入った。瞬間ユウは身を固くしたが、自分の舌に彼女の舌が触れると、形容し難い感覚に襲われ、体の力が抜けた。  
「ユリ…さ…あ…」  
ユリの舌が歯や上顎、唇と優しく動き回る。あまりの心地よさに頭が霞む。人が誰しも持つ性的衝動に、ユウは初めて駆られていた。気が付けば、自らも舌を絡ませ、ユリを求め始めていた。  
「んふぅ…」  
時折漏れるユリの吐息がたまらなく愛おしい。ユウは淫らな接吻に夢中になっていた。  
唇を放すと、彼女は微睡んだような瞳でこちらを見ていた。その表情にユウはまた顔を赤くする。不意に彼女の視線がユウから外された。  
「ユウくんの、こんなになってる」  
先程からユウのズボンを内から押し上げている部分にユリは触れた。ユウは思わず身を捩る。  
「あっ…ユ、ユリさん…」  
「気持ちよくしてあげるね。ほら、座って」  
ユリもユウ動揺に本能が解放されているようだった。ユウが戸惑いながらもベッドに腰を下ろすと、ユリはズボンのベルトを外し、トランクスと一緒に引き下ろした。熱く脈づき、猛っている陰茎が現れた。  
「おっきいね…」  
 
年齢にしてはユウの陰茎はユリの言葉通り立派な大きさをしていた。強烈な雄の匂いがユリの鼻をつく。彼女は惚けた表情でユウの下半身に顔を寄せていった。  
性格上、年上の人に逆らうことなど出来ないユウは、目を瞑って恥ずかしさを忍んでいた。  
「あっ…」  
先端が彼女の口に包まれ、思わず声が出た。少し幼いとはいえ、ユウにも自慰の経験はあっが、こんな感覚は今まで味わったことのないものだった。彼女の口の中は信じられないほど温かく、柔らかだった。  
ユリは極めて緩く、丁寧にユウへ奉仕する。  
「んっ…くちゅっ…くちゅっ…」  
「う…あ…」  
敏感な部分をユリの舌が器用に動き回る。手では睾丸を撫でられ、ユウは次第に内から熱いものがこみ上げてくるのを自覚した。  
「だめ…ユリさん、で、でちゃう…」  
「いっぱいちょうだい、ユウくんの」  
芯にはもう片方の手が添えられ、ユリは子供のようにユウを弄ぶ。ユウにはそんなユリが普段の溌剌とした彼女ではなく、優しく淫らに、しかしとても愛しく見えた。  
不意に彼女の手と舌の動きが少し早くなる。腹に力を入れてユウは必死に怺えようとした。が、ユリからとめどなく与えられる快楽に溺れるのを抑えることが出来ず、ユウの我慢は終焉を迎えた。  
「ユ、ユリさぁぁんっ!」  
「んんっ…!」  
恋人の名前を呼びながら、ユウはユリの咥内で達した。迸る精子をユリは全て受入れるように飲み込む。ユウはその様子を複雑な気持ちで見つめていた。自分の精液を飲んでくれて嬉しい反面、酷いことをしてしまったと後悔した。  
射精が終わっても、ユウの陰茎は大きさを保ったままだった。先端に残ったものも舐め取り、ユリは満足げに笑った。  
「これがユウくんの味かぁ」  
「ごめんなさい、汚いのに…」  
「そんなことないって。…気持ちよかった?」  
ユウは顔を赤くして頷く。  
「あのっ、僕もユリさんに…よくなってほしいです」  
「それじゃ…いっぱいさわって」  
 
ユリはそう言うと制服のハンドウォーマーを外し、胸部の制服にも手をかける。スポーツタイプのブラが外されると、形の整った豊かな乳房がぷるんと震えた。  
下半身も躊躇うことなくスカート、靴下、パンティと脱いでいき、ユリは生まれたままの姿をユウの目の前に晒した。  
「一応鍛えてるんだけど…」  
「すごく、綺麗です…」  
ユウはユリの身体に見とれていた。制服の上からもわかる豊かな乳房と、へこんだお腹。近くで見るとうっすらと筋肉がついていた。手足にも綺麗に筋肉がついて引き締まっていた。どこにも無駄のない、モデルのようなスタイル。自分が貧相な身体なのが酷く恥ずかしかった。  
恥じらいながらユウも制服を脱いだ。まだ成長途中の体は、肋骨がはっきりと見えていた。そんなユウの体をユリはまじまじと見つめる。  
「細いよねぇ。うらやましいよ」  
「でも僕、筋肉無いですから…」  
「男の子だからそのうち立派になるよ。…はい、ユウくんの好きにして」  
横たわったユリの下には鮮やかな青い髪が広がっている。ユウはおそるおそる手を伸ばしてユリの乳房に触れた。柔らかく弾力のある手応えに、溜息が出た。  
「ん…」  
指先に力をこめると、乳房はそれに合わせて形を変える。握っても握っても掴み所の無い感触を楽しんでいるうちに、人差し指の腹が乳首に当たった。思いがけないほど硬い。ユウは摘むようにして桃色の突起を撫でた。  
「はぅ…ん…」  
一頻り愛撫をし、ユウは触れていた乳首を口に含み、夢中になって舌を這わせる。  
後頭部に手が伸びてくる。ユリの身体に包まれているととても気持ちが安らいだ。  
「あぁ…ユウくぅん…」  
しばらくすると、自分はユリを恣にしているように感じた。慌てて口を離し、手を引っ込めて彼女の顔を見ると、頬は紅潮し、瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。  
 
「嫌じゃないですか?ユリさん」  
「すごくイイよ。ここ、こんなになっちゃった…」  
細い脚を広げ、ユリは自らの秘所をユウの前にさらけ出す。まだ桃色のユリの雌の部分はしっとりと濡れており、ぴくぴくと息づいていた。その周りを青い茂みがうっすらと覆っている。  
彼女の官能的な姿に、ユウはごくりと唾を飲み込んだ。  
「あたしの初めて、もらって?」  
「は、はい…」  
「…ここだよ」  
彼女は自らの指で膣の入り口を広げ、ユウを導く。ユウはゆっくりと自身をユリの秘所へと宛った。  
女性の初めての体験というのは痛みを伴う(と、レオンさんが言っていた)と知っていたので、ユウはユリの表情を見ながら慎重に身体を沈めてゆく。  
「あん…」  
あ…す、すごい…。  
彼女の中は熱く、脈打っていた。先刻のフェラチオよりも強烈な快感。ユウは自分を温かく包み込む彼女の肉壁に飲み込まれそうになるのを精一杯堪えた。  
「痛みますよね…?」  
「ううん。へーき。思ったほど痛くない」  
我慢してくれている、とユウはすぐに悟った。ユリに負担をかけないように、ユウはゆっくりと動き出した。  
「あっ、あぁっ…」  
「うぅっ…」  
ユウが動く度に、ユリの膣内は吸い付くように絡みついてくる。気を抜くとすぐに射精してしまいそうな程だった。  
「あん…はぁ、すごい…おっきいよぉ…」  
ユリの口から尾を引いた吐息と甘い声が零れる。上気した彼女の顔は悩ましげで、艶やかだった。その表情はとても愛らしく、ずっと見ていたいとユウに思わせた。  
 
「ん…あっ!」  
「ユリさん、どうですか…?」  
「うんっ、気持ち、いいよぉ…!あたしに遠慮しないで、ユウくん」  
彼女の言葉を信じて、少しずつ動きを早くしていく。結合部がぶつかる度に湿った音が聞こえる。ぷるぷるとユリの揺れる乳房を掴んで、優しく揉みしだいた。  
ユウが突くのに合わせて、ユリも動きを合わせるように腰を振った。苦痛には見えないその動作にユウは少し嬉しくなった。ユリさんも感じていてくれてるんだ。  
「んう…あっ…ユウくん、だいすき…!」  
「僕も…好きですっ…」  
「あたし…い、いつもユウくんのこと…考えながら、ひとりエッチ、してたのぉ」  
「ユリさん…」  
「こんな、あぅっ…やらしい女でも、いいの…?」  
「ユリさんが気持ちいいと、僕も…嬉しいです…」  
甘美で純情な会話を、はためくカーテンだけが聞いていた。  
既にユウも底の見えない性愛にどっぷりと浸ってしまっていた。ユリの腰を掴んで、荒い息をつきながらユリの中を抉る。ユリもまたそれに応え、甘い声をユウに届ける。  
「んっ…あっ、あっ…あぁっ!」  
「はぁ、はぁ…」  
「ふあっ!だめぇ、イッ…イッちゃうよぉ!」  
ユリの叫ぶ声が室内に響き渡る。もう外で誰かに聞かれてしまったかもしれない。でも、もう関係ない。ユウには目の前の恋人しか目に映っていなかった。  
お互いに少し汗ばんだ体で強く抱き締め合う。奥に届くように強く突き上げると、今までよりも強くユリの肉壁がユウを強く包み込んだ。  
「ユリさぁん!」  
「ユウくんっ!あっ!あぁぁぁっ…!」  
互いに名前を呼び合いながら二人は同時に果てた。  
汗ばんだ体を寄せ合いながら、しばらく二人は愛しい人の肌にくるまれていた。  
 
「あちゃー…これヤバいかも」  
体を起こしてベッドを見たユリは困ったような声を上げた。  
愛の行為のため、シーツは酷い有様だった。他人に見られたらここで何が起きていたかすぐにわかってしまうだろう。  
「…そろそろ退散しよっか?」  
「…はいっ」  
二人で苦笑しながら慌てて制服に着替え、保健室を出た。廊下には誰もいない。ふぅ、と安堵の溜息が二人の口から出た。  
どちらからともなく手を繋ぎ、同じ歩調で歩きながらユウは自分の恋人を見つめた。  
「なーに?」  
「あのっ、これから…よろしくお願いしますね」  
「そんなに改まらなくたっていいってばー。あたしの方こそよろしくね」  
いつも遠くにいた彼女がこんなに近くで笑っていて、自分は幸せ者だとユウは感じた。  
廊下の角を一つ曲がると、二人はグラマラスな金髪の女性と鉢合わせてしまった。  
「ぎゃぼー!ミランダ先生!」  
「こんにちは。あら、ユリさん、怪我しちゃったのね。ごめんなさい、空けてしまってて…」  
「い、いえ!ユウくんにやってもらったんで!ね?」  
「はいっ。さ、さよならっ!」  
足早に去ってゆく二人を、ミランダは小首を傾げながら見送った。  
退席中の札を外し保健室に入ると、先程の二人の様子がおかしかった理由が氷解した。若干乱れたベッドに、シーツには僅かに血が混じった染みの跡。そして窓は少し開いているものの、まだ室内に残る雄と雌の香り。  
…あの子達もやるなぁ。  
替えのシーツを出しながらミランダはクスッと笑った。  
 
翌日。  
「はい、ありがとうございます。…ユウくん、誰かにプレゼント?」  
一限目が始まる前、ユウは購買部に来ていた。リエルにマジカを手渡し、代わりにラッピングされた小さな箱を受け取る。  
「えへへ、内緒ですっ!」  
弾む気持ちを抑えながら、小走りで講堂へと向かった。一限目は全学科の生徒でガルーダ先生による合同の講義だった。講堂は生徒でごった返していた。  
(ユウくん、ユリちゃんいたよ)  
サツキの指指す方向には、昨日と同じ髪をほどいたままのユリがいた。その隣にはレオンとルキアの姿もあった。  
ユリのために買ったリボンはお姉ちゃんに選んでもらった。いつもユリが着けている白に近い、薄い桃色のリボン。昨日彼女と恋人になったことを告げたら多少驚かれたが(エッチしたことまでは言えなかった)応援すると言ってくれた。  
ただ、僕は決めた。これからはなるべくお姉ちゃんや他の人にも頼らず、自分がしっかりしないといけない。あんなに素敵な人が出来たのだから。  
走りながら、手の中の小箱を握った。  
「ユリさん!」  
ユウの呼びかけにユリは綻んだ顔で振り向く。どことなくいつもと雰囲気の違うユウをレオンとルキアは少し驚いたように見た。  
「おはよー!ユウくん!」  
新しい毎日が始まる。  
 
 

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